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▽猫化編
数日経っても美緒ちゃんと連絡がとれないのは、天狗党に誘拐されて以来だ。
副長に聞いても、原田や沖田隊長に聞いても、誰も行方を知らないと来た。
「山崎、近藤さん見てねーか?姿が見当たらねェ」
「またですか。見てないですよ。美緒ちゃん探すついでに探しますけど」
「なんだ。荒れてやがんな。俺に当たっても美緒の居場所は分かんねーぞ」
「わかってますよ」と、じとりと半眼を副長に向ければ、タバコに火をつけて紫煙を吐き出した。
「心配も度を越すと嫌われるぞ」
ぼそりと呟かれたそれに、何も言い返せない。
「……ちょっと出掛けて来ます」
美緒ちゃんを探す為に、街を練り歩く。
真選組に入隊してからというもの心配が尽きない。
心配し過ぎだというのは自分でも分かっている。でも、自分が知らない所で怪我をしていたら、もし取り返しのつかない事になっていたらと思うと気が気じゃない。ただでさえ、夜が苦手になっているというのに、こんなの心配するなという方が無理な話だ。
万事屋に遊びに行っているのかと訪ねたが――
「美緒ちゃん来てないですよ」
「美緒もいないアルか?銀ちゃんも帰って来ないし……もしかしたら2人でシコシコやってるかもしれないネ。私達に内緒でズルいアル」
「は?」
チャイナさんの推測に、自分でも驚く程の低い声が出た。チャイナさんに向けたつもりが、何故か新八くんがビクッと肩を揺らして、顔を引きつらせた。
「か、神楽ちゃん、それはないよ」
「ないってなんで言い切れるアルか。2人とも何日も帰ってこないなんて絶対何かあるネ。絶対2人で私達に言えないような事してるアル」
「神楽ちゃんんん!なんて事言うの!2人が一緒にいるって決まってないでしょ!?僕は絶対2人バラバラにいると思うなー!うん!だって銀さんが美緒ちゃんに手ェ出すなんてありえないもの!銀さんが美緒ちゃんとチョメチョメするなんてありえないもの!だって美緒ちゃんだよ?神楽ちゃんと体型似てるんだよ?胸はあるかもしれないけど、そんな子に手を出すなんてありえ……な……ははは……嘘でーす……美緒ちゃんとっても魅力的ですよね。あんな魅力的な子他に見た事ないなー。お通ちゃんと張れるよ、うん」
新八くんは俺の視線に気付くと、頬を引き攣らせ、顔を青くさせて乾いた笑みを浮かべた。
「新八、お前1人で何言ってるアルか。キモイアル。暫く私に話しかけないで」
「なんでだァァァ!僕一生懸命フォローしてたでしょ!そもそも神楽ちゃんがあんな事言わなきゃ――」
「話しかけないで」
そっぽをむくチャイナさんの態度に、新八くんは、発散しきれない憤りをぶつけるように天井を仰いで、両手で髪を掻き乱している。
俺は、静かに膝の上に肘をついて、組んだ両手に顎を乗せた。
「新八くん、確かに美緒ちゃんは魅力的だけど、あの子は君には手に負えないよ。君と僕とじゃ、あの子を受け入れる器が違う」
「だからなんだ!誰も美緒ちゃん狙ってねーよ!」
「新八くん、君は知らないかもしれないけど、美緒ちゃんはああ見えて地味にモテるんだよ」
「ああハイハイそうですか。良かったですね。じゃあもう話終わったでしょ?美緒ちゃんはここにはいませんから帰ってください」
全てが嫌になったと言わんばかりの口調で、力なく玄関の方を指し示された。
美緒ちゃんもいないし、行方も知らないならここに用はない。礼を言って立ち上がれば、チャイナさんが口を開いた。
「ジミー、銀ちゃん見かけたら教えろヨ。私達も美緒見かけたら連絡するネ」
「分かりました。お願いします。じゃあ俺はこれで」
会釈して万事屋を後にした。
他にも美緒ちゃんが行きそうな所を手当り次第探していると、向こうから猫が駆け寄ってくるのが見えた。
そんなに急いでどこに行くのかと思っていたら、俺の足元にまとわりついてきて、歩いている途中だった足が絡まりそうになる。
「うわっ、ちょっとあぶなっ!」
猫を踏まないように、どうにか猫の纏わりから離れる。
「ニャッ」
脚に前足を置いて、俺を見上げている猫。
残念だが、野良のようなので変に構って懐かれても困る。その体を離して、歩き出した。
それでもついて来る。走ったら同じように走ってきて、隠れてもすぐに見付けられてしまう。
今も、路地に置いてあったポリバケツに入っているのに、外からカリカリと引っ掻いている音が響く。
「はぁー……もう降参」
蓋を開けてポリバケツから顔を出せば、軽々その縁に飛び乗ると、顔目掛けて飛んできた。咄嗟の事に避ける事も手で掴まえる事も出来ず、顔で猫を受け止める。
顔の上でもがいている猫を剥がしてよく見れば、それは前に原田が構っていた猫。もう1度会えるとは思いもしなかった。
俺と目が合うなり頬を舐めてきた。それは1度で終わって拍子抜けする。もっとたくさん舐められるかと、少し覚悟していたのに。
猫を抱いたままポリバケツから出て、猫を地面に下ろした。
「なんなんだお前。俺に懐いてもなんもないよ」
猫と向かい合ってその場にしゃがみ、頭を撫でてやれば、頭を擦り寄せてきた。その反応に、重なる美緒ちゃんの顔。
「なーう」
「ん?餌もないよ。ごめんな」
顎の下に手をずらして指先でくすぐると、ゴロゴロと喉を鳴らした。気持ち良さそうに細められる目。
「美緒ちゃんどこにいんだろーな……」
この猫を見ていると、美緒ちゃんに会いたくなってくる。
逃げてもしつこく追いかけてくる所や、俺を見付けるなり駆け寄ってくる所、頭を撫でれば擦り寄ってくる所が、美緒ちゃんを彷彿させてたまらない。
「可愛いなお前」
突然、右往左往したかと思えば、毛繕いを始めてビックリした。
そんなにしつこく触った覚えはないけど、猫にしたら長時間に感じたのかもしれない。
猫構ってないで美緒ちゃん探して、仕事もしないと。
「じゃあ俺そろそろ行くわ」
立ち上がった途端、猫が肩に飛び乗ってきた。落ちないように、尻を支える。
「悪いけど、お前の事連れていけないんだ」
また頬が舐められた。今度は、何回も。
それをやめさせるように、抱っこをした。胸に当てられる前足。
「そうだ。分かるかな。俺、この子探しててさ、見付けたら俺の所連れてきてよ」
携帯の画像フォルダから美緒ちゃんの写真を表示させて見せるが、猫は俺の方をジッと見ているだけで無反応。そりゃそうか。
「なんて。無理だよな。ごめん。猫に頼るなんかどうかしてるわ」
自嘲し、猫を地面に下ろして「じゃあな」と声をかけてから、踵を返した。
あの猫は一体どうなったのか、あの日からぱったり姿を見なくなった。野良だから、餌をくれない人間には用はないのかもしれない。見限られて当然だ。
飼う気もなかったので、会えなくなってちょうどいいけれど、少しの寂しさを覚える。
餌も与えなかった俺が言うのもなんだが、元気でやってくれていたらいいなと、あわよくば大事にしてくれる飼い主に拾われていたらいいのにと、願ってしまった。
漸く戻ってきた美緒ちゃんは、猫になっていたと言う。それが、完全に嘘だとも思えない猫と出会ってしまったのだ。本当にあの猫は美緒ちゃんだったのか、今となっては分からない。
写真撮っとけば良かったな。
「退ー!」
俺の姿を見るなり、嬉しそうに向かいから走ってくる美緒ちゃん。今にも飛びついてきそうだった体はブレーキがかけられ、抱きつかれる事はなかった。少し残念。
「ただいま」
笑顔で言うその頭を撫でれば、甘えるように手に擦り寄ってくる。自然と漏れる笑み。
「おかえり。報告書清書するでしょ?見てあげる」
「いつもありがとうございます」
「何それ。なんで敬語?」
「なんとなく」と俺の好きな笑顔で笑う美緒ちゃん。
やっぱり、いくら猫と似ていても、人間の美緒ちゃんの方がいいな。
数日経っても美緒ちゃんと連絡がとれないのは、天狗党に誘拐されて以来だ。
副長に聞いても、原田や沖田隊長に聞いても、誰も行方を知らないと来た。
「山崎、近藤さん見てねーか?姿が見当たらねェ」
「またですか。見てないですよ。美緒ちゃん探すついでに探しますけど」
「なんだ。荒れてやがんな。俺に当たっても美緒の居場所は分かんねーぞ」
「わかってますよ」と、じとりと半眼を副長に向ければ、タバコに火をつけて紫煙を吐き出した。
「心配も度を越すと嫌われるぞ」
ぼそりと呟かれたそれに、何も言い返せない。
「……ちょっと出掛けて来ます」
美緒ちゃんを探す為に、街を練り歩く。
真選組に入隊してからというもの心配が尽きない。
心配し過ぎだというのは自分でも分かっている。でも、自分が知らない所で怪我をしていたら、もし取り返しのつかない事になっていたらと思うと気が気じゃない。ただでさえ、夜が苦手になっているというのに、こんなの心配するなという方が無理な話だ。
万事屋に遊びに行っているのかと訪ねたが――
「美緒ちゃん来てないですよ」
「美緒もいないアルか?銀ちゃんも帰って来ないし……もしかしたら2人でシコシコやってるかもしれないネ。私達に内緒でズルいアル」
「は?」
チャイナさんの推測に、自分でも驚く程の低い声が出た。チャイナさんに向けたつもりが、何故か新八くんがビクッと肩を揺らして、顔を引きつらせた。
「か、神楽ちゃん、それはないよ」
「ないってなんで言い切れるアルか。2人とも何日も帰ってこないなんて絶対何かあるネ。絶対2人で私達に言えないような事してるアル」
「神楽ちゃんんん!なんて事言うの!2人が一緒にいるって決まってないでしょ!?僕は絶対2人バラバラにいると思うなー!うん!だって銀さんが美緒ちゃんに手ェ出すなんてありえないもの!銀さんが美緒ちゃんとチョメチョメするなんてありえないもの!だって美緒ちゃんだよ?神楽ちゃんと体型似てるんだよ?胸はあるかもしれないけど、そんな子に手を出すなんてありえ……な……ははは……嘘でーす……美緒ちゃんとっても魅力的ですよね。あんな魅力的な子他に見た事ないなー。お通ちゃんと張れるよ、うん」
新八くんは俺の視線に気付くと、頬を引き攣らせ、顔を青くさせて乾いた笑みを浮かべた。
「新八、お前1人で何言ってるアルか。キモイアル。暫く私に話しかけないで」
「なんでだァァァ!僕一生懸命フォローしてたでしょ!そもそも神楽ちゃんがあんな事言わなきゃ――」
「話しかけないで」
そっぽをむくチャイナさんの態度に、新八くんは、発散しきれない憤りをぶつけるように天井を仰いで、両手で髪を掻き乱している。
俺は、静かに膝の上に肘をついて、組んだ両手に顎を乗せた。
「新八くん、確かに美緒ちゃんは魅力的だけど、あの子は君には手に負えないよ。君と僕とじゃ、あの子を受け入れる器が違う」
「だからなんだ!誰も美緒ちゃん狙ってねーよ!」
「新八くん、君は知らないかもしれないけど、美緒ちゃんはああ見えて地味にモテるんだよ」
「ああハイハイそうですか。良かったですね。じゃあもう話終わったでしょ?美緒ちゃんはここにはいませんから帰ってください」
全てが嫌になったと言わんばかりの口調で、力なく玄関の方を指し示された。
美緒ちゃんもいないし、行方も知らないならここに用はない。礼を言って立ち上がれば、チャイナさんが口を開いた。
「ジミー、銀ちゃん見かけたら教えろヨ。私達も美緒見かけたら連絡するネ」
「分かりました。お願いします。じゃあ俺はこれで」
会釈して万事屋を後にした。
他にも美緒ちゃんが行きそうな所を手当り次第探していると、向こうから猫が駆け寄ってくるのが見えた。
そんなに急いでどこに行くのかと思っていたら、俺の足元にまとわりついてきて、歩いている途中だった足が絡まりそうになる。
「うわっ、ちょっとあぶなっ!」
猫を踏まないように、どうにか猫の纏わりから離れる。
「ニャッ」
脚に前足を置いて、俺を見上げている猫。
残念だが、野良のようなので変に構って懐かれても困る。その体を離して、歩き出した。
それでもついて来る。走ったら同じように走ってきて、隠れてもすぐに見付けられてしまう。
今も、路地に置いてあったポリバケツに入っているのに、外からカリカリと引っ掻いている音が響く。
「はぁー……もう降参」
蓋を開けてポリバケツから顔を出せば、軽々その縁に飛び乗ると、顔目掛けて飛んできた。咄嗟の事に避ける事も手で掴まえる事も出来ず、顔で猫を受け止める。
顔の上でもがいている猫を剥がしてよく見れば、それは前に原田が構っていた猫。もう1度会えるとは思いもしなかった。
俺と目が合うなり頬を舐めてきた。それは1度で終わって拍子抜けする。もっとたくさん舐められるかと、少し覚悟していたのに。
猫を抱いたままポリバケツから出て、猫を地面に下ろした。
「なんなんだお前。俺に懐いてもなんもないよ」
猫と向かい合ってその場にしゃがみ、頭を撫でてやれば、頭を擦り寄せてきた。その反応に、重なる美緒ちゃんの顔。
「なーう」
「ん?餌もないよ。ごめんな」
顎の下に手をずらして指先でくすぐると、ゴロゴロと喉を鳴らした。気持ち良さそうに細められる目。
「美緒ちゃんどこにいんだろーな……」
この猫を見ていると、美緒ちゃんに会いたくなってくる。
逃げてもしつこく追いかけてくる所や、俺を見付けるなり駆け寄ってくる所、頭を撫でれば擦り寄ってくる所が、美緒ちゃんを彷彿させてたまらない。
「可愛いなお前」
突然、右往左往したかと思えば、毛繕いを始めてビックリした。
そんなにしつこく触った覚えはないけど、猫にしたら長時間に感じたのかもしれない。
猫構ってないで美緒ちゃん探して、仕事もしないと。
「じゃあ俺そろそろ行くわ」
立ち上がった途端、猫が肩に飛び乗ってきた。落ちないように、尻を支える。
「悪いけど、お前の事連れていけないんだ」
また頬が舐められた。今度は、何回も。
それをやめさせるように、抱っこをした。胸に当てられる前足。
「そうだ。分かるかな。俺、この子探しててさ、見付けたら俺の所連れてきてよ」
携帯の画像フォルダから美緒ちゃんの写真を表示させて見せるが、猫は俺の方をジッと見ているだけで無反応。そりゃそうか。
「なんて。無理だよな。ごめん。猫に頼るなんかどうかしてるわ」
自嘲し、猫を地面に下ろして「じゃあな」と声をかけてから、踵を返した。
あの猫は一体どうなったのか、あの日からぱったり姿を見なくなった。野良だから、餌をくれない人間には用はないのかもしれない。見限られて当然だ。
飼う気もなかったので、会えなくなってちょうどいいけれど、少しの寂しさを覚える。
餌も与えなかった俺が言うのもなんだが、元気でやってくれていたらいいなと、あわよくば大事にしてくれる飼い主に拾われていたらいいのにと、願ってしまった。
漸く戻ってきた美緒ちゃんは、猫になっていたと言う。それが、完全に嘘だとも思えない猫と出会ってしまったのだ。本当にあの猫は美緒ちゃんだったのか、今となっては分からない。
写真撮っとけば良かったな。
「退ー!」
俺の姿を見るなり、嬉しそうに向かいから走ってくる美緒ちゃん。今にも飛びついてきそうだった体はブレーキがかけられ、抱きつかれる事はなかった。少し残念。
「ただいま」
笑顔で言うその頭を撫でれば、甘えるように手に擦り寄ってくる。自然と漏れる笑み。
「おかえり。報告書清書するでしょ?見てあげる」
「いつもありがとうございます」
「何それ。なんで敬語?」
「なんとなく」と俺の好きな笑顔で笑う美緒ちゃん。
やっぱり、いくら猫と似ていても、人間の美緒ちゃんの方がいいな。