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▽土方さんと
「近藤さん、気のせいか?女が混ざってるように見えるんだが……」
「気のせいじゃないな。混ざってるな」
真選組の新隊士を募ってみれば、男の中に混ざっている1人の女。
履歴書の束の中にもいる女の名前。
ここは特殊武装警察、真選組。
今日明日最期になるともしれねェところに、よく入ろうと思ったもんだ。
「内田美緒……あの女、ここがどこだか分かってんのか。女中ならまだしも隊士って……あんなの入れた所ですぐ死ぬだろ。人件費の無駄だ。不採用」
「いや、見ろよトシ。結構粘ってるぞ」
今は女の番らしい。
竹刀を手に、自分より大きな男に威勢よく立ち向かっている。
「なんだアレ。めちゃくちゃじゃねェか」
どこで教わったのか知らないが、型も何もあったもんじゃない。
次どう来るのか読めないのは強みだとは思うが、ただそれだけ。足りないものだらけだ。
竹刀がぶつかる子気味いい音が響く中、竹刀が女の頭を叩いた。その勢いで床に叩きつけられる。
「1本」
「よし。次来い」
すぐに立ち上がり、竹刀を構えてそう言う女。
「いや、よしじゃねーよ。負けたの君だから。次の人と交代して」
「私負けてません。まだやれます」
「負けたんだって。次詰まってるから早く代われ」
「いいねェ。可愛いツラして結構根性あるじゃないか」
腕を組んで称賛する近藤さん。
根性があろうと負けず嫌いだろうと、諦めが悪かろうとそんなのは関係ねェ。
「いや、不採用だ。田舎にお帰り願おう」
「いいと思うけどなァ、彼女。剣なんて鍛えりゃどうにでもなるだろ」
「アイツのどこを気に入ったのか知らねェがな、この仕事は女に務まるようなもんじゃねェ。俺らの仕事は人斬りだ。敵は勿論、仲間でさえ隊規違反を犯した奴は俺らの手で粛清する。そんな血塗れの中に置いたところでどうなる。泣いて逃げ出すか、白刃の下で震えて殺されるのがオチだ」
「要は、あの子にはこの道に来て欲しくないと、まっとうに生きてほしいと、心配しているワケか」
近藤さんの発言に、咥えていたタバコを落としそうになった。
「はァ!?そうは言ってねーだろ!何聞いてたんだ!女にこの仕事は無理だっつってんだよ!心配なんか微塵もしてねェ!あの女がどうなろーが知ったこっちゃねーよ!」
「トシはなんだかんだで優しいからなァ」
「いや、だから……」
何に納得しているのか、うんうんと頷いている近藤さんに反論しようとしたが、聞く耳を持ってくれないだろう。なので、言葉ではなくため息を返す事にした。
「そこまで言うなら、トシが直接揉んでやったらどうだ?その方が入れた時納得もするだろ」
「なんで俺が。あんなガキに構ってる程暇じゃねェぞ」
「言っとくが、揉むって胸じゃないぞ」
真顔でそう訂正されて「分かっとるわ!」と強く一蹴する。
「でもさァ、トシ。ここが真選組だと分かった上で、わざわざここまで来てんだぞ。女だからと不採用で追い返したところでだ、彼女がはいそーですかって大人しく帰ると思うか」
「…………」
「俺は彼女、生き残りそうな気がするんだよ。見てる限り気骨もあるしな」
ため息すら出ない。
あの女は研修期間中に逃げ出すかと思ったが、厄介な事にまだ居座っている。
真選組に入隊したいという輩は何人も見てきたが、半分以上は研修について行けずに逃げ出してしまう。
今回も、既に3分の1は脱落する中まだ残っている。
何がそんなにこの女を駆り立てるのか。
「内田美緒です。よろしくお願いします」
間者や密偵などを警戒する為の面接。
俺の前に座った女を見て、持っている履歴書に目を通す。
どこか組織から送られてきたようには見えないが、履歴書だけでは分からない。
「不採用。田舎に帰れ」
「いきなりですか!面接してください!」
「そもそもここ男しか――」
「男だったらいいんですか。あるものとってないものつけたら満足ですか」
「満足とかそういう問題じゃねェ。だいたいお前みたいなガキが来ていい場所じゃねェんだよ。話は終わりだ。帰れ」
「嫌です。私は確かに女です。男に劣る事も知ってます。でも強くなりたい。他の所で強くなっても意味がないんです。真選組じゃないとダメなんです。私は、護れるものも護れない女にはなりたくないんです。お願いします。切り捨てないで面接してください」
お願いします、と畳に額を擦りつけて頭をさげる女に、帰れと突っぱねるが、女は頑として諦める様子はない。
俺も意地になって追い返そうとするが、お願いしますしか返ってこず、ずっと頭を下げている。
その態度に呆れ、負けたのは俺の方。
面接を始めると言えば、女は頭をあげて嬉しそうに笑ったのだ。そして、ありがとうございますと再び頭をさげる。
護れるものも護れない女……そこまで、この女に言わせるものは一体なんだ。
「じゃあなんでここに入ろうと思ったんですか?さっき言ってた、真選組じゃないとダメな理由を教えてください」
「山崎退がいるからです」
座っているのにずっこけそうになった。
「は?なんて?お前、今なんつった?」
「ここに山崎退いますよね?彼を追っかけてきました。山崎は私が護ります」
「…………は?」
咥えていたタバコが落ち、慌てて拾う。
山崎退?監察の山崎か?護る?お前が?そんな筋肉もなさそうなほっせェ腕で?
「ちょっと待て。ふざけてんのか。この真選組は遊び場じゃねェ。敵もお前が思ってるより厄介で強い連中ばっかだ。護りたいと思っても護りきれねェなんてザラにある。お前に山崎を護るのは無理だ。諦めて田舎に帰れ」
「嫌です」
「目の前で山崎が死んだらどうする?そういうのも想定して言ってんだろうな」
目の色が変わった。
瞳孔が開き、怒りに満ちたそれには少しの殺気が混ざっている。
「山崎が殺されたら、仇討ちの他に何がありますか?」
さっきの雰囲気とはまるで違う事に、らしくもなく試したくなった。
普段と、山崎が絡んだ時の力の違いを――
違うのが雰囲気だけなら、コイツがどう言おうが真選組にはいらない。
ソイツの前に竹刀を投げ渡した。
「俺が山崎を殺したって言ったら?」
「……退を、殺した?お前が?」
更に強く纏われた殺気。眼光鋭く睨み上げてくる。
「殺してやる!」
「いいね、殺す気で来い」
駆け出して、振り下ろされた竹刀が思った以上に重い。それを受け止めて弾いた。すぐに反撃をしてくる竹刀は、やはり見た時と同じで先が読めない。
動きも、次どう出てくるのかも分からない。
竹刀をぶつけていたと思えば、脚が顔目掛けて飛んできた。腕でガードすれば、体勢をすぐに戻して俺の竹刀を掴んで距離が縮められ、腹に入ってきた足。一瞬息が詰まった。
なんだ?コイツ体術の方が得意なのか?
足首を掴めば、腹筋を使って勢いよく起き上がってきて、食らわされた頭突き。少し足をよろめかせれば、その隙をついて蹴られた顔。
対戦場所も、和室から庭へと追い出されるように移動した。
女は、地面に両手をつくと後ろに飛び退いて、勢いをつけて向かってくる。
休む暇もなく繰り出される攻撃。手加減して反撃もしていないとはいえ、受けるので精一杯だ。
竹刀を持って飛びかかってきたそれを受けようとしたが、振り下ろされたのは竹刀ではなく拳。
横っ面を殴られたのが最後。どこから力が出ているのか、竹刀や拳に脚を使って連撃を食らわせてくる。
「分かった!もう分かった!一旦やめよう!」
「は?お前が死ぬまでやめねーよ。早く死ね」
低く威圧のある声で言いながら攻撃を止めない女。本気を出して抑えにかかる。
立ち向かってくるソイツを翻して地面に叩きつけ、背中に回した手首に手錠をかけた。
「離せコノヤロー!ぶっ殺してやる!」
威勢のいい口も、猿轡をかまして大人しくさせる。
何やら叫んでいるが、猿轡が声を吸収してくれるお陰でだいぶ静かだ。
暴れるソイツを小脇に抱えて部屋に戻る。
「これ、どうやったら元に戻るんだ?」
畳に転がせば、こっちを睨み付けると立ち上がり、足を上げて蹴る体勢に入った。
「しつっっけェェ!」
背中に肘鉄を落とすとそのまま畳に伏せて、ピクリとも動かなくなった。
漸く動きが止まって安堵する。
まるで猪のような女だ。
「マジで殺すまで追ってくんぞコイツ……どうなってんだ」
このまま置いておくのも体裁が悪いので、仕方なく解錠し猿轡も外して布団に寝かせた。
山崎の事になると我を忘れるらしい。
強さや素早さも格段にあがっている。
それを普段の戦闘でも出せたら1番だろうが、恐らく無自覚だ。ただ怒り任せに竹刀や体を操っているに過ぎない。
どうしたもんか、と紫煙を吐き出した。
暫く経って起きてきたので、面接の続きをする。
寝てしまった事を謝っているが、寝る前の記憶は曖昧のようだ。
二重人格だろうがなんだろうが、その事について深く掘り下げる事はしなかった。
「ウチは、真選組なんて名乗っちゃいるが言わば人斬りだ。恨みも買いやすい。入隊したら今日明日誰に殺されるともしれねェ日を送る事になるが、それでもいいのか?」
「私を殺せるのは山崎退だけです。他の人に私は殺せません」
「そういう意味じゃなくて、死ぬ覚悟は出来てんのかって聞いてんだよ」
「山崎に殺されるなら本望です」
「山崎山崎うっせェェェ!どんだけ山崎中心の生活送ってんだテメーは!おめーを殺すのは山崎じゃねェ!どこの馬の骨とも知らねェ野郎だよ!」
きょとんとしていた女は、そういう事ですかと呟いた後、ふわりと笑った。
「そうなった時は、山崎の腕の中で死にたいですね」
「……あ、そう……」
質疑応答が成立しているのかいないのか分からないこの面接を、早々に切り上げる事にした。
あの女と話していると頭が痛くなるのは、どういう事だろうか。
帰れと言っても帰ろうとしないし断る方が骨が折れるので、渋々ではあるが入隊を許可した。
こうなったら山崎と共に早めに死んでもらおう。
あの女は基礎も何も出来ていない為、基礎を叩き込むことから始めなければならない。
あの研修は乗り切ったけれど正直ギリギリもいい所。
「内田、お前はまず任務だなんだの前に基礎体力を身に付けろ。今のお前は足りてねェ部分が多過ぎる」
基礎トレーニングを纏めた紙を渡せば「おおう……」と間抜けな声を出し、なんとも言えない表情を浮かべた。
「お前に文句言う権利ねェぞ。ちゃんとやれよ」
「はい、頑張ります!」
さっきの表情から一変。やる気に満ちたそれに変わった。
「それに加えて、過去の事件資料にも目ェ通して監察としての基礎も身に付けて、俺の資料整理や雑用も手伝え」
「はい」
泣き言も文句の一つも言わずにここ最近ずっとトレーニングに励み、言われた事をこなしている。
様子を見に行った道場では、山崎が腹筋の手伝いをしているみたいだった。
腹筋の目標回数をこなせたようで、仰向けのまま起き上がってこない内田。足元から横に移動して、その頭を撫でる山崎の目が優しくなり、内田の事がどれだけ大事なのかが見て取れた。
内田といい、山崎といい、呆れた奴らだ。
2人に声をかける事もせず、その場から立ち去った。
――愛なんて、幻想に過ぎないと思っていたがな……
「近藤さん、気のせいか?女が混ざってるように見えるんだが……」
「気のせいじゃないな。混ざってるな」
真選組の新隊士を募ってみれば、男の中に混ざっている1人の女。
履歴書の束の中にもいる女の名前。
ここは特殊武装警察、真選組。
今日明日最期になるともしれねェところに、よく入ろうと思ったもんだ。
「内田美緒……あの女、ここがどこだか分かってんのか。女中ならまだしも隊士って……あんなの入れた所ですぐ死ぬだろ。人件費の無駄だ。不採用」
「いや、見ろよトシ。結構粘ってるぞ」
今は女の番らしい。
竹刀を手に、自分より大きな男に威勢よく立ち向かっている。
「なんだアレ。めちゃくちゃじゃねェか」
どこで教わったのか知らないが、型も何もあったもんじゃない。
次どう来るのか読めないのは強みだとは思うが、ただそれだけ。足りないものだらけだ。
竹刀がぶつかる子気味いい音が響く中、竹刀が女の頭を叩いた。その勢いで床に叩きつけられる。
「1本」
「よし。次来い」
すぐに立ち上がり、竹刀を構えてそう言う女。
「いや、よしじゃねーよ。負けたの君だから。次の人と交代して」
「私負けてません。まだやれます」
「負けたんだって。次詰まってるから早く代われ」
「いいねェ。可愛いツラして結構根性あるじゃないか」
腕を組んで称賛する近藤さん。
根性があろうと負けず嫌いだろうと、諦めが悪かろうとそんなのは関係ねェ。
「いや、不採用だ。田舎にお帰り願おう」
「いいと思うけどなァ、彼女。剣なんて鍛えりゃどうにでもなるだろ」
「アイツのどこを気に入ったのか知らねェがな、この仕事は女に務まるようなもんじゃねェ。俺らの仕事は人斬りだ。敵は勿論、仲間でさえ隊規違反を犯した奴は俺らの手で粛清する。そんな血塗れの中に置いたところでどうなる。泣いて逃げ出すか、白刃の下で震えて殺されるのがオチだ」
「要は、あの子にはこの道に来て欲しくないと、まっとうに生きてほしいと、心配しているワケか」
近藤さんの発言に、咥えていたタバコを落としそうになった。
「はァ!?そうは言ってねーだろ!何聞いてたんだ!女にこの仕事は無理だっつってんだよ!心配なんか微塵もしてねェ!あの女がどうなろーが知ったこっちゃねーよ!」
「トシはなんだかんだで優しいからなァ」
「いや、だから……」
何に納得しているのか、うんうんと頷いている近藤さんに反論しようとしたが、聞く耳を持ってくれないだろう。なので、言葉ではなくため息を返す事にした。
「そこまで言うなら、トシが直接揉んでやったらどうだ?その方が入れた時納得もするだろ」
「なんで俺が。あんなガキに構ってる程暇じゃねェぞ」
「言っとくが、揉むって胸じゃないぞ」
真顔でそう訂正されて「分かっとるわ!」と強く一蹴する。
「でもさァ、トシ。ここが真選組だと分かった上で、わざわざここまで来てんだぞ。女だからと不採用で追い返したところでだ、彼女がはいそーですかって大人しく帰ると思うか」
「…………」
「俺は彼女、生き残りそうな気がするんだよ。見てる限り気骨もあるしな」
ため息すら出ない。
あの女は研修期間中に逃げ出すかと思ったが、厄介な事にまだ居座っている。
真選組に入隊したいという輩は何人も見てきたが、半分以上は研修について行けずに逃げ出してしまう。
今回も、既に3分の1は脱落する中まだ残っている。
何がそんなにこの女を駆り立てるのか。
「内田美緒です。よろしくお願いします」
間者や密偵などを警戒する為の面接。
俺の前に座った女を見て、持っている履歴書に目を通す。
どこか組織から送られてきたようには見えないが、履歴書だけでは分からない。
「不採用。田舎に帰れ」
「いきなりですか!面接してください!」
「そもそもここ男しか――」
「男だったらいいんですか。あるものとってないものつけたら満足ですか」
「満足とかそういう問題じゃねェ。だいたいお前みたいなガキが来ていい場所じゃねェんだよ。話は終わりだ。帰れ」
「嫌です。私は確かに女です。男に劣る事も知ってます。でも強くなりたい。他の所で強くなっても意味がないんです。真選組じゃないとダメなんです。私は、護れるものも護れない女にはなりたくないんです。お願いします。切り捨てないで面接してください」
お願いします、と畳に額を擦りつけて頭をさげる女に、帰れと突っぱねるが、女は頑として諦める様子はない。
俺も意地になって追い返そうとするが、お願いしますしか返ってこず、ずっと頭を下げている。
その態度に呆れ、負けたのは俺の方。
面接を始めると言えば、女は頭をあげて嬉しそうに笑ったのだ。そして、ありがとうございますと再び頭をさげる。
護れるものも護れない女……そこまで、この女に言わせるものは一体なんだ。
「じゃあなんでここに入ろうと思ったんですか?さっき言ってた、真選組じゃないとダメな理由を教えてください」
「山崎退がいるからです」
座っているのにずっこけそうになった。
「は?なんて?お前、今なんつった?」
「ここに山崎退いますよね?彼を追っかけてきました。山崎は私が護ります」
「…………は?」
咥えていたタバコが落ち、慌てて拾う。
山崎退?監察の山崎か?護る?お前が?そんな筋肉もなさそうなほっせェ腕で?
「ちょっと待て。ふざけてんのか。この真選組は遊び場じゃねェ。敵もお前が思ってるより厄介で強い連中ばっかだ。護りたいと思っても護りきれねェなんてザラにある。お前に山崎を護るのは無理だ。諦めて田舎に帰れ」
「嫌です」
「目の前で山崎が死んだらどうする?そういうのも想定して言ってんだろうな」
目の色が変わった。
瞳孔が開き、怒りに満ちたそれには少しの殺気が混ざっている。
「山崎が殺されたら、仇討ちの他に何がありますか?」
さっきの雰囲気とはまるで違う事に、らしくもなく試したくなった。
普段と、山崎が絡んだ時の力の違いを――
違うのが雰囲気だけなら、コイツがどう言おうが真選組にはいらない。
ソイツの前に竹刀を投げ渡した。
「俺が山崎を殺したって言ったら?」
「……退を、殺した?お前が?」
更に強く纏われた殺気。眼光鋭く睨み上げてくる。
「殺してやる!」
「いいね、殺す気で来い」
駆け出して、振り下ろされた竹刀が思った以上に重い。それを受け止めて弾いた。すぐに反撃をしてくる竹刀は、やはり見た時と同じで先が読めない。
動きも、次どう出てくるのかも分からない。
竹刀をぶつけていたと思えば、脚が顔目掛けて飛んできた。腕でガードすれば、体勢をすぐに戻して俺の竹刀を掴んで距離が縮められ、腹に入ってきた足。一瞬息が詰まった。
なんだ?コイツ体術の方が得意なのか?
足首を掴めば、腹筋を使って勢いよく起き上がってきて、食らわされた頭突き。少し足をよろめかせれば、その隙をついて蹴られた顔。
対戦場所も、和室から庭へと追い出されるように移動した。
女は、地面に両手をつくと後ろに飛び退いて、勢いをつけて向かってくる。
休む暇もなく繰り出される攻撃。手加減して反撃もしていないとはいえ、受けるので精一杯だ。
竹刀を持って飛びかかってきたそれを受けようとしたが、振り下ろされたのは竹刀ではなく拳。
横っ面を殴られたのが最後。どこから力が出ているのか、竹刀や拳に脚を使って連撃を食らわせてくる。
「分かった!もう分かった!一旦やめよう!」
「は?お前が死ぬまでやめねーよ。早く死ね」
低く威圧のある声で言いながら攻撃を止めない女。本気を出して抑えにかかる。
立ち向かってくるソイツを翻して地面に叩きつけ、背中に回した手首に手錠をかけた。
「離せコノヤロー!ぶっ殺してやる!」
威勢のいい口も、猿轡をかまして大人しくさせる。
何やら叫んでいるが、猿轡が声を吸収してくれるお陰でだいぶ静かだ。
暴れるソイツを小脇に抱えて部屋に戻る。
「これ、どうやったら元に戻るんだ?」
畳に転がせば、こっちを睨み付けると立ち上がり、足を上げて蹴る体勢に入った。
「しつっっけェェ!」
背中に肘鉄を落とすとそのまま畳に伏せて、ピクリとも動かなくなった。
漸く動きが止まって安堵する。
まるで猪のような女だ。
「マジで殺すまで追ってくんぞコイツ……どうなってんだ」
このまま置いておくのも体裁が悪いので、仕方なく解錠し猿轡も外して布団に寝かせた。
山崎の事になると我を忘れるらしい。
強さや素早さも格段にあがっている。
それを普段の戦闘でも出せたら1番だろうが、恐らく無自覚だ。ただ怒り任せに竹刀や体を操っているに過ぎない。
どうしたもんか、と紫煙を吐き出した。
暫く経って起きてきたので、面接の続きをする。
寝てしまった事を謝っているが、寝る前の記憶は曖昧のようだ。
二重人格だろうがなんだろうが、その事について深く掘り下げる事はしなかった。
「ウチは、真選組なんて名乗っちゃいるが言わば人斬りだ。恨みも買いやすい。入隊したら今日明日誰に殺されるともしれねェ日を送る事になるが、それでもいいのか?」
「私を殺せるのは山崎退だけです。他の人に私は殺せません」
「そういう意味じゃなくて、死ぬ覚悟は出来てんのかって聞いてんだよ」
「山崎に殺されるなら本望です」
「山崎山崎うっせェェェ!どんだけ山崎中心の生活送ってんだテメーは!おめーを殺すのは山崎じゃねェ!どこの馬の骨とも知らねェ野郎だよ!」
きょとんとしていた女は、そういう事ですかと呟いた後、ふわりと笑った。
「そうなった時は、山崎の腕の中で死にたいですね」
「……あ、そう……」
質疑応答が成立しているのかいないのか分からないこの面接を、早々に切り上げる事にした。
あの女と話していると頭が痛くなるのは、どういう事だろうか。
帰れと言っても帰ろうとしないし断る方が骨が折れるので、渋々ではあるが入隊を許可した。
こうなったら山崎と共に早めに死んでもらおう。
あの女は基礎も何も出来ていない為、基礎を叩き込むことから始めなければならない。
あの研修は乗り切ったけれど正直ギリギリもいい所。
「内田、お前はまず任務だなんだの前に基礎体力を身に付けろ。今のお前は足りてねェ部分が多過ぎる」
基礎トレーニングを纏めた紙を渡せば「おおう……」と間抜けな声を出し、なんとも言えない表情を浮かべた。
「お前に文句言う権利ねェぞ。ちゃんとやれよ」
「はい、頑張ります!」
さっきの表情から一変。やる気に満ちたそれに変わった。
「それに加えて、過去の事件資料にも目ェ通して監察としての基礎も身に付けて、俺の資料整理や雑用も手伝え」
「はい」
泣き言も文句の一つも言わずにここ最近ずっとトレーニングに励み、言われた事をこなしている。
様子を見に行った道場では、山崎が腹筋の手伝いをしているみたいだった。
腹筋の目標回数をこなせたようで、仰向けのまま起き上がってこない内田。足元から横に移動して、その頭を撫でる山崎の目が優しくなり、内田の事がどれだけ大事なのかが見て取れた。
内田といい、山崎といい、呆れた奴らだ。
2人に声をかける事もせず、その場から立ち去った。
――愛なんて、幻想に過ぎないと思っていたがな……
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