デビュー十年目

※あべさくあり
※あべさくはお互い彼女がいる設定です。
※あべちゃんがヘタレ。さっくんぶちギレます。

康二side

ピンクで統一された装飾が施された東京都内。

世の中はバレンタインシーズン真っ只中や。


佐「そういや、もうすぐおチョコの日か〜 」

赤信号で止まった俺の車の前を横切るカップルはいつにも増して互いの体を密着させ、甘ったるいムードを漂わせている。

そんな恋人たちを車のドアに頬杖をつき、羨ましそうに眺めるのはSnow Manの中で一番イベントごとが大好きでムードメーカーなさっくんや。

「さっくんは今年のバレンタインは彼女と過ごせるん?」

俺が横目でさっくんを見て問いかけると、信号がちょうど青へと変わってしまい、俺の質問によるさっくんの表情は窺うことはできなかった。

佐「ん〜。去年は彼女の家で一緒に過ごしたけど、今年はどっちも仕事で会えないんだよね」

「この仕事やと、彼女とデートするのも一苦労やな」

男同士のめめと俺が二人で街中を歩いていても逆に違和感はないが、例えさっくんのチャームポイントのピンクの髪色を除いたとしても、そこはかとなく華やかな芸能人オーラが漏れてしまうさっくんのことや。

彼女と二人で街中を歩いたら、直ちに騒ぎとなって記事になるやろ。

佐「マジでつらたん」 

さっくんはため息をつき、早く彼女に会いてーよと寂しげに呟く。

「(やっぱり、さっくんに彼女がいるのは明白や)」

前方をしっかり見ながら運転に集中し、俺がさっくんに例の件をどう切り出そうか考えていると、さっくんが見計らったかのようなタイミングでめめの話を切り出す。

佐「康二は蓮にあげるプレゼントなにか決まってんの?」

「実はまだ決めてへんくて、今日買いに行こ思っとったから、さっくんから連絡が来て良かったわ」

前方の信号が黄色に変わり、俺はブレーキをゆっくり踏んで停止線でピタリと止まった。

週末ということもあり、横断歩道を渡る通行人が多い。

どこに行ってもお洒落な紙袋を手にぶら下げて、行き交う人々。中身は言わずもがな限定のお高いチョコレート。 

バレンタインが来週にさし迫っているということは、もちろん俺の恋人であるめめの誕生日も近いということや。

メンバー恒例の一同でお金を出し合って買うプレゼントはタイに行く前にはしっかりと用意したんやけど、肝心の俺個人のプレゼントはまだなにを渡すかすら決まっておらず、買いに行けるのも今日くらいしか無かったので、数十分前にさっくんから突然買い物のお誘いの電話が来た時には思わずガッツポーズをした。

めめのプレゼントを一緒に選んでもらい、それとは別にあべちゃんとさっくんの間柄も確認出来れば一石二鳥やなと。

—♩♩ —♩ ♩—♩♩

「(あ、バレンタインデーキッス……)」

外から聞こえてくるバレンタインの定番ソングにふと、七年前のあの日のことを思い出す。

酒に泥酔し、俺の左手の薬指に指輪をはめて、結婚しようと言ってくれためめ。

めめの真意が分からず、めめへの想いをひた隠しにすると心に誓った日。 

あれ以来、俺にとって二月はなんとなくほろ苦いシーズンとなっていたのだが、めめと結ばれた今年は違う。 

胸焼けするほど甘く、濃厚なチョコレートのような季節へと大きく変化した。

「(あの頃の自分に、めめと俺は本当は相思相愛なんやでって教えてやりたいわー) 」

恋人になっためめの誕生日をどう祝おうか、そして、俺とめめの関係を世間に公表したいと行った時のさっくんとあべちゃんのただならぬ様子をどう追求すべきか。

俺の頭の中はここ最近、その二つのことでいっぱいやった。


佐「まぁ、買い物は口実だよ。
康二にはちゃんと話しておこうと思って。
実は俺さー」
 
「うん」

今、赤信号で止まっているこのスクランブル交差点は俺がオフの日によく車で通る道や。

ここの信号がえらく長いことを知っている俺は、さっくんを迎えに行く前にユイカフェでテイクアウトしたコーヒーを口に含み、俺の左隣でなんだか陽気に話すさっくんと今度はちゃんと視線を合わせた。

佐「あべちゃんが学業に専念する為に活動休止した時、実はあべちゃんと深い関係だったんだよねー」

「は?……ゴホッ!!!あぁ……っ!?ごほっ、ごほ!! !」

佐「おいおい、康二!大丈夫かよ!?」

突然のさっくんの爆弾発言に飲み込んだコーヒーが変なところに入り俺は盛大にむせ、そんな俺の背中をさっくんが優しく撫でる。

「だ、大丈夫やから、続き話してや」

涙で目が滲んだが、視界の端で歩行者信号が点滅し始めたのを確認し、俺は左手を胸に当て必死に呼吸を整えた。

———内心、今、めちゃくちゃ動揺している。

どこかに停車して、さっくんの話を聞こうか迷ったんやけど、この話題は逆に面と向かってするのはちょっと気まずいかもしれへんなと俺は秒で考え、とりあえず目的地までは運転に集中することにした。

……さっくんの言う深い関係とは体の付き合いのことやろか?

あまり下ネタが好きではないさっくんの口から、次はどんな言葉が飛び出すのかと、俺はヒヤヒヤした。

佐「……マネージャーと話した日にさ、照とふっかからなんか聞いただろ?」

静かなトーンでさっくんは俺とあべちゃんのこと、と呟く。

「えと……あべちゃんとさっくんが付きぉてるんやないかって照兄とふっかさんは言うとったけど、二人は彼女おるよな?」

左から車線変更してくる車に気を付けながら、俺は彼女はカモフラージュと言った二人を思い出し、さっくんに問うた。

佐「うん。 
俺はさ、彼女といるとありのままの自分でいられるし、実は年内には結婚したいと思ってる。でも、まだ踏ん切りが付かないのはあべちゃんのことを放っておけない自分がいるからなんだよな、多分」

結婚を考えているということはやはり、カモフラージュで付き合ってるわけではなさそうや。

そこにあべちゃんがどう関わっているのか、はやる気持ちを抑えて俺はさっくんの話に耳を傾けた。

「……あべちゃんがどうかしたん?」

運転中でさっくんの表情を見ることは出来へんのやけど、さっくんの話す声のトーンは明らかに低くなって行き、あべちゃんの話題はさっくんにとって言いづらいことなんやろか?

佐「あべちゃんは自分への理想がかなり高くて、他のメンバーの前ではいつも明るく振る舞ってるけど、実はデビューから十年経った今も思い通りの自分になれないことに悩んでるんだよ」

「……そうなん?」

確かにあべちゃんはあまり器用な性格ではなく、かなりの努力家やけど、自分に不得意なことや欠点があることが許せないタイプだと感じたことは今まで一度だってない。

俺と同じ、弟気質で甘え上手。
茶目っ気があるのに、謙虚で爽やか。
優しい兄の部分も兼ね備えた穏やかな大人の男性。それがあべちゃんだと思っていた。

勉学も資格の取得も己の為というより、グループの活躍の幅を広げていく為にやっているものやとばかり。

でも、積み重ねてきた努力はあべちゃん自身のプライドで成り立ち、阿部亮平個人を確立させる為のものだというのはとても意外で、さっくんは俺の知らないそんなあべちゃんをもう何年も側で見てきたのだろう。

俺しか知らないめめの一面、
さっくんだけが知るあべちゃんの一面。

十年ちょっと一緒にいても、互いの全てを理解しているわけではない。

十年前の俺やったら、それを寂しく思ったかもしれへんけど、今はそのくらいの距離感の方が程よく感じられるのはやはり歳を重ねて考え方も大人になったからやろう。

佐「プライドの高いあべちゃんって全然想像付かないだろ?六人になった時も自分だけがなんの取り柄も無い、このままじゃ俺だけが取り残されるって俺の前でかなり取り乱して、なにかに取り憑かれたように勉強に専念するんだって活動を休止してさ。でも、その活動を休止している間もあべちゃんはずっと不安だったんだろうね」

「…………」

事務所に所属していても見えない未来への不安や苦しみが、どんなに耐えがたいものなのか俺にもよく分かる。

やけど、活動を休止して大学に進学したあべちゃんの焦燥感やプレッシャー、孤独感、苛立ちは計り知れない。

黙って聞いている俺にさっくんは続ける。

佐「その時の俺はあべちゃんの心が本当に壊れちゃうんじゃないかってくらい心配で、暇さえあればあべちゃんに連絡を取ってた。

あべちゃんは最初は頑なにありがとう、大丈夫だから、佐久間も頑張れって言ってたんだけど、全然大丈夫じゃないのは明白でさー」

「……そん時はあべちゃんだけやなく、さっくんだって、辛かったやろ?」

佐「まぁ、周りが真っ当な人生を歩んでいく中、俺も先が見えなくて……すごく怖かったよ。あべちゃんも結局大学に入ってグループを辞めるだろうなってどこかで思ってたし」

Snow Manはデビューが中々出来なかった苦労人ばかりのグループや。

あべちゃんの心配をしている自分だって、きっと物凄く辛かっただろう。

ましてや、その時はお互い十代。
精神的にもまだ未熟で自分のことで頭がいっぱいで、心身共に疲れていてもおかしくない年代やのに、あべちゃんのことを気にかけることが出来たさっくんはほんまに優しさの塊や。

感情移入で目頭が熱くなってくる。

佐「それで、連絡を取るうちにあべちゃんのことがなんか気になっちゃってさ……。  
その時は他のメンバーも切羽詰まってて、あべちゃんの話が出来る雰囲気でもなかったのね。 だから、俺がオフの日にあべちゃんの邪魔にならないように一目見たら帰るって決めてあべちゃんの家に行ったんだ。そしたらさ……」

さっくんもその時のことを思い出し、胸が痛むのだろう。 言葉に詰まる。

「…………」

俺は大通りから一本逸れた道に入り、ハザードをたいて車を停車させた。

佐「ありがと、康二。久しぶりに見たあべちゃんなんだけど、少し離れた場所でも分かるくらい痩せ細って、顔色もかなり悪くてさ。ヤバいくらい追い込まれてて、俺いても経ってもいられなくてあべちゃんの名前を呼んだんだ。今となってはその時のことめちゃくちゃ後悔してる」

自分を嘲笑い、さっくんは目頭を押さえ俯く。

「さっくん、ゆっくりでええんやで」

俺がさっくんの背中を撫でると、その体は少しだけ震えていた。

佐「……あべちゃん、突然会いに来た俺を見てすごく驚いたんだけど、俺のとこまで走って来て、俺のこと強く抱きしめて言うんだ。

佐久間、ずっと会いたかったよって」

「あべちゃんはさっくんのことを好きやったんやね」  

佐「恋愛の意味で好きって言われたことは今まで一度だってないし、俺も言ったことないけどね」

俺は投げやりに言い放つさっくんの言葉を聞いて一つの過程が浮かんだ。

佐「あべちゃんに抱きしめられて、あべちゃんに仲間とか友情以上の気持ちがあるんだって、俺もそん時初めて気付いた。

当時は俺の心も本当ズタボロだったけど、あべちゃんは俺が守ってあげなきゃって気持ちが奮い立って、その日に俺、あべちゃんと体を重ねた。それがすごく幸せだった。

なのにあべちゃんの大学生活が落ち着いて来た数年後、突然今まで通りの関係に戻ろうって。しかも彼女まで作ってさ」

好きな人と初めて結ばれる幸せを俺はつい最近知ったばかりや。

——そして、相手を想うあまり今までの自分を保てなくなってしまうことも。

十代のあべちゃんの当時の葛藤は計り知れない。

「さっくんは今でもあべちゃんのことが好きなんやね」

佐「……あんな奴、もうさっさと嫌いになりてーよ」

そう簡単に捨てられる想いじゃないからこそ、さっくんは今とても苦しんでいる。

お互いに彼女がいても、二人が変わらず励ましあってやって来たことを俺は知っている。

「いっそのこと嫌いになれたらええのにっていう気持ちは痛いほど味わったから、俺もよう分かるで 」

さっくんの白い肌を静かに溢れ落ちる涙。

あまり見ることのない涙を流すさっくんの姿はなんだかとても美しく、こんな時に思うことではないが、写真に納めたいくらい絵になる。

俺が箱ティッシュを差し出すと、さっくんは目に溜まった涙は拭かずにズビーっと、勢いよく鼻をかみニカっと笑った。

やはり、さっくんに儚さは似合わない。
豪快くらいがちょうどええ。

佐「実は蓮と康二が俺たちに交際宣言したあの日、 俺はもうすぐにでも彼女と結婚するから、あべちゃんの存在は俺の中で全て消し去ってやるって言ったんだ」

「えーと、そしたらあべちゃんはなんて……?」

いくらなんでも、同じグループのメンバーに全てを抹消すると言われるのはキツいな……。

佐「めちゃくちゃ狼狽えてた。あの日以来仕事で会うこともないし、本当は前々から今日会う約束もしてたけど、連絡も全部無視してる。ほら、見て」

さっくんが見せてくれたあべちゃんの着信履歴やメッセージは言葉に出せない程、なんかヤバい。

え、あべちゃんってこんなに嫉妬深くて、束縛するタイプ? そして、メンヘラ……

「もしかしなくても、それは俺たちがきっかけでそんなことに?」

俺の全く知らないあべちゃんの裏?いや、素の部分に思わず、動揺が顔に出てしまい、さっくんはそんな俺に苦笑いをする。

佐 「……康二、俺はもう大丈夫だから。とりあえず目的地まで車出せる?」

「それなら、行こか」

右にウィンカーを出し、俺は後ろから車が来ないことを確認して運転を再開させる。




佐「康二がA子さんと結婚するってマネージャーから聞いた時はただ純粋に嬉しかった。次は俺の番かなって」

「……おぅ、結局マネージャーの勘違いやったけどな」

俺のいない間にA子さんと結婚するという、嘘をマネージャーからメンバーに吹き込まれ、純粋に喜んでくれたメンバーにはほんまに申し訳ない。

今となってはマネージャーの嘘のおかげでめめと付き合うことが出来たんや。 イライラを蒸し返すな、俺。

佐「けど、その後に蓮と付き合うことになったって言われて、誤解しないで欲しいんだけど、二人はなんにも悪くない。でも、俺と多分あべちゃんもかな?あの時、無性に腹がたった。あぁやって交際宣言したお前たちの関係が俺らにはすごく羨ましかったんだ」

さっくんは嫉妬で歪む顔を俺に見せたくなかったのだろう。 

俺は交通量の多い大通りに出て、運転に集中する。 

「すまん、俺たち無神経やったな」

佐「いや、蓮が康二のこと昔から好きなのは知ってたし、ちゃんと嬉しい気持ちもあるから。というか蓮の嫉妬が露骨すぎて気付かないやついないって。あべちゃんもさー、あれくらい分かりやすければ、俺たちの関係もなにか違ったのかな」

前方の少し離れた信号が赤に変わり、前を走る車が信号で止まって行く。俺はゆっくりブレーキを踏んで車を停止する。

それに合わせてのんびりとさっくんが話す。
さっくんの気持ちが落ち着いてきたようで、俺も一安心や。


佐「でも、あべちゃんにも彼女がいるんだし、俺があべちゃんの心の安定剤でいる必要はもうどこにも無かったんだよ。俺が今まで甘やかしすぎた。そして、お前らが交際宣言してくれたおかげで、俺も踏ん切りがついた」

「じゃあ、あべちゃんとはもう……っ?!!」

穏やかに話すさっくんの表情を伺おうと、俺がチラリと左を向いた途端、

阿「大介!!!!」

信号で止まっていた俺の車の助手席の窓に大きな声をあげてバンッ、と張り付く人物。

佐「……っ、亮平」

目「あべちゃん、ちょっと落ち着いてよ。
あれ、康二?」

「……めめ?」

それは今日の話の主であるあべちゃんや。

そして、その背後には大きな声を上げるあべちゃんと俺たちの突然の出現に驚く俺の恋人であるめめもいた。

阿「だいすけっ、 」

さっくんの姿を見て酷く取り乱すあべちゃんをめめが宥め、さっくんはそんなあべちゃんの姿を見て口元に手を押さえ震える。

一心不乱に声を上げるあべちゃんに通行人の視線が集まりマズいと思った俺は

「ごめん、さっくん。しんどいかもしれへんけど、二人を後ろに乗せるで!二人とも早く車に乗って……!!」

俺はめめに後部席を指差し、車に乗るよう施す。

阿「大介、お願い話を聞いて!」

目「いいからまず車に乗って!」

めめは車のドアを開け、パニック状態のあべちゃんを車に押し込んで、自分も車へ乗り込み急いでドアを閉めた。

周りの人たちの視線は何事かとこちらを注視している。

信号がちょうど青に変わり、俺はそんな視線から逃れるように車を発進させた。


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