本編
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▽ホスト
仕事を終え、夕飯を食べようと食堂に向かっていると鳴った携帯。
ディスプレイにはお妙ちゃんの文字。
「ヘイ、こちら美緒」
《美緒ちゃん、今日お酒が飲み放題なんですって。しかもお店が全額持ってくれるって言うのよ。せっかくだから一緒に飲みましょうよ》
「え、タダで飲み放題って事?マジで?」
《そうなの。こんな事滅多にないのよ。ね、美緒ちゃんもいらっしゃいね。じゃ、高天原で待ってるから》
通話が切れて、待受画面のかわいいお通ちゃんを見つめて考え込む。
お酒がタダで飲み放題というのは、確かにいい話ではある。だが、場所が高天原。ホストクラブだ。
退から、自分が居ない所で酒を飲むなと言われている。
退を誘ってもいいけれど、生憎今は潜入捜査に出ている真っ最中。考え所だ。
天秤が、タダで飲み放題に傾きつつある。
とりあえずメールを送って、許可をとってみる事にした。
すぐにかかってきた電話に、仕事は?と疑問に思いながら出る。
《美緒ちゃん、行くなら迎えに来てもらうか、駕籠屋使いな》
ダメと言われない事に驚く。
「ダメって言われるかと思った。行っていいの?」
《正直行ってほしくないけど、行きたいんだろ?俺もそこまで束縛しないよ。本当は行ってほしくないけど》
「ありがとう」
《絶対飲み過ぎるなよ。あ、そうだ。俺送り迎え出来ないからさ、店着くまで電話繋げとこうか》
思わぬ申し出に、嬉しくもあるけれど心配になる。
「仕事中でしょ?大丈夫なの?」
《今、ちょうどメシ時で自由時間だから、少しくらいならいいよ》
退がそう言うなら、とお言葉に甘える事にした。
着替えにくいので、携帯をスピーカーにして机に置いて、制服を脱いでいく。
《て言ってるけど、実は、美緒ちゃんの声聞いてたいだけなんだけどさ》
突然言われたそれに、着物に袖を通していた手が止まった。顔が熱くなって、胸が高鳴る。
「……え、な、何、いきなり。なんか恥ずかしい……」
《今美緒ちゃん顔赤いだろ?分かるよ》
揶揄うような声で図星をつかれて、帯を締めるのに集中する。
「そ、そんな事ないよ!真っ白だよ!殺せんせーの無感情の時と同じ色してるから」
《してるわけねーだろ!マジでそうなら酒より先に病院行け!ついでに頭も診てもらえ!》
「さて、準備も終わったので行こうと思います。でも、本当にタダで飲み放題なのかな。心配になってきたな」
財布も持って行くつもりだが、所持金でたりるか不安になってきた。スピーカーを解除した携帯を肩で挟んで、財布の中身を確認する。
《もしタダじゃなかったら、ホストクラブの料金甘く見るなよ。そこらの飲み屋と桁が違うからな》
「マジか……所持金2800円。まっ、ツケにしたらなんとかなるよね」
《たまに出るそういう楽観的なところ、どうにも不安になるな。たとえタダだったとしても、飲み過ぎるなよ。俺近くにいないんだから、他の人に迷惑かけないように。度数弱い酒を2杯くら――》
「凄い注意してくるじゃん」
《当たり前だろ。やっぱり心配だな。行かすのやめようかな。そもそも男ばっかりの場所に行かせたくないんだよな。美緒ちゃん、ホストに誘われても断りなよ。男と2人きりになるなよ。必ず姐さんの側にいて離れるなよ》
退と話しながら夜道を歩くのは楽しそうだと思っていたが、ずっと注意してくる。
心配してくれているのは分かるけれど、少しうるさいと感じてため息がもれても許されるだろう。
「なんか、信用されてんのか、されてないのか分かんないな……ずっと退だけって言ってんのに」
《分かってるよ。でも心配するんだって。かと言って内緒で行かれたらもっと怒ってたけど》
「だからちゃんと正直に言ったよ」
《うん、偉いよ。それは褒める》
「おっ!前歩いてんの美緒じゃねーか!」
足を止めて、振り向いた先の姿に驚いた。
「あ、ツッ……ええええ!?」
そこには、一升瓶を片手に顔を真っ赤にして歩いてくるツッキー。
「よう、お前も一緒に飲みに行くか?飲み放題だってよ!」
ガッと肩を組まれて、ツッキーに「ちょっと待ってね」と断ってから、まだ繋げたままの退に話しかける。
「退、ツッキーと会ったから一旦切るね」
《帰ったら連絡して》
「あァん?彼氏か?一丁前に色気づきやがって」
左と右で同時に話されたかと思えば、ツッキーが私の手から携帯を奪った。
「あ、ちょ、ツッキー」
「誰だか知らねーが、美緒は私がいただくからな!今宵は美緒とレッツパーリィじゃァァ!」
返された携帯は、しっかり通話が切れていた。
「すいません、美緒さん。頭 、今ちょっと緊張してるみたいで」
ツッキーの後ろにいた百華の1人が、そう申し訳なさそうに説明してくれたけれど状況が把握出来ない。
「緊張したらこうなるんですか?」
「オイ、美緒!喋ってねーでお前も飲め!」
「いや、ちょっと待って。まだ早い。ここ往来だし、まだ店にも入ってないからね」
「なーにがまだ早いだァ!お前のそういう所良くないぞ!良い子ちゃんぶりやがって!今日くらいハメ外せ!殻を破れェ!」
「ちょっと一旦落ち着こ。ね?」
百華に助けを求めるが、すいません、と顔の前で両手を合わせられた。助けてくれない百華に絶望する。
「私は落ち着いてんだよ!おら!美緒も飲めェ!殻を破りやがれェェ!」
「うえ!?ちょ、ツッキー!ちょっと待っんぐっ!」
持っていた一升瓶の口が、口の中に押し込まれた。
無理矢理押さえつけられているので吐き出す事も出来ずに、胃に大量に流れ込んでいく酒。
「ちょっと頭 。やり過ぎでは?」
どれだけの酒を飲んだのか、口が解放された頃には頭がふらふらして目が回る。いや、町が回っているのか。しゃんとしない体を立たせようとするけれど、足に上手く力が入らない。
身体を支える為に、ツッキーの胸に凭れ掛かる。
「美緒さん、大丈夫ですか?」
「オイオイ、美緒。こんだけで潰れちまったか?だらしねーなお前は」
背中を軽く叩かれて、胸から頭を剥がす。顔や体が熱い。でも、とても気分がいい。
「だい……ヒック、っ、あ゛あ゛あ゛大丈夫!まだまだ行けるぞコノヤロー!俺達の戦いはこれからだァァァ!」
腕を天に突き上げて叫べば、ツッキーも「おおお!」と一升瓶を持っている手を挙げた。
「よーしよし!その調子だ!行くぞてめーらァァ!」
「行くぞォォ!お前それでも人間か!お前の母ちゃん何人だァァァ!あなたのホクロ、腰から背中~に」
「ヘイ!ヘイ!いいぞいいぞ!歌え歌えェ!」
ツッキーと肩を組んで、陽気に高天原までの道を闊歩する。
そんな2人を百華は呆れ気味に、周りの人は奇異な目を向けているのにも気付かず。
高天原に入店するなり、銀ちゃんがこちらに向かって走って来た。その首に腕を回すツッキー。
「いや~ん。折角遊びに来たのに、どこにいっちゃうのGIN様」
銀ちゃんの首がキツく絞められているのか、メキメキと嫌な音が小さく鳴っているのが聞こえてくる。
「夜はまだまだこれからだろーが!さっさと酒つがんかい腐れホストぉぉぉ!」
と、銀ちゃん改めGINを投げ飛ばしたのだ。
そのツッキーの惚れ惚れする姿に拍手を送る。
「きゃー!ツッキーカッコイイ!」
「そうだろうそうだろう」
気分良く一升瓶を煽るツッキーに、百華の1人が「飲み過ぎですよ」と注意する。
「うっせーんだよ!今日はハメ外せっつってんだろ!頭呼びすんなツッキーでいいよ!」
「ツッキー!ツッキー最高!」
ツッキーと再び肩を組んで、お妙ちゃんのところに歩み寄る。
「おう、出来るだけたくさん連れてこいっつーからかき集めてきたけど、今日はホントに飲み放題なんだろーな」
「ええ、いつもは男にサービスする側だけど、ここは女の吉原よ。思う存分復讐していって。美緒ちゃんも、普段は男にコキ使われてる分、発散させていいのよ」
「よっしゃー!やったるぜー!」
「オイ美緒、花魁呼ぶぞ花魁!」
「花魁!いいね!」
ボックス席にツッキーと並んで座り、背もたれに腕を預けてふんぞり返った。
「オイ花魁を呼べェェ!三味線だ三味線!」
「5秒以内に連れてこォォい!」
店内に響き渡るような声で、花魁を所望する。
花魁が来るのを楽しみに、ツッキーと一升瓶を交互に飲み交わす。
どんな花魁が来るのか話しながら待つ事数分。そこに現れた人物に顔を顰めた。
「アラんやだんツッキーじゃない。吉原の勤め帰り?私も~。美緒ちゃんもお久しぶりね~。元気だった~?たまには私にも会いに来てよ~」
気軽に話しかけてきたのは、裸にバスタオルを巻いて楕円形のマットを持った東城さん。
「オイ、こんな汚ねェ花魁呼んだ覚えはねーぞ!店長呼べコルァ!」
「チェンジだチェンジィィ!」
「何よひどいじゃないツッキー美緒ちゃん。私達同じ泡のムジナじゃない」
意味不明な事を言う東城さんを睨みつける。
「あのォすいません」と、新ちゃん改めSHINが、恐る恐る私達の座っている席の前に跪いた。
「ここはその……花魁とか……吉原とか、そういうアレではないので、そちらがお望みでしたら、また……別の店に」
「あん?女の吉原って聞いたけど」
「いや、それは語弊が」
「じゃあアレなんだ」とツッキーが指し示す方を見て唖然とした。
亀甲縛りで天井から吊り下げられ、目隠しまでされているさっちゃんと、ボーイの姿でメニューを見せている沖田、いやSOUGO。
「他に三角木馬のBコース、ロウソク攻めのCコース、DコースEコースなどもご用意しております」
「んー、どれにしようかしら。つーか見えない」
さっちゃんとSOUGOの変態プレイに、ツッキーは「なんでアレが良くて花魁はダメなんだ」とぼやいている。
そんな見せ物より、酒1つ届いていない事の方が大問題だ。
「ちょっとそんな事より、頼んだ物が全然来ないんだけど。どうなってんのこの店。職務怠慢かよ」
「あっホントだ!酒も食い物もねーぞ!おい注文頼んだけどまだか!」
「スイマセン!今お持ちします!」
「全くなんなんだこの店は。吉原よりヒドイぞ」
「ねェツッキー。喧嘩始まったんだけど。どういう事?」
目の前で繰り広げられる、オカマ達の殴り合い。
酒瓶や人間、食べ物、テーブル、罵詈雑言、色んな物が飛び交っている。
肴にするにはマズ過ぎる見せ物を見て、一升瓶を呷る気も起きない。
「うるせェェェェェ!」
そう一喝して場を収めたのは、西郷さん、ツッキー、九ちゃんの3人の頭。
「店に迷惑がかかってんのが分かんねーのか。はしゃぐにも程度ってもんがあんだろう」
「興が冷めた」
「宴はオシマイだ」
「迷惑かけたね」とオカマ達と柳生一派、百華は、あれだけ騒いでいたのが嘘のように、大人しく帰って行った。
3人の頭の偉大さに感服する。
「さて、静かになった所で飲み直すか」
西郷さんと九ちゃん、ツッキー、私達の席に吊り下げ直されたさっちゃんで席を囲んで、改めて乾杯する事にした。
「さっちゃん、それ飲めてんの?」
目の前にぶら下がっている酒瓶は、どう見てもさっちゃんの口には届いていない。
「ふん、美緒はまだまだね。私はこの飲めるか飲めないか、このギリギリを楽しんでいるのよ」
「ちょっと揺らしてみたらいいんじゃない?九ちゃん、ちょっとお酒持ってて」
「よし、こうか?」
「やだ、ちょっと何する気!?」
私はさっちゃんの肩を掴み、九ちゃんが持っている瓶目掛けて揺らした。
「痛い!ちょっと!さっきから顎にしか当たってないじゃない!下手くそ!」
「ちょっと瓶が下なのよ。私に貸してみなさい」
西郷さんが瓶の高さを調整してくれている間に、さっちゃんを揺らして遊ぶ。
「さっちゃんよしよーし。バブバブでちゅねー」
「ばぶー」
「美緒ちゃん、次は僕がやりたい。楽しそうだ」
「いいよ」
「よし、猿飛。次は僕がバブバブしてやろう」
「オイ!次は私だぞ!」
「ばぶー……って違うわよ!何やってんのよアンタ達!人で遊ばないでちょうだい!私で遊んでいいのはGINだけよ!」
「もう調整めんどくさいからそのまま飲みましょ。私がついであげるからグラス寄越しなさい」
西郷さんの前にグラスが集まる。
しかし、5人で分け合えば、一升瓶といえどなくなるのはあっという間。
「オイ酒だァ!酒持ってこいィィ!」
「私の分もつぎなさいよ!飲めないじゃない!」
「猿飛には僕が飲ませよう」
九ちゃんがさっちゃんにグラスを渡して飲ませようとするが、上手く飲めていない。
「九ちゃんストローもらう?その方が早そう」
「アンタ、ストローで酒飲んだら一瞬で酔い回るわよォ」と、西郷さんは豪快に笑った。
酒や食べ物はGURAとTAEが持って来てくれて、再び潤ったテーブルの上。
GURAとTAEも加わって気分良く談笑しながら酒を飲んでいると、突然ツッキーが背後に向かってクナイを投げたのだ。
それはSHINとGIN、TOSHIの頭に命中し、血をふき出して倒れた。
「いや~んGIN様。私達ほっといてどこいっちゃうの~」
と、猫なで声なのも一瞬、ガラ悪く振り返った。
「てめェ!先に指名したのはこっちだろーが!さっさと酒つぎに来んかいワリャ!」
「そうよ!今日の私達は客なんだから、もっとチヤホヤしなさいよホスト共!」
さっちゃんのクレームにハッとして、私もGIN達を睨み付ける。
「ホスト共チヤホヤしに来いコルァ!こっちはチヤホヤされたいんじゃァ!」
「ゴ……ゴメンよベイビー達。ちょっと俺この人の相手をしなきゃいけないから、そっちの席はGURAとTAEに任せてあるから」
血塗れで倒れているGINが、そんなプロ根性の欠片もない事を言ってきた。それにキレたツッキーが立ち上がり、GINの方へ向かう。
「なんだコルァ!私の酒が飲めないってのか!?」
「来たァァァ!ジャッキー来たァァ!」
私は、同じく倒れているTOSHIに指名を変えた。
「じゃあ私はTOSHIを指名してやるから、今すぐチヤホヤしに来い!」
「なんだTOSHIって!お前は普段から誰かさんにチヤホヤされてんだろ!屯所帰ったら覚えとけよ!」
いつの間にか縄から脱出していたさっちゃんは、GIN達の後ろにいる黒いドレスに身を包んだ女性に歩み寄った。
「ちょっとアンタ、人の指名横取りするとはいい度胸してんじゃない」
GINの所に向かう最中にツッキーも方向転換し、その女性に近付く。
私も面白そうなので、2人の側に駆け寄って、その女性を上から下と舐めるように見る。
「女1人でこんな所に来て男漁り?いい趣味してるわねー。ねェツッキー、美緒」
「ねェさっちゃん、ツッキー。この人、首に首輪付けてるんですけど。犬の真似?ご主人様はどこにいるの?はぐれちゃったのかな?あっ、もしかして放置プレイ?やだ、いやらしいー」
いやらしい、と両手を繋ぎ合うさっちゃんと私。
「オイ、そんな事よりお前、髪に巻きグソついてっぞ。大丈夫か」
「やめないか3人とも」
そう冷静に制してきたのは、九ちゃんだ。
「失礼しました。彼女達はしたたかに酔っていて、どうか許していただきたい。クリーニング代は柳生家がもつので、とりあえずコレで巻きグソを」
紙を掲げた九ちゃんも、かなり酔っている。
巻きグソはかなり頑固のようで、柳生家のセレブペーパーを持ってしても吹ききれないらしい。
TAEも、その紙を唾液で湿らせて取ろうとするが無理なようで、GURAも参戦して、湿り気をたそうとその顔面に吐瀉物を撒き散らした。
そんな悲惨な扱いを受けたにも関わらず、何故かその女性とテーブルを囲んでいる。すぐにTOSHIとGINが女性を挟んで座った。
「あのえーと、夜神さんそれ、何お飲みになられてんですか?」
GINの控えめな問いかけに、「……ウーロンハイ」と無表情で温度のない声音が答えた。
「ああ、ウーロンハイ。いいですねー。僕も好きなんですよ。飲み口がスッキリしてて飲みやすくてね。なあTOSHI」
「あっ?おおああ!俺もほとんど年中ウーロンハイ?俺なんてドラゴンボールで1番好きなキャラも、あのヤムチャの子分のあのアレ……」
「それプーアルだろーがい!」
TAEが容赦なく酒瓶でTOSHIの頭を殴った。
それを皮切りに、GIN達の頭を酒瓶で殴りながらの会話になったが、夜神さんの好きなキャラが判明するなり、ピタッと殴る手を止めた私達。
「へェー。ベジータ好きなのアンタ。多いわよね、女でベジータ好きって結構」
それからは、女子達だけでベジータ談義に花が咲く。
途中からGINも富士額で仲間に入ってきた。
夜神さんの酒がきれたのを見て、TOSHIにウーロンハイを頼む。それを受け、ベジータの再現で応えるTOSHI。
「アララ。お姉さん方、今日はなんの集まりで?モデルの飲み会か何かですか?」
そこに登場したのはSOUGO。
「いやだーもォ、モデルなんてーうまいんだから!」
「ただのスーパーモデルの女子会よォォ!」
西郷さんとTAEが投げた物を、軽やかに躱すSOUGO。
更にSOUGOの計らいで、シャンパンタワーまで用意してくれたのだ。それには私達のテンションも上がり、感嘆の声が漏れる。
「アーユーレディ!?」
「レッツパーリィィ!」
グラスで乾杯し、それを飲み干した。
それからどうなったのか記憶はなく、目を覚ませば、何故か退の部屋で退の着物を頭に被って眠っていた。
昨日退と通話しながら歩いていたら、ツッキーと出会って……そこからまるっと記憶がない。
本当に飲み放題だったのか、一体どれくらいの酒を飲んだのか。
そんな中でも退にはメールを打っていたらしい。
ただ、なんて書いたのか、自分でも読めない程の怪文書ではあったけれど、それで退は全てを把握したようだ。「飲み過ぎるなって言ったよな」と怒っているのが丸分かりの文面が送られてきていた。
「おう美緒。起きたか。気分は……良くなさそうだな。顔死んでんぞ」
頭痛や吐き気、倦怠感を堪えながら洗面所に向かっていると、副長と鉢合わせた。
「……あっ、おはようございます。すみません、なんか調子悪くて……風邪ですかねー」
さすがに二日酔いだとは言えず、はははと乾いた笑みを漏らして誤魔化したのだが――
「それ、風邪じゃなくて二日酔いだ。あんだけ飲んでたらそらそうなるだろ」
「ん?……え?」
私の反応に、副長は深いため息をついた。
「やっぱ覚えてねーか……昨日のお前は大変だった……アレなら歌ってくれた方がまだマシだ……」
「え?え?え?」
痛む頭が混乱している中説明されたのは、ツッキーと西郷さん、お妙ちゃんとさっちゃんに九ちゃん、それから夜神さんという女性と共に浴びる程の酒を飲んだ。そして途中から退を探し始め、いない事が分かった途端「退に会いたい」と「退を呼んで」と、ダダをこねて泣き出すという、とんでもない醜態を晒したという事。
「そんで、収拾が付かなくなって、俺が駕籠屋拾って連れて帰って来たんだよ」
その話を聞いて、耳の奥で血の気が引いていく音がした。今すぐにでも穴があったら入りたい。
その場で勢いよく土下座をした。
「すんませんんん!ホンットすんませんんん!ご迷惑をおかけしましたァァァ!この事は退に言わないでくださいィィ!」
「黙っといてやるよ。変に山崎に言って、俺まで詰められたらめんどくせェ」
「さすが副長!ありがとうございます!」
「お前二日酔いで仕事になんねーだろ。今日は休め」
「おおっ!マジですか!ありがとうございます!」
「ただし、当分休みがあると思うなよ」
「…………」
一気に二日酔いが飛んでいった気分だ。
後日、帰って来た退に説教され、更に飲酒に対して厳しくなったのは言うまでもない。
仕事を終え、夕飯を食べようと食堂に向かっていると鳴った携帯。
ディスプレイにはお妙ちゃんの文字。
「ヘイ、こちら美緒」
《美緒ちゃん、今日お酒が飲み放題なんですって。しかもお店が全額持ってくれるって言うのよ。せっかくだから一緒に飲みましょうよ》
「え、タダで飲み放題って事?マジで?」
《そうなの。こんな事滅多にないのよ。ね、美緒ちゃんもいらっしゃいね。じゃ、高天原で待ってるから》
通話が切れて、待受画面のかわいいお通ちゃんを見つめて考え込む。
お酒がタダで飲み放題というのは、確かにいい話ではある。だが、場所が高天原。ホストクラブだ。
退から、自分が居ない所で酒を飲むなと言われている。
退を誘ってもいいけれど、生憎今は潜入捜査に出ている真っ最中。考え所だ。
天秤が、タダで飲み放題に傾きつつある。
とりあえずメールを送って、許可をとってみる事にした。
すぐにかかってきた電話に、仕事は?と疑問に思いながら出る。
《美緒ちゃん、行くなら迎えに来てもらうか、駕籠屋使いな》
ダメと言われない事に驚く。
「ダメって言われるかと思った。行っていいの?」
《正直行ってほしくないけど、行きたいんだろ?俺もそこまで束縛しないよ。本当は行ってほしくないけど》
「ありがとう」
《絶対飲み過ぎるなよ。あ、そうだ。俺送り迎え出来ないからさ、店着くまで電話繋げとこうか》
思わぬ申し出に、嬉しくもあるけれど心配になる。
「仕事中でしょ?大丈夫なの?」
《今、ちょうどメシ時で自由時間だから、少しくらいならいいよ》
退がそう言うなら、とお言葉に甘える事にした。
着替えにくいので、携帯をスピーカーにして机に置いて、制服を脱いでいく。
《て言ってるけど、実は、美緒ちゃんの声聞いてたいだけなんだけどさ》
突然言われたそれに、着物に袖を通していた手が止まった。顔が熱くなって、胸が高鳴る。
「……え、な、何、いきなり。なんか恥ずかしい……」
《今美緒ちゃん顔赤いだろ?分かるよ》
揶揄うような声で図星をつかれて、帯を締めるのに集中する。
「そ、そんな事ないよ!真っ白だよ!殺せんせーの無感情の時と同じ色してるから」
《してるわけねーだろ!マジでそうなら酒より先に病院行け!ついでに頭も診てもらえ!》
「さて、準備も終わったので行こうと思います。でも、本当にタダで飲み放題なのかな。心配になってきたな」
財布も持って行くつもりだが、所持金でたりるか不安になってきた。スピーカーを解除した携帯を肩で挟んで、財布の中身を確認する。
《もしタダじゃなかったら、ホストクラブの料金甘く見るなよ。そこらの飲み屋と桁が違うからな》
「マジか……所持金2800円。まっ、ツケにしたらなんとかなるよね」
《たまに出るそういう楽観的なところ、どうにも不安になるな。たとえタダだったとしても、飲み過ぎるなよ。俺近くにいないんだから、他の人に迷惑かけないように。度数弱い酒を2杯くら――》
「凄い注意してくるじゃん」
《当たり前だろ。やっぱり心配だな。行かすのやめようかな。そもそも男ばっかりの場所に行かせたくないんだよな。美緒ちゃん、ホストに誘われても断りなよ。男と2人きりになるなよ。必ず姐さんの側にいて離れるなよ》
退と話しながら夜道を歩くのは楽しそうだと思っていたが、ずっと注意してくる。
心配してくれているのは分かるけれど、少しうるさいと感じてため息がもれても許されるだろう。
「なんか、信用されてんのか、されてないのか分かんないな……ずっと退だけって言ってんのに」
《分かってるよ。でも心配するんだって。かと言って内緒で行かれたらもっと怒ってたけど》
「だからちゃんと正直に言ったよ」
《うん、偉いよ。それは褒める》
「おっ!前歩いてんの美緒じゃねーか!」
足を止めて、振り向いた先の姿に驚いた。
「あ、ツッ……ええええ!?」
そこには、一升瓶を片手に顔を真っ赤にして歩いてくるツッキー。
「よう、お前も一緒に飲みに行くか?飲み放題だってよ!」
ガッと肩を組まれて、ツッキーに「ちょっと待ってね」と断ってから、まだ繋げたままの退に話しかける。
「退、ツッキーと会ったから一旦切るね」
《帰ったら連絡して》
「あァん?彼氏か?一丁前に色気づきやがって」
左と右で同時に話されたかと思えば、ツッキーが私の手から携帯を奪った。
「あ、ちょ、ツッキー」
「誰だか知らねーが、美緒は私がいただくからな!今宵は美緒とレッツパーリィじゃァァ!」
返された携帯は、しっかり通話が切れていた。
「すいません、美緒さん。
ツッキーの後ろにいた百華の1人が、そう申し訳なさそうに説明してくれたけれど状況が把握出来ない。
「緊張したらこうなるんですか?」
「オイ、美緒!喋ってねーでお前も飲め!」
「いや、ちょっと待って。まだ早い。ここ往来だし、まだ店にも入ってないからね」
「なーにがまだ早いだァ!お前のそういう所良くないぞ!良い子ちゃんぶりやがって!今日くらいハメ外せ!殻を破れェ!」
「ちょっと一旦落ち着こ。ね?」
百華に助けを求めるが、すいません、と顔の前で両手を合わせられた。助けてくれない百華に絶望する。
「私は落ち着いてんだよ!おら!美緒も飲めェ!殻を破りやがれェェ!」
「うえ!?ちょ、ツッキー!ちょっと待っんぐっ!」
持っていた一升瓶の口が、口の中に押し込まれた。
無理矢理押さえつけられているので吐き出す事も出来ずに、胃に大量に流れ込んでいく酒。
「ちょっと
どれだけの酒を飲んだのか、口が解放された頃には頭がふらふらして目が回る。いや、町が回っているのか。しゃんとしない体を立たせようとするけれど、足に上手く力が入らない。
身体を支える為に、ツッキーの胸に凭れ掛かる。
「美緒さん、大丈夫ですか?」
「オイオイ、美緒。こんだけで潰れちまったか?だらしねーなお前は」
背中を軽く叩かれて、胸から頭を剥がす。顔や体が熱い。でも、とても気分がいい。
「だい……ヒック、っ、あ゛あ゛あ゛大丈夫!まだまだ行けるぞコノヤロー!俺達の戦いはこれからだァァァ!」
腕を天に突き上げて叫べば、ツッキーも「おおお!」と一升瓶を持っている手を挙げた。
「よーしよし!その調子だ!行くぞてめーらァァ!」
「行くぞォォ!お前それでも人間か!お前の母ちゃん何人だァァァ!あなたのホクロ、腰から背中~に」
「ヘイ!ヘイ!いいぞいいぞ!歌え歌えェ!」
ツッキーと肩を組んで、陽気に高天原までの道を闊歩する。
そんな2人を百華は呆れ気味に、周りの人は奇異な目を向けているのにも気付かず。
高天原に入店するなり、銀ちゃんがこちらに向かって走って来た。その首に腕を回すツッキー。
「いや~ん。折角遊びに来たのに、どこにいっちゃうのGIN様」
銀ちゃんの首がキツく絞められているのか、メキメキと嫌な音が小さく鳴っているのが聞こえてくる。
「夜はまだまだこれからだろーが!さっさと酒つがんかい腐れホストぉぉぉ!」
と、銀ちゃん改めGINを投げ飛ばしたのだ。
そのツッキーの惚れ惚れする姿に拍手を送る。
「きゃー!ツッキーカッコイイ!」
「そうだろうそうだろう」
気分良く一升瓶を煽るツッキーに、百華の1人が「飲み過ぎですよ」と注意する。
「うっせーんだよ!今日はハメ外せっつってんだろ!頭呼びすんなツッキーでいいよ!」
「ツッキー!ツッキー最高!」
ツッキーと再び肩を組んで、お妙ちゃんのところに歩み寄る。
「おう、出来るだけたくさん連れてこいっつーからかき集めてきたけど、今日はホントに飲み放題なんだろーな」
「ええ、いつもは男にサービスする側だけど、ここは女の吉原よ。思う存分復讐していって。美緒ちゃんも、普段は男にコキ使われてる分、発散させていいのよ」
「よっしゃー!やったるぜー!」
「オイ美緒、花魁呼ぶぞ花魁!」
「花魁!いいね!」
ボックス席にツッキーと並んで座り、背もたれに腕を預けてふんぞり返った。
「オイ花魁を呼べェェ!三味線だ三味線!」
「5秒以内に連れてこォォい!」
店内に響き渡るような声で、花魁を所望する。
花魁が来るのを楽しみに、ツッキーと一升瓶を交互に飲み交わす。
どんな花魁が来るのか話しながら待つ事数分。そこに現れた人物に顔を顰めた。
「アラんやだんツッキーじゃない。吉原の勤め帰り?私も~。美緒ちゃんもお久しぶりね~。元気だった~?たまには私にも会いに来てよ~」
気軽に話しかけてきたのは、裸にバスタオルを巻いて楕円形のマットを持った東城さん。
「オイ、こんな汚ねェ花魁呼んだ覚えはねーぞ!店長呼べコルァ!」
「チェンジだチェンジィィ!」
「何よひどいじゃないツッキー美緒ちゃん。私達同じ泡のムジナじゃない」
意味不明な事を言う東城さんを睨みつける。
「あのォすいません」と、新ちゃん改めSHINが、恐る恐る私達の座っている席の前に跪いた。
「ここはその……花魁とか……吉原とか、そういうアレではないので、そちらがお望みでしたら、また……別の店に」
「あん?女の吉原って聞いたけど」
「いや、それは語弊が」
「じゃあアレなんだ」とツッキーが指し示す方を見て唖然とした。
亀甲縛りで天井から吊り下げられ、目隠しまでされているさっちゃんと、ボーイの姿でメニューを見せている沖田、いやSOUGO。
「他に三角木馬のBコース、ロウソク攻めのCコース、DコースEコースなどもご用意しております」
「んー、どれにしようかしら。つーか見えない」
さっちゃんとSOUGOの変態プレイに、ツッキーは「なんでアレが良くて花魁はダメなんだ」とぼやいている。
そんな見せ物より、酒1つ届いていない事の方が大問題だ。
「ちょっとそんな事より、頼んだ物が全然来ないんだけど。どうなってんのこの店。職務怠慢かよ」
「あっホントだ!酒も食い物もねーぞ!おい注文頼んだけどまだか!」
「スイマセン!今お持ちします!」
「全くなんなんだこの店は。吉原よりヒドイぞ」
「ねェツッキー。喧嘩始まったんだけど。どういう事?」
目の前で繰り広げられる、オカマ達の殴り合い。
酒瓶や人間、食べ物、テーブル、罵詈雑言、色んな物が飛び交っている。
肴にするにはマズ過ぎる見せ物を見て、一升瓶を呷る気も起きない。
「うるせェェェェェ!」
そう一喝して場を収めたのは、西郷さん、ツッキー、九ちゃんの3人の頭。
「店に迷惑がかかってんのが分かんねーのか。はしゃぐにも程度ってもんがあんだろう」
「興が冷めた」
「宴はオシマイだ」
「迷惑かけたね」とオカマ達と柳生一派、百華は、あれだけ騒いでいたのが嘘のように、大人しく帰って行った。
3人の頭の偉大さに感服する。
「さて、静かになった所で飲み直すか」
西郷さんと九ちゃん、ツッキー、私達の席に吊り下げ直されたさっちゃんで席を囲んで、改めて乾杯する事にした。
「さっちゃん、それ飲めてんの?」
目の前にぶら下がっている酒瓶は、どう見てもさっちゃんの口には届いていない。
「ふん、美緒はまだまだね。私はこの飲めるか飲めないか、このギリギリを楽しんでいるのよ」
「ちょっと揺らしてみたらいいんじゃない?九ちゃん、ちょっとお酒持ってて」
「よし、こうか?」
「やだ、ちょっと何する気!?」
私はさっちゃんの肩を掴み、九ちゃんが持っている瓶目掛けて揺らした。
「痛い!ちょっと!さっきから顎にしか当たってないじゃない!下手くそ!」
「ちょっと瓶が下なのよ。私に貸してみなさい」
西郷さんが瓶の高さを調整してくれている間に、さっちゃんを揺らして遊ぶ。
「さっちゃんよしよーし。バブバブでちゅねー」
「ばぶー」
「美緒ちゃん、次は僕がやりたい。楽しそうだ」
「いいよ」
「よし、猿飛。次は僕がバブバブしてやろう」
「オイ!次は私だぞ!」
「ばぶー……って違うわよ!何やってんのよアンタ達!人で遊ばないでちょうだい!私で遊んでいいのはGINだけよ!」
「もう調整めんどくさいからそのまま飲みましょ。私がついであげるからグラス寄越しなさい」
西郷さんの前にグラスが集まる。
しかし、5人で分け合えば、一升瓶といえどなくなるのはあっという間。
「オイ酒だァ!酒持ってこいィィ!」
「私の分もつぎなさいよ!飲めないじゃない!」
「猿飛には僕が飲ませよう」
九ちゃんがさっちゃんにグラスを渡して飲ませようとするが、上手く飲めていない。
「九ちゃんストローもらう?その方が早そう」
「アンタ、ストローで酒飲んだら一瞬で酔い回るわよォ」と、西郷さんは豪快に笑った。
酒や食べ物はGURAとTAEが持って来てくれて、再び潤ったテーブルの上。
GURAとTAEも加わって気分良く談笑しながら酒を飲んでいると、突然ツッキーが背後に向かってクナイを投げたのだ。
それはSHINとGIN、TOSHIの頭に命中し、血をふき出して倒れた。
「いや~んGIN様。私達ほっといてどこいっちゃうの~」
と、猫なで声なのも一瞬、ガラ悪く振り返った。
「てめェ!先に指名したのはこっちだろーが!さっさと酒つぎに来んかいワリャ!」
「そうよ!今日の私達は客なんだから、もっとチヤホヤしなさいよホスト共!」
さっちゃんのクレームにハッとして、私もGIN達を睨み付ける。
「ホスト共チヤホヤしに来いコルァ!こっちはチヤホヤされたいんじゃァ!」
「ゴ……ゴメンよベイビー達。ちょっと俺この人の相手をしなきゃいけないから、そっちの席はGURAとTAEに任せてあるから」
血塗れで倒れているGINが、そんなプロ根性の欠片もない事を言ってきた。それにキレたツッキーが立ち上がり、GINの方へ向かう。
「なんだコルァ!私の酒が飲めないってのか!?」
「来たァァァ!ジャッキー来たァァ!」
私は、同じく倒れているTOSHIに指名を変えた。
「じゃあ私はTOSHIを指名してやるから、今すぐチヤホヤしに来い!」
「なんだTOSHIって!お前は普段から誰かさんにチヤホヤされてんだろ!屯所帰ったら覚えとけよ!」
いつの間にか縄から脱出していたさっちゃんは、GIN達の後ろにいる黒いドレスに身を包んだ女性に歩み寄った。
「ちょっとアンタ、人の指名横取りするとはいい度胸してんじゃない」
GINの所に向かう最中にツッキーも方向転換し、その女性に近付く。
私も面白そうなので、2人の側に駆け寄って、その女性を上から下と舐めるように見る。
「女1人でこんな所に来て男漁り?いい趣味してるわねー。ねェツッキー、美緒」
「ねェさっちゃん、ツッキー。この人、首に首輪付けてるんですけど。犬の真似?ご主人様はどこにいるの?はぐれちゃったのかな?あっ、もしかして放置プレイ?やだ、いやらしいー」
いやらしい、と両手を繋ぎ合うさっちゃんと私。
「オイ、そんな事よりお前、髪に巻きグソついてっぞ。大丈夫か」
「やめないか3人とも」
そう冷静に制してきたのは、九ちゃんだ。
「失礼しました。彼女達はしたたかに酔っていて、どうか許していただきたい。クリーニング代は柳生家がもつので、とりあえずコレで巻きグソを」
紙を掲げた九ちゃんも、かなり酔っている。
巻きグソはかなり頑固のようで、柳生家のセレブペーパーを持ってしても吹ききれないらしい。
TAEも、その紙を唾液で湿らせて取ろうとするが無理なようで、GURAも参戦して、湿り気をたそうとその顔面に吐瀉物を撒き散らした。
そんな悲惨な扱いを受けたにも関わらず、何故かその女性とテーブルを囲んでいる。すぐにTOSHIとGINが女性を挟んで座った。
「あのえーと、夜神さんそれ、何お飲みになられてんですか?」
GINの控えめな問いかけに、「……ウーロンハイ」と無表情で温度のない声音が答えた。
「ああ、ウーロンハイ。いいですねー。僕も好きなんですよ。飲み口がスッキリしてて飲みやすくてね。なあTOSHI」
「あっ?おおああ!俺もほとんど年中ウーロンハイ?俺なんてドラゴンボールで1番好きなキャラも、あのヤムチャの子分のあのアレ……」
「それプーアルだろーがい!」
TAEが容赦なく酒瓶でTOSHIの頭を殴った。
それを皮切りに、GIN達の頭を酒瓶で殴りながらの会話になったが、夜神さんの好きなキャラが判明するなり、ピタッと殴る手を止めた私達。
「へェー。ベジータ好きなのアンタ。多いわよね、女でベジータ好きって結構」
それからは、女子達だけでベジータ談義に花が咲く。
途中からGINも富士額で仲間に入ってきた。
夜神さんの酒がきれたのを見て、TOSHIにウーロンハイを頼む。それを受け、ベジータの再現で応えるTOSHI。
「アララ。お姉さん方、今日はなんの集まりで?モデルの飲み会か何かですか?」
そこに登場したのはSOUGO。
「いやだーもォ、モデルなんてーうまいんだから!」
「ただのスーパーモデルの女子会よォォ!」
西郷さんとTAEが投げた物を、軽やかに躱すSOUGO。
更にSOUGOの計らいで、シャンパンタワーまで用意してくれたのだ。それには私達のテンションも上がり、感嘆の声が漏れる。
「アーユーレディ!?」
「レッツパーリィィ!」
グラスで乾杯し、それを飲み干した。
それからどうなったのか記憶はなく、目を覚ませば、何故か退の部屋で退の着物を頭に被って眠っていた。
昨日退と通話しながら歩いていたら、ツッキーと出会って……そこからまるっと記憶がない。
本当に飲み放題だったのか、一体どれくらいの酒を飲んだのか。
そんな中でも退にはメールを打っていたらしい。
ただ、なんて書いたのか、自分でも読めない程の怪文書ではあったけれど、それで退は全てを把握したようだ。「飲み過ぎるなって言ったよな」と怒っているのが丸分かりの文面が送られてきていた。
「おう美緒。起きたか。気分は……良くなさそうだな。顔死んでんぞ」
頭痛や吐き気、倦怠感を堪えながら洗面所に向かっていると、副長と鉢合わせた。
「……あっ、おはようございます。すみません、なんか調子悪くて……風邪ですかねー」
さすがに二日酔いだとは言えず、はははと乾いた笑みを漏らして誤魔化したのだが――
「それ、風邪じゃなくて二日酔いだ。あんだけ飲んでたらそらそうなるだろ」
「ん?……え?」
私の反応に、副長は深いため息をついた。
「やっぱ覚えてねーか……昨日のお前は大変だった……アレなら歌ってくれた方がまだマシだ……」
「え?え?え?」
痛む頭が混乱している中説明されたのは、ツッキーと西郷さん、お妙ちゃんとさっちゃんに九ちゃん、それから夜神さんという女性と共に浴びる程の酒を飲んだ。そして途中から退を探し始め、いない事が分かった途端「退に会いたい」と「退を呼んで」と、ダダをこねて泣き出すという、とんでもない醜態を晒したという事。
「そんで、収拾が付かなくなって、俺が駕籠屋拾って連れて帰って来たんだよ」
その話を聞いて、耳の奥で血の気が引いていく音がした。今すぐにでも穴があったら入りたい。
その場で勢いよく土下座をした。
「すんませんんん!ホンットすんませんんん!ご迷惑をおかけしましたァァァ!この事は退に言わないでくださいィィ!」
「黙っといてやるよ。変に山崎に言って、俺まで詰められたらめんどくせェ」
「さすが副長!ありがとうございます!」
「お前二日酔いで仕事になんねーだろ。今日は休め」
「おおっ!マジですか!ありがとうございます!」
「ただし、当分休みがあると思うなよ」
「…………」
一気に二日酔いが飛んでいった気分だ。
後日、帰って来た退に説教され、更に飲酒に対して厳しくなったのは言うまでもない。