デビュー十年目

めめside

「康二、お願い。……帰んないで」

康「めめ!約束の時間はとうに過ぎてんで!明日はグループで撮影やから、さすがに帰らんとマズイって!」

ソファーに座る俺の脚の間で、康二はベッタリくっつく俺を引き剥がそうと必死になる。

が、いくら足掻いても力は俺の方が強いので、康二は中々俺から離れることが出来ない。

康「言ったやろ?これからも俺はめめの恋人として、ちゃんと一緒におるって」

「それは分かってるけど、今日帰って欲しくない」

俺たちはこんなやり取りをかれこれ一時間以上もしている。

というのも、昨晩ずっと想い人であった康二と紆余曲折あり、晴れて結ばれることが出来て、俺は天にも昇る思いで心が高揚していた。


  

康「……れんきゅん」

「っ、康二、可愛すぎだろ…」

本来ならば、今日タイから帰国予定だった康二が俺に会うために昨日一日早く帰国した。

そこで、マネージャーのついた嘘を引き金に俺の長年の想いが暴走し、康二を押し倒し、さらに泣いて縋り、無事?に康二と添い遂げることが出来たのだ。

俺との初めての行為で気を失った康二の体を温かいタオルで丁寧に拭いてやり、風邪を引かないよう、俺のスウェットを着せて、汗で額に張り付いた髪を指で解いていると、康二は昔二人で呼び合った俺の愛称を寝言で呟く。

懐かしいその呼び名に康二は今どんな夢を見ているのだろうかと、心がじんわりと温まり、康二の頬や唇にキスの雨を降らせ、ぐっすり眠る康二を飽きることなく心のシャッターに納めた。

「よっと…」

さらに、寝ている康二の右横に寝そべり、康二の頭の下に自分の左手を差し込んで腕枕をした。 

一昨日までこの世の終わりを宣言されたような受け入れ難い事実に全身を焼き尽くすほどの嫉妬心、康二と会えない寂しさ、いつまでも康二が俺のものにはならないという虚無感に苛まれていた俺。

今やデビュー十年を迎え、Snow Manも国際的アイドルとなり、海外でも活躍している。
もちろん、その中には俺個人がモデルや海外ドラマに出演したりと貢献しているものも多い。

仕事はこの上なく順調だ。 

いつだって、目黒蓮が誰の目にも男らしく写っていて欲しいと思っていて、俺が長いこと目指していたカッコいいの頂に今しっかり立てていると思う。

ただ、「一人の人間」としてみれば、俺は全く満たされてなどなかった。

「一人の男」としての地位を確立することは、康二が俺の伴侶になることは一生ないという、アンハッピーな事実をまやかす為のものに過ぎず、  

男同士の恋愛はタブー。

その現実は俺をこの世で一番気の毒な人間であると錯覚させていたのだ。 

康「ん……」

「(このまま康二を俺の中に閉じ込められたらいいのにな)」

ぐちゃぐちゃに掻き乱されていた心は今、俺の胸の中で静かに寝息を立てている康二を前にし、酷く穏やかだ。

同じグループの「めめこじ」としてスキンシップは他のメンバーに比べて誰よりも多かったが、いかにも恋人とする触れ合いというのは今まで出来なかった分、これから康二とたくさんしていきたい。 

「………」

「康二。大好き、愛してる」

この先、康二の前では嫉妬も、寂しさも全て隠すことなく、康二としたいことをし、ありのままの俺でいよう。

康二の柔らかな髪のくすぐったさとしっくり来る頭の重み、さらに康二の細い腰に手を回して抱き込めば、長いこと無くしていたパズルのピースがピッタリはまったように俺の心は充足感に包まれる。

———俺は今、世界一の幸せものだ。



康「なんか腹減ったな。めめんちに食材ある?」

朝、九時。

目が覚めてもしばらく、康二と両想いになった余韻をベッドで味わっていたら、腹を空かせた康二がベッドから立ち上がろうとする。

「俺が作るよ。パスタでいい?」

初めての経験でまだ体が辛いであろう康二の手を引き、康二をベッドに引き戻す。

康「めめのパスタめっちゃ好き」

嬉しそうに微笑む康二に俺はキュンとした。  

企画やドラマでよく女優さんと同じような演出をしたが、本気で好きな人と迎える朝がこんなにも甘いものなのだということを俺は今初めて知る。

「(もう、康二を離したくない……)」

ソファーに掛けた俺の脚の間に康二を座らせ、俺が作ったパスタを一人で食べられると照れる康二にアーンと食べさせる。

頭の中で何度も妄想したことが今実現出来ていることに心が爆発しそうだった。

その後は撮り溜めた各々のメンバーの番組の録画を康二をまた俺の脚の間に座らせ、腰に手を回して一緒に見ては康二のメンバーに対する反応にいちいち嫉妬し、キスをしたり、抱きしめたり、愛の言葉をひたすら囁き、

さらに康二がトイレに行こうとすれば

「どこ行くの」

康「トイレ」

「俺も行く」

康「なんで!?家のトイレに着いてくる必要ないやろ!」

仕事で一緒の時は大体いつもお互いに声を掛けて連れションするのだが、康二に思い切りドン引きされた。

同じ空間にいても、康二とピッタリくっついていたい。

康二といえばところ構わずメンバーに引っ付き、大体煙たがられるのだが、俺は今そんな康二に煙たがられている。

康二がどんな理由であろうと、俺から離れることが許せないのだ。


「なにしてんの」

康「なにって帰り支度やけど」

ということで、完全に日の暮れた十九時。
俺がトイレに行っている間、康二は俺の部屋着から昨日来ていた服に着替え、薬指に嵌めたゴールドのリングをチェーンに通していた。

「今日も泊まってさ、明日俺と一緒に仕事行こ」

康「いくら好きでも、まだみんなの誤解を解いてへんし、そこはメリハリをつけないとあかんやろ」

ネックレスを大事そうに首にかけ、昔、俺と一緒に買った黒のジャケットに手を伸ばしながら、康二は我が子に諭すように優しく言う。

そんな康二の返答に自分の表情が山より険しくなるのがわかる。

「お願い、今日だけでいいから。

……帰らないで欲しい」

康二を後ろから抱きしめ、俺は康二に懇願した。

———帰さないと言えない、カッコ悪い俺に康二は困った声で

康「じゃあ、あと、一時間だけな」

「……うん」

———そして、一時間半後。

康「めめ、お願いやから、そろそろ手を離してくれるか」

冒頭に戻る。

例の如く俺はソファーに座り、康二がどこにもいけないように俺の脚の間に座らせ、さらに蛇のように康二の体に腕を巻き付け、康二の肩の上におでこを乗せた。

「康二、お願い。…帰んないで」

康「めめ!約束の時間はとうに過ぎてんで!明日はグループで撮影やから、さすがに帰らんとマズイって!」  

壊れたラジオのように、お願い、帰らないでという俺に康二は頑なに帰ろうとする。

康「言ったやろ?これからも俺はめめの恋人として、ちゃんと一緒におるって。でも、めめがそんなんで、俺らの関係を隠していけるか?」

「それは……、分かってるけど、今日帰って欲しくない」

きっと、二十代の康二だったら、「ええよ?朝までいよ」とハートマークを付けて返事をしてくれただろうに。

おじさんになった康二は昔に比べだいぶ大人になり、そして若干理屈っぽくもなった。

———ただ、康二の言っていることは最もだ。

俺たちの関係をこのままメンバーにもファンにも隠し通さなければならない。

それが、俺には面白くない。

男同士で結婚が出来るなら、俺は真っ先に康二にプロポーズをするのに。

「………」

康「……めめ聞いとる?」

黙り込む俺に康二は小さく息を吐く。 

「………」

康二に女々しいと思われただろうか。

康「お前はほんまに俺の前では子どもみたいになるんやな」

康二が俺のことをお前と呼び、急に男らしくなり、どう返せばいいのか一瞬、思考が停止する。

「え、と……」

そして、固まる俺の背中に康二は力強く腕を回し耳元で囁いた。

——めめ、愛してるで。

「……っ、」

康二の愛の言葉に張り詰めていた想いが破裂し、顔を上げた俺の頬に涙が伝って、それを見た康二がギョッとする。

康「めめっ!?お願いやから泣くなや〜!ほんまに今日はどないしたん?」

俺の背中を摩り、康二は俺の涙を自分の指で優しく拭い慰める。

「わかんないけど、なんか康二がいなくなると思うと寂しくて、すごく胸が痛くてさ……」

子どものような本音を漏らす俺に康二は困ったように微笑み、そして、静かに言った。

康「あーっ、なんか全てがアホらしくなってもーたわ」 

「え?」

はぁ…。 

と、康二に大きく溜め息をつかれ、
俺があまりにもこの二日間で何度も泣いて、女々しいものだから、康二に嫌われたのだろうかと焦る。

そして、しどろもどろになる俺に康二は今度は大きな声を上げて笑った。

康「ハハッ!昨日からめめの百面相が見られてめちゃくちゃおもろいわー!」

「な、なに?」

溜め息をついたかと思えば、目の端に涙をためていきなり笑い出す康二の感情が読めず、俺はさらにテンパる。

康「天下の目黒蓮も俺のことになると情っさけな〜い男になれるんやね」

「……そうだね」

康二の言う通りだ。
康二の前では例え三十代になっても、駄々をこねて泣いてしまう程、今や康二が俺の全て。   

逆に康二は三十半ばとなり、昔に比べてあまり涙を流すことが無くなり、強く、逞しくなった。

言い方を少し変えればドライになったとも言う。

きっと、強くなる過程の中には俺との長い片想いの葛藤も含まれていたのだろう。

康「なぁ、めめは俺がいないとこの先も生きてかれへんの?」

「当たり前だろ!……康二がいなかったら俺は、死んじゃうかもしれないね」

康二がなんでそんなことを聞くのか見当も付かず、そして、康二のいない世界を想像し、ゾッとする。

俺の返答に康二は悲しげに俯き、

康「俺もなこの先めめがおらんかったら、きっと死んでまう。やから、めめ」

康二が今までに見たことのない真剣な眼差しで言い放つ。

康「俺たちの関係をカミングアウトしよ」

「いいの?」

康「今日のめめのこの感じやと、関係を隠したまま生きてくんは難しいやろ」

「そうだね」

その言葉に俺はその通りだと頷く。 

明日も会えるのに、康二とたった数時間離れることも出来ない女々しい俺。

さらにこの先、康二がメンバーと触れ合うどころか、話をしているだけでもその都度苛立つ自信がある。

康「まずは明日メンバーに話そうや。めめ、ええか?」

そんなことで、康二とこの先もずっと一緒にいられるのなら別に怖いものなど何一つなかった。

俺たちは別に同性愛者ではない。
好きになった人がたまたま同性で、同じグループのメンバーになっただけのこと。

むしろ俺と康二が結ばれるのは運命だったに違いない。

「いいよ。早く康二が俺だけの恋人だってみんなに知らしめたい」

康「ほんま、怖いもの知らずやな」

真っ直ぐ見つめ合い、康二を磁石のように引き寄せ、そっと唇を合わせた。

ねぇ、康二のことはこの先もずっと俺が守って行くよ。

だから、康二も俺の側から一生離れないでね。





朝、七時。

康二と一緒に仕事がある時のマネージャーの迎えは大体康二が先なのだが、今日は俺を先に迎えに来てもらうよう昨晩マネージャーに連絡していた。

「ごめん、なんか俺加減出来なくて……」

康「別にええよ、俺もその良かったし……」

結局昨日の夜も康二と熱い一夜を過ごし、お互い今更照れ臭くなり、気恥ずかしさから視線を逸らす。

「康二、服はこれでいい?」

一昨日康二が着ていた服は一応洗濯はしてあるが、康二が俺のインナーを貸して欲しいというので、オレンジと黒の大柄のダイヤがあしらわれた俺が一番大切にしているポロシャツを康二に渡す。

この服だけはいくらだらしの無い俺でも、しっかり手洗いをし、丁寧にアイロンをかけ、ハンガーにかける程のお気に入りだ。

康「めめこれ好きやなー」

買ったの何年前やったっけと康二が笑いながら、服に袖を通し、その上に康二が一昨日着ていたお気に入りの黒のジャケットを羽織る。

「そのシャツはそのジャケットと俺と揃いで買ったって覚えてる?」

康「忘れるわけないやろ、めめが東京に来たばかりの俺とお揃いのこの黒のジャケットが、欲しいゆーて、一緒に買いに行ったら、俺とめめのメンバーカラーやからこのシャツもお揃いにしよって」

懐かしさに康二の顔が緩み、俺も服だけじゃなく康二と同じ記憶を共有出来ていることに嬉しくなる。

「でもその服、それでラスト一点だったんだよね 」

康「俺もめめもどっちも欲しいってなって、結局着たい時にお互い渡すことになったけど、今はめめの方がよう着とるな」

鏡を見て、髪を整える康二に俺は鏡越しに視線を合わせ、

「康二が着た後に着ると康二に包まれてる気がするじゃん?」

ニヤッと笑う。
そんな俺に康二は振り返り、

康「……めめって結構マニアックなんやね」 

「康二オタな俺は嫌い?」

軽く引かれ、康二が昨日の情事を思い出す。

「うーん、昨日の夜はめめがすけべおやじ連発でほんま驚いたわ……」

昨晩は二人の関係を世間に公表し、なにがあっても康二と共に生きて行くと決め、それに燃え上がった俺は一度じゃ飽きたらず、何度も何度も康二を滅茶苦茶にした。

康「ぅンッ——!……はぁっ、めめッ、もうっ、ホンマに限界やねん…ッ堪忍してや!」

「はあ……っ、」

康二の中で果てて、抜かずの四回目。
俺の熱は冷めることを知らず、まだまだ上がる一方だ。

もっと、康二を俺色に染めたい。
康二を俺の愛で満たしたい。
朝が来るまで、何度だって。

だけど、目に涙を溜めた康二に懇願され、実を言うとその姿にも欲情したのだが、名残惜しくも康二の熱い秘部から俺の沸るモノをゆっくりと引き抜いていく。  

康「…ンッ、」

途端、康二の恥部から俺が出した三回分の精液がゴプッと音を立てて溢れ出した。

「……うわ、えっろ」

康「そんな見んなや、どあほぉっ!!!」

その卑猥な光景を康二の脚をがっしり広げ、まじまじと眺める俺に康二は恥ずかしくなり、近くにあった枕で俺の頭を思い切り叩き、ライトスタンドにあったティッシュで急いでソレらを拭き取った。

メンバーとは何度も一緒に風呂に入っているので、お互いの裸はだいぶ見慣れているが、康二のお尻の穴は……うん。とてもフレッシュな気持ちで見られる。

俺はいくら愛でても足りない可愛い康二を尻目にミネラルウォーターを飲み干し、なんとかもう一回出来ないだろうかと考える。

康「もう、無理やで」

「ちぇっ」

俺の考えてることを察したのか、確実に俺の倍はイってる康二が釘を刺す。    

——俺は性欲が強く、そして絶倫だ。
好きな人を前にし止まることを知らない。

康「なぁ、今までこんなに性欲強くてどうしてたん?」

先程の行為で初めてそれを知った康二がふと、疑問に思ったのか、何気なく聞いてきた。

その言葉の中に、今まで彼女がいたのかどうか探りを入れていることに俺は気付く。

康二もやきもちを妬いてくれてると、嬉しくなり俺は言った。

「仕事で発散したり、後は一人でする時に康二とヤってるとこ何度も想像して、自分でシてた。だから、俺さ結構ウマい方でしょ?」

康「………」

本番は妄想の何百倍も気持ちいいねと、康二を安心させる為に言った冗談任せの言葉に康二は顔を赤らめて、シーツに顔を隠す。

と思った康二の反応はそれに反してドンの中のドン引きだった。



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