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▽プール
今日は、お妙ちゃんに誘われて、九ちゃんと3人で大江戸プールへとやって来た。
さすが夏休みとでも言うべきか、たくさんの子供達がはしゃいでいる。
更衣室で水着に着替える私とお妙ちゃんの間で、九ちゃんは水着と睨めっこに勤しんでいて、着替えようとしない。
「……本当に着なきゃダメなのか?」
「着ないとプール入れないよ」
「……しかし……」
しかめっ面が解けない九ちゃんに、私とお妙ちゃんは顔を見合わせて頷いた。どうにか、九ちゃんにも水着に着替えてもらえるよう説得に成功し、髪も可愛くツインテールに結ってあげる。
「やっぱり九ちゃん可愛いじゃない!」
「ね!かわいい!」
「いや……しかし……」
「肌見せるの嫌なら、パーカー上に着る?これ濡らしても大丈夫だから良かったら貸すよ」
パァッと九ちゃんの顔に花が咲いたが、それはお妙ちゃんによって一瞬で無へと変えられてしまった。
「美緒ちゃんダメよ。パーカー着てもすぐに脱がなきゃならないのよ。荷物になるだけよ」
「……それもそうだね。九ちゃんごめんね」
お妙ちゃんの言う事は一理ある。パーカーをロッカーにしまって鍵をかけた。
九ちゃんも覚悟を決めたらしく、更衣室からプールへと移動した。
大人用プールに子供用プール、ウォータースライダーや、飛び込み台など幅広い。
「ねェ美緒ちゃん、九ちゃんが泳げないって言うから子供用のプールでも大丈夫かしら?」
「そうなの?いいよ。私も泳ぎ方教えるね」
「すまない、美緒ちゃんありがとう」
小さく笑む九ちゃんが可愛らしくて、その頭を撫でた。
子供用プールに入って、柵を掴んで3人並ぶ。
まずは、浮く事から始めようとするのだが、九ちゃんだけ浮く事が出来ない。
「九ちゃん、力抜いてみて。水に任せるみたいな感じで。ちょっと体支えるね。お腹に少し触ってもいいかな?」
「おっ、おなか!?」
「嫌だったら触らないからね。安心して」
「だっ、大丈夫だ!支えてくれ!」
「え?いいの?」
何度も頷く九ちゃんに、「失礼します」と一声かけてから、その腹を中心に体を支えるように、手をそこに差し入れる。
「おお!な、なんか変な感じ……変な感じがするぞ」
「上手上手。いい感じだよ九ちゃん」
「凄いわ九ちゃん出来てるじゃない。それで足を動かせばいいのよ」
お妙ちゃんは、見ててと足をバタつかせた。
「なんか難しそうだぞ」
「おっいた!子供プールでガキに泳ぎ教えてる!大人は遊泳禁止だぞ!」
「何!?デカプリ娘 なのか?」
聞き覚えのある声が2つして、視線も感じる。
私達の事を言っているのだろうか。
気にしないように、九ちゃんの練習に意識を戻す。
「九ちゃんうまいね。上手に力抜けてるよ」
「ほ、ホントか?でも、ちょ、ちょっと、ちょっと待ってくれ美緒ちゃん。妙ちゃん」
体から手を離して九ちゃんを解放し、お妙ちゃんもバタ足をやめた。
泳げない人にバタ足は早急過ぎただろうか。
「すまない。一旦休憩を挟んでもいいだろうか」
「いいよ。ちょっと一気にやり過ぎたかな」
「そうね。無理はよくないわ。休みましょ」
プールサイドに上がって会話が聞こえる方を見れば、やっぱり銀ちゃんが双眼鏡を持ってこちらを見ている。その隣にいるのは、声からして長谷川さんだろう。ため息すら出ない。
でも、私達を見ているとも限らない。自意識過剰と罵られるのだけは勘弁願いたい。
「美緒ちゃん、さっきからハエみたいな声が聞こえるのは気のせいかしら?」
「……やっぱりお妙ちゃんも気付いてたか。やっぱりいるよね?あそこにハエ2匹……」
お妙ちゃんは、ちょっと退治してくるわねーと言い残して、銀ちゃんと長谷川さんのもとへ向かった。
「九ちゃん大丈夫?何か飲み物買って来るね」
「大丈夫だ。気分が悪いわけではないからな」
「そのまんまだろーが!」
お妙ちゃんの怒声と同時に、銀ちゃんと長谷川さんがプールに投げこまれた。
もがきながらこっちに来る銀ちゃんが、プールサイドに上がろうとして掴んだのは――九ちゃんの水着の胸元だった。そして、長谷川さんの手は九ちゃんの太ももに。
まさかそこからのぼって来るとは思わなかった。
その光景に驚愕し、九ちゃんの顔はみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
「なっ……なるほど……確かに……竿 でもマンでもない。ポ……ポール美乳マンだ」
「うがぁぁぁ!」
九ちゃんの手により、渾身の力で投げ飛ばされた銀ちゃんと長谷川さんは柵に体を打ち付けた後、水面に浮いた。
「うわァァァ!だから嫌だって言ったんだァァ!水着なんか!プールなんかァァァ!」
膝を抱えたそこに顔を埋めて叫ぶ九ちゃんの頭を撫でる。
「九ちゃん、今のは怖かったね。ごめんね、私側にいたのに何も出来なくて。ちゃんと逮捕するからね」
「九ちゃん!てめーらァァァ!何さらしとんじゃぁぁ!マジぶっ殺されてーのか!」
「待てェェェ!誤解だ誤解だ!俺達は監視員として見廻りしてただけであって……」
立ち上がった銀ちゃんと長谷川さんは、流血して大変な事になっている。
「痴漢はみんな誤解だって言い訳するんだよ!」
「鼻血なんか垂らしやがって変態どもがァァァ!」
「鼻血っていうか、もう君達によって全身血まみれですが!?だ、大体君達が悪いんでしょ!」
「ハイ出た!都合が悪くなるとコレですよ。変態は揃って、そんな格好してる方が悪いとか言うんですよ。九ちゃんが被害者なんで、そっちが被害者ぶるのやめてもらえますぅ?」
「いやいや!美緒も俺らがぶん投げられるの見てただろーが!それにルールにもあるからね!ここは子供プール!大人は遊泳禁止だよ!見なよ!子供達が怯えて、アレ……こっち見てる」
子供達の怯えた視線は、私達ではなく銀ちゃんと長谷川さんの方を捉えている。
「仕方ないでしょ!九ちゃんが泳げないっていうから子供プールで練習してたのよ!ごめんなさい九ちゃん。私がムリヤリこんな所連れてきたばかりに傷つけてしまって」
九ちゃんはお妙ちゃんに抱きついて、頭を撫でられて嬉しそうにしている。顔が赤いのは、先程とは違う理由なのが明らかだ。私が頭を撫でた時とは、明らかに反応が違う。少し悔しい。
「九ちゃん微妙に喜んでるけどォ!どさくさに状況満喫してますけどォ!」
「もう勘弁ならないわ!美緒ちゃん今すぐこの2人逮捕して!現行犯よ現行犯!」
「おっしゃ!任せろ!」
「ま、待てェェ!誤解だって言ってんだろ!」
お妙ちゃんによってプールサイドに引きずり上げられている2人。
銀ちゃんがお妙ちゃんを拘束してくれているので、私は長谷川さんを拘束する事にした時――
「お妙さんんん!俺の出番です!証拠はバッチリカメラにおさえました!現行犯逮捕してやります!」
いつからいたのか、カメラ片手に水中から顔を出した局長は、お妙ちゃんによって顔面を蹴られ沈められた。
「若ァァァやりましたぞォ!」
東城さんもカメラ片手に水中から現れ、警察の不祥事をおさえたのでストーカーが消えると、作戦通りだと喜んでいたが、九ちゃんによって再び水中へ。
「やったわ銀さん!ついに録った私録ったの!銀さんのヨコチ――」
「オメーだけ全然関係ねーだろが!」
さっちゃんも言うまでもなく、上2人と同じ結末に。一体さっちゃんは何を記録に残して喜んでいるのだろうか。変態の考える事はよく分からない。
子供プールはストーカー3人の血で赤く染まってしまい、気味悪さを覚えた客が次から次に逃げていく。
「ちょっとアレ見て!あそこのプール!」
女の子が叫んで指さす方には、血を流して浮いている人物がいた。今度はどんなバカだ。と呆れてみている横で、長谷川さんは真面目にも、ついに死人が出たとプールに入って助けようとしている。
ザパァッと大仰に水中から顔を出したのは、魚を貫いた銛を持っている桂。
「獲ったどォォ!フハハハエリザベス!火を起こせェェ!今夜はごちそうだぞう!」
プールサイドで火を起こしているエリザベスに報告している桂。その時、椅子に座ったまま滑り落ちてきた神楽ちゃん達に頭を轢かれ、桂は水面に浮いた。
「ウハハハ!スゴイ!スゴイスリルですね!」
「でしょ!月詠姐もう1回もう1回だけ!」
「仕方ないのう。これでホントに最後じゃぞ」
新ちゃんと神楽ちゃん、ツッキー。そしてツッキーと仲の良さそうな男の子が1人。4人で楽しそうに遊んでいる。
あんなにもいたお客達は、今やすっかり私達だけとなってしまい貸切状態。
「美緒ちゃーん!一緒に泳ぎましょう!」
ボーッとその様子を見ていたら、お妙ちゃんに呼ばれて既にプールの中にいる2人に駆け寄った。
「ごめんごめん。お待たせ。あれ?子供用じゃなくていいの?」
「美緒ちゃん、見てみろ。ビート板とやらを見付けたぞ。これなら大人用プールでも大丈夫だ」
確かに、何も持っていない状態よりは泳げそうではある。
「よーし、じゃあ泳ごっか!」
最初はぎこちなかった九ちゃんのバタ足も、すっかり板についてきていた。
「よっしゃあああ!いくアルヨォォ!」
神楽ちゃんの声が降ってきて、見上げると同時に神楽ちゃんが飛び込み台から飛び込んできた。
ドッパァァァンと激しい水飛沫が、周りにいた私達を襲う。波があるプールでもないのに、神楽ちゃんの一撃で波が起こって流されそうだ。
「神楽ちゃん今のすごいねー」
「美緒来てたアルか!一緒に遊ぶアル!晴太、新八、今度は美緒と飛び込むアルヨ」
「せーた?」
初めて聞く名前に首を傾げる。
神楽ちゃんは、晴太くんを紹介してくれた。
吉原でツッキーとお母さんと3人で住んでいるらしい。
ツッキーと同居ということは、即ち毎日1つ屋根の下であの美人と顔をつき合わせることと同意。
一緒に住んでもいないのに、想像しただけで緊張してきた。
「晴太くん、ツッキーと一緒に住んでんの?あんな美人さんと一緒に住んでて緊張しないの?」
「緊張?しないけど」
「緊張?なんの話をしておるんじゃ?美緒」
「ツッキー!ヒィィ!ツッ……む、胸……肌……」
ツッキーの胸の大きさと肌の綺麗さに目眩がした。
顔には傷があるのに、体は綺麗というそのギャップにやられてしまいそうだ。私が男だったら、心肺停止になっていただろう。
同性の私ですら、顔が赤くなっているのが分かるのだから。
「なんじゃ?オイ神楽。美緒がおかしいぞ」
「美緒はいつもおかしいから気にする事ないネ。美緒飛び込み台行くアルヨー」
「神楽ちゃん……ツッキーがー……」
「はいはい。分かったアル」
神楽ちゃんに手をひかれて、飛び込み台のところまで連れて行かれた。
思ったよりも高い事に驚き、足が竦む。これぐらいの高さ、屋根の上にあがっている事を考えたらマシだ。
「神楽ちゃん、私先行くね」
「ダメヨ。一緒に行くアル」
「オッケー」
抱きついてきた神楽ちゃんを抱きしめて、下にいるツッキー達に、行くよーと声をかけてから飛び込んだ。
水飛沫が上がり、体が水中に沈み込んだ。神楽ちゃんと一緒に水面に上がる。
「ぷはっ……どうだった?結構飛沫あがった?」
「2人分だと凄いですよ」
「凄すぎて水が壁みたいになってたよ!」
「美緒楽しいアルな!もっかいやろもっかい!」
神楽ちゃんと2人で数回飛び込んだ後、今度は1人ずつ飛び込んで水飛沫がどれだけあがるか競走をする事にした。神楽ちゃんと一緒に飛び込むのとは違い、1人だとまた襲ってくる緊張感。
下にいる3人に声をかけてから、勢いをつけて飛び込む。
「どう?どう?」
「まだまだです。神楽ちゃんの方があがってましたよ」
新ちゃんの意見に頷くツッキーと晴太くん。
マジかと落ち込んでいると、神楽ちゃんの声が降ってきた。邪魔にならないように、そこから少し離れる。神楽ちゃんが飛び込んだ瞬間、高くあがった水飛沫。
「どうだったアルか?」
「神楽ちゃんの勝ちィ!」
神楽ちゃんの腕を挙げて、勝利を宣言する晴太くん。
「美緒もまだまだアルなぁ」と、鼻で笑われ悔しさが増す。その後2回勝負を仕掛けたけれど、1回も神楽ちゃんには敵わなかった。
今度は、お妙ちゃんと九ちゃんも誘って、ビーチボールで遊ぶ事にした。
プールサイドに座って、お妙ちゃんと2人で語り合っている時の九ちゃんの表情が恋をしているそれで、邪魔をしてしまったような気分になる。
いや、九ちゃんからしたら本当に邪魔をされたと感じたのかもしれないが……
でも、浮き輪を持ってバレーに参加している姿はとても楽しそうだったので、細かい事は気にしない事にした。
「あのーちょっとみんないいか」
ビーチバレーをして遊んでいると、銀ちゃんが浮き輪に入ってやってきた。
「どうしたアルか銀ちゃん。銀ちゃんも一緒に遊びたいアルか?」
「いや俺っつーかあの、あちらのあの将ちゃんっていうんだけど、あの人がおめーらと遊びたいって言うのよ。一緒に遊んでやってくれるか」
親指で指し示されたそこにいたのは、ブリーフをはき、ゴーグルと水泳帽をかぶっている男性。
しかし、将ちゃんというあだ名はどこかで聞いた事あるようなないような……"将ちゃん"というあだ名の男性はどこにでもいるから街中で聞いたのだろう。
断る理由もないので、一緒に遊ぶ方向へみんなの意見が集まる。今まで水面に浮かんでいた局長、さっちゃん、東城さんも話に加わった。そんな中、ツッキーの発言で思わぬ方向に話が転換する事に。
「別にわっちらも構わんが、あの男のアレ、水着ではなく下着じゃないのか」
「本当だ。マナー違反じゃないのか。あまり気分がよくないな」と顔を顰める九ちゃん。
下着も水着も変わらないと寛大な心を見せつけるも、未だに人気順位を引きずっているさっちゃん。
それに対して、神楽ちゃんは同じじゃないアルと、訂正意見を述べた。
「下着は長時間つけてるから、いろんな汚れが染み付いてるネ」
「いや大丈夫だから。あの人のはキレイだから。あの……わりと高貴な人なんで」
「いや、でもよく見たらついてるわよ」
「え?何が?ちょっとやめて。聞こえるからやめて」
必死に銀ちゃんが制止をかけるけれど、1度気になったものは気になるのか、後ろも確認しようとお妙ちゃんが言い出した。
「スイマセーン!ちょっと後ろ振り向いてくれます?」
「デッケー声出すんじゃねーよ!ついてないからウン筋なんてついてないから!」
お妙ちゃんと銀ちゃんの声量で相手に聞こえていないはずはないのだが、将ちゃんは動きも見せなければ話そうともしない。
さっちゃんの「完全に筋モンじゃないの!」という発言が癇に障ったのか、将ちゃんは帰って行ってしまった。それに対してお妙ちゃんは、やっぱり筋モンだったのよ、なんて口元を押さえている。
「ちょっと待ちなんし。戻ってきたぞ」
帰ったと思っていた将ちゃんが戻ってきて、何故か堂々とポーズを決めだした。
よく見れば、将ちゃんは先程のブリーフではなく海パンを履いている。
「代わりに長谷川さんがパンツになりましたよ。アレ……長谷川さんとパンツ取り替えただけじゃないですか」
「いいだろ別に!海パンは海パンなんだから!」
神楽ちゃんがマダオの海パンの方が汚いと言い出し、お妙ちゃんがそれに乗っかって、長谷川さんのコールド勝ちにしてしまい、長谷川さんにもダメージが行く事になってしまった。
「替えたはいいけど、結局長谷川さんの海パンにも何かついてるわよ」
なんで毎回お妙ちゃんは、視線がそこにいくのか謎である。当然みんなの視線がそこに集まり、口々に疑問の声があがる。
そして、さっちゃんの「いやぁぁぁ!入ってこないで!私は銀さん以外の子供をはらむつもりはないわ!」という否定発言を最後に、将ちゃんはプールに来たにも関わらず、プールに入らないという決断を下したらしい。
ビニールボートに乗った将ちゃんが、銀ちゃんと長谷川さんに引っ張られてこちらにやって来た。
「えーとじゃあ改めて紹介するわ」
「将ちゃん……みんな仲良くしてやってくれよな」
「あの絶対ボートからおろさないでね」
「水には絶対につかるなヨ」
長谷川さんと銀ちゃんに改めて紹介されたけれど、みんなの反応はとても冷たいものだった。
「よしじゃあ人数も揃ったしおっ始めるか!ドキッ♡侍だらけの水中騎馬戦大会ィィ!ドンドンパフパフー!」
2人1組になり、1人はボートの上に乗る騎手、1人はボートを引く騎馬。騎手がボートから落ちたり、鉢巻きを取られたコンビの負けとなるらしい。
「まァ別に、とるのは鉢巻きだけじゃなくてもいいけれど……」
銀ちゃんのゲスい発言に男どもは何を察したのか、急に目の色を変えてボートを取りに行った。
そして、自然と男は騎手、女は騎馬という図に収まったが、私は誰の目にも止まらなかったのか、みんなが早すぎるのか、誰ともコンビを組めないでいる。
誰か残っている人はいないか、周りを見回して発見した。ポツンと私と同じように1人でいる彼を。
「長谷川さーん。私で良ければ余り物同士一緒に組みませんか?」
ボートの上で膝を抱えて座っている長谷川さんの顔が、パァッと明るくなった。
「美緒ちゃんありがとう!良かったァァ!オジさん忘れられてるかと思ってたからホントに良かったよォ!ありがとう美緒ちゃん!」
「いえいえこちらこそ。じゃあどっちが騎馬になりますか?」
「オイぃぃぃ!いい加減にしろよテメーら!」
銀ちゃんの怒声が響いて、長谷川さんと相談するより先に銀ちゃんの方へとボートを引いて向かう。
「もっとよく考えて編成を組め!力の強い奴は馬になった方がいいに決まってんだろーが!」
「だからなってるアル」
「ホントだァァァ!考えたら美緒以外、女の方が強いや!」
銀ちゃんのセリフにムッとしたが、正論だ。この女のメンツで私が勝てる気がしない。
「長谷川さん、私騎手になりますよ。代わりましょう」
「え?でも……」
「どうせHな事でも企んでたんでしょ。バレバレですよ」
お妙ちゃんのそんな呆れたような声が聞こえて、じとりと長谷川さんを見上げる。
「……そうなんですか?」
「いやいやいや。考えてないからね!なんにもやらしいことなんて考えてないから!」
「そうだよ、やらしい事考えてる奴なんてどこにも……」
銀ちゃんの後ろで、ボートに立っている将ちゃんの鼻から血が溢れ出ている。
「……あのスイマセン将ちゃん?期待に胸ふくらませすぎですから……企みバレバレになっちゃってますから」
「将軍家は代々、遠足前日はそわそわして眠れない派だ」
「知らねーよ。とりあえず今は黙って寝ててくれないですか」
企みに勘づかれてしまった為か、騎馬か騎手かジャンケンで勝った人から決められるというシステムに変更になった。
「その代わりドベは罰として、あの飛び込み台てっぺんから飛び降りだ」
騎馬戦とは一切関係ないが、罰があった方が盛り上がる為らしい。
ジャンケンをしてドベになり、飛び込み台から飛び降りる事になったのは、ある意味裏切らない将ちゃんだった。
飛び降りて水面に浮いたままの将ちゃんの尻には、パンツがくい込んでいる。その光景に盛り上がる人は誰もいない。
「オイ銀時、これのどこが盛り上がるんじゃ。おっさんのケツにパンツが食いこんだだけではないか」
「バカヤロー。あんな高貴な食い込み、ホントは一生おがめねーんだぞ」
晴太くんと一緒に、うつ伏せで浮いたままの将ちゃんの背中に乗り、尻に冒険号という旗をさして航海に行こうとしていた神楽ちゃんが妙案を口にした。
「そんなにポロリやらなにやらが見たいなら、いっそ騎馬戦のルールを変えてみたらどうアルか。鉢巻きなんてまどろっこしいものじゃなくて、ポロリをした者から脱落。これでいいアル」
そのルール変更に女性陣に反対する者はおらず、ほぼ強制的に始められた男だけの騎馬戦。
私達は男どものポロリなんぞに興味はないので、先程のビーチバレーの続きに興じる事にした。
今日は、お妙ちゃんに誘われて、九ちゃんと3人で大江戸プールへとやって来た。
さすが夏休みとでも言うべきか、たくさんの子供達がはしゃいでいる。
更衣室で水着に着替える私とお妙ちゃんの間で、九ちゃんは水着と睨めっこに勤しんでいて、着替えようとしない。
「……本当に着なきゃダメなのか?」
「着ないとプール入れないよ」
「……しかし……」
しかめっ面が解けない九ちゃんに、私とお妙ちゃんは顔を見合わせて頷いた。どうにか、九ちゃんにも水着に着替えてもらえるよう説得に成功し、髪も可愛くツインテールに結ってあげる。
「やっぱり九ちゃん可愛いじゃない!」
「ね!かわいい!」
「いや……しかし……」
「肌見せるの嫌なら、パーカー上に着る?これ濡らしても大丈夫だから良かったら貸すよ」
パァッと九ちゃんの顔に花が咲いたが、それはお妙ちゃんによって一瞬で無へと変えられてしまった。
「美緒ちゃんダメよ。パーカー着てもすぐに脱がなきゃならないのよ。荷物になるだけよ」
「……それもそうだね。九ちゃんごめんね」
お妙ちゃんの言う事は一理ある。パーカーをロッカーにしまって鍵をかけた。
九ちゃんも覚悟を決めたらしく、更衣室からプールへと移動した。
大人用プールに子供用プール、ウォータースライダーや、飛び込み台など幅広い。
「ねェ美緒ちゃん、九ちゃんが泳げないって言うから子供用のプールでも大丈夫かしら?」
「そうなの?いいよ。私も泳ぎ方教えるね」
「すまない、美緒ちゃんありがとう」
小さく笑む九ちゃんが可愛らしくて、その頭を撫でた。
子供用プールに入って、柵を掴んで3人並ぶ。
まずは、浮く事から始めようとするのだが、九ちゃんだけ浮く事が出来ない。
「九ちゃん、力抜いてみて。水に任せるみたいな感じで。ちょっと体支えるね。お腹に少し触ってもいいかな?」
「おっ、おなか!?」
「嫌だったら触らないからね。安心して」
「だっ、大丈夫だ!支えてくれ!」
「え?いいの?」
何度も頷く九ちゃんに、「失礼します」と一声かけてから、その腹を中心に体を支えるように、手をそこに差し入れる。
「おお!な、なんか変な感じ……変な感じがするぞ」
「上手上手。いい感じだよ九ちゃん」
「凄いわ九ちゃん出来てるじゃない。それで足を動かせばいいのよ」
お妙ちゃんは、見ててと足をバタつかせた。
「なんか難しそうだぞ」
「おっいた!子供プールでガキに泳ぎ教えてる!大人は遊泳禁止だぞ!」
「何!?デカプリ
聞き覚えのある声が2つして、視線も感じる。
私達の事を言っているのだろうか。
気にしないように、九ちゃんの練習に意識を戻す。
「九ちゃんうまいね。上手に力抜けてるよ」
「ほ、ホントか?でも、ちょ、ちょっと、ちょっと待ってくれ美緒ちゃん。妙ちゃん」
体から手を離して九ちゃんを解放し、お妙ちゃんもバタ足をやめた。
泳げない人にバタ足は早急過ぎただろうか。
「すまない。一旦休憩を挟んでもいいだろうか」
「いいよ。ちょっと一気にやり過ぎたかな」
「そうね。無理はよくないわ。休みましょ」
プールサイドに上がって会話が聞こえる方を見れば、やっぱり銀ちゃんが双眼鏡を持ってこちらを見ている。その隣にいるのは、声からして長谷川さんだろう。ため息すら出ない。
でも、私達を見ているとも限らない。自意識過剰と罵られるのだけは勘弁願いたい。
「美緒ちゃん、さっきからハエみたいな声が聞こえるのは気のせいかしら?」
「……やっぱりお妙ちゃんも気付いてたか。やっぱりいるよね?あそこにハエ2匹……」
お妙ちゃんは、ちょっと退治してくるわねーと言い残して、銀ちゃんと長谷川さんのもとへ向かった。
「九ちゃん大丈夫?何か飲み物買って来るね」
「大丈夫だ。気分が悪いわけではないからな」
「そのまんまだろーが!」
お妙ちゃんの怒声と同時に、銀ちゃんと長谷川さんがプールに投げこまれた。
もがきながらこっちに来る銀ちゃんが、プールサイドに上がろうとして掴んだのは――九ちゃんの水着の胸元だった。そして、長谷川さんの手は九ちゃんの太ももに。
まさかそこからのぼって来るとは思わなかった。
その光景に驚愕し、九ちゃんの顔はみるみるうちに真っ赤に染まっていく。
「なっ……なるほど……確かに……
「うがぁぁぁ!」
九ちゃんの手により、渾身の力で投げ飛ばされた銀ちゃんと長谷川さんは柵に体を打ち付けた後、水面に浮いた。
「うわァァァ!だから嫌だって言ったんだァァ!水着なんか!プールなんかァァァ!」
膝を抱えたそこに顔を埋めて叫ぶ九ちゃんの頭を撫でる。
「九ちゃん、今のは怖かったね。ごめんね、私側にいたのに何も出来なくて。ちゃんと逮捕するからね」
「九ちゃん!てめーらァァァ!何さらしとんじゃぁぁ!マジぶっ殺されてーのか!」
「待てェェェ!誤解だ誤解だ!俺達は監視員として見廻りしてただけであって……」
立ち上がった銀ちゃんと長谷川さんは、流血して大変な事になっている。
「痴漢はみんな誤解だって言い訳するんだよ!」
「鼻血なんか垂らしやがって変態どもがァァァ!」
「鼻血っていうか、もう君達によって全身血まみれですが!?だ、大体君達が悪いんでしょ!」
「ハイ出た!都合が悪くなるとコレですよ。変態は揃って、そんな格好してる方が悪いとか言うんですよ。九ちゃんが被害者なんで、そっちが被害者ぶるのやめてもらえますぅ?」
「いやいや!美緒も俺らがぶん投げられるの見てただろーが!それにルールにもあるからね!ここは子供プール!大人は遊泳禁止だよ!見なよ!子供達が怯えて、アレ……こっち見てる」
子供達の怯えた視線は、私達ではなく銀ちゃんと長谷川さんの方を捉えている。
「仕方ないでしょ!九ちゃんが泳げないっていうから子供プールで練習してたのよ!ごめんなさい九ちゃん。私がムリヤリこんな所連れてきたばかりに傷つけてしまって」
九ちゃんはお妙ちゃんに抱きついて、頭を撫でられて嬉しそうにしている。顔が赤いのは、先程とは違う理由なのが明らかだ。私が頭を撫でた時とは、明らかに反応が違う。少し悔しい。
「九ちゃん微妙に喜んでるけどォ!どさくさに状況満喫してますけどォ!」
「もう勘弁ならないわ!美緒ちゃん今すぐこの2人逮捕して!現行犯よ現行犯!」
「おっしゃ!任せろ!」
「ま、待てェェ!誤解だって言ってんだろ!」
お妙ちゃんによってプールサイドに引きずり上げられている2人。
銀ちゃんがお妙ちゃんを拘束してくれているので、私は長谷川さんを拘束する事にした時――
「お妙さんんん!俺の出番です!証拠はバッチリカメラにおさえました!現行犯逮捕してやります!」
いつからいたのか、カメラ片手に水中から顔を出した局長は、お妙ちゃんによって顔面を蹴られ沈められた。
「若ァァァやりましたぞォ!」
東城さんもカメラ片手に水中から現れ、警察の不祥事をおさえたのでストーカーが消えると、作戦通りだと喜んでいたが、九ちゃんによって再び水中へ。
「やったわ銀さん!ついに録った私録ったの!銀さんのヨコチ――」
「オメーだけ全然関係ねーだろが!」
さっちゃんも言うまでもなく、上2人と同じ結末に。一体さっちゃんは何を記録に残して喜んでいるのだろうか。変態の考える事はよく分からない。
子供プールはストーカー3人の血で赤く染まってしまい、気味悪さを覚えた客が次から次に逃げていく。
「ちょっとアレ見て!あそこのプール!」
女の子が叫んで指さす方には、血を流して浮いている人物がいた。今度はどんなバカだ。と呆れてみている横で、長谷川さんは真面目にも、ついに死人が出たとプールに入って助けようとしている。
ザパァッと大仰に水中から顔を出したのは、魚を貫いた銛を持っている桂。
「獲ったどォォ!フハハハエリザベス!火を起こせェェ!今夜はごちそうだぞう!」
プールサイドで火を起こしているエリザベスに報告している桂。その時、椅子に座ったまま滑り落ちてきた神楽ちゃん達に頭を轢かれ、桂は水面に浮いた。
「ウハハハ!スゴイ!スゴイスリルですね!」
「でしょ!月詠姐もう1回もう1回だけ!」
「仕方ないのう。これでホントに最後じゃぞ」
新ちゃんと神楽ちゃん、ツッキー。そしてツッキーと仲の良さそうな男の子が1人。4人で楽しそうに遊んでいる。
あんなにもいたお客達は、今やすっかり私達だけとなってしまい貸切状態。
「美緒ちゃーん!一緒に泳ぎましょう!」
ボーッとその様子を見ていたら、お妙ちゃんに呼ばれて既にプールの中にいる2人に駆け寄った。
「ごめんごめん。お待たせ。あれ?子供用じゃなくていいの?」
「美緒ちゃん、見てみろ。ビート板とやらを見付けたぞ。これなら大人用プールでも大丈夫だ」
確かに、何も持っていない状態よりは泳げそうではある。
「よーし、じゃあ泳ごっか!」
最初はぎこちなかった九ちゃんのバタ足も、すっかり板についてきていた。
「よっしゃあああ!いくアルヨォォ!」
神楽ちゃんの声が降ってきて、見上げると同時に神楽ちゃんが飛び込み台から飛び込んできた。
ドッパァァァンと激しい水飛沫が、周りにいた私達を襲う。波があるプールでもないのに、神楽ちゃんの一撃で波が起こって流されそうだ。
「神楽ちゃん今のすごいねー」
「美緒来てたアルか!一緒に遊ぶアル!晴太、新八、今度は美緒と飛び込むアルヨ」
「せーた?」
初めて聞く名前に首を傾げる。
神楽ちゃんは、晴太くんを紹介してくれた。
吉原でツッキーとお母さんと3人で住んでいるらしい。
ツッキーと同居ということは、即ち毎日1つ屋根の下であの美人と顔をつき合わせることと同意。
一緒に住んでもいないのに、想像しただけで緊張してきた。
「晴太くん、ツッキーと一緒に住んでんの?あんな美人さんと一緒に住んでて緊張しないの?」
「緊張?しないけど」
「緊張?なんの話をしておるんじゃ?美緒」
「ツッキー!ヒィィ!ツッ……む、胸……肌……」
ツッキーの胸の大きさと肌の綺麗さに目眩がした。
顔には傷があるのに、体は綺麗というそのギャップにやられてしまいそうだ。私が男だったら、心肺停止になっていただろう。
同性の私ですら、顔が赤くなっているのが分かるのだから。
「なんじゃ?オイ神楽。美緒がおかしいぞ」
「美緒はいつもおかしいから気にする事ないネ。美緒飛び込み台行くアルヨー」
「神楽ちゃん……ツッキーがー……」
「はいはい。分かったアル」
神楽ちゃんに手をひかれて、飛び込み台のところまで連れて行かれた。
思ったよりも高い事に驚き、足が竦む。これぐらいの高さ、屋根の上にあがっている事を考えたらマシだ。
「神楽ちゃん、私先行くね」
「ダメヨ。一緒に行くアル」
「オッケー」
抱きついてきた神楽ちゃんを抱きしめて、下にいるツッキー達に、行くよーと声をかけてから飛び込んだ。
水飛沫が上がり、体が水中に沈み込んだ。神楽ちゃんと一緒に水面に上がる。
「ぷはっ……どうだった?結構飛沫あがった?」
「2人分だと凄いですよ」
「凄すぎて水が壁みたいになってたよ!」
「美緒楽しいアルな!もっかいやろもっかい!」
神楽ちゃんと2人で数回飛び込んだ後、今度は1人ずつ飛び込んで水飛沫がどれだけあがるか競走をする事にした。神楽ちゃんと一緒に飛び込むのとは違い、1人だとまた襲ってくる緊張感。
下にいる3人に声をかけてから、勢いをつけて飛び込む。
「どう?どう?」
「まだまだです。神楽ちゃんの方があがってましたよ」
新ちゃんの意見に頷くツッキーと晴太くん。
マジかと落ち込んでいると、神楽ちゃんの声が降ってきた。邪魔にならないように、そこから少し離れる。神楽ちゃんが飛び込んだ瞬間、高くあがった水飛沫。
「どうだったアルか?」
「神楽ちゃんの勝ちィ!」
神楽ちゃんの腕を挙げて、勝利を宣言する晴太くん。
「美緒もまだまだアルなぁ」と、鼻で笑われ悔しさが増す。その後2回勝負を仕掛けたけれど、1回も神楽ちゃんには敵わなかった。
今度は、お妙ちゃんと九ちゃんも誘って、ビーチボールで遊ぶ事にした。
プールサイドに座って、お妙ちゃんと2人で語り合っている時の九ちゃんの表情が恋をしているそれで、邪魔をしてしまったような気分になる。
いや、九ちゃんからしたら本当に邪魔をされたと感じたのかもしれないが……
でも、浮き輪を持ってバレーに参加している姿はとても楽しそうだったので、細かい事は気にしない事にした。
「あのーちょっとみんないいか」
ビーチバレーをして遊んでいると、銀ちゃんが浮き輪に入ってやってきた。
「どうしたアルか銀ちゃん。銀ちゃんも一緒に遊びたいアルか?」
「いや俺っつーかあの、あちらのあの将ちゃんっていうんだけど、あの人がおめーらと遊びたいって言うのよ。一緒に遊んでやってくれるか」
親指で指し示されたそこにいたのは、ブリーフをはき、ゴーグルと水泳帽をかぶっている男性。
しかし、将ちゃんというあだ名はどこかで聞いた事あるようなないような……"将ちゃん"というあだ名の男性はどこにでもいるから街中で聞いたのだろう。
断る理由もないので、一緒に遊ぶ方向へみんなの意見が集まる。今まで水面に浮かんでいた局長、さっちゃん、東城さんも話に加わった。そんな中、ツッキーの発言で思わぬ方向に話が転換する事に。
「別にわっちらも構わんが、あの男のアレ、水着ではなく下着じゃないのか」
「本当だ。マナー違反じゃないのか。あまり気分がよくないな」と顔を顰める九ちゃん。
下着も水着も変わらないと寛大な心を見せつけるも、未だに人気順位を引きずっているさっちゃん。
それに対して、神楽ちゃんは同じじゃないアルと、訂正意見を述べた。
「下着は長時間つけてるから、いろんな汚れが染み付いてるネ」
「いや大丈夫だから。あの人のはキレイだから。あの……わりと高貴な人なんで」
「いや、でもよく見たらついてるわよ」
「え?何が?ちょっとやめて。聞こえるからやめて」
必死に銀ちゃんが制止をかけるけれど、1度気になったものは気になるのか、後ろも確認しようとお妙ちゃんが言い出した。
「スイマセーン!ちょっと後ろ振り向いてくれます?」
「デッケー声出すんじゃねーよ!ついてないからウン筋なんてついてないから!」
お妙ちゃんと銀ちゃんの声量で相手に聞こえていないはずはないのだが、将ちゃんは動きも見せなければ話そうともしない。
さっちゃんの「完全に筋モンじゃないの!」という発言が癇に障ったのか、将ちゃんは帰って行ってしまった。それに対してお妙ちゃんは、やっぱり筋モンだったのよ、なんて口元を押さえている。
「ちょっと待ちなんし。戻ってきたぞ」
帰ったと思っていた将ちゃんが戻ってきて、何故か堂々とポーズを決めだした。
よく見れば、将ちゃんは先程のブリーフではなく海パンを履いている。
「代わりに長谷川さんがパンツになりましたよ。アレ……長谷川さんとパンツ取り替えただけじゃないですか」
「いいだろ別に!海パンは海パンなんだから!」
神楽ちゃんがマダオの海パンの方が汚いと言い出し、お妙ちゃんがそれに乗っかって、長谷川さんのコールド勝ちにしてしまい、長谷川さんにもダメージが行く事になってしまった。
「替えたはいいけど、結局長谷川さんの海パンにも何かついてるわよ」
なんで毎回お妙ちゃんは、視線がそこにいくのか謎である。当然みんなの視線がそこに集まり、口々に疑問の声があがる。
そして、さっちゃんの「いやぁぁぁ!入ってこないで!私は銀さん以外の子供をはらむつもりはないわ!」という否定発言を最後に、将ちゃんはプールに来たにも関わらず、プールに入らないという決断を下したらしい。
ビニールボートに乗った将ちゃんが、銀ちゃんと長谷川さんに引っ張られてこちらにやって来た。
「えーとじゃあ改めて紹介するわ」
「将ちゃん……みんな仲良くしてやってくれよな」
「あの絶対ボートからおろさないでね」
「水には絶対につかるなヨ」
長谷川さんと銀ちゃんに改めて紹介されたけれど、みんなの反応はとても冷たいものだった。
「よしじゃあ人数も揃ったしおっ始めるか!ドキッ♡侍だらけの水中騎馬戦大会ィィ!ドンドンパフパフー!」
2人1組になり、1人はボートの上に乗る騎手、1人はボートを引く騎馬。騎手がボートから落ちたり、鉢巻きを取られたコンビの負けとなるらしい。
「まァ別に、とるのは鉢巻きだけじゃなくてもいいけれど……」
銀ちゃんのゲスい発言に男どもは何を察したのか、急に目の色を変えてボートを取りに行った。
そして、自然と男は騎手、女は騎馬という図に収まったが、私は誰の目にも止まらなかったのか、みんなが早すぎるのか、誰ともコンビを組めないでいる。
誰か残っている人はいないか、周りを見回して発見した。ポツンと私と同じように1人でいる彼を。
「長谷川さーん。私で良ければ余り物同士一緒に組みませんか?」
ボートの上で膝を抱えて座っている長谷川さんの顔が、パァッと明るくなった。
「美緒ちゃんありがとう!良かったァァ!オジさん忘れられてるかと思ってたからホントに良かったよォ!ありがとう美緒ちゃん!」
「いえいえこちらこそ。じゃあどっちが騎馬になりますか?」
「オイぃぃぃ!いい加減にしろよテメーら!」
銀ちゃんの怒声が響いて、長谷川さんと相談するより先に銀ちゃんの方へとボートを引いて向かう。
「もっとよく考えて編成を組め!力の強い奴は馬になった方がいいに決まってんだろーが!」
「だからなってるアル」
「ホントだァァァ!考えたら美緒以外、女の方が強いや!」
銀ちゃんのセリフにムッとしたが、正論だ。この女のメンツで私が勝てる気がしない。
「長谷川さん、私騎手になりますよ。代わりましょう」
「え?でも……」
「どうせHな事でも企んでたんでしょ。バレバレですよ」
お妙ちゃんのそんな呆れたような声が聞こえて、じとりと長谷川さんを見上げる。
「……そうなんですか?」
「いやいやいや。考えてないからね!なんにもやらしいことなんて考えてないから!」
「そうだよ、やらしい事考えてる奴なんてどこにも……」
銀ちゃんの後ろで、ボートに立っている将ちゃんの鼻から血が溢れ出ている。
「……あのスイマセン将ちゃん?期待に胸ふくらませすぎですから……企みバレバレになっちゃってますから」
「将軍家は代々、遠足前日はそわそわして眠れない派だ」
「知らねーよ。とりあえず今は黙って寝ててくれないですか」
企みに勘づかれてしまった為か、騎馬か騎手かジャンケンで勝った人から決められるというシステムに変更になった。
「その代わりドベは罰として、あの飛び込み台てっぺんから飛び降りだ」
騎馬戦とは一切関係ないが、罰があった方が盛り上がる為らしい。
ジャンケンをしてドベになり、飛び込み台から飛び降りる事になったのは、ある意味裏切らない将ちゃんだった。
飛び降りて水面に浮いたままの将ちゃんの尻には、パンツがくい込んでいる。その光景に盛り上がる人は誰もいない。
「オイ銀時、これのどこが盛り上がるんじゃ。おっさんのケツにパンツが食いこんだだけではないか」
「バカヤロー。あんな高貴な食い込み、ホントは一生おがめねーんだぞ」
晴太くんと一緒に、うつ伏せで浮いたままの将ちゃんの背中に乗り、尻に冒険号という旗をさして航海に行こうとしていた神楽ちゃんが妙案を口にした。
「そんなにポロリやらなにやらが見たいなら、いっそ騎馬戦のルールを変えてみたらどうアルか。鉢巻きなんてまどろっこしいものじゃなくて、ポロリをした者から脱落。これでいいアル」
そのルール変更に女性陣に反対する者はおらず、ほぼ強制的に始められた男だけの騎馬戦。
私達は男どものポロリなんぞに興味はないので、先程のビーチバレーの続きに興じる事にした。