番外
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
▽沖田さんと
「土方さん、今日入ってきた女、性欲処理係ですかィ?」
「んなわけねーだろ。テメーは何聞いてたんだ」
「こんな男所帯に若ェ女が入ってきたんで、てっきりソッチの方かと思いやして。じゃなかったら、アイツ死にに来たんですかねィ?」
「いや、そういうわけでもねーらしい」
研修期間を終えて入隊してきた中に、1人の女が混ざっていた。
土方から予め、志願者の中に女がいるというのは聞いていたので、興味本位で見に行った事があった。
男相手に根性は見せていたようだが、てんで話にならない。1度相手して現実を見せてやろうと思ったのに、土方に止められて潰す事が出来なかった。
「それにしても、よく入れる気になりましたね。土方さん、あれだけ入れる気ねェっつってたじゃないですか。どういう心境の変化ですか」
「まァ、色々あんだよ」
そう紫煙を吐き出した土方の横顔に、嫌な予感が過ぎった。
「土方さん、アンタまさかあの女に惚れたなんて言わねェでしょーね」
「はァ?んなワケねーだろ。なんでそうなんだよ」
「だっておかしいでしょ。アンタがこんな所に女入れるなんざ。よっぽどあの女に肩入れする何かがあるとしか思えねェ」
「肩入れもしてねーし、惚れてもねーよ。お前、あの女がどんだけ頑固か知らねーからそんな事が言えんだよ。相手してみろ。言葉通じねーぞ」
そこまで分かっているのに、それでも入隊させた事にカチンと来て睨め上げる。
「土方さんってそんな奴でしたかねィ?俺の知ってる土方さんは、どんな理由があろーと女は置いてく、女はいらねェ、女は邪魔だって突き放す野郎だとばかり思ってやしたがね。どうやら違ったみてーだ」
「何の話してんだ」
「土方さん、俺ァアンタが分からねェよ。あの女がココにいていいなら、なんで姉さんはダメだったんですか」
「総悟、そろそろ交通整理の時間だろ」
「体が弱ェからですか?弱くなかったら、もし、体が強かったらアンタは一緒に――」
「もう時間だぞ。ちゃんとサボらずにやれよ」
そう言って背中を向ける土方の態度が癪に障る。
「土方ァァ!まだ話は終わってねーだろォ!アンタはいつもそーだ!肝心な話はいつもそーやって誤魔化しやがる!なんでそうやって逃げようとする!」
追いかけて、その肩を掴んでこちらを振り向かせたその目は酷く冷たかった。一瞬怯むも、負けじと睨み返す。
「アンタのそういう所が気にくわねェ」
「仕事行けっつってんだ。サボったら切腹させんぞ」
「土方さん、これだけは聞かせてくだせェ。なんであの女を隊士に入れやがったんですか」
「アイツは山崎の女だ」
「…………は?」
その返答に怒りが一気に鎮静し、間抜けな声が出てしまった。
山、崎……?
「山崎って……あの、地味な監察の?ミントンばっかしてる童貞の?」
「ああ。あの女は、山崎を追いかけて来たんだと」
「…………いやいやいやいや、冗談が過ぎますぜ。山崎はありゃどー見ても童貞でしょーに」
「そこら辺は知らんが、本人が彼女だっつーんだからそうなんじゃねーの。あんまりそういう下世話な詮索すんなよ」
山崎に彼女だと!?嘘だろ!世紀の大発見。屯所の七不思議。屯所の怪談。屯所の都市伝説。
「山崎って、追っかけてくる程魅力ある男なんですかねィ?俺ァそう見えねーんすけど……」
「俺が知るかよ。わざわざこんな所まで追っかけてくるんだから、あの女にはそう見えてんだろ」
「あの女、バカなんですか?」
「それは間違いない。バカだ」
ここはバカしかいないが、またバカが増えやがったのか、と嘆息する。
山崎の彼女と聞いて忘れそうになっていたが、土方の野郎が姉上を差し置いて真選組に女を入れるってのも気に食わねェ。
本当にただ山崎の女ってだけが理由なのか。
「山崎の女ってだけで入れるなんざ、土方さんの目も狂っちまったんじゃねーですか?」
「そんだけの理由で入れるか!剣の腕はねェが、やる気と根性はあるようだしな」
理由を聞いてもすぐには納得出来なかった。
とある日、食堂に入れば、前に並んでいる背の低い奴が目に入った。
あの時は遠目だったが、近くで見ても冷やかしにしか思えない程、非力そうな細っけェ女。
そんなほっそい腕で剣なんか振れるワケがねェ。ましてや、人を斬れるようにも見えねェ。
所属は監察にしたとは言っていたが、こういう女はすぐにおっ死んで終わるだろう。
そう思っていたのだが、これまたしぶとく生きてやがる。
「沖田隊長、お昼寝ですか。今日はいい天気ですから、絶好のお昼寝日和ですね」
アイマスクをつけて縁側で惰眠を貪っていたら、女が話しかけてきた。
返事をするのも面倒なので無視を決め込む事にした。しかし、女の気配は離れない。
暫く経っても、すぐ側から一向に離れる気配がない。
すると、アイマスク越しに瞼の上を擦るように這う何か。次に、突き刺すように小刻みに叩いてくる。
寝ている所を邪魔された上に意味分からない事をされて、苛立ちをそのままに、アイマスクを外しながら上体を起こした。
「なんでィ。触んじゃねェや。うぜーな」
「あ、すみません。目の中くり抜かれてるのかと気になって」
「はァ?目ェ潰す気満々かよテメーは。あと、俺の昼寝の邪魔すんな。バカが」
「すみません。目潰しする気はなかったんです。変わったアイマスクつけてらっしゃるんで気になって」
でも、あいてなくて良かったですとにこやかに言う女に呆れる。
「気になったら目潰しする勢いで触んのかよ。このバカ」
「お言葉ですけど、バカじゃなくて内田美緒です。よろしくお願いします」
「バカ女か。覚えた」
「自己紹介した意味ないじゃないですか。覚えてくれる気全然ないですよね」
もういいです!と、憤慨したまま立ち去った。
内田美緒ね……
よろしくする気はサラサラねェし、もうすぐ死んでいくだろう奴の名前を覚えたところで、なんの意味もないし呼ぶ事もない。
ただアイツが死ぬのを漠然と待っているのも退屈だったので、土方を殺すついでにバカ女も狙う事にした。
バズーカで撃ったり、わざと足をひっかけて転ばせたり、パトカーで追いかけたり、その背中を座布団代わりにしたり……
俺が何かを仕掛けると、必ずこっちを見るのがたまらなく面白い。
「隊長、いい加減嫌がらせするのやめてください!」
バカ女は、俺の嫌がらせに一切泣きもせずに歯向かってきた。今も俺を睨みあげている。
すぐ泣く女より、こうでなくちゃおもしろくねェ。
「オイ、バカ女。お前が今から通ろうとしてるとこに落とし穴掘ってやったぜ。感謝しろ」
「感謝出来ねー……嫌がらせやめろっつってんのに……」
「そんなバカ女に朗報だ。落とし穴に落ちなかったら、嫌がらせやめてやってもいいかなーと思ったり思わなかったりどうしよーかなー」
「え?マジすか!?やったー!頑張ります!」
何がやったー!だ。これからやるんだろ。これだからバカは。
落ちなくても、嫌がらせをやめる気はない。
ていうか、コイツいつまで生きてる気だ。さっさと死に晒せ。
バカ女は、落とし穴を警戒しながら、恐る恐る庭を通ろうとしている。
つま先で地面をつついてみたり、時には四つん這いになって手で叩いてみたり。
そんな面白い光景を縁側に座って眺める。
十分に警戒した上で、華麗に落とし穴へと悲鳴をあげながら落下。
え、嘘だろ……あれだけ警戒して落ちるとかやっぱバカだ。本物のバカだコイツ。
「隊長ォォォ!コレ!下!水!泥になってんですけどォォォ!」
落とし穴に歩み寄ってその中を覗けば、泥だらけのバカ女がこちらを見上げて喚いている。
「そりゃそうだろィ。水流し込んだからな」
「最悪!ちょっと引き上げてください!」
俺に向かって、両手を伸ばしてくるバカ女を「嫌でィ」と一蹴する。
「せっかく落としたのに、なんで引き上げなきゃならねーんだ。つまんねーだろ」
「つまらなくないです!退呼んでください!退に引き上げてもらいます!」
それがなんだか妙におもしろくなくて、つま先で地面を蹴って土を落としていく。
案の定、やめろ!と怒鳴りつけてくるバカ女。
「一生そうしてろ!バーカ!」
その後も、俺のおかげか、段々と避ける事に関しては勘が鋭くなってきたので、今度は剣で襲ってみる事にした。
特に避ける事が多いが、時には刀で受けたりするので、バカ女がどこまで俺の嫌がらせに耐える事が出来るか楽しみだ。
そうこうしているうちに、俺の中で、バカ女に死んでほしいという思いが段々弱まっているのに気が付いた。
「隊長ォォ!部屋の入口にバケツ仕込むのやめろって言いましたよねェ!?」
襖を開けたら水が入ったバケツが逆さまになる仕掛けを何度もやっているのに、必ず引っかかるバカさ加減に笑いが止まらない。
嫌がらせをする度にこっちを向いて話してくれるのが楽しくて、やめる事が出来ない。
もし、嫌がらせをやめたら、この女は見向きもしてくれなくなるのではないだろうか。
そう思ったら、途端に寂しくなってきた。
同じ嫌がらせや殺しにかかる事でも、土方とはまた違った感情に気付いて戸惑いを覚える。
突然、髪の毛にかかった水。
雨にしてはやけに短く塊の水に不思議に思って見上げれば、木の枝に立ってこちらに水鉄砲を向けているバカ女がいた。
「やったー!奇襲成功!」
「はァ!?お前ふざけんなよ!濡れただろーが!降りてこいコラ!」
「嫌ですー。ちょ、落ちそうだから蹴らないでください!」
木の幹をガンガン蹴れば、バカ女は枝に必死にしがみついている。
「こちとらまだ水残ってんだよバーカ!」
「今頃自己紹介か」
「違います!バカは隊長の事ですー!」
そして、水鉄砲を撃ってくるバカ女。
俺も応戦しようと靴を脱いで投げ付けた。
どうやら俺は、バカ女とこうやってバカみたいに遊んでいるのが楽しいらしい。
「土方さん、今日入ってきた女、性欲処理係ですかィ?」
「んなわけねーだろ。テメーは何聞いてたんだ」
「こんな男所帯に若ェ女が入ってきたんで、てっきりソッチの方かと思いやして。じゃなかったら、アイツ死にに来たんですかねィ?」
「いや、そういうわけでもねーらしい」
研修期間を終えて入隊してきた中に、1人の女が混ざっていた。
土方から予め、志願者の中に女がいるというのは聞いていたので、興味本位で見に行った事があった。
男相手に根性は見せていたようだが、てんで話にならない。1度相手して現実を見せてやろうと思ったのに、土方に止められて潰す事が出来なかった。
「それにしても、よく入れる気になりましたね。土方さん、あれだけ入れる気ねェっつってたじゃないですか。どういう心境の変化ですか」
「まァ、色々あんだよ」
そう紫煙を吐き出した土方の横顔に、嫌な予感が過ぎった。
「土方さん、アンタまさかあの女に惚れたなんて言わねェでしょーね」
「はァ?んなワケねーだろ。なんでそうなんだよ」
「だっておかしいでしょ。アンタがこんな所に女入れるなんざ。よっぽどあの女に肩入れする何かがあるとしか思えねェ」
「肩入れもしてねーし、惚れてもねーよ。お前、あの女がどんだけ頑固か知らねーからそんな事が言えんだよ。相手してみろ。言葉通じねーぞ」
そこまで分かっているのに、それでも入隊させた事にカチンと来て睨め上げる。
「土方さんってそんな奴でしたかねィ?俺の知ってる土方さんは、どんな理由があろーと女は置いてく、女はいらねェ、女は邪魔だって突き放す野郎だとばかり思ってやしたがね。どうやら違ったみてーだ」
「何の話してんだ」
「土方さん、俺ァアンタが分からねェよ。あの女がココにいていいなら、なんで姉さんはダメだったんですか」
「総悟、そろそろ交通整理の時間だろ」
「体が弱ェからですか?弱くなかったら、もし、体が強かったらアンタは一緒に――」
「もう時間だぞ。ちゃんとサボらずにやれよ」
そう言って背中を向ける土方の態度が癪に障る。
「土方ァァ!まだ話は終わってねーだろォ!アンタはいつもそーだ!肝心な話はいつもそーやって誤魔化しやがる!なんでそうやって逃げようとする!」
追いかけて、その肩を掴んでこちらを振り向かせたその目は酷く冷たかった。一瞬怯むも、負けじと睨み返す。
「アンタのそういう所が気にくわねェ」
「仕事行けっつってんだ。サボったら切腹させんぞ」
「土方さん、これだけは聞かせてくだせェ。なんであの女を隊士に入れやがったんですか」
「アイツは山崎の女だ」
「…………は?」
その返答に怒りが一気に鎮静し、間抜けな声が出てしまった。
山、崎……?
「山崎って……あの、地味な監察の?ミントンばっかしてる童貞の?」
「ああ。あの女は、山崎を追いかけて来たんだと」
「…………いやいやいやいや、冗談が過ぎますぜ。山崎はありゃどー見ても童貞でしょーに」
「そこら辺は知らんが、本人が彼女だっつーんだからそうなんじゃねーの。あんまりそういう下世話な詮索すんなよ」
山崎に彼女だと!?嘘だろ!世紀の大発見。屯所の七不思議。屯所の怪談。屯所の都市伝説。
「山崎って、追っかけてくる程魅力ある男なんですかねィ?俺ァそう見えねーんすけど……」
「俺が知るかよ。わざわざこんな所まで追っかけてくるんだから、あの女にはそう見えてんだろ」
「あの女、バカなんですか?」
「それは間違いない。バカだ」
ここはバカしかいないが、またバカが増えやがったのか、と嘆息する。
山崎の彼女と聞いて忘れそうになっていたが、土方の野郎が姉上を差し置いて真選組に女を入れるってのも気に食わねェ。
本当にただ山崎の女ってだけが理由なのか。
「山崎の女ってだけで入れるなんざ、土方さんの目も狂っちまったんじゃねーですか?」
「そんだけの理由で入れるか!剣の腕はねェが、やる気と根性はあるようだしな」
理由を聞いてもすぐには納得出来なかった。
とある日、食堂に入れば、前に並んでいる背の低い奴が目に入った。
あの時は遠目だったが、近くで見ても冷やかしにしか思えない程、非力そうな細っけェ女。
そんなほっそい腕で剣なんか振れるワケがねェ。ましてや、人を斬れるようにも見えねェ。
所属は監察にしたとは言っていたが、こういう女はすぐにおっ死んで終わるだろう。
そう思っていたのだが、これまたしぶとく生きてやがる。
「沖田隊長、お昼寝ですか。今日はいい天気ですから、絶好のお昼寝日和ですね」
アイマスクをつけて縁側で惰眠を貪っていたら、女が話しかけてきた。
返事をするのも面倒なので無視を決め込む事にした。しかし、女の気配は離れない。
暫く経っても、すぐ側から一向に離れる気配がない。
すると、アイマスク越しに瞼の上を擦るように這う何か。次に、突き刺すように小刻みに叩いてくる。
寝ている所を邪魔された上に意味分からない事をされて、苛立ちをそのままに、アイマスクを外しながら上体を起こした。
「なんでィ。触んじゃねェや。うぜーな」
「あ、すみません。目の中くり抜かれてるのかと気になって」
「はァ?目ェ潰す気満々かよテメーは。あと、俺の昼寝の邪魔すんな。バカが」
「すみません。目潰しする気はなかったんです。変わったアイマスクつけてらっしゃるんで気になって」
でも、あいてなくて良かったですとにこやかに言う女に呆れる。
「気になったら目潰しする勢いで触んのかよ。このバカ」
「お言葉ですけど、バカじゃなくて内田美緒です。よろしくお願いします」
「バカ女か。覚えた」
「自己紹介した意味ないじゃないですか。覚えてくれる気全然ないですよね」
もういいです!と、憤慨したまま立ち去った。
内田美緒ね……
よろしくする気はサラサラねェし、もうすぐ死んでいくだろう奴の名前を覚えたところで、なんの意味もないし呼ぶ事もない。
ただアイツが死ぬのを漠然と待っているのも退屈だったので、土方を殺すついでにバカ女も狙う事にした。
バズーカで撃ったり、わざと足をひっかけて転ばせたり、パトカーで追いかけたり、その背中を座布団代わりにしたり……
俺が何かを仕掛けると、必ずこっちを見るのがたまらなく面白い。
「隊長、いい加減嫌がらせするのやめてください!」
バカ女は、俺の嫌がらせに一切泣きもせずに歯向かってきた。今も俺を睨みあげている。
すぐ泣く女より、こうでなくちゃおもしろくねェ。
「オイ、バカ女。お前が今から通ろうとしてるとこに落とし穴掘ってやったぜ。感謝しろ」
「感謝出来ねー……嫌がらせやめろっつってんのに……」
「そんなバカ女に朗報だ。落とし穴に落ちなかったら、嫌がらせやめてやってもいいかなーと思ったり思わなかったりどうしよーかなー」
「え?マジすか!?やったー!頑張ります!」
何がやったー!だ。これからやるんだろ。これだからバカは。
落ちなくても、嫌がらせをやめる気はない。
ていうか、コイツいつまで生きてる気だ。さっさと死に晒せ。
バカ女は、落とし穴を警戒しながら、恐る恐る庭を通ろうとしている。
つま先で地面をつついてみたり、時には四つん這いになって手で叩いてみたり。
そんな面白い光景を縁側に座って眺める。
十分に警戒した上で、華麗に落とし穴へと悲鳴をあげながら落下。
え、嘘だろ……あれだけ警戒して落ちるとかやっぱバカだ。本物のバカだコイツ。
「隊長ォォォ!コレ!下!水!泥になってんですけどォォォ!」
落とし穴に歩み寄ってその中を覗けば、泥だらけのバカ女がこちらを見上げて喚いている。
「そりゃそうだろィ。水流し込んだからな」
「最悪!ちょっと引き上げてください!」
俺に向かって、両手を伸ばしてくるバカ女を「嫌でィ」と一蹴する。
「せっかく落としたのに、なんで引き上げなきゃならねーんだ。つまんねーだろ」
「つまらなくないです!退呼んでください!退に引き上げてもらいます!」
それがなんだか妙におもしろくなくて、つま先で地面を蹴って土を落としていく。
案の定、やめろ!と怒鳴りつけてくるバカ女。
「一生そうしてろ!バーカ!」
その後も、俺のおかげか、段々と避ける事に関しては勘が鋭くなってきたので、今度は剣で襲ってみる事にした。
特に避ける事が多いが、時には刀で受けたりするので、バカ女がどこまで俺の嫌がらせに耐える事が出来るか楽しみだ。
そうこうしているうちに、俺の中で、バカ女に死んでほしいという思いが段々弱まっているのに気が付いた。
「隊長ォォ!部屋の入口にバケツ仕込むのやめろって言いましたよねェ!?」
襖を開けたら水が入ったバケツが逆さまになる仕掛けを何度もやっているのに、必ず引っかかるバカさ加減に笑いが止まらない。
嫌がらせをする度にこっちを向いて話してくれるのが楽しくて、やめる事が出来ない。
もし、嫌がらせをやめたら、この女は見向きもしてくれなくなるのではないだろうか。
そう思ったら、途端に寂しくなってきた。
同じ嫌がらせや殺しにかかる事でも、土方とはまた違った感情に気付いて戸惑いを覚える。
突然、髪の毛にかかった水。
雨にしてはやけに短く塊の水に不思議に思って見上げれば、木の枝に立ってこちらに水鉄砲を向けているバカ女がいた。
「やったー!奇襲成功!」
「はァ!?お前ふざけんなよ!濡れただろーが!降りてこいコラ!」
「嫌ですー。ちょ、落ちそうだから蹴らないでください!」
木の幹をガンガン蹴れば、バカ女は枝に必死にしがみついている。
「こちとらまだ水残ってんだよバーカ!」
「今頃自己紹介か」
「違います!バカは隊長の事ですー!」
そして、水鉄砲を撃ってくるバカ女。
俺も応戦しようと靴を脱いで投げ付けた。
どうやら俺は、バカ女とこうやってバカみたいに遊んでいるのが楽しいらしい。