本編
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▽ふんどし仮面
「へぇ……ふんどし仮面か……」
頭を寄せ合って、新聞を見ていた退と私の目に入ってきたのが、最近巷を騒がせている下着泥棒の記事。
真っ赤なふんどしを頭に被り、ブリーフ一丁で闇を駆け、綺麗な娘の下着ばかりをかっさらい、それをモテない男たちにばら蒔いているようだ。
「美緒ちゃんは大丈夫?」
「うん。全部あ……るんだけど……私のパンツってそんなに魅力ないんだ……コソドロの目の端にも入らない程魅力ないんだ……」
一応これでも下着には気を遣っている方ではある。
いつ退に見られてもいいように、いつ退と勝負してもいいように、退の好きそうな下着の色や形に拘っている。
「あ、もしかして、盗られなかったのって退のせいなのでは?」
「あぁ、なるほど。彼氏いる子のは盗らないとか?でも、そんなのコソドロが気にするかな?」
「そうじゃなくて、私、退に見せる為に下着選んでるから、退の趣味とコソドロの趣味が合わなかったんだよ」
「……それ、俺はどんな反応すればいいの?」
「ちなみに、退はパンツ贈られてきた?」
「なかったよ」
モテないと思われなかったのか、それとも地味だから、コソドロの視界にも入らなかったのか考えていたそんな時、携帯が鳴った。
ディスプレイには、お妙ちゃんの文字。
退に一言断ってから通話ボタンを押した。
「お妙ちゃん、どうしたの?」
《美緒ちゃん、捕まえて欲しい人がいるの》
「協力したいのは山々なんだけど、ごめん。さすがに近藤さんを捕まえ――」
《違うわよ。それもあるけど、今回は下着泥棒なの。私、下着盗まれちゃって。しかも、ただの下着じゃないのよ!お気に入りの勝負パンツよ!?今思い出してもムカつくぜェェェ!》
その発言に、心にヒビが入った音がした。目の光がなくなっていくのが分かる。
お妙ちゃんの声色やキャラが違うのも気にしていられない程だ。
「あ……うん……そうなんだね……」
《美緒ちゃんも盗られたでしょ?復讐したいわよね?》
「うん……そだね……」
《じゃあお願いね。一緒にふんどし仮面倒しましょうね!》
「うん……そだね……」
規則的な電子音が耳に届き、ゆっくりと携帯を下ろす。無言で、慰めるように頭に置かれた手。
こんな身近で、綺麗な人とそれ以外の人の格差を見せつけられてしまうとは……
畳についた両手の指に、悔しさが滲み爪を立てる。
「ショック受けてる所悪いんだけど、美緒ちゃんはさ、自分のパンツを俺以外の男に触ってほしかったって事?」
「――……え?何言ってるの?」
退の言っている事が分からず、ゆっくりと顔を向ける。
「だって、そういう事だろ?盗んだパンツ、モテない男に配られてんだよ。それってつまりさ、配られた男によっては、性的に使われてる可能性もあるって事だよね?」
耳の奥で、血の気が引く音がした。
退以外の男に?私のパンツが?無理!耐えられない!
「それでも盗まれたかった?」
もう一度問われたそれに、頭が冷静になっていく。
畳に立てていた爪にも力が抜け、ゆっくりと膝に乗せた。
「退以外に触られたくない。盗まれてたら、退に顔向け出来ない所だった。盗まれなくて良かったぁ……」
ホッと安堵したのもつかの間、先程のお妙ちゃんの事が気になってきた。
「退、お妙ちゃんがパンツ盗まれたって言ってた。お妙ちゃんのパンツを性的な事に使うのは許せん!退も許せんでしょ?」
「いや、俺は別に……」
「よし、さっそくお妙ちゃんの所に行くぞ!」
「おーい、お前ら。恒道館道場集合。局長命令」
呼びに来た隊士の招集に、退と顔を見合わせて首を傾げる。
恒道館道場は、志村家だ。
そこに局長が呼び出すとは珍しい。
ちょうどお妙ちゃんにも呼ばれたところなので、その隊士と一緒に志村家へと足を向けた。
そこには、局長と副長、沖田隊長と数人の隊士、あと何故か万事屋メンバーも集まっている。
「勢揃いじゃん。お妙ちゃん愛されてんな」
「美緒ちゃん、真選組の方たちが協力してくれるって言うからお願いしちゃった」
「あ、そうなんどぅあ!?ぁぐっ……!」
話してる途中に「美緒ー!」と猪の如くタックルを横腹に決められ、突然の事に踏ん張る事も受け止める事も出来ず、吹き飛ばされてしまった。
「美緒もパンツ盗られたアルかー!?」
横腹に突っ込んできた犯人、神楽ちゃんが倒れている私に馬乗りになって、胸ぐらを掴んで前後に揺さぶってくる。
「あの、ちょ、かぐ――」
脳が揺れる。
「盗られたんだな!?姐御!美緒もパンツ盗られた言ってるヨ!やっぱり下着ドロは女の敵アル!」
「私の分だけでなく美緒のまで!ムカつくぜェ!私たちのパンツ盗んだ犯人からパンツを取り返して血祭りにするわよ!」
「オウ姐御!」
盗まれていないと言う余力もなく、私の上でそんな会話がなされている。
漸く解放されるが、もう既に満身創痍のまま話し合いに参加する事になった。
お妙ちゃんのパンツを取り返そうとするのに、何故真選組までいるかというと、局長は勿論お妙ちゃんのパンツを盗む輩を許せないという思い、それに加え、副長にパンツを送りつけた復讐の為、加勢する事になったのだそうだ。
副長は、クールな外見をしているのでモテそうではあるが、ふんどし仮面からは、モテなさそうだと判断を受けてしまったらしい。
もしかしたら、瞳孔が開いているのと、マヨネーズの摂取量が常人を超えているのが原因なのかもしれない。
そして、『第35回!チキチキふんどし仮面を捕まえろ大作戦』改め『ドキ!女だらけのふんどし仮面を捕まえろ大作戦』を決行する事に。
「いいかー。相手はパンツの量より娘の質を求めてる真性の変態だ。だからまた必ずここに忍び込んでくる。そこを叩く。ふんどし仮面だかパンティー仮面だか知らねーが、乙女の純情と漢の誇りを踏みにじったその所業許し難し。白ブリーフを鮮血に染めあげてやるぞ!」
「オオォォ!」
軒下にぶら下がっているお妙ちゃんのパンツをバックにして、そう呼びかける銀ちゃんに、全員が腕を天に突き上げ、士気を高める。
沖田隊長が、城から持ち出したという地雷を庭に埋めていく。
「いいなぁ鎧。私も着たい」
副長に言われて鎧を身に付けている退に、羨望の目を向ける。
「これ暑いし重いし動きにくいよ」
「だろうね。それに微妙にうるさい」
退が動く度に、ガシャンガシャンと音が鳴るのが耳障りだけれど、鎧なんて普段着ることもないので、興味本位で着てみたいだけなのだ。
退は鎧の重さに慣れる為か、歩きながらラケットを振っているが、時々バランスを崩しては倒れている。
しかも厄介な事に1人では起き上がれないらしく、手助けが必要なのでそばにいないといけない。
地雷を埋めていると影が差し、見上げると同時に名前を呼ばれた。
「すっかり忘れてたが、テメーはまだ謹慎解けてねぇよなァ?まだあと3日残ってるよなァ?」
「あ、そうじゃん。私も忘れてました」
当然のように屋敷から出てきてしまったが、副長の言う通りまだ謹慎は解けていない。
このままだと帰れと命令されかねない。立ち上がって、副長を見上げる。
「それでも、私はここに残って変態仮めいっ!」
「うわァァァ!」
「何やってんだお前ら……」
背後から、ガシャンと音を立てて倒れてきた退の下敷きになった私は、為す術なく苦しさに息をするので精一杯。しかも、喋っている最中だったので、倒れた拍子に少し舌を噛んでしまった。
「ふく、ちょ……たすはぁっ……くっ……ぐふっ」
「副長助けてください!起き上がれない!」
副長に助けを求める私の上で、退がどうにか起き上がろうと動く度に、私の背骨や肩甲骨がゴリゴリと悲鳴をあげ、内蔵が圧迫されていく。
副長に助けてもらったのか、背中が突然軽くなった。
漸く息を吐き出せたが、突然入ってきた酸素に肺が驚いたのか咳が出る。
「美緒ちゃん大丈夫?ごめん」
「だ、だいじょー……ごほっ!ごふぉ、ごほ、ゲホゲホ!」
「大丈夫じゃないな、これ」
「美緒、まだ謹慎残ってるが今日は特別に許可してやる。ちゃんと見張れよ。俺のこの屈辱を晴らす為にな」
少し抜いた刀を鈍く光らせて、脅しめに言い残し去って行った。
あれだけ明るかった江戸も、今では月と星が穏やかに照らしている。
昼の間に庭に地雷も埋めて、恒道館道場は新たな要塞と化し、対策は完璧だ。
軒下で、洗濯ばさみに挟まれぶら下がっているお妙ちゃんの下着は、風に揺れている。
まるで誘っているかのように。
結局、真選組総出でふんどし仮面を捕まえる事になった。それぞれの持ち場につき、あとはふんどし仮面が来るのを待つのみ。
夏の夜という事もあり、暑い上に蚊が飛び交い、虫の鳴き声も聞こえてくる。
私達は、いつ上から現れてもいいように、屋根の上で待機をする事に。
「蚊多くない?プンプンプンプンうるさい」
「俺鎧着てるから無敵」
確かに、その装備だと蚊に刺される事はないだろう。
羨ましく思っていると、下から爆発音が聞こえてきた。
庭を見ようとするが、屋根が邪魔で上手く見えない。
庭には、万事屋さんとお妙ちゃん、局長と副長、沖田隊長が待機しているはずだ。
何が起こったか分からないけれど、変態仮面が現れたのだろうか。
「地雷爆発したような音したよね?」
「うん」
「アハハハハハ!」
静かな夜の町に、高らかな笑いが響き渡った。
「滑稽だ!滑稽だよお前ら!」
屋根の上には、待ち続けたふんどし仮面が腕を組んで立っている。
「パンツのゴムに導かれ、今宵も駆けよう漢・浪漫道!怪盗 フンドシ仮面見参!」
「最悪だァァァ!最悪のタイミングで出て来やがったァァ!」
新ちゃんの絶望的な叫びに、さっき爆発したのは変態仮面のせいではなかった事が窺える。
「アッハッハッ。なんだか俺の為に色々用意してくれていたよーだが、無駄に終わったよーだな!こんな子供だましに俺が引っかかるとでも?天下の義賊ふんどし仮面も甘く見られたものよ。そこで指を咥えて見ているがいい。己のパンツが変態の手に渡るその瞬間を!」
屋根を駆け下りようと踏み出した瞬間、待ち構えていた私たち隊士が変態仮面を取り囲み、行く手を阻んだ。
「こんな時の為にってやつだ」
得意そうに呟く副長。
ふんどし仮面が踵を返した後ろには私と退。真選組に囲まれ、身構えるふんどし仮面。
「やっちまえー山崎ィ!美緒!」
「了解、副長」
「ガッテンでさァ副長」
意気揚々とラケットを強く握って立ち向かおうとした瞬間、上げていた目の覆いが落ちてきたのか、退がわたわたし始めた。
「ちょっと退、何やってんの!」
これでは密かに打ち合わせていたフォーメーションAが出来ない。
「ま、前が!ギャアアアア!」
「ちょ、え!嘘ォォォ!?」
私だけでも行くか、と踏み出した途端、無闇に動き回っていた退に腕を掴まれた。
踏ん張っていた足も瓦にとられ、退諸共みな道連れとなり、屋根の上にいた隊士全員が雪崩落ちた。
その先には勿論地雷が埋められており、隊士が落ちる度に爆発し自滅。
しかし、ふんどし仮面は巻き込めなかったようで。
「なにやってんだアイツらァァ!」
遠くから、副長の怒鳴り声が聞こえてくる。その後に続いて爆発音。
体が地面に打ち付けられ、爆発も手伝って目の前が真っ暗になった。
その後の副長の話によると、結局、変態仮面はお妙ちゃんの手によって制裁を受けたらしい。
「副長は復讐出来ました?」
「あの犯人総悟だったわ」
舌打ちし、あの野郎と忌々しく呟いたのだった。
「へぇ……ふんどし仮面か……」
頭を寄せ合って、新聞を見ていた退と私の目に入ってきたのが、最近巷を騒がせている下着泥棒の記事。
真っ赤なふんどしを頭に被り、ブリーフ一丁で闇を駆け、綺麗な娘の下着ばかりをかっさらい、それをモテない男たちにばら蒔いているようだ。
「美緒ちゃんは大丈夫?」
「うん。全部あ……るんだけど……私のパンツってそんなに魅力ないんだ……コソドロの目の端にも入らない程魅力ないんだ……」
一応これでも下着には気を遣っている方ではある。
いつ退に見られてもいいように、いつ退と勝負してもいいように、退の好きそうな下着の色や形に拘っている。
「あ、もしかして、盗られなかったのって退のせいなのでは?」
「あぁ、なるほど。彼氏いる子のは盗らないとか?でも、そんなのコソドロが気にするかな?」
「そうじゃなくて、私、退に見せる為に下着選んでるから、退の趣味とコソドロの趣味が合わなかったんだよ」
「……それ、俺はどんな反応すればいいの?」
「ちなみに、退はパンツ贈られてきた?」
「なかったよ」
モテないと思われなかったのか、それとも地味だから、コソドロの視界にも入らなかったのか考えていたそんな時、携帯が鳴った。
ディスプレイには、お妙ちゃんの文字。
退に一言断ってから通話ボタンを押した。
「お妙ちゃん、どうしたの?」
《美緒ちゃん、捕まえて欲しい人がいるの》
「協力したいのは山々なんだけど、ごめん。さすがに近藤さんを捕まえ――」
《違うわよ。それもあるけど、今回は下着泥棒なの。私、下着盗まれちゃって。しかも、ただの下着じゃないのよ!お気に入りの勝負パンツよ!?今思い出してもムカつくぜェェェ!》
その発言に、心にヒビが入った音がした。目の光がなくなっていくのが分かる。
お妙ちゃんの声色やキャラが違うのも気にしていられない程だ。
「あ……うん……そうなんだね……」
《美緒ちゃんも盗られたでしょ?復讐したいわよね?》
「うん……そだね……」
《じゃあお願いね。一緒にふんどし仮面倒しましょうね!》
「うん……そだね……」
規則的な電子音が耳に届き、ゆっくりと携帯を下ろす。無言で、慰めるように頭に置かれた手。
こんな身近で、綺麗な人とそれ以外の人の格差を見せつけられてしまうとは……
畳についた両手の指に、悔しさが滲み爪を立てる。
「ショック受けてる所悪いんだけど、美緒ちゃんはさ、自分のパンツを俺以外の男に触ってほしかったって事?」
「――……え?何言ってるの?」
退の言っている事が分からず、ゆっくりと顔を向ける。
「だって、そういう事だろ?盗んだパンツ、モテない男に配られてんだよ。それってつまりさ、配られた男によっては、性的に使われてる可能性もあるって事だよね?」
耳の奥で、血の気が引く音がした。
退以外の男に?私のパンツが?無理!耐えられない!
「それでも盗まれたかった?」
もう一度問われたそれに、頭が冷静になっていく。
畳に立てていた爪にも力が抜け、ゆっくりと膝に乗せた。
「退以外に触られたくない。盗まれてたら、退に顔向け出来ない所だった。盗まれなくて良かったぁ……」
ホッと安堵したのもつかの間、先程のお妙ちゃんの事が気になってきた。
「退、お妙ちゃんがパンツ盗まれたって言ってた。お妙ちゃんのパンツを性的な事に使うのは許せん!退も許せんでしょ?」
「いや、俺は別に……」
「よし、さっそくお妙ちゃんの所に行くぞ!」
「おーい、お前ら。恒道館道場集合。局長命令」
呼びに来た隊士の招集に、退と顔を見合わせて首を傾げる。
恒道館道場は、志村家だ。
そこに局長が呼び出すとは珍しい。
ちょうどお妙ちゃんにも呼ばれたところなので、その隊士と一緒に志村家へと足を向けた。
そこには、局長と副長、沖田隊長と数人の隊士、あと何故か万事屋メンバーも集まっている。
「勢揃いじゃん。お妙ちゃん愛されてんな」
「美緒ちゃん、真選組の方たちが協力してくれるって言うからお願いしちゃった」
「あ、そうなんどぅあ!?ぁぐっ……!」
話してる途中に「美緒ー!」と猪の如くタックルを横腹に決められ、突然の事に踏ん張る事も受け止める事も出来ず、吹き飛ばされてしまった。
「美緒もパンツ盗られたアルかー!?」
横腹に突っ込んできた犯人、神楽ちゃんが倒れている私に馬乗りになって、胸ぐらを掴んで前後に揺さぶってくる。
「あの、ちょ、かぐ――」
脳が揺れる。
「盗られたんだな!?姐御!美緒もパンツ盗られた言ってるヨ!やっぱり下着ドロは女の敵アル!」
「私の分だけでなく美緒のまで!ムカつくぜェ!私たちのパンツ盗んだ犯人からパンツを取り返して血祭りにするわよ!」
「オウ姐御!」
盗まれていないと言う余力もなく、私の上でそんな会話がなされている。
漸く解放されるが、もう既に満身創痍のまま話し合いに参加する事になった。
お妙ちゃんのパンツを取り返そうとするのに、何故真選組までいるかというと、局長は勿論お妙ちゃんのパンツを盗む輩を許せないという思い、それに加え、副長にパンツを送りつけた復讐の為、加勢する事になったのだそうだ。
副長は、クールな外見をしているのでモテそうではあるが、ふんどし仮面からは、モテなさそうだと判断を受けてしまったらしい。
もしかしたら、瞳孔が開いているのと、マヨネーズの摂取量が常人を超えているのが原因なのかもしれない。
そして、『第35回!チキチキふんどし仮面を捕まえろ大作戦』改め『ドキ!女だらけのふんどし仮面を捕まえろ大作戦』を決行する事に。
「いいかー。相手はパンツの量より娘の質を求めてる真性の変態だ。だからまた必ずここに忍び込んでくる。そこを叩く。ふんどし仮面だかパンティー仮面だか知らねーが、乙女の純情と漢の誇りを踏みにじったその所業許し難し。白ブリーフを鮮血に染めあげてやるぞ!」
「オオォォ!」
軒下にぶら下がっているお妙ちゃんのパンツをバックにして、そう呼びかける銀ちゃんに、全員が腕を天に突き上げ、士気を高める。
沖田隊長が、城から持ち出したという地雷を庭に埋めていく。
「いいなぁ鎧。私も着たい」
副長に言われて鎧を身に付けている退に、羨望の目を向ける。
「これ暑いし重いし動きにくいよ」
「だろうね。それに微妙にうるさい」
退が動く度に、ガシャンガシャンと音が鳴るのが耳障りだけれど、鎧なんて普段着ることもないので、興味本位で着てみたいだけなのだ。
退は鎧の重さに慣れる為か、歩きながらラケットを振っているが、時々バランスを崩しては倒れている。
しかも厄介な事に1人では起き上がれないらしく、手助けが必要なのでそばにいないといけない。
地雷を埋めていると影が差し、見上げると同時に名前を呼ばれた。
「すっかり忘れてたが、テメーはまだ謹慎解けてねぇよなァ?まだあと3日残ってるよなァ?」
「あ、そうじゃん。私も忘れてました」
当然のように屋敷から出てきてしまったが、副長の言う通りまだ謹慎は解けていない。
このままだと帰れと命令されかねない。立ち上がって、副長を見上げる。
「それでも、私はここに残って変態仮めいっ!」
「うわァァァ!」
「何やってんだお前ら……」
背後から、ガシャンと音を立てて倒れてきた退の下敷きになった私は、為す術なく苦しさに息をするので精一杯。しかも、喋っている最中だったので、倒れた拍子に少し舌を噛んでしまった。
「ふく、ちょ……たすはぁっ……くっ……ぐふっ」
「副長助けてください!起き上がれない!」
副長に助けを求める私の上で、退がどうにか起き上がろうと動く度に、私の背骨や肩甲骨がゴリゴリと悲鳴をあげ、内蔵が圧迫されていく。
副長に助けてもらったのか、背中が突然軽くなった。
漸く息を吐き出せたが、突然入ってきた酸素に肺が驚いたのか咳が出る。
「美緒ちゃん大丈夫?ごめん」
「だ、だいじょー……ごほっ!ごふぉ、ごほ、ゲホゲホ!」
「大丈夫じゃないな、これ」
「美緒、まだ謹慎残ってるが今日は特別に許可してやる。ちゃんと見張れよ。俺のこの屈辱を晴らす為にな」
少し抜いた刀を鈍く光らせて、脅しめに言い残し去って行った。
あれだけ明るかった江戸も、今では月と星が穏やかに照らしている。
昼の間に庭に地雷も埋めて、恒道館道場は新たな要塞と化し、対策は完璧だ。
軒下で、洗濯ばさみに挟まれぶら下がっているお妙ちゃんの下着は、風に揺れている。
まるで誘っているかのように。
結局、真選組総出でふんどし仮面を捕まえる事になった。それぞれの持ち場につき、あとはふんどし仮面が来るのを待つのみ。
夏の夜という事もあり、暑い上に蚊が飛び交い、虫の鳴き声も聞こえてくる。
私達は、いつ上から現れてもいいように、屋根の上で待機をする事に。
「蚊多くない?プンプンプンプンうるさい」
「俺鎧着てるから無敵」
確かに、その装備だと蚊に刺される事はないだろう。
羨ましく思っていると、下から爆発音が聞こえてきた。
庭を見ようとするが、屋根が邪魔で上手く見えない。
庭には、万事屋さんとお妙ちゃん、局長と副長、沖田隊長が待機しているはずだ。
何が起こったか分からないけれど、変態仮面が現れたのだろうか。
「地雷爆発したような音したよね?」
「うん」
「アハハハハハ!」
静かな夜の町に、高らかな笑いが響き渡った。
「滑稽だ!滑稽だよお前ら!」
屋根の上には、待ち続けたふんどし仮面が腕を組んで立っている。
「パンツのゴムに導かれ、今宵も駆けよう漢・浪漫道!怪盗 フンドシ仮面見参!」
「最悪だァァァ!最悪のタイミングで出て来やがったァァ!」
新ちゃんの絶望的な叫びに、さっき爆発したのは変態仮面のせいではなかった事が窺える。
「アッハッハッ。なんだか俺の為に色々用意してくれていたよーだが、無駄に終わったよーだな!こんな子供だましに俺が引っかかるとでも?天下の義賊ふんどし仮面も甘く見られたものよ。そこで指を咥えて見ているがいい。己のパンツが変態の手に渡るその瞬間を!」
屋根を駆け下りようと踏み出した瞬間、待ち構えていた私たち隊士が変態仮面を取り囲み、行く手を阻んだ。
「こんな時の為にってやつだ」
得意そうに呟く副長。
ふんどし仮面が踵を返した後ろには私と退。真選組に囲まれ、身構えるふんどし仮面。
「やっちまえー山崎ィ!美緒!」
「了解、副長」
「ガッテンでさァ副長」
意気揚々とラケットを強く握って立ち向かおうとした瞬間、上げていた目の覆いが落ちてきたのか、退がわたわたし始めた。
「ちょっと退、何やってんの!」
これでは密かに打ち合わせていたフォーメーションAが出来ない。
「ま、前が!ギャアアアア!」
「ちょ、え!嘘ォォォ!?」
私だけでも行くか、と踏み出した途端、無闇に動き回っていた退に腕を掴まれた。
踏ん張っていた足も瓦にとられ、退諸共みな道連れとなり、屋根の上にいた隊士全員が雪崩落ちた。
その先には勿論地雷が埋められており、隊士が落ちる度に爆発し自滅。
しかし、ふんどし仮面は巻き込めなかったようで。
「なにやってんだアイツらァァ!」
遠くから、副長の怒鳴り声が聞こえてくる。その後に続いて爆発音。
体が地面に打ち付けられ、爆発も手伝って目の前が真っ暗になった。
その後の副長の話によると、結局、変態仮面はお妙ちゃんの手によって制裁を受けたらしい。
「副長は復讐出来ました?」
「あの犯人総悟だったわ」
舌打ちし、あの野郎と忌々しく呟いたのだった。