本編
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▽妙との出会い
――それから数ヶ月後
志村さんと町でばったり出くわした。
ストリートミュージシャンである、あの紫色の髪の女の子の歌声が聞こえると、必ず聞きに寄った先に彼ありというくらいに、志村さんとも遭遇していた。
しかし、ここの所、彼女の歌声を聞く日がぱったりと途絶え、志村さんとも会えなくなっていたので、まさしく久しぶりの再会。
志村さんは、相変わらず店長に叱られているらしい。
私も似たようなものだから人のことは笑えない。
立ち話もなんだからと、適当な喫茶店に入る事にした。
平日だというのに、やはり天人は暇なのか席の大半を占めている。
ウエイトレスに案内された席に向かい合って腰を落ち着かせ、適当に飲み物をオーダーし、世間話をする事に。
「道場の復興ですか。また凄く大きな目標ですね」
「とは言っても、全く資金も集まらなくて、姉上には苦労かけてばかりなんです。だから、僕もしっかり働かないといけないんですけど、情けない話叱られてばかりで……」
「お互い、短気な上司持つと苦労しますね。私も毎日怒鳴られたり殴られたり、バズーカで撃たれてばかりですよ。おまけに、彼氏は優秀過ぎて私の無能さが浮き彫りになるんですよねー……」
「あの、すみません。バズーカにビックリしちゃって後の言葉が入って来なかったんですけど」
「ここのミックスジュース美味しい」
「……聞いてないな……」
半分程一度に飲んだミックスジュースをストローでクルクルとかき混ぜると、氷が当たって涼しい音を奏でる。
「志村さん、最近あのストリートミュージシャンに会いました?」
私の問いかけに、慌てて飲んでいたカップを置いた。
「そう!言おうと思ってたんですよ。その事なんですけどね、彼女の名前は『寺門通』って言って、インディーズになったらしいんですよ。凄いですよね」
「そうなんですか?凄い。よく調べましたね」
「それで僕、親衛隊を作って彼女の護衛につこうかと思いまして」
なんだか志村さんの目や表情がキラキラと輝いて見える。
あの時死にかけのようなツラしてたもんなぁ。
「いいじゃないですかそれ。私も入隊していいですか?」
あっさりと入隊許可をしてくれた。既に隊員は数人いるらしい。
仕事中だった事を思い出し、ジュースを流し込み、支払いを済ませて志村さんと喫茶店を出た。
「あら?新ちゃん?こんな所で何をやっているの?お仕事は?」
「げ!姉上!」
志村さんに姉上と呼ばれた女性は、買い物袋を下げて笑顔で尋ねたかと思えば、その上品そうな笑顔から一変「仕事もせんと何プラプラしとんじゃワレボケェ!」と鬼のような形相で蹴り飛ばした。
無抵抗の志村さんに馬乗りになって殴りつけながら、今月どれだけピンチかとか、色々説教をしている。
「姉上、これには、じ、じょ――」
「しかも、警察と一緒に出てくるとは何事だコラボケェ!」
「あぁ、お姉様、そのぐらいで勘弁してあげてください」
必死にそのお姉様の腕を掴んで、暴行を止めた。
お姉様は、こちらに向かってにこりと微笑む。
その笑顔が怖い。
堪らず、その場に正座をした。
「志村新八さんには仲良くしていただいています、私、内田美緒と申します。この度は、弟さんの休憩中にお茶に誘ってしまったこの御無礼、謹んでお詫び申し上げます」
三つ指をついて、頭を下げる。
「かたい!内田さんかたいですよ!」
「あらあら、そうだったの。だったら新ちゃんも早く言ってくれれば良かったのに」
「喋る暇与えなかったの姉上ですよ」
お姉様は、私に頭をあげさせると「新八の姉の妙です」と無害そうな、これまた上品な笑顔で自己紹介をしてきた。
私は、その笑顔に僅かな恐怖を覚え、よろしくお願い致しますともう一度深々と頭を下げる。
「新ちゃん、あなた、警察の女の子捕まえるなんてやるじゃない。逆玉の輿よ。これで道場も安泰だわ。で?結納はいつにする?早い方がいいわよね?」
「はい?姉上?」
「え?結納?なんの話?」
お姉様によって、結婚への道が勝手に開かれていく。これには、慌てて志村さんも私も制止をかける。
「待ってください姉上。僕達ただの友達でそういう関係じゃないんですよ」
「そうです。それに、私には心に決めた人がいるのでごめんなさい」
「でも新ちゃんよく考えてみて。この先、この子以上に金を稼いでくれる人があなたの前に現れると思って?だからこの金づるは絶対逃しちゃダメよ」
「今金づるって言ったよ。僕に対しても彼女に対しても失礼だな」
私達の意見を聞き入れようとしないこの展開に、僅かに目眩を覚えた。
お姉様は、ニコニコと笑顔を絶やさずに脅しめでこう言う。
「今はお友達でも、これからどうなるか分からないものね。それから、私の事は妙って呼んでちょうだい。未来の姉になるかもしれないんだもの。仲良くしましょうね」
それじゃあ先に帰るわね、美緒ちゃんもおうちに遊びにいらっしゃいね、と志村さんと私にそれぞれ挨拶をすると、家路へと足を向けた。
どっと襲い来る疲労。
「すみません、内田さん。姉上が色々と失礼な事を」
ゆっくりと立ち上がって、志村さんの肩を少し力を入れて掴むと、その肩がびくりと跳ね上がり、小さく悲鳴を上げた。
「志村さん、ちゃんとお姉様に否定しておいてくださいね。お願いしますよ。楽しみにはしないで、とくれぐれも。くれぐれも」
「はい、分かりました」
仕事があるのでいい加減帰らないと、また副長に叱られてしまう。
志村さんに、仕事に戻る事を伝えれば、またお通ちゃんの事について連絡すると言ってくれた。
インディーズともなれば、色々活躍の場が増えるかもしれない。これは期待せざるを得ない。
妙さんの件で忘れそうになっていたが、お通ちゃんの話を聞いて疲れていた体が軽くなった気がした。
足取り軽く歩いていると、前から遠慮なく私に向かって突っ込んでくるパトカー。
脳は危険信号を出しているのに、体は思うように動かない。
「バカ女、迎えに来たぜィ。乗れ」
車は体に当たるギリギリのところで停止し、沖田さんが運転席の窓から顔を出して、そう声をかけてきた。
一気に緊張感が解けた体は、膝から崩れ落ちる。
「む、迎えに来たっていうか、轢こうとしてましたよね?絶対」
「生きてたかィ。しぶてぇな」
「聞こえてるんですけど!そういうのは副長相手に楽しんでくださいよ!」
もう、と立ち上がって、その助手席に乗り込んだ。
「なんで迎えに?」
「気晴らしにパトカー走らせてたらお前が見えたから、ついでに送ってやろうという、優しい上司の気遣いよ。ていうか、よく考えたらパトカーの1台も躱せねーとは情けねェ」
パトカーが止まった瞬間、嫌な予感が過ぎる。
沖田隊長が、私がしていたシートベルトを外したのだ。
「パトカーで追いかけてやるから走って避ける練習しろィ。刀を避ける練習にもならァ」
「そんなバカな練習方法あります?」
「グダグダ言ってねェで走れ、バカ女」
助手席のドアを開けるなり、私を蹴落としてドアを閉めた。
少しバックしたパトカーは、私に向かって突っ込んでくる。
「マジかよ!誰か嘘だと言ってぇぇぇ!」
《夕日に向かって走れバカ女ァ!お前の母ちゃんが泣いてるぜェ。そんな足の遅い子に育てた覚えはねェってよォ》
「母ちゃんの遺伝だから遅いんだって言っとけェ!」
背後からスピーカーで励ましという名の辱めを受けながら、屯所まで走りきった。
パトカーで迎えに来てくれた優しい上司はいずこに?
――それから数ヶ月後
志村さんと町でばったり出くわした。
ストリートミュージシャンである、あの紫色の髪の女の子の歌声が聞こえると、必ず聞きに寄った先に彼ありというくらいに、志村さんとも遭遇していた。
しかし、ここの所、彼女の歌声を聞く日がぱったりと途絶え、志村さんとも会えなくなっていたので、まさしく久しぶりの再会。
志村さんは、相変わらず店長に叱られているらしい。
私も似たようなものだから人のことは笑えない。
立ち話もなんだからと、適当な喫茶店に入る事にした。
平日だというのに、やはり天人は暇なのか席の大半を占めている。
ウエイトレスに案内された席に向かい合って腰を落ち着かせ、適当に飲み物をオーダーし、世間話をする事に。
「道場の復興ですか。また凄く大きな目標ですね」
「とは言っても、全く資金も集まらなくて、姉上には苦労かけてばかりなんです。だから、僕もしっかり働かないといけないんですけど、情けない話叱られてばかりで……」
「お互い、短気な上司持つと苦労しますね。私も毎日怒鳴られたり殴られたり、バズーカで撃たれてばかりですよ。おまけに、彼氏は優秀過ぎて私の無能さが浮き彫りになるんですよねー……」
「あの、すみません。バズーカにビックリしちゃって後の言葉が入って来なかったんですけど」
「ここのミックスジュース美味しい」
「……聞いてないな……」
半分程一度に飲んだミックスジュースをストローでクルクルとかき混ぜると、氷が当たって涼しい音を奏でる。
「志村さん、最近あのストリートミュージシャンに会いました?」
私の問いかけに、慌てて飲んでいたカップを置いた。
「そう!言おうと思ってたんですよ。その事なんですけどね、彼女の名前は『寺門通』って言って、インディーズになったらしいんですよ。凄いですよね」
「そうなんですか?凄い。よく調べましたね」
「それで僕、親衛隊を作って彼女の護衛につこうかと思いまして」
なんだか志村さんの目や表情がキラキラと輝いて見える。
あの時死にかけのようなツラしてたもんなぁ。
「いいじゃないですかそれ。私も入隊していいですか?」
あっさりと入隊許可をしてくれた。既に隊員は数人いるらしい。
仕事中だった事を思い出し、ジュースを流し込み、支払いを済ませて志村さんと喫茶店を出た。
「あら?新ちゃん?こんな所で何をやっているの?お仕事は?」
「げ!姉上!」
志村さんに姉上と呼ばれた女性は、買い物袋を下げて笑顔で尋ねたかと思えば、その上品そうな笑顔から一変「仕事もせんと何プラプラしとんじゃワレボケェ!」と鬼のような形相で蹴り飛ばした。
無抵抗の志村さんに馬乗りになって殴りつけながら、今月どれだけピンチかとか、色々説教をしている。
「姉上、これには、じ、じょ――」
「しかも、警察と一緒に出てくるとは何事だコラボケェ!」
「あぁ、お姉様、そのぐらいで勘弁してあげてください」
必死にそのお姉様の腕を掴んで、暴行を止めた。
お姉様は、こちらに向かってにこりと微笑む。
その笑顔が怖い。
堪らず、その場に正座をした。
「志村新八さんには仲良くしていただいています、私、内田美緒と申します。この度は、弟さんの休憩中にお茶に誘ってしまったこの御無礼、謹んでお詫び申し上げます」
三つ指をついて、頭を下げる。
「かたい!内田さんかたいですよ!」
「あらあら、そうだったの。だったら新ちゃんも早く言ってくれれば良かったのに」
「喋る暇与えなかったの姉上ですよ」
お姉様は、私に頭をあげさせると「新八の姉の妙です」と無害そうな、これまた上品な笑顔で自己紹介をしてきた。
私は、その笑顔に僅かな恐怖を覚え、よろしくお願い致しますともう一度深々と頭を下げる。
「新ちゃん、あなた、警察の女の子捕まえるなんてやるじゃない。逆玉の輿よ。これで道場も安泰だわ。で?結納はいつにする?早い方がいいわよね?」
「はい?姉上?」
「え?結納?なんの話?」
お姉様によって、結婚への道が勝手に開かれていく。これには、慌てて志村さんも私も制止をかける。
「待ってください姉上。僕達ただの友達でそういう関係じゃないんですよ」
「そうです。それに、私には心に決めた人がいるのでごめんなさい」
「でも新ちゃんよく考えてみて。この先、この子以上に金を稼いでくれる人があなたの前に現れると思って?だからこの金づるは絶対逃しちゃダメよ」
「今金づるって言ったよ。僕に対しても彼女に対しても失礼だな」
私達の意見を聞き入れようとしないこの展開に、僅かに目眩を覚えた。
お姉様は、ニコニコと笑顔を絶やさずに脅しめでこう言う。
「今はお友達でも、これからどうなるか分からないものね。それから、私の事は妙って呼んでちょうだい。未来の姉になるかもしれないんだもの。仲良くしましょうね」
それじゃあ先に帰るわね、美緒ちゃんもおうちに遊びにいらっしゃいね、と志村さんと私にそれぞれ挨拶をすると、家路へと足を向けた。
どっと襲い来る疲労。
「すみません、内田さん。姉上が色々と失礼な事を」
ゆっくりと立ち上がって、志村さんの肩を少し力を入れて掴むと、その肩がびくりと跳ね上がり、小さく悲鳴を上げた。
「志村さん、ちゃんとお姉様に否定しておいてくださいね。お願いしますよ。楽しみにはしないで、とくれぐれも。くれぐれも」
「はい、分かりました」
仕事があるのでいい加減帰らないと、また副長に叱られてしまう。
志村さんに、仕事に戻る事を伝えれば、またお通ちゃんの事について連絡すると言ってくれた。
インディーズともなれば、色々活躍の場が増えるかもしれない。これは期待せざるを得ない。
妙さんの件で忘れそうになっていたが、お通ちゃんの話を聞いて疲れていた体が軽くなった気がした。
足取り軽く歩いていると、前から遠慮なく私に向かって突っ込んでくるパトカー。
脳は危険信号を出しているのに、体は思うように動かない。
「バカ女、迎えに来たぜィ。乗れ」
車は体に当たるギリギリのところで停止し、沖田さんが運転席の窓から顔を出して、そう声をかけてきた。
一気に緊張感が解けた体は、膝から崩れ落ちる。
「む、迎えに来たっていうか、轢こうとしてましたよね?絶対」
「生きてたかィ。しぶてぇな」
「聞こえてるんですけど!そういうのは副長相手に楽しんでくださいよ!」
もう、と立ち上がって、その助手席に乗り込んだ。
「なんで迎えに?」
「気晴らしにパトカー走らせてたらお前が見えたから、ついでに送ってやろうという、優しい上司の気遣いよ。ていうか、よく考えたらパトカーの1台も躱せねーとは情けねェ」
パトカーが止まった瞬間、嫌な予感が過ぎる。
沖田隊長が、私がしていたシートベルトを外したのだ。
「パトカーで追いかけてやるから走って避ける練習しろィ。刀を避ける練習にもならァ」
「そんなバカな練習方法あります?」
「グダグダ言ってねェで走れ、バカ女」
助手席のドアを開けるなり、私を蹴落としてドアを閉めた。
少しバックしたパトカーは、私に向かって突っ込んでくる。
「マジかよ!誰か嘘だと言ってぇぇぇ!」
《夕日に向かって走れバカ女ァ!お前の母ちゃんが泣いてるぜェ。そんな足の遅い子に育てた覚えはねェってよォ》
「母ちゃんの遺伝だから遅いんだって言っとけェ!」
背後からスピーカーで励ましという名の辱めを受けながら、屯所まで走りきった。
パトカーで迎えに来てくれた優しい上司はいずこに?