本編
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▽振り米
「ヘイ、こちら真選組。何用で?」
《もしもし拙者拙者グスッ》
「拙者?誰?ていうか泣いてるの?」
《拙者だよ拙者!今ちょっと大変な事になっててグスッ泣きたい程なんだよグスッ》
「退か。退でしょ?」
《そうだよサガルだよサガル。グスッ》
珍しく屯所の電話を取ってみれば、入院して金が必要なので500万を振り込んでほしいとの事だった。
「それなら直接携帯かけてくればいいのに。どれくらい入院するの?」
《医者からはいつ退院出来るか分からねェって言われてる》
「嘘だろ……え?嘘だよね?そんな大事な事なんでもっと早く言ってくれないの!?バカなの?」
《だから、最期の頼みを聞いてくれ》
慌てて電話を切り、財布や通帳を確認してみたが、合わせても500万なんて大金には到底たりない。
あるだけ振り込むよ。待ってて!
通帳と印鑑、財布を握りしめて、大江戸信用金庫へ急いだ。
自動ドアをくぐると、体にふりかかってくる細かい物。
「ふんごォォォ!」
威勢のいい声と共に、神楽ちゃんが必死に米袋を振り回して、米を蒔きちらしている。
「神楽ちゃん!?何やってんの?」
「美緒!早く振り米ないと銀ちゃんが!銀ちゃんがブタ箱に!電話で早く振り米言ってたアル!」
米袋から米を撒く手を休めずに説明してくれるので、米が当たらないような場所に避難して聞く。
要領を得ないが、銀ちゃんが大変だという事は伝わり、米を撒くのを手伝う事にした。
「どれだけっ、撒けばっ、いいの?」
「分からないアル!でもたくさんアル!たくさん振り米したら銀ちゃん助かるネ!」
「お客様ァァァ!ちょ、何やってんのォォ!っていうかアンタ警察でしょ!?なんで一緒にやってんの!?止めてよ!」
銀行員が飛んできて注意するが、振り米を続行しながら話す。制服なので、真選組だと割れても仕方ない。
「友達が困ってる時は助けなきゃ!」
「いや、困らされてるの俺らだから!」
「きゃあああ!」
突然、悲鳴が銀行内に響き渡った。
振り米をやめてそっちを見ると、僧侶のような格好をした男が、窓口のお姉さんの首を掴みあげている。
その男の目の下は、睡眠不足なのかクマがひどい。
客は逃げ惑い、銀行員らも隅や机の影へと避難している。
「何者アルか?アイツ」
「分からない。銀行強盗かな?」
ここは、真選組の私の出番だと張り切って、手錠を差し出す。
「銀行強盗め!大人しくし……ええええ!」
内蔵的な物を口から吐き出されたと思ったら、私の首や体をいとも簡単に縛りあげていく。
「美緒ー!お前、美緒に何するネ!」
「くっ……っ、くる……」
内蔵を首から引きはがそうとするけれど、びくともしない。それどころか、余計に締まっていく。
私を助けようとした神楽ちゃんも、いとも簡単に捕まってしまった。
あの神楽ちゃんが、手も足も出ずに捕まってしまうなんて。
神楽ちゃんを助けられるのは私しかいない。
唯一自由に動く手で刀を抜くが、振り払われて飛んで行ってしまったので、ラケットを取り出した。
しかし、それも敵に奪われた上に拘束されてしまった右腕。
「お前何がしたいアルか!」
「斬りたかったの!」
急に体が床に叩きつけられた。
内蔵的なもののおかげで、体への痛みはほぼない。
今がチャンスと、腹這いで神楽ちゃんと自動ドアを目指す。
まだ内蔵らしきものが体にまとわりついているが、動けないわけではない。左腕だけでは思うように動けず、段々右目の視界も塞がり体も重くなってきた。
「さっき銀ちゃん達がいたネ」
「来てたの?気付かなかった」
私の前にいる神楽ちゃんは、自動ドアが開くなり銀ちゃんと新ちゃんの足を掴んだみたいだった。
「銀ちゃーん。ひどいヨー。なんで助けてくれないネ」
「ぎゃああああ!」
銀ちゃんと新ちゃんの叫び声が、響き渡った。
「私、美緒と一緒に銀ちゃんの為にいっぱい振り米したヨ。神父の件はどうなった?カタついたか?」
「神父の件ってなに?お前らどんな騙され方したんだオイ!」
神楽ちゃん達がそんな話をしている間に、僧侶の口からデロデロと生まれた何かに足が呑まれようとしている。
ズルズルと、エイリアンに引きずり込まれていく体。
「か、神楽ちゃん!ちょっと神楽ちゃん!私足食べられてる!」
「美緒今まで楽しかったアル。私に構わず先に逝けェェ!」
「ぐふっ……!ぐえっ!痛い痛い!ちょ、顔蹴らないで痛い!銀ちゃと新ちゃん助けてェェ!」
「無理!無理無理無理ィィ!」
「無理だって!お前もうデロデロの塊で人間の原型留めてねーよ!気味悪いって!そこまで行ったらデロデロと共存してくれよ頼むからァァ!お前なら出来るって銀さん信じてる!」
新ちゃんと銀ちゃんに見放されている間にも、とうとうお腹まで飲み込まれてしまった。
生命的危機に直面し、恐怖を通り過ぎて冷静になる自分がいた。
最後くらい退に好きって伝えたかったな……
私だけじゃなく、神楽ちゃん諸共銀ちゃんや新ちゃんも飲み込もうと、天に向けた口の上に私達を持ち上げた。
もうダメかと思ったその時、何かが頭上を通り過ぎて、体に張り付いていた内蔵的なものが引いていく。
間髪置かず背後で爆発音が轟いた。
壁に叩きつけられたエイリアンに刺さっているのは、見覚えのある傘。
傘1本だけで倒してしまったその実力に唖然となる。
「探したぞ、神楽」
振り向くと、頭から全身を布で覆って、防具を装備している人が立っていた。
「……パピー?」
「ぱ、ぱっ、パピィィィ!?」
神楽ちゃんの発言に目を丸くする。
この人が神楽ちゃんのお父さん。
お父さんは、フードを外すと神楽ちゃんに手を差しのべた。
「さァ神楽ちゃんおいで」
「いやヨ」
「来なさい。いい所連れてってあげるから」
拒否するその腕を掴み、神楽ちゃんを引きずって自動ドアに向かった。
「いいから来いってんだよ。アレだ。マロンパフェ食わしてやっから。な?」
「ちょ、離してヨ。離れて歩いてヨ」
「あ、あの!神楽ちゃんのお父さん!助けてくれてありがとうございました!」
深々と頭を下げると、振り向いて親指を立てくれた。
「美緒ー!そんな事言ってないで助けてヨー!」
神楽ちゃんの親子関係がどういうものか分からないので、安易に助けていいものなのか測り兼ねる。
神楽ちゃんが助けてと言っているので、助けるのがいいのだろうが、マロンパフェ食べさせてあげるって言ってるしな。
助けるにしても、第三者の私がどう割って入るべきなのかも思いあぐねる。
結婚式を阻止する元彼の如く、神楽ちゃんの手を引いて逃げればいいのか。はたまた、お父さんに正々堂々立ち向かって、勝負の戦利品として神楽ちゃんを助ければいいのか。
どちらにしても、お父さんが手強そうで、神楽ちゃんを助けられるようなビジョンが浮かばない。
「銀ちゃん、新ちゃん。私――」
「これは万事屋の問題だ。ここは任せな」
「そうですよ、神楽ちゃんの事は僕たちに任せてください」
銀ちゃんは私の頭に手を置くと、新ちゃんと一緒に神楽ちゃんたちを追いかけていく。
「すいません。僕もマロンパフェいいっすかねー。いやちょっと待て。やっぱフルーツパフェにしようかな?どうしよっ」
銀ちゃんたちを見送った後、息をつく。
「あ!足!ある!良かったー……」
お腹まで飲み込まれたけれど、足が無事だった事に安堵する。
座り込んで膝を労わるように摩っていると、自動ドアが開いた。
そこには、局長や副長を始めとする真選組の面々が。
「あ?てめぇ、座り込んで何してやがんだ」
「え?美緒ちゃん!?美緒ちゃんがエイリアンだったの!?」
呆れる副長と、何故かクラゲのような被り物を被って妙な勘違いをして焦っている局長。
否定しようとした瞬間、沖田隊長が私目掛けてバズーカを撃ってきた。避けきる事が出来ず、バズーカの餌食になった私は、全身ボロボロ。
「おいィィ!総悟テメー何してんだァァ!」
「近藤さんがエイリアンだって言うから。違うんですかィ?」
「どう見てもちげーだろ!」
「え!?違うの!?」
「…………」
沖田隊長と局長の発言に、言葉をなくす副長。
隊士たちに、エイリアンを回収するよう指示する副長に駆け寄る。
「副長!退の、退の入院の件聞きましたか?」
「は?山崎ならそこにいるだろ」
親指で指された方を見れば、入院しているはずの退の姿。
「退!?入院は!?体大丈夫なの!?」
退に近寄り、その体を見定めるように見るけれど、外傷1つ見当たらない。もしかして、内臓系だろうか。
「は?入院?身に覚えないんだけどっていうか、美緒ちゃんはここで何してんの?なんかボロボロだし……」
バズーカで薄汚れた私の顔を袖口で拭ってくれる背後では、他の隊士がエイリアン回収の為、それぞれ配置についていく。
電話の件を話すと、退は呆れたように肩を落とした。
「騙されたんだよ。バカだねー、ホントつくづくバカだ。て事は、今通帳持ってるよね?」
「持ってるけど……」
「俺が預かる」
その言葉に首を傾げて、理由を聞いた。
今までそんな事なかったのに。
「このままだと騙されて全額払いそうだし、金銭感覚改めるいい機会でしょ?はい、出して」
「大丈夫。これからは気を付けるから」
「信用ならない。また偽りの俺が何百万って請求してきたら疑う事なく払うだろ?」
図星なので、何も言い返せなかった。
出せ、と冷たく言われて、躊躇しながらも制服の内ポケットから通帳と印鑑を取り出して退に渡した。
「屯所に電話する思い切った詐欺師もいるんだね。疑わずに引っかかる警察もいるし……」
通帳と印鑑を内ポケットにしまいながら、呆れた物言いに謝る事しか出来なかった。
「あとね、私エイリアンに体半分食べられたの!ここまで食べられた!」
「なんでそうなったの?」
「おーい、痴話喧嘩は終わったか?戻るぞ。あと剣とラケットが放りっぱなしだったけど、これ美緒のだろ。ついでに回収しといたぞ」
「あ、忘れてました。ありがとうございます」
屯所に戻ってから、詐欺に引っかかりそうになった事や銀行に米を撒いた事など副長にバレてしまい、こってりと絞られた。
「今日は散々だ……詐欺にひっかかりそうになるし、エイリアンに飲み込まれそうになるし、退に通帳没収されるし、副長に叱られるし……」
「自業自得だよね」
さらりと言われたそれに、返す言葉がない。
落ち込んでしまいそうな気持ちを紛らわせる為に、エイリアンから助けてくれた神楽ちゃんのお父さんの凄さについて語る事にした。
「神楽ちゃんのお父さん凄かったんだよ!エイリアンを傘で1発だよ!」
「あの人星海坊主だからね。強いだろーね」
退の言う『星海坊主』という言葉に、腕を組んで神楽ちゃんのお父さんを思い浮かべる。
「まだ髪の毛あったよ。薄らハゲ程度には」
「その坊主じゃねーよ!助けてもらったのに酷い言い草だな。美緒ちゃんも聞いた事あるだろ?星海坊主ってより、エイリアンバスターって言ったら分かる?」
「あ、聞いた事あるかも」
第1級危険生物を追い、駆除する宇宙の掃除人。
その中でも最強と謳われる掃除人で、いち掃除人でありながらあちこちの惑星国家の政府に顔がきく大物。数多の星を渡り、数多くの化け物を狩ってきた男。ついたあだ名が『星海坊主』。
生ける伝説。最強のエイリアンバスター。
「神楽ちゃんのお父さんがそうなんだ。とんでもない人に助けてもらえたんだなぁ」
夜兎は戦闘民族と聞いてはいても、恐らく目にしたのは初めて。エイリアンを傘1本で倒してしまう程の実力があったとは驚きだ。
さすが最強を謳われる事だけはある。
そこで、ふと思った。
銀河を渡り歩いてエイリアンを掃除しているという事は、家には帰っていなかったという事だろうか。
神楽ちゃんは、幼いながらにお父さんが帰って来るのを毎日、今か今かと待ち続けていたのだろうか。
もし、お母さんや兄弟がいなかったらたった1人で……
家族がいるのに。いや、家族がいたからこそ味わってしまった寂しさなのかもしれない。
最初から1人でいるのとはまた違った寂しさ。
「それはそれで寂しいよね……」
1人で待っているより、お母さんや兄弟がいて、一緒にお父さんの帰りを待っていた事を願いたい。
「なんの話?」
「神楽ちゃんの話だよ。もしかしたら神楽ちゃんは寂しい子供時代送ってたのかなって……」
人の過去を想像したところで、本人に聞いてもいない事は全て想像の範疇に過ぎない。
私が寂しかったのかと思っても、本人は寂しくないと思っていたかもしれないし、逆もまた然り。
「それは、美緒ちゃんもでしょ」
「え、私?」
思わぬ反応に目を丸くした。
「私は最初から1人だったし、1人が当たり前だったから。当たり前の事に寂しいとか悲しいとか思わないよ」
何か言いたそうに口を開いた退は、結局何も言わずに口を閉ざした。
「神楽ちゃん、お父さんと一緒に帰っちゃうのかな……それだと寂しいけど、親子って確か一緒にいた方がいいんだよね?」
「……それは、一概にも言えないんじゃない?誰と一緒にいたいのか、どうしたいのかは、チャイナさんが決める事だよ。親子は一緒にいた方がいいって決めつけるものじゃないと俺は思うけど」
「そっか、そうだよね。個人的にはここにいてほしいなぁ。もっと一緒に遊びたい」
不意に頭に乗った手。
残ってくれるといいね、と言う退に頷いて笑った。
「ヘイ、こちら真選組。何用で?」
《もしもし拙者拙者グスッ》
「拙者?誰?ていうか泣いてるの?」
《拙者だよ拙者!今ちょっと大変な事になっててグスッ泣きたい程なんだよグスッ》
「退か。退でしょ?」
《そうだよサガルだよサガル。グスッ》
珍しく屯所の電話を取ってみれば、入院して金が必要なので500万を振り込んでほしいとの事だった。
「それなら直接携帯かけてくればいいのに。どれくらい入院するの?」
《医者からはいつ退院出来るか分からねェって言われてる》
「嘘だろ……え?嘘だよね?そんな大事な事なんでもっと早く言ってくれないの!?バカなの?」
《だから、最期の頼みを聞いてくれ》
慌てて電話を切り、財布や通帳を確認してみたが、合わせても500万なんて大金には到底たりない。
あるだけ振り込むよ。待ってて!
通帳と印鑑、財布を握りしめて、大江戸信用金庫へ急いだ。
自動ドアをくぐると、体にふりかかってくる細かい物。
「ふんごォォォ!」
威勢のいい声と共に、神楽ちゃんが必死に米袋を振り回して、米を蒔きちらしている。
「神楽ちゃん!?何やってんの?」
「美緒!早く振り米ないと銀ちゃんが!銀ちゃんがブタ箱に!電話で早く振り米言ってたアル!」
米袋から米を撒く手を休めずに説明してくれるので、米が当たらないような場所に避難して聞く。
要領を得ないが、銀ちゃんが大変だという事は伝わり、米を撒くのを手伝う事にした。
「どれだけっ、撒けばっ、いいの?」
「分からないアル!でもたくさんアル!たくさん振り米したら銀ちゃん助かるネ!」
「お客様ァァァ!ちょ、何やってんのォォ!っていうかアンタ警察でしょ!?なんで一緒にやってんの!?止めてよ!」
銀行員が飛んできて注意するが、振り米を続行しながら話す。制服なので、真選組だと割れても仕方ない。
「友達が困ってる時は助けなきゃ!」
「いや、困らされてるの俺らだから!」
「きゃあああ!」
突然、悲鳴が銀行内に響き渡った。
振り米をやめてそっちを見ると、僧侶のような格好をした男が、窓口のお姉さんの首を掴みあげている。
その男の目の下は、睡眠不足なのかクマがひどい。
客は逃げ惑い、銀行員らも隅や机の影へと避難している。
「何者アルか?アイツ」
「分からない。銀行強盗かな?」
ここは、真選組の私の出番だと張り切って、手錠を差し出す。
「銀行強盗め!大人しくし……ええええ!」
内蔵的な物を口から吐き出されたと思ったら、私の首や体をいとも簡単に縛りあげていく。
「美緒ー!お前、美緒に何するネ!」
「くっ……っ、くる……」
内蔵を首から引きはがそうとするけれど、びくともしない。それどころか、余計に締まっていく。
私を助けようとした神楽ちゃんも、いとも簡単に捕まってしまった。
あの神楽ちゃんが、手も足も出ずに捕まってしまうなんて。
神楽ちゃんを助けられるのは私しかいない。
唯一自由に動く手で刀を抜くが、振り払われて飛んで行ってしまったので、ラケットを取り出した。
しかし、それも敵に奪われた上に拘束されてしまった右腕。
「お前何がしたいアルか!」
「斬りたかったの!」
急に体が床に叩きつけられた。
内蔵的なもののおかげで、体への痛みはほぼない。
今がチャンスと、腹這いで神楽ちゃんと自動ドアを目指す。
まだ内蔵らしきものが体にまとわりついているが、動けないわけではない。左腕だけでは思うように動けず、段々右目の視界も塞がり体も重くなってきた。
「さっき銀ちゃん達がいたネ」
「来てたの?気付かなかった」
私の前にいる神楽ちゃんは、自動ドアが開くなり銀ちゃんと新ちゃんの足を掴んだみたいだった。
「銀ちゃーん。ひどいヨー。なんで助けてくれないネ」
「ぎゃああああ!」
銀ちゃんと新ちゃんの叫び声が、響き渡った。
「私、美緒と一緒に銀ちゃんの為にいっぱい振り米したヨ。神父の件はどうなった?カタついたか?」
「神父の件ってなに?お前らどんな騙され方したんだオイ!」
神楽ちゃん達がそんな話をしている間に、僧侶の口からデロデロと生まれた何かに足が呑まれようとしている。
ズルズルと、エイリアンに引きずり込まれていく体。
「か、神楽ちゃん!ちょっと神楽ちゃん!私足食べられてる!」
「美緒今まで楽しかったアル。私に構わず先に逝けェェ!」
「ぐふっ……!ぐえっ!痛い痛い!ちょ、顔蹴らないで痛い!銀ちゃと新ちゃん助けてェェ!」
「無理!無理無理無理ィィ!」
「無理だって!お前もうデロデロの塊で人間の原型留めてねーよ!気味悪いって!そこまで行ったらデロデロと共存してくれよ頼むからァァ!お前なら出来るって銀さん信じてる!」
新ちゃんと銀ちゃんに見放されている間にも、とうとうお腹まで飲み込まれてしまった。
生命的危機に直面し、恐怖を通り過ぎて冷静になる自分がいた。
最後くらい退に好きって伝えたかったな……
私だけじゃなく、神楽ちゃん諸共銀ちゃんや新ちゃんも飲み込もうと、天に向けた口の上に私達を持ち上げた。
もうダメかと思ったその時、何かが頭上を通り過ぎて、体に張り付いていた内蔵的なものが引いていく。
間髪置かず背後で爆発音が轟いた。
壁に叩きつけられたエイリアンに刺さっているのは、見覚えのある傘。
傘1本だけで倒してしまったその実力に唖然となる。
「探したぞ、神楽」
振り向くと、頭から全身を布で覆って、防具を装備している人が立っていた。
「……パピー?」
「ぱ、ぱっ、パピィィィ!?」
神楽ちゃんの発言に目を丸くする。
この人が神楽ちゃんのお父さん。
お父さんは、フードを外すと神楽ちゃんに手を差しのべた。
「さァ神楽ちゃんおいで」
「いやヨ」
「来なさい。いい所連れてってあげるから」
拒否するその腕を掴み、神楽ちゃんを引きずって自動ドアに向かった。
「いいから来いってんだよ。アレだ。マロンパフェ食わしてやっから。な?」
「ちょ、離してヨ。離れて歩いてヨ」
「あ、あの!神楽ちゃんのお父さん!助けてくれてありがとうございました!」
深々と頭を下げると、振り向いて親指を立てくれた。
「美緒ー!そんな事言ってないで助けてヨー!」
神楽ちゃんの親子関係がどういうものか分からないので、安易に助けていいものなのか測り兼ねる。
神楽ちゃんが助けてと言っているので、助けるのがいいのだろうが、マロンパフェ食べさせてあげるって言ってるしな。
助けるにしても、第三者の私がどう割って入るべきなのかも思いあぐねる。
結婚式を阻止する元彼の如く、神楽ちゃんの手を引いて逃げればいいのか。はたまた、お父さんに正々堂々立ち向かって、勝負の戦利品として神楽ちゃんを助ければいいのか。
どちらにしても、お父さんが手強そうで、神楽ちゃんを助けられるようなビジョンが浮かばない。
「銀ちゃん、新ちゃん。私――」
「これは万事屋の問題だ。ここは任せな」
「そうですよ、神楽ちゃんの事は僕たちに任せてください」
銀ちゃんは私の頭に手を置くと、新ちゃんと一緒に神楽ちゃんたちを追いかけていく。
「すいません。僕もマロンパフェいいっすかねー。いやちょっと待て。やっぱフルーツパフェにしようかな?どうしよっ」
銀ちゃんたちを見送った後、息をつく。
「あ!足!ある!良かったー……」
お腹まで飲み込まれたけれど、足が無事だった事に安堵する。
座り込んで膝を労わるように摩っていると、自動ドアが開いた。
そこには、局長や副長を始めとする真選組の面々が。
「あ?てめぇ、座り込んで何してやがんだ」
「え?美緒ちゃん!?美緒ちゃんがエイリアンだったの!?」
呆れる副長と、何故かクラゲのような被り物を被って妙な勘違いをして焦っている局長。
否定しようとした瞬間、沖田隊長が私目掛けてバズーカを撃ってきた。避けきる事が出来ず、バズーカの餌食になった私は、全身ボロボロ。
「おいィィ!総悟テメー何してんだァァ!」
「近藤さんがエイリアンだって言うから。違うんですかィ?」
「どう見てもちげーだろ!」
「え!?違うの!?」
「…………」
沖田隊長と局長の発言に、言葉をなくす副長。
隊士たちに、エイリアンを回収するよう指示する副長に駆け寄る。
「副長!退の、退の入院の件聞きましたか?」
「は?山崎ならそこにいるだろ」
親指で指された方を見れば、入院しているはずの退の姿。
「退!?入院は!?体大丈夫なの!?」
退に近寄り、その体を見定めるように見るけれど、外傷1つ見当たらない。もしかして、内臓系だろうか。
「は?入院?身に覚えないんだけどっていうか、美緒ちゃんはここで何してんの?なんかボロボロだし……」
バズーカで薄汚れた私の顔を袖口で拭ってくれる背後では、他の隊士がエイリアン回収の為、それぞれ配置についていく。
電話の件を話すと、退は呆れたように肩を落とした。
「騙されたんだよ。バカだねー、ホントつくづくバカだ。て事は、今通帳持ってるよね?」
「持ってるけど……」
「俺が預かる」
その言葉に首を傾げて、理由を聞いた。
今までそんな事なかったのに。
「このままだと騙されて全額払いそうだし、金銭感覚改めるいい機会でしょ?はい、出して」
「大丈夫。これからは気を付けるから」
「信用ならない。また偽りの俺が何百万って請求してきたら疑う事なく払うだろ?」
図星なので、何も言い返せなかった。
出せ、と冷たく言われて、躊躇しながらも制服の内ポケットから通帳と印鑑を取り出して退に渡した。
「屯所に電話する思い切った詐欺師もいるんだね。疑わずに引っかかる警察もいるし……」
通帳と印鑑を内ポケットにしまいながら、呆れた物言いに謝る事しか出来なかった。
「あとね、私エイリアンに体半分食べられたの!ここまで食べられた!」
「なんでそうなったの?」
「おーい、痴話喧嘩は終わったか?戻るぞ。あと剣とラケットが放りっぱなしだったけど、これ美緒のだろ。ついでに回収しといたぞ」
「あ、忘れてました。ありがとうございます」
屯所に戻ってから、詐欺に引っかかりそうになった事や銀行に米を撒いた事など副長にバレてしまい、こってりと絞られた。
「今日は散々だ……詐欺にひっかかりそうになるし、エイリアンに飲み込まれそうになるし、退に通帳没収されるし、副長に叱られるし……」
「自業自得だよね」
さらりと言われたそれに、返す言葉がない。
落ち込んでしまいそうな気持ちを紛らわせる為に、エイリアンから助けてくれた神楽ちゃんのお父さんの凄さについて語る事にした。
「神楽ちゃんのお父さん凄かったんだよ!エイリアンを傘で1発だよ!」
「あの人星海坊主だからね。強いだろーね」
退の言う『星海坊主』という言葉に、腕を組んで神楽ちゃんのお父さんを思い浮かべる。
「まだ髪の毛あったよ。薄らハゲ程度には」
「その坊主じゃねーよ!助けてもらったのに酷い言い草だな。美緒ちゃんも聞いた事あるだろ?星海坊主ってより、エイリアンバスターって言ったら分かる?」
「あ、聞いた事あるかも」
第1級危険生物を追い、駆除する宇宙の掃除人。
その中でも最強と謳われる掃除人で、いち掃除人でありながらあちこちの惑星国家の政府に顔がきく大物。数多の星を渡り、数多くの化け物を狩ってきた男。ついたあだ名が『星海坊主』。
生ける伝説。最強のエイリアンバスター。
「神楽ちゃんのお父さんがそうなんだ。とんでもない人に助けてもらえたんだなぁ」
夜兎は戦闘民族と聞いてはいても、恐らく目にしたのは初めて。エイリアンを傘1本で倒してしまう程の実力があったとは驚きだ。
さすが最強を謳われる事だけはある。
そこで、ふと思った。
銀河を渡り歩いてエイリアンを掃除しているという事は、家には帰っていなかったという事だろうか。
神楽ちゃんは、幼いながらにお父さんが帰って来るのを毎日、今か今かと待ち続けていたのだろうか。
もし、お母さんや兄弟がいなかったらたった1人で……
家族がいるのに。いや、家族がいたからこそ味わってしまった寂しさなのかもしれない。
最初から1人でいるのとはまた違った寂しさ。
「それはそれで寂しいよね……」
1人で待っているより、お母さんや兄弟がいて、一緒にお父さんの帰りを待っていた事を願いたい。
「なんの話?」
「神楽ちゃんの話だよ。もしかしたら神楽ちゃんは寂しい子供時代送ってたのかなって……」
人の過去を想像したところで、本人に聞いてもいない事は全て想像の範疇に過ぎない。
私が寂しかったのかと思っても、本人は寂しくないと思っていたかもしれないし、逆もまた然り。
「それは、美緒ちゃんもでしょ」
「え、私?」
思わぬ反応に目を丸くした。
「私は最初から1人だったし、1人が当たり前だったから。当たり前の事に寂しいとか悲しいとか思わないよ」
何か言いたそうに口を開いた退は、結局何も言わずに口を閉ざした。
「神楽ちゃん、お父さんと一緒に帰っちゃうのかな……それだと寂しいけど、親子って確か一緒にいた方がいいんだよね?」
「……それは、一概にも言えないんじゃない?誰と一緒にいたいのか、どうしたいのかは、チャイナさんが決める事だよ。親子は一緒にいた方がいいって決めつけるものじゃないと俺は思うけど」
「そっか、そうだよね。個人的にはここにいてほしいなぁ。もっと一緒に遊びたい」
不意に頭に乗った手。
残ってくれるといいね、と言う退に頷いて笑った。