本編
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▽煉獄関
「あれ?今日ライブなの?」
「おうよ!お通ちゃんの応援しに行ってきマスクして窒息!」
親衛隊の隊服を身に纏って、新ちゃん達と待ち合わせている場所に向かう。
しかし、そこにいたのは新ちゃんだけでなく、いつぞやの万引き未遂の高屋くん。
「げっ……!お前……!」
あからさまに嫌な表情を浮かべる高屋くんに、ムッと眉根を寄せる。
「あのさー、前もそうだったけど、私見てなんでそんなに嫌そうな顔すんの?私あなたに何かした?してないよね?むしろ、逃がしてあげたよね?」
「ま、まぁまぁ。美緒ちゃん落ち着いて」
私と高屋くんの間に割って入って、私を落ち着かせようとする新ちゃんに疑問を投げる。
「なんで高屋くんがここにいるんですか?」
「えーっと、実は舞流独愚をやめて親衛隊に入ってくれる事になったんです」
新ちゃんの説明に、「しょうがねーから入ってやんだよ」と何故か上から目線で偉そうにする高屋くん。
「新ちゃんが決めた事なら何も言いませんけど……仲良くなれそうにないな……」
「俺だってテメーと仲良くする気ねーよ」
聞こえないように呟いたはずだったのに、地獄耳なのか聞こえていたらしい。
「そんな事言わないで仲良くしましょうよ」
ね?ね?と、どうにか仲を取り持とうとする新ちゃんを無視して、私と高屋くんは睨み合う。
そうこうしているうちに、時間がなくなりそうだったので、慌てて会場へと向かった。
鳥居をくぐった先には、大きなリングを囲うように観戦席が設けられている。
今回はライブじゃなくて格闘技。
元主婦・鬼子母神春菜VS戦う歌姫・ダイナマイトお通の戦いが幕をあけた。
「お通ちゃァァァん!行けェェェ!」
格闘技は興味がないしルールも分からないけれど、お通ちゃんが出るならと見に来たのだが、殴り合う姿を見て何が面白いのだろう。
楽しさが何も伝わって来ないまま、お通ちゃんを応援する。
「なーんか、あの娘は不幸になりそうな顔してるもんなー。俺前から思ってたんだよ」
そうしみじみと語る銀ちゃん。
ちなみに、神楽ちゃんは終生ちゃらんぽらんの相が出ているらしい。
「ねー銀ちゃん。私は?」
私の1段上にいる銀ちゃんの着流しの裾を軽く引っ張って、問いかける。
「美緒はー……まぁアレだ。終生締りのねー相が出てる」
「締りのないって、銀ちゃんにはあんまり言われたくないよ……」
そんな事を話していたら、神楽ちゃんは何を思ったのか急に悟り出した。
「えー、夢とはいかなるものか。持っていてもつらいし、なくても悲しい。しかしそんな茨の道さえ己の拳で切り開こうとするお前の姿……感動したぞォ!」
神楽ちゃんは急にリングへと乱入し、お通ちゃんの助太刀をすると、殺る気満々で春菜を威嚇している。
あ、これは冷めるわ……
格闘技が分からない私でも、勝負の邪魔をするような真似をされたら冷める事ぐらい分かる。
銀ちゃんと新ちゃんが、関わらないように他人のふりをして出て行こうとするので、慌てて後を追った。
「春菜ァァ!何やってんだァ!なんの為に主婦やめたんだ。刺激が欲しかったんじゃないの!?」
聞きなれた声が観衆の中から聞こえて、見上げると沖田隊長がいた。
オフでも会うなんてついてないなぁ……
沖田隊長もこちらに気付き、互いに嫌な表情を浮かべる。
鳥居に続く長い階段の1番上で、何故か沖田隊長をまじえて雑談を交わす事になった。
「俺ァ特に女子格闘技が好きでしてねィ。女どもが醜い表情で掴みあってるトコなんて爆笑もんでさァ」
「なんちゅーサディスティックな楽しみ方してんの!?」
「新ちゃん、私は沖田隊長のそういう所は長所として伸ばしていこうと考えています」
「……誰?」
「一生懸命やってる人を笑うなんて最低アル」
神楽ちゃんが珍しくいい事を言っているが、続けられた言葉に頭を抱える羽目になった。
「勝負の邪魔するよーな奴は格闘技を見る資格ないネ」
「明らかに試合の邪魔してた奴が言うんじゃねーよ」
全くだ。
沖田隊長が、面白い見せ物がある場所に連れて行ってくれると言うので、興味本位でついてきたが、なんとも治安の悪そうな場所。
ガラの悪そうな連中や浮浪者が、あちこちに陣取っているスラム街の奥。
薄暗い階段をのぼって、辿り着いた場所。
「地下闘技場?」
ここでは、表の人達は決して目にする事が出来ない面白い見せ物――
「煉獄関……ここで行われているのは、正真正銘の殺し合いでさァ」
今、まさに人が斬られ、血飛沫が舞うリング。
闘いに負けた者は、一生立ち上がる事はない。
人が真剣で斬られ殺されたというのに、わきあがる歓声。
目の前の恐怖と悍ましさに鳥肌が立ち、吐き気がして身震いする。
己を掻き抱きしゃがみこみたいのを抑え、この心理状態がばれないように、左腕を掴むだけに留める。
真選組なんだから、人の斬り合いを見ても動じちゃいけない。こんなんじゃダメだ。強くならなきゃ……私には強さがたりない……
「美緒ちゃん、大丈夫ですか?なんか顔色悪いけど」
新ちゃんが顔を覗き込んで、心配そうなそれで聞いてきた。
どうにか笑顔を作って、大丈夫と答え、沖田隊長達の会話を耳に入れる。
「下手に動けば、真選組 も潰されかねないんでね。これだから組織ってのは面倒でいけねェ。自由なアンタが羨ましいや」
「……言っとくがな。俺ァてめーらの為に働くなんざ御免だぜ」
「おかしーな。アンタは俺と同種だと思ってやしたぜ。こういうもんは虫酸が走るほど嫌いなタチだと……」
沖田隊長は、今、金棒をリングに突き立てて立っている男、煉獄関最強の闘士、鬼道丸を探れば何か出てくるかもしれないと銀ちゃんに伝える。
「心配いりませんよ。こいつァ俺の個人的な頼みで真選組は関わっちゃいねー。ここの所在は俺しか知らねーんでさァ」
口元に人差し指をあてて「だからどうかこの事は、近藤さんや土方さんには内密に……」と言う沖田隊長は、この場に相応しくない程可愛らしかった。
銀ちゃん達は、沖田隊長の依頼を引き受けて、鬼道丸を追って行った。
「バカ女、俺らは情報でも集めるとするか」
外の空気を吸って、気を取り直す。
「隊長、退に聞いてみてもいいですか?もしかしたら何か知ってるかも」
「好きにしろィ。ただし俺の見える所にいろよ」
沖田隊長の視界に入っていて、尚且つ邪魔にならない所で、退に電話をかける。
なにか分かればというのも理由にあったが、1番の理由は、声を聞きたかったからだ。
呼び出し中を告げる電子音の後、退の声に変わった。その一言だけでも、私の力を抜いてくれるには十分だった。
今電話をしても大丈夫そうなので、煉獄関について知っている事があれば教えてほしい事を告げる。
《煉獄関んん!?なんでそんな所いんの!?お通ちゃんの見に行くってそこ!?》
「お通ちゃんは違う場所だったんだけど、ちょっと色々あって、退何か知ってるの?」
《なんでそこ知ったか知らないけど、今もそこにいるなら早く離れな。美緒ちゃん死ぬよ》
退の真剣で低い声が耳に入る。
次の言葉が出てこない。
脳裏で先刻のシーンが流れる。
《手ェ出してないよね?》
首を縦に動かすが、電話だと見えないので出してないと声に出す。
《今から言うことは局長には言わないって約束出来る?》
「うん。副長にも黙ってた方がいいよね?」
《副長は知ってるよ》
「え?副長知ってるの?」
沖田隊長に伝えようと思ったけれど、彼はザコを殴り倒すので忙しそうだ。
後で伝えれば問題ないかと思い、退の言葉に耳を傾ける。
退は副長に頼まれて、ここを探った事があったらしい。
美緒ちゃんには知ってほしくなかったけど、と前置きしてから話し出した。
《天導衆って奴らがいるんだけど、将軍を傀儡に》
「オイ、バカ女。土方さんにバレた」
「え?」
そこには、煙草を咥えて立っている副長。
退に謝って電話を切った。
「オイ総悟。こんな所にコイツ連れてくるたァどういう了見だ」
「まァいいじゃないですかィ」
あっけらかんと答える沖田隊長に、副長は「良くねーから言ってんだよ」とため息をついた。
「後で総悟に話聞くとして、美緒はこの事は忘れろ。関わろうとするんじゃねーぞ」
「……はい」
きっとその方がいい。その方が自分の為でもある。
「あーらら。土方さんも随分バカ女には過保護のようで」
「そんなんじゃねーよ。総悟、テメーにも言ってんだぞ。今はその時期じゃねェ」
ここに長居するわけにもいかないので、一旦屯所に戻る事にした。私は退に連れられて自室に。
「さっきの続きは、副長から聞いた?」
「聞いてない……え、聞いていいの?」
「途中まで知ったなら最後まで知った方がいいだろ?まぁ座って」
自分の向かいに座るよう促され、大人しくそこに腰を下ろした。
「もう1度最初から話すけど、天導衆って奴らは、将軍を傀儡にしてこの国を自分勝手に作り変え、この国の実権を事実上握ってる連中なんだ。あそこは、言うなら……そうだな……ソイツらの遊び場ってとこかな」
「………遊び場?あれが?」
「幕府の配下にある俺たちが下手に動くと潰されかねない。で?誰に教えてもらったの?」
事の成り行きを話すと、退は、なんで隊長が知ってるんだろ?と呟いた。
そんな中、私は煉獄関での出来事が脳裏を駆け巡っていた。
あれを遊び場と言える神経が理解出来ない。そして、中でも1番無力な自分にも虫唾が走る。
俯いた先にある、太ももの上で握る拳が震える。
「退、私もっと強くなりたい」
「いきなりどうしたの?」
「私、煉獄関での匂いと音とか空気に吐き気がして、体が震えた。立ってるのがやっとだった……」
落ち着かせようとしてくれているのか、震えている拳の上に退の手が乗った。
「それが普通の感覚だ」
ゆっくり顔を上げて退を見れば、私の目をじっと見据えて言葉を紡いでいく。
「血の匂いに慣れちゃいけない。人が死ぬ事も殺す事も、殺される所を見る事にも慣れちゃダメだ。それらに慣れる事を強さだって言うなら、美緒ちゃんには、そんな強さ手に入れてほしくない」
「……さ、退は、慣れたの?」
「慣れてないよ。真選組にいるからって必ずしもそういうのに慣れないとダメってのはないし、慣れてもいい結果にならない事だってあるしね」
震えていた拳は、徐々に力も抜けて震えもなくなり、正常を取り戻していく。
「それ以外の強さならいくらでも付き合うからさ、一緒に強くなってこうよ」
退の言葉に、笑顔で頷く。
退は、本当に私の不安を取り除くのが上手だ。
いつも寄り添って元気をくれる退に、私は何か返せているだろうか。何か出来ているだろうか。
「退、いつもありがとね」
微笑みながら、優しく頭が撫でられた。
窓から差し込んでいたオレンジ色が、いつの間にか姿を消し、今は反対に部屋の光が外を照らしている。
いつもの屋敷とは想像出来ない程、静かな夜だ。
「この件、副長がどう出るか分からないけど、準備だけはしておいた方がいいかも」
「……うん……」
朝からしきりに降り続いている雨の日。町は鉛色に包まれている。
「コイツらをお前の部屋に連れてけ。それから、話があるんであとで土方さんの部屋に来なせェ」
呼ばれて沖田隊長の所に行けば、9人ほどの男女の子供達。みんな揃って泣いている。
子供達を自室に連れていき、退に後を任せて副長の部屋に行った。
副長と沖田隊長に挟まれ、なんとも言えない威圧感に怯みそうになる。
「……あの子達は?」
「孤児でィ。今まで面倒見ていたのが鬼道丸だったんだが、煉獄関の奴らに殺された」
「…………」
「ここで預かってやるのも無理がある。お前どっか引き取り手探せ」
「はい」
「俺ァちょいと旦那んとこ行ってきまさァ。巻き込んじまったんでねィ」
そう言いながら腰をあげた後、私を呼んだ。
「バカ女、アイツらを外に出すなよ」
「はい」
そう忠告して、隊長は去って行った。
私も自室へと引き返せば、中から聞こえてくる子供達の泣き声。
開けてみれば、思った通りの光景が目に飛び込んできた。
その傍らで退は困ったそれのまま、子供達から私に目線を移した。
私を見た途端、どこか安堵したような表情に変わったけれど、私を子守りのプロか何かだと思ったのだろうか。
だけど、退は声をかけてこなかった。それは私も同じで。何を言ったらいいか分からない。
退は、副長に呼ばれて部屋から出て行ってしまった為、本格的に1人で見ないといけなくなった。
「……ねぇ、みんな。お腹すいてない?」
魔がさしたのだろう。そんな事を口にしていた。
子供達は一瞬キョトンとしたそれを見せた後、示し合わせたかのようなタイミングで首を横に振った。
信頼し、慕っていた人をなくすのは辛いよね……
もし、退が、私を置いて先に逝ったら……
想像しただけで……怖い……
入隊初日に退がくれた、右手首にあるリストバンドを握る。くれた日からずっとつけている宝物。
あー違う違う。今1番つらいのは子供達なんだから、私が落ち込んでどうする!女は弱し、母は強しだ!
「さ、子供達よ。ジュースどれがいい?泣いたから喉乾いたでしょ?」
部屋にある私専用のミニ冷蔵庫を開けて、適当に飲み物を取り出し、戸棚にあったお菓子も適当に並べる。
「……お姉ちゃん、この人知ってる?」
泣きすぎて、少し枯れたような声に釣られて、私まで泣きそうになる。
見せられたのは、銀ちゃんの名刺。
「知ってるよ。頼めばなんでもしてくれる万事屋銀ちゃん。名刺もらったの?いいなぁ……ん?」
フルネーム今初めて知ったわ!あの人坂田さんなのか!
サーッと雨が地面を濡らす音が聞こえてきて、窓に目線を向ける。
よく降るな……
子供達が、こんなに想って泣いてるんだから、鬼道丸の仮面の下は、きっといい人だったんだろうな……
チラリと子供達の方を見れば、誰もいなかった。
あれ?いつの間に?ヤバッ!隊長に殺される!
てか、子供って窓見た隙に消える人種なの?嘘でしょ!?子育て難易度高ェ!そりゃ世の中のお母ちゃん達、てんやわんやになるわ。
まさか、あの子達……!
脳裏を過ぎった嫌な予感。
道が分かるわけないと思い直し、とりあえず屯所を探して回ったが、どこにも見当たらない。
焦りと不安が心をかき乱す。
江戸は治安が悪く、外にはワケの分からない天人や浪人がたくさんいる。雨のせいで視界も悪い。
もし、誘拐や事故に遭っていたらと思うと、気が気じゃなかった。
「な、名前……聞いとけば良かった!」
呼ぼうにも、誰1人として名前が分からないので、頼るは視覚と聴覚。
足は自然と銀ちゃんの所へ向かっていた。
雨が体を濡らしていき、重くなる。
万事屋の前まで来て、躊躇なくその戸を開けた。
「銀ちゃん!いら――」
依頼に来たと言いかけたが、その必要はなかったと安堵する。
良かった……
安心したせいか、全身から力が抜けていく感覚に、足だけはどうにか力を入れた。
挨拶してから、中へ入る。
テーブルに敷かれた風呂敷の上には、懐かしいオモチャが転がっていた。
「おいバカ女!コイツら外に出すなっつっただろィ!」
「すみません!」
私を見るなり掴みかかってくる沖田隊長を、銀ちゃんがまァいいじゃねーの。無事だったんだしと宥めてくれた。
舌打ちして乱暴に離され、反動で数歩下がる足。
「美緒遅かったアルな。迷ったアルか?」
「迷子じゃないでしょ。美緒ちゃん、今タオル出しますね」
「神楽ちゃん達も遊んでくれてたの?ありがとね。ごめんね、お邪魔しちゃって」
「あ、お姉ちゃん。勝手に出てきてごめんなさい」
1人の少女が私を見るなり寄ってきて、頭を下げてきた。それを筆頭に、ごめんなさいと謝る子供達。
そんな子供達をまとめて抱きしめる。
「無事で良かった。今度からはお姉ちゃんにも声かけてね」
「うん」
腕の中から顔を上げて、笑顔で答えてくれた子供達の頭を順番に撫でる。
初めて見る子供達の笑顔。
私が探している間に何かあったんだろうな。
新ちゃんが渡してくれたタオルを、礼を言って受け取り、濡れた髪を拭く。
「オイ、ガキ!」
銀ちゃんの声が響いた。
「これ、今流行りのドッキリマンシールじゃねーか?」
「そうだよ、レアものだよ。なんで兄ちゃん知ってるの?」
銀ちゃんの話に、男の子が食いついた。
「なんでってオメー。俺も集めてんだ。ドッキリマンシール」
銀ちゃんは立ち上がると、そのドッキリマンシールとやらに唇を寄せた。
「コイツの為ならなんでもやるぜ。後で返せっつってもおせーからな」
「兄ちゃん!」
子供達の銀ちゃんを見る目が、私を見る時と違ってキラキラ輝いているように見えて、やっぱり銀ちゃんは凄い人なんだなと改めて痛感した。
玄関に向かっていた銀ちゃんは、いつの間にか入って来ていた副長に、足止めを食らわされていた。
副長の注意も聞かず、己自身をまっすぐに貫いた魂を護る為に、煉獄関へと足を動かした。
神楽ちゃんも新ちゃんも、オモチャを手にとって銀ちゃんの後を追う。
「すまねェ土方さん。俺もまたバカなもんでさァ」
沖田隊長も、鼻眼鏡をかけて出て行く。
私もけん玉を持って、副長の前を通り過ぎようとしたら、襟首を掴まれてしまった。
「お前はコイツらと屋敷戻れ。世話人がいた方がこっちとしても安心だ」
「分かりました。じゃあこれを副長に」
持っていたけん玉を副長に譲ると、なんとも言えない微妙な表情をしてそれを見ている。
「あ、副長……気を付けて。必ず戻ってきて」
「美緒……」
「……って、退に伝えてください」
「そうだよな、期待した俺がバカだった……ガキ共頼んだぜ」
行ってらっしゃい。と告げてから、子供達と一緒に万事屋を出て屋敷に帰った。
銀ちゃんが先生の敵をとってくれると知り、さっきまでの涙なんかどこ吹く風。
外は雨なので、打って付けの場所は道場。
何もないけれど、広いので子供達は暴れ放題の遊び放題。
もっとわがままになってもいいのに、と思う程聞き分けがいい。
子供達との楽しい時間を過ごしながら、里親も探す日々。
子供達は無事、引き取り先に引き取られていった。
「あれ?今日ライブなの?」
「おうよ!お通ちゃんの応援しに行ってきマスクして窒息!」
親衛隊の隊服を身に纏って、新ちゃん達と待ち合わせている場所に向かう。
しかし、そこにいたのは新ちゃんだけでなく、いつぞやの万引き未遂の高屋くん。
「げっ……!お前……!」
あからさまに嫌な表情を浮かべる高屋くんに、ムッと眉根を寄せる。
「あのさー、前もそうだったけど、私見てなんでそんなに嫌そうな顔すんの?私あなたに何かした?してないよね?むしろ、逃がしてあげたよね?」
「ま、まぁまぁ。美緒ちゃん落ち着いて」
私と高屋くんの間に割って入って、私を落ち着かせようとする新ちゃんに疑問を投げる。
「なんで高屋くんがここにいるんですか?」
「えーっと、実は舞流独愚をやめて親衛隊に入ってくれる事になったんです」
新ちゃんの説明に、「しょうがねーから入ってやんだよ」と何故か上から目線で偉そうにする高屋くん。
「新ちゃんが決めた事なら何も言いませんけど……仲良くなれそうにないな……」
「俺だってテメーと仲良くする気ねーよ」
聞こえないように呟いたはずだったのに、地獄耳なのか聞こえていたらしい。
「そんな事言わないで仲良くしましょうよ」
ね?ね?と、どうにか仲を取り持とうとする新ちゃんを無視して、私と高屋くんは睨み合う。
そうこうしているうちに、時間がなくなりそうだったので、慌てて会場へと向かった。
鳥居をくぐった先には、大きなリングを囲うように観戦席が設けられている。
今回はライブじゃなくて格闘技。
元主婦・鬼子母神春菜VS戦う歌姫・ダイナマイトお通の戦いが幕をあけた。
「お通ちゃァァァん!行けェェェ!」
格闘技は興味がないしルールも分からないけれど、お通ちゃんが出るならと見に来たのだが、殴り合う姿を見て何が面白いのだろう。
楽しさが何も伝わって来ないまま、お通ちゃんを応援する。
「なーんか、あの娘は不幸になりそうな顔してるもんなー。俺前から思ってたんだよ」
そうしみじみと語る銀ちゃん。
ちなみに、神楽ちゃんは終生ちゃらんぽらんの相が出ているらしい。
「ねー銀ちゃん。私は?」
私の1段上にいる銀ちゃんの着流しの裾を軽く引っ張って、問いかける。
「美緒はー……まぁアレだ。終生締りのねー相が出てる」
「締りのないって、銀ちゃんにはあんまり言われたくないよ……」
そんな事を話していたら、神楽ちゃんは何を思ったのか急に悟り出した。
「えー、夢とはいかなるものか。持っていてもつらいし、なくても悲しい。しかしそんな茨の道さえ己の拳で切り開こうとするお前の姿……感動したぞォ!」
神楽ちゃんは急にリングへと乱入し、お通ちゃんの助太刀をすると、殺る気満々で春菜を威嚇している。
あ、これは冷めるわ……
格闘技が分からない私でも、勝負の邪魔をするような真似をされたら冷める事ぐらい分かる。
銀ちゃんと新ちゃんが、関わらないように他人のふりをして出て行こうとするので、慌てて後を追った。
「春菜ァァ!何やってんだァ!なんの為に主婦やめたんだ。刺激が欲しかったんじゃないの!?」
聞きなれた声が観衆の中から聞こえて、見上げると沖田隊長がいた。
オフでも会うなんてついてないなぁ……
沖田隊長もこちらに気付き、互いに嫌な表情を浮かべる。
鳥居に続く長い階段の1番上で、何故か沖田隊長をまじえて雑談を交わす事になった。
「俺ァ特に女子格闘技が好きでしてねィ。女どもが醜い表情で掴みあってるトコなんて爆笑もんでさァ」
「なんちゅーサディスティックな楽しみ方してんの!?」
「新ちゃん、私は沖田隊長のそういう所は長所として伸ばしていこうと考えています」
「……誰?」
「一生懸命やってる人を笑うなんて最低アル」
神楽ちゃんが珍しくいい事を言っているが、続けられた言葉に頭を抱える羽目になった。
「勝負の邪魔するよーな奴は格闘技を見る資格ないネ」
「明らかに試合の邪魔してた奴が言うんじゃねーよ」
全くだ。
沖田隊長が、面白い見せ物がある場所に連れて行ってくれると言うので、興味本位でついてきたが、なんとも治安の悪そうな場所。
ガラの悪そうな連中や浮浪者が、あちこちに陣取っているスラム街の奥。
薄暗い階段をのぼって、辿り着いた場所。
「地下闘技場?」
ここでは、表の人達は決して目にする事が出来ない面白い見せ物――
「煉獄関……ここで行われているのは、正真正銘の殺し合いでさァ」
今、まさに人が斬られ、血飛沫が舞うリング。
闘いに負けた者は、一生立ち上がる事はない。
人が真剣で斬られ殺されたというのに、わきあがる歓声。
目の前の恐怖と悍ましさに鳥肌が立ち、吐き気がして身震いする。
己を掻き抱きしゃがみこみたいのを抑え、この心理状態がばれないように、左腕を掴むだけに留める。
真選組なんだから、人の斬り合いを見ても動じちゃいけない。こんなんじゃダメだ。強くならなきゃ……私には強さがたりない……
「美緒ちゃん、大丈夫ですか?なんか顔色悪いけど」
新ちゃんが顔を覗き込んで、心配そうなそれで聞いてきた。
どうにか笑顔を作って、大丈夫と答え、沖田隊長達の会話を耳に入れる。
「下手に動けば、
「……言っとくがな。俺ァてめーらの為に働くなんざ御免だぜ」
「おかしーな。アンタは俺と同種だと思ってやしたぜ。こういうもんは虫酸が走るほど嫌いなタチだと……」
沖田隊長は、今、金棒をリングに突き立てて立っている男、煉獄関最強の闘士、鬼道丸を探れば何か出てくるかもしれないと銀ちゃんに伝える。
「心配いりませんよ。こいつァ俺の個人的な頼みで真選組は関わっちゃいねー。ここの所在は俺しか知らねーんでさァ」
口元に人差し指をあてて「だからどうかこの事は、近藤さんや土方さんには内密に……」と言う沖田隊長は、この場に相応しくない程可愛らしかった。
銀ちゃん達は、沖田隊長の依頼を引き受けて、鬼道丸を追って行った。
「バカ女、俺らは情報でも集めるとするか」
外の空気を吸って、気を取り直す。
「隊長、退に聞いてみてもいいですか?もしかしたら何か知ってるかも」
「好きにしろィ。ただし俺の見える所にいろよ」
沖田隊長の視界に入っていて、尚且つ邪魔にならない所で、退に電話をかける。
なにか分かればというのも理由にあったが、1番の理由は、声を聞きたかったからだ。
呼び出し中を告げる電子音の後、退の声に変わった。その一言だけでも、私の力を抜いてくれるには十分だった。
今電話をしても大丈夫そうなので、煉獄関について知っている事があれば教えてほしい事を告げる。
《煉獄関んん!?なんでそんな所いんの!?お通ちゃんの見に行くってそこ!?》
「お通ちゃんは違う場所だったんだけど、ちょっと色々あって、退何か知ってるの?」
《なんでそこ知ったか知らないけど、今もそこにいるなら早く離れな。美緒ちゃん死ぬよ》
退の真剣で低い声が耳に入る。
次の言葉が出てこない。
脳裏で先刻のシーンが流れる。
《手ェ出してないよね?》
首を縦に動かすが、電話だと見えないので出してないと声に出す。
《今から言うことは局長には言わないって約束出来る?》
「うん。副長にも黙ってた方がいいよね?」
《副長は知ってるよ》
「え?副長知ってるの?」
沖田隊長に伝えようと思ったけれど、彼はザコを殴り倒すので忙しそうだ。
後で伝えれば問題ないかと思い、退の言葉に耳を傾ける。
退は副長に頼まれて、ここを探った事があったらしい。
美緒ちゃんには知ってほしくなかったけど、と前置きしてから話し出した。
《天導衆って奴らがいるんだけど、将軍を傀儡に》
「オイ、バカ女。土方さんにバレた」
「え?」
そこには、煙草を咥えて立っている副長。
退に謝って電話を切った。
「オイ総悟。こんな所にコイツ連れてくるたァどういう了見だ」
「まァいいじゃないですかィ」
あっけらかんと答える沖田隊長に、副長は「良くねーから言ってんだよ」とため息をついた。
「後で総悟に話聞くとして、美緒はこの事は忘れろ。関わろうとするんじゃねーぞ」
「……はい」
きっとその方がいい。その方が自分の為でもある。
「あーらら。土方さんも随分バカ女には過保護のようで」
「そんなんじゃねーよ。総悟、テメーにも言ってんだぞ。今はその時期じゃねェ」
ここに長居するわけにもいかないので、一旦屯所に戻る事にした。私は退に連れられて自室に。
「さっきの続きは、副長から聞いた?」
「聞いてない……え、聞いていいの?」
「途中まで知ったなら最後まで知った方がいいだろ?まぁ座って」
自分の向かいに座るよう促され、大人しくそこに腰を下ろした。
「もう1度最初から話すけど、天導衆って奴らは、将軍を傀儡にしてこの国を自分勝手に作り変え、この国の実権を事実上握ってる連中なんだ。あそこは、言うなら……そうだな……ソイツらの遊び場ってとこかな」
「………遊び場?あれが?」
「幕府の配下にある俺たちが下手に動くと潰されかねない。で?誰に教えてもらったの?」
事の成り行きを話すと、退は、なんで隊長が知ってるんだろ?と呟いた。
そんな中、私は煉獄関での出来事が脳裏を駆け巡っていた。
あれを遊び場と言える神経が理解出来ない。そして、中でも1番無力な自分にも虫唾が走る。
俯いた先にある、太ももの上で握る拳が震える。
「退、私もっと強くなりたい」
「いきなりどうしたの?」
「私、煉獄関での匂いと音とか空気に吐き気がして、体が震えた。立ってるのがやっとだった……」
落ち着かせようとしてくれているのか、震えている拳の上に退の手が乗った。
「それが普通の感覚だ」
ゆっくり顔を上げて退を見れば、私の目をじっと見据えて言葉を紡いでいく。
「血の匂いに慣れちゃいけない。人が死ぬ事も殺す事も、殺される所を見る事にも慣れちゃダメだ。それらに慣れる事を強さだって言うなら、美緒ちゃんには、そんな強さ手に入れてほしくない」
「……さ、退は、慣れたの?」
「慣れてないよ。真選組にいるからって必ずしもそういうのに慣れないとダメってのはないし、慣れてもいい結果にならない事だってあるしね」
震えていた拳は、徐々に力も抜けて震えもなくなり、正常を取り戻していく。
「それ以外の強さならいくらでも付き合うからさ、一緒に強くなってこうよ」
退の言葉に、笑顔で頷く。
退は、本当に私の不安を取り除くのが上手だ。
いつも寄り添って元気をくれる退に、私は何か返せているだろうか。何か出来ているだろうか。
「退、いつもありがとね」
微笑みながら、優しく頭が撫でられた。
窓から差し込んでいたオレンジ色が、いつの間にか姿を消し、今は反対に部屋の光が外を照らしている。
いつもの屋敷とは想像出来ない程、静かな夜だ。
「この件、副長がどう出るか分からないけど、準備だけはしておいた方がいいかも」
「……うん……」
朝からしきりに降り続いている雨の日。町は鉛色に包まれている。
「コイツらをお前の部屋に連れてけ。それから、話があるんであとで土方さんの部屋に来なせェ」
呼ばれて沖田隊長の所に行けば、9人ほどの男女の子供達。みんな揃って泣いている。
子供達を自室に連れていき、退に後を任せて副長の部屋に行った。
副長と沖田隊長に挟まれ、なんとも言えない威圧感に怯みそうになる。
「……あの子達は?」
「孤児でィ。今まで面倒見ていたのが鬼道丸だったんだが、煉獄関の奴らに殺された」
「…………」
「ここで預かってやるのも無理がある。お前どっか引き取り手探せ」
「はい」
「俺ァちょいと旦那んとこ行ってきまさァ。巻き込んじまったんでねィ」
そう言いながら腰をあげた後、私を呼んだ。
「バカ女、アイツらを外に出すなよ」
「はい」
そう忠告して、隊長は去って行った。
私も自室へと引き返せば、中から聞こえてくる子供達の泣き声。
開けてみれば、思った通りの光景が目に飛び込んできた。
その傍らで退は困ったそれのまま、子供達から私に目線を移した。
私を見た途端、どこか安堵したような表情に変わったけれど、私を子守りのプロか何かだと思ったのだろうか。
だけど、退は声をかけてこなかった。それは私も同じで。何を言ったらいいか分からない。
退は、副長に呼ばれて部屋から出て行ってしまった為、本格的に1人で見ないといけなくなった。
「……ねぇ、みんな。お腹すいてない?」
魔がさしたのだろう。そんな事を口にしていた。
子供達は一瞬キョトンとしたそれを見せた後、示し合わせたかのようなタイミングで首を横に振った。
信頼し、慕っていた人をなくすのは辛いよね……
もし、退が、私を置いて先に逝ったら……
想像しただけで……怖い……
入隊初日に退がくれた、右手首にあるリストバンドを握る。くれた日からずっとつけている宝物。
あー違う違う。今1番つらいのは子供達なんだから、私が落ち込んでどうする!女は弱し、母は強しだ!
「さ、子供達よ。ジュースどれがいい?泣いたから喉乾いたでしょ?」
部屋にある私専用のミニ冷蔵庫を開けて、適当に飲み物を取り出し、戸棚にあったお菓子も適当に並べる。
「……お姉ちゃん、この人知ってる?」
泣きすぎて、少し枯れたような声に釣られて、私まで泣きそうになる。
見せられたのは、銀ちゃんの名刺。
「知ってるよ。頼めばなんでもしてくれる万事屋銀ちゃん。名刺もらったの?いいなぁ……ん?」
フルネーム今初めて知ったわ!あの人坂田さんなのか!
サーッと雨が地面を濡らす音が聞こえてきて、窓に目線を向ける。
よく降るな……
子供達が、こんなに想って泣いてるんだから、鬼道丸の仮面の下は、きっといい人だったんだろうな……
チラリと子供達の方を見れば、誰もいなかった。
あれ?いつの間に?ヤバッ!隊長に殺される!
てか、子供って窓見た隙に消える人種なの?嘘でしょ!?子育て難易度高ェ!そりゃ世の中のお母ちゃん達、てんやわんやになるわ。
まさか、あの子達……!
脳裏を過ぎった嫌な予感。
道が分かるわけないと思い直し、とりあえず屯所を探して回ったが、どこにも見当たらない。
焦りと不安が心をかき乱す。
江戸は治安が悪く、外にはワケの分からない天人や浪人がたくさんいる。雨のせいで視界も悪い。
もし、誘拐や事故に遭っていたらと思うと、気が気じゃなかった。
「な、名前……聞いとけば良かった!」
呼ぼうにも、誰1人として名前が分からないので、頼るは視覚と聴覚。
足は自然と銀ちゃんの所へ向かっていた。
雨が体を濡らしていき、重くなる。
万事屋の前まで来て、躊躇なくその戸を開けた。
「銀ちゃん!いら――」
依頼に来たと言いかけたが、その必要はなかったと安堵する。
良かった……
安心したせいか、全身から力が抜けていく感覚に、足だけはどうにか力を入れた。
挨拶してから、中へ入る。
テーブルに敷かれた風呂敷の上には、懐かしいオモチャが転がっていた。
「おいバカ女!コイツら外に出すなっつっただろィ!」
「すみません!」
私を見るなり掴みかかってくる沖田隊長を、銀ちゃんがまァいいじゃねーの。無事だったんだしと宥めてくれた。
舌打ちして乱暴に離され、反動で数歩下がる足。
「美緒遅かったアルな。迷ったアルか?」
「迷子じゃないでしょ。美緒ちゃん、今タオル出しますね」
「神楽ちゃん達も遊んでくれてたの?ありがとね。ごめんね、お邪魔しちゃって」
「あ、お姉ちゃん。勝手に出てきてごめんなさい」
1人の少女が私を見るなり寄ってきて、頭を下げてきた。それを筆頭に、ごめんなさいと謝る子供達。
そんな子供達をまとめて抱きしめる。
「無事で良かった。今度からはお姉ちゃんにも声かけてね」
「うん」
腕の中から顔を上げて、笑顔で答えてくれた子供達の頭を順番に撫でる。
初めて見る子供達の笑顔。
私が探している間に何かあったんだろうな。
新ちゃんが渡してくれたタオルを、礼を言って受け取り、濡れた髪を拭く。
「オイ、ガキ!」
銀ちゃんの声が響いた。
「これ、今流行りのドッキリマンシールじゃねーか?」
「そうだよ、レアものだよ。なんで兄ちゃん知ってるの?」
銀ちゃんの話に、男の子が食いついた。
「なんでってオメー。俺も集めてんだ。ドッキリマンシール」
銀ちゃんは立ち上がると、そのドッキリマンシールとやらに唇を寄せた。
「コイツの為ならなんでもやるぜ。後で返せっつってもおせーからな」
「兄ちゃん!」
子供達の銀ちゃんを見る目が、私を見る時と違ってキラキラ輝いているように見えて、やっぱり銀ちゃんは凄い人なんだなと改めて痛感した。
玄関に向かっていた銀ちゃんは、いつの間にか入って来ていた副長に、足止めを食らわされていた。
副長の注意も聞かず、己自身をまっすぐに貫いた魂を護る為に、煉獄関へと足を動かした。
神楽ちゃんも新ちゃんも、オモチャを手にとって銀ちゃんの後を追う。
「すまねェ土方さん。俺もまたバカなもんでさァ」
沖田隊長も、鼻眼鏡をかけて出て行く。
私もけん玉を持って、副長の前を通り過ぎようとしたら、襟首を掴まれてしまった。
「お前はコイツらと屋敷戻れ。世話人がいた方がこっちとしても安心だ」
「分かりました。じゃあこれを副長に」
持っていたけん玉を副長に譲ると、なんとも言えない微妙な表情をしてそれを見ている。
「あ、副長……気を付けて。必ず戻ってきて」
「美緒……」
「……って、退に伝えてください」
「そうだよな、期待した俺がバカだった……ガキ共頼んだぜ」
行ってらっしゃい。と告げてから、子供達と一緒に万事屋を出て屋敷に帰った。
銀ちゃんが先生の敵をとってくれると知り、さっきまでの涙なんかどこ吹く風。
外は雨なので、打って付けの場所は道場。
何もないけれど、広いので子供達は暴れ放題の遊び放題。
もっとわがままになってもいいのに、と思う程聞き分けがいい。
子供達との楽しい時間を過ごしながら、里親も探す日々。
子供達は無事、引き取り先に引き取られていった。