デビュー十年目




「………………」

重く静まり返る車内。

俺の隣で身を縮こませ、背後のあべちゃんに怯えるさっくん。

あべちゃんはめめに車に押し込まれ、我に返り酷く気まずそうやった。

念の為、さっくんに身を乗り出さないようめめがあべちゃんの肩をしっかり押さえている。

「えと、二人は今日、朝から雑誌の取材が入ってたよな?もう終わったんか?」

阿「取材が早めに終わって、めめと話をして帰ろうとしてたところ。康二と佐久間はなにしてるの?」 

佐「…………」

あべちゃんが抑揚のない声で言い放ち、その声にさっくんの震えが増す。

さっくんは今日は本当はあべちゃんと会う約束をしていたと、さっき言っておった。


俺はバックミラー越しにどうしようかと、めめと視線を合わせる。

「さっくんな朝から調子があんまり良くなくて、俺と今から病院に行くところやねん。悪いんやけど、二人もそこで降りてもろてええか?」

目「佐久間君、すごく顔色悪いけど大丈夫?俺たちはタクシーで帰るからそこで降りるよ」

佐「……ごめん」

とりあえず、この状況を打破する為に俺が咄嗟についた嘘にめめも話を合わせてくれた。

やけど、

阿「俺も一緒に行く」

あべちゃんにはそんな嘘もお見通しのようで、意地でもさっくんから離れない気や。

佐「……ごめん、康二、蓮。俺とあべちゃんを降ろしてくれる?」

めめのプレゼントを買いに行こうとしていた俺に気を使っているのだろう。

さっくんが今一番よろしくない決断をする。

目「……あのさ、あべちゃんとさっくんはちゃんと話し合った方がいいと思う。俺と康二も一緒にいるから。佐久間君、いい? 」

この雰囲気からして、めめもあべちゃんから二人の関係について相談されたのかもしれへん。

めめが優しい声で問いかけると、さっくんは俺とめめがいるならと、静かに頷き承諾した。


阿&佐「……お邪魔します」

「なんで話す場所が本人不在のラウの家やねん」

静かに話せるいい場所があるよとめめに案内されたラウールの家に思わず、関西の血が騒ぎツッコむ。

目「ちょうど、近くだったし。今あいつ海外でしょ?俺がコイツらの餌やり任されてるんだ」

めめが餌を撒く大きな水槽には色とりどりのラウ家のメンバー。

ラウールがいつからかアクアリウムにハマり、大きな水槽にはラウールならではの独創的な世界が広がっている。

目「まぁ、俺んちじゃないけど座りなよ。あべちゃんはこっちね」

阿「…………」

シンクで手を洗い、ラウの冷蔵庫に入っていたミネラルウォーターを持っためめが広いソファーに腰掛け、自分の隣をトントンし、あべちゃんは静かにめめの隣に座る。

「さっくんは俺の隣でええか?」

佐「……うん」

めめとさっくん、あべちゃんと俺が向かい合わせに座り、めめが話を切り出した。

目「はっきり言うけどさ、二人ともお互いが好きなのになんでこんな回りくどいことしてんの?」

「…………」

さすがアホの子、目黒蓮。
この男に物事を仕切らせてはアカン。

佐「……俺は別にあべちゃんのこと恋愛感情で見たことなんて一度もない。ただ若い時に情が少しあっただけ」

さっくんが自分の服の袖をギュッと掴み、必死に声を絞り出す。

誰が見ても無理をしているのは明白や。

阿「あのさ、今更信じてもらえないかもしれないけど、俺は昔からずっと大介のことが好きだ。だから、結婚なんてしないで欲しい」

佐「…………はッ、」

「さっくん、無理せんで」

弱々しい声で真っ直ぐにさっくんを見つめ、懇願するあべちゃんにさっくんの震えるが止まらない。

ただでさえ色白の顔色が血の気が引いて真っ青になり、さっくんが今にも倒れてしまうんじゃないかと心配になった俺がさっくんの背中に手を回そうとした矢先のこと。

佐「亮平よぉ、お前今更ふざけたことばっか言ってんじゃねぇぞ!!?」

「うわっ!」

目「康二!」

さっくんがいきなりラウールの家のテーブルを両手でバンッと叩き、立ち上がる。
いきなりのことに驚いた俺はソファーから落ち尻もちをつく。そんな俺にめめが反射的に駆け寄った。

佐「おい、亮平。お前さ俺のことが好きだって言っておきながら、俺とやるだけヤッて、俺のこと捨てて大学で彼女作ったよな?それって矛盾してるよなぁ?」

阿「…………」

そんな俺たちに構うことなく、さっくんはズカズカとあべちゃんの元へと行き、あべちゃんの胸ぐらを掴みあべちゃんを睨む。

ジュニアの指導に当たっていた時、さっくんがめちゃくちゃ怖い先輩であったことは有名な話やけど、多分この場にいる全員こんな威厳のあるさっくんを見るのは初めてで……

正直すっごく怖い。

その声はドスが効いている。
普段怒らない人が怒ると怖いというのはほんまやわ。

もしかしてさっくんがずっと震えていたのはあべちゃんが怖いからやなくて、この怒りを抑えてたからやったり?

「めめなんとかせぇ!」

目「いや、無理。だって、怖いもん!」

今にもあべちゃんに殴りかかりそうなさっくんを見て、俺はめめに小声で間に入るように伝えるが、めめもそれを拒否する。

佐「おい、阿部亮平!なんとか、言えよ!」

下を向いて言葉を発しないあべちゃんの胸をさっくんが強く叩く。

「さっくん、手ぇ出したらあかん!って、」

俺がさっくんの手が出始めた、ヤバいと思い立ち上がった瞬間、

阿「大介、話を聞いて」

あべちゃんがさっくんの背中に両腕を回し、さっくんをすっぽり包む。

佐「……っ、もう俺に触るな」 

さっくんは抵抗するが、あべちゃんとの体格差で逃れることが出来ない。

阿「あの子は彼女じゃないんだ。

俺さ、Snow Manが六人になる前からずっと、大介のことが好きだった。

大介はダンスもアクロバットもダントツに上手くて、このままじゃ俺は大介の隣にいるどころか、グループにも残れないんじゃないかって不安で堪らなくて……。

大介と一緒にSnow Manでいる為になにか、長所を持たないとって勉強に専念した」

佐「…………」

あべちゃんの話を聞き、胸ぐらを掴んでいたさっくんの手の力が弱まる。

阿「でも、活動を休止して大介と離れている時間は息が詰まって、本当に苦しくて気が触れそうだった。 
それを紛らわす為に毎日何時間も勉学に集中するっていうのはもっと大変で、気を抜けば頭の中が大介のことでいっぱいになってしまうから」

「…………」

あべちゃん俺も分かるでその気持ち。
と、俺は心の中で頷いた。

阿「大介が会いに来てくれて、初めてその、した時に俺、すごく幸せで……。
大介と会えない間、他のメンバーに嫉妬したりもして、大介とこの先も一緒にいたい一心で寝ずに勉強もダンスもアクロバットの練習も頑張った。
もう、その時の俺は馬鹿の一つ覚えみたいに大介のことしか頭に無くて、実は活動休止中に無理が祟って一度倒れて入院したんだ 」

目「えっ、」

佐「そんなの、俺聞いてない……!」

眉根を眉間に寄せて顔を上げたさっくんの目には涙が滲み、こんな脆い俺を知っているのは家族と大介だけだよとあべちゃんは苦笑いした。

「あべちゃんが活動休止したのはグループの為というよりはさっくんへの愛やったんやな」 

車でさっくんの話を聞いた時に、あべちゃんが努力家なのは最初はグループの存続の為、あべちゃん自身の為と思ったが、話を聞いていくうちにさっくんと釣り合う自分になる為のものなんやと合点が行った。

阿「そうだね。
俺がどんなに努力しても、大介は元々大人しい性格だったのに、それをポジティブに変えていくことすらも出来てどんどん上にのし上がってく。

俺はその度にいつも自分に限界を感じて焦っては、これは大介といる為なんだって自分に言い聞かせて、必死になる。そうしてまた自分の限界を超えてしまうと気付いた時に分かったんだ。

俺は大介の隣にいられないんだって」

佐「……亮平。
俺はそこまで出来た人間じゃないし、そんなに辛かったなら、なんでもっと相談してくれなかったんだよ」

さっくんがあべちゃんの胸に縋り、今度はあべちゃんの胸を軽く叩く。

阿「俺はね、自己肯定感が低いくせにプライドの高い人間なんだ。大介にカッコ悪いところを見せたくなかった。だから、こんな俺と一緒にいたら、いつか大介のことも壊していくんじゃないかって不安で、関係を終わらせて、大学の同期にずっと彼女のフリをしてもらったんだ……」

佐「そんなの自分勝手だろ!?俺は亮平とこれからも一緒に生きて行きたいって思ってたんだぞ?!お前のせいで、俺には今結婚を考えてる彼女だっているんだぞ……!!」

どんどん小さくなっていく、あべちゃんの言葉尻にさっくんは声を張り上げる。

阿「大介本当にごめん……。相手がいて結婚する前にこんなこと言うのはずるいってわかってる」

佐「……やめろ、聞きたくない」

さっくんが両手で耳を塞ぎ、身を捩ってあべちゃんから必死に逃れようとするが、あべちゃんがもう二度と離さないというようにさっくんをキツく抱き締めた。

阿「俺は今も変わらずに佐久間大介を愛してる。もう二度と悲しい想いはさせない。だから、俺と付き合って欲しい」

佐「っ、今更ふざけんな……!」

あべちゃんの告白に涙を溜めたさっくんが顔を上げる。

わなわなと震えるさっくんのおでこにあべちゃんはキスをし、さっくんの首筋に顔を埋めて懇願した。

阿「俺は大介がいないと生きていけない。この先の人生ずっとそばにいて欲しい」

佐「うっ、くっ……!」 

さっくんはあべちゃんの胸で泣き崩れた。



目「じゃあ、あとは二人で話してもらって、俺たちは帰るね」

完全に空気と化した俺とめめは顔を合わせ、ラウールの家から退室する準備をする。

佐「……康二、予定あったのにごめん 」

あべちゃんの腕の中で、さっくんが申し訳無さそうに謝る。

「ええって。俺も二人にヒント貰えたし」

目「ヒントって?」

ニカっと笑う俺にめめが首を傾げる。

「内緒!ほら、めめ行くで」

目「えー、じゃあ最後ロックだけよろしくね」

阿「分かった」

俺はめめの手を取り、ラウの家を後にする。





目「あの二人どうなるかな?」

「さぁ?それはあの二人にしかわからんよ」

目「俺たちみたいに付き合えばいいのに」

駐車場に向かう途中でめめが楽しそうに笑う。

「そうなったらお祝いせなな。さ、行くで」

目「うん。あれ、佐久間君とみなとみらいに行こうとしてたの?」

今度はめめを助手席に乗せてエンジンをかけ、俺はシートベルトを締める。

よし、いざ出発と思ったが、ナビが告げる目的地はめめのプレゼントを選びに行こうと思っていた場所や!

「そ、そう!さっくんが落ち込んでて、みなとみらいまでドライブしようかなぁ〜って!」

俺のバレバレな嘘にめめは笑う。

目「じゃあ、このまま俺をみなとみらいまで連れて行って欲しいな」

「……付き合ってから、初めてのデートやね」

自分で言っておきながら、なんだか照れくさくなって俯く俺の顔にめめの大きな手がそっと重なる。

めめは俺の顔を自身の方へ上げさせ言った。

目「康二、俺に運転」

「却下」

めめが言い切る前に俺は前を向いて車を発進させた。

正直めめは運転が荒い。
ドライブデートといえば彼氏の運転なんやろが、俺の愛車を傷つける事は例えめめでも許せへん。

目「ちぇっ、彼氏らしいことしたかったなー」

「これからのデートで期待しとるで」

長い迷路から抜け出せず、モヤモヤしていたさっくんとあべちゃんの関係もすっきりし、残る問題はただ一つ。

めめの誕生日や。
でも、今日のさっくんとあべちゃんを見てなに渡せばめめが喜んでくれるかよくわかった。

俺は今日会う予定のなかっためめとこれからデートが出来ることに幸せを噛み締める。

目「カッコよすぎて、またさらに俺に惚れちゃうかもよ?」

「もうこれ以上ないくらい、惚れてるのにさらに上を行くんか。それはヤバいな」

ふざけて心臓を押さえる俺に隣にいるめめもすごく嬉しそうや。

続く
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