本編
名前変換
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
《美緒ちゃん、一緒にお料理教室行ってみない?》
と、お妙ちゃんに電話で呼び出された場所は、北大路料理教室。
レパートリーが増えるいい機会なので、二つ返事で了承した。料理教室の出入口付近まで来たところで、向かいから歩いてくる九ちゃん。
「あ、九ちゃん久しぶり」
「美緒ちゃん久しぶり。こんなところで会うなんて奇遇だな。あ、仕事中か。すまない、ひきとめてしまったか」
お妙ちゃんを優先して、仕事を抜けて来ているので制服だ。なので、そう言われても仕方がない。
「大丈夫だよ。今休憩中みたいなもんだし。私は、お妙ちゃんに呼ばれて来たんだけど、九ちゃんは?」
「ホントか。実は僕も、お妙ちゃんに呼ばれて来たんだが……僕達を呼んで、妙ちゃんは何をするつもりなんだ?」
「え?料理じゃないの?ここ、料理教室だし」
出入口の上にある看板を指さして言えば、九ちゃんは複雑そうに顔を歪めた。
「……料理?美緒ちゃんなら分かるが、僕が料理だと?」
「いいんじゃない?今、性別関係なく料理出来た方がいいって言うし」
「しかし……男子厨房に入らず……」
「とりあえず、お妙ちゃん待たせてるから行こっか」
「そうだな」
九ちゃんと一緒に、料理教室へと足を踏み入れた。
「お妙ちゃん」
「お妙ちゃんお待たせ。何?みんな集まってんじゃん」
「あっ、九兵衛さんと美緒ちゃん」
「美緒ー!待ってたアルヨー!」
お妙ちゃんだけだと思っていたそこには、神楽ちゃんと新ちゃんもいて、3人とも三角巾とエプロンをつけている。
神楽ちゃんが突進してきたので、足を踏ん張ってその体をどうにか受け止めた。
教室内を見回せば、教室は繁盛しているのか、生徒が多い。みんな一様に、三角巾とエプロンをつけている。
「神楽ちゃん、私エプロンと三角巾忘れたんだけど、借りれたりしないかな?」
「それなら私達もここで借りたネ。持ってきてあげるヨ」
そう言って、足早に取りに行く神楽ちゃん。
そのそばでは、新ちゃんが「オメーら結局油とれればなんでもいいんだろ!油なめてろよ!」と、ツッコミを入れている。
油をなめる?なんの話だ?
気になって、お妙ちゃん達の方に顔を向ける。
「ドナルドの嫁になるにしても、嫁にとるにしても料理くらい出来なきゃ。あの人ほっといたら、なんでもパンにはさんで解決しようとするわよ」
ドナルドを嫁とは、お妙ちゃんも大きく出たものだ。
お妙ちゃんなら、その腕っ節で嫁にもらえそうな気がする。いや、あの口ぶりからして、九ちゃんがドナルドの嫁になりたいのか?
「美緒、借りてきたアル」
「あ、ありがとう」
神楽ちゃんから、三角巾とエプロンを受け取って身に付ける。
「美緒、一緒に料理覚えて、カーネルの嫁になるアルヨ。そしたら、卵もフライドチキンの肉も食べ放題ネ」
「神楽ちゃんはカーネルの嫁か。じゃあ私は誰の嫁になろうかな」
「お妙さん、あなた手料理を覚えて銀さんをおとそうってハラ?」
ジャンクフードのマスコット的なもので、他に何がいたかなと考えていると、どこかで聞き覚えのある声が降ってきた。
どこからだと見回すまでもなく、目立っている人。
「抜けがけはさせないわよ!銀さんの納豆を練るのはこの私の役目よ!」
「さっちゃんさん!」
土足で調理台に立って、納豆を練っている猿飛さんがいた。
「あなた、まだ銀さん狙ってたんですか。いい加減目ェ覚ましたら?あんなグータラと一緒になっても幸せにはなれないわよ」
猿飛さんは、お妙ちゃんをライバルと思っているのか、つっかかっているのに対し、お妙ちゃんは平然としたものだ。見る限り三角関係とかではないらしい。
「猿飛さんって銀ちゃんの事好きなんだね」
「知らなかったアルか?アレは変態ネ。関わらない方がいいヨロシ」
「そうなんだ」
「ハイハイ静かに!」
大きな声が、教室内に響いた。
前には、先生と思しきコック帽を被ったふくよかな女性が、立てた人差し指を挙げて立っている。
「みなさんはおしゃべりに来たんですかァ!それとも料理を習いにきたんですかァ!いやさどちらも違う!愛情表現を学ぶために来たんです!」
料理というものは、ただの日常雑務ではないと熱弁する先生の顔は、どこかで見覚えがある気がする。それがどこで見たのか思い出せない。
手配書の中にあった顔だったか、それともまた別のところで見た顔だったか。
「料理研究家の北大路魯山子先生よ。腕は確かだけど、とっても厳しくて有名なの」
「そういやテレビで見たことあるアル」
「ああ、『料理の侍』とか確か出てたよね」
神楽ちゃん達が話しているのを聞いて、漸くどこで見たのかを思い出せた。
教室内は、先生を始め生徒達が「料理は愛情ォ!」と腕を突き上げて、そんな言葉を響かせている。
「いや違うアル。離婚会見してたアル。旦那が10年間不倫してて、ドロ沼の熟年離婚だったって!」
その声も、神楽ちゃんの爆弾発言により、ピタリと止んだ。
「えー。じゃあ愛情もクソも、愛する人がいないんじゃないの。逃げられてんじゃないの」
「ねー。さっき料理は愛情って言ってたのに、その旦那に愛情伝わらなかったら意味ないよね。説得力もないよ。あ、元旦那か」
「さっちゃんさん、美緒ちゃん聞こえます!」
「言い過ぎだぞ。ないとは言いきれん。もしかしたらそんな男でも、まだ引きずっているのかもしれない。これから愛を伝えるのかもしれん」
「フォローになってないですよ九兵衛さん!」
先生は、冷静を努めているふうに見せてはいるものの、その顔は青筋を浮かべている。そして、こちらに歩み寄ってきながら、テストをすると言い出した。
「今から好きに料理を作ってもらって、1番酷かった班!こっから即刻出ていってもらいます!」
そう断言する先生は、私達が囲む調理台のシンクの縁に片腕をつき、私達から目を離さない。完全に目をつけられてしまった。
「それでは始め!」
と、大鐘が叩かれた。
先生は、相変わらず私達を見たまま、他を見ようとしない。
「やれやれ、料理を習いに来たというのに、よもや習う前にこんな事になるとは」
「仕方ないわ。ここは皆で協力するしかないわね」
「技術面では不安があるけど、愛情なら私達だって負けてないハズよ。みんなで1つ所に愛情を向けて、なんとか乗り越えましょう」
お妙ちゃんの意見に、誰に愛情を向けるかをそれぞれ告げるが、みんなバラバラで、限りなくどうでもいいものに向かっている。
「仕方ない。ここはみんなの意見をまとめて、折衷案で〇’zの稲葉さんにしましょう」
「なんでだァァァ!なんで黄門の肛門から稲葉さんが出てくるんですか!アンタの好みでしょ!その一昔前のOL臭いチョイス!」
「ふざけんじゃないわよ!黄門の肛門って言ってるでしょ!」
「分かった。僕はお妙ちゃんと一緒でいい。稲葉さんのケツの穴にしよう」
「なんでケツの穴だ!微妙に肛門と混ざってんでしょ!」
「オイ!カーネルはどこ行ったアルか!稲葉とカーネルとドッキングさせろヨ!」
「じゃあ、稲葉とカーネルのケツの穴にすれば解決じゃん」
「オイぃぃぃぃ!もうそこどーでもいいだろに!早く料理作りましょ!」
「どうでもよくなんかないわよ。料理は愛情」
新ちゃんがまとめようとしていた所に、先生が口を挟んできた。
「何を作るかじゃない。誰のために作るか。それが重要って言ったでしょ」
それを皮切りに、再び誰に愛情を向けるかの論争が始まった。
話し合いを重ねた結果、漸くドリフターZのKENに収まりがついたが、私達がグタグタと話し合いをしている間も、他の人達は既に料理を作り始めている。
「早く料理作ろうよ。何作る?何作りたい?」
「このスイカに塩ふればいいんじゃないアルか。よく早食いしてたし」
野菜の山からスイカを持ち上げた神楽ちゃんの提案は、料理じゃないと新ちゃんに却下された。
次に、何を作るかについて話し合おうとなっていた時、九ちゃんがこんな事を言ってきた。
「すまないみんな。今更悪いんだがやっぱり……KENはやめてCHAの方にしないか!」
「お前はまだその話引きずってんのかァァ!もういいっつってんだろそのくだらねー話は!」
「KENは酒好きで知られるが、イマイチなんの料理が好きかは認知されていない。だが、CHAの方は簡単だ」
九ちゃんはCHAの好物を把握しているのかと、少しの期待を持って聞いていたのだが――
「CHA飯……つまりチャーハンだ」
「ただのダジャレじゃねーかァァァ!」
「成程。CHA飯……まさにCHAのためのご飯……さすがは九ちゃんだわ」
「いや、うまい事言ってるだけだよね!なんにもCHAのための料理ではないよね!」
「九ちゃんのおかげで、誰に何作るかが一気に決まったし、これでいこう」
「でも今更KENを外すのはかわいそうアル」
神楽ちゃんの発言で、KATOちゃんKENちゃん2人まとめようという話に落ち着いた。
ようやく、話が1歩前に進んだ。
具材は、ネギ、チャーシュー、卵。
ここからどうアレンジを加えるかが問題となってくる。
海老、ホタテなどを加えると海鮮チャーハン、キムチ系のモノを入れるとキムチチャーハンになる。
「どうする」
「KATOちゃんKENちゃんって……一体何が好きなんだ」
「しらね」
九ちゃんの問いかけに、新ちゃん以外の声が重なった。
「しらねーじゃねーだろ!お前らが勝手にチャーハン好きにしたてたんだろ!結局前に1歩も進んでねーじゃん!」
海鮮風でいこうと、神楽ちゃんがフラインパンにコンブやワカメを大量に入れていく。
見たこともない程に、黒々としたチャーハンへ変貌を遂げた。
KENの薄毛に効くからと、ノリやリー〇21系もそこに加えられていく。
「さっきから聞いてればなんなのKENKENって!言っとくけどね、このチャーハンはKATOちゃんKENチャーハンなのよ!KATOちゃんだって息づいてるの!」
猿飛さんのCHAに対する熱。
それをゴングとし、お妙ちゃんと猿飛さんのKATOちゃんとKENちゃんへの愛ともとれる、熱い話し合いが交わされていく。
互いの口から話される、KATOちゃんとKENちゃんの知られざる意外な一面を聞き、何故か暗い表情を浮かべるお妙ちゃんと猿飛さん。
「私達じゃやっぱり無理だったのよ。包丁もロクに握ったことのない小娘が、人を元気づけられる愛情のこもった料理を作るなんて。ハナっからできっこなかったのよ」
「何この暗いムード……なんで全裸でウンコするKATOちゃんの話から、こんなムードになれるの……」
「お妙ちゃんも猿飛さんも落ち込まないで。ここまでやったんだから1回最後までやってみよ。ここにいる6人だったら出来るよ」
猿飛さんは、私を一瞥すると、また視線を外してため息をついた。
「あなたはお気楽そうでいいわね……」
そう言われて、眉を下げる。
人を励ますのはとても難しい。
野菜の山を漁っている神楽ちゃんへと歩み寄る。
「神楽ちゃん、何探してるの?手伝おうか?」
「あったアル。美緒、これ使ってやってやるネ」
神楽ちゃんが持っているのは、明太子。
「無理なんかじゃないアル」
神楽ちゃんが見付けた明太子を使って、私達はチャーハンを完成させた。
明太子を唇に見立てて、ドリフターZのリーダー雷CHOさんの顔。仕上げに、ケチャップで『KATO SHIMURA 次いってみよう!』と書いた。
思った以上にいい出来栄え。
「先生、出来ました。お願いします」
神楽ちゃんが代表して渡したそれを見ると、先生はスプーンで掬って口へと運んだ。
判定が出るのを、先生を見ながら固唾を呑んで待つ。この時間がとても長いように思えた。
「……マズイ」
先生から放たれたその判定に、肩を落とす。
先生は、けど、と静かに続けた。
「私がKATOちゃんKENちゃんだったら、こりゃ食えない」
思わぬ評価に目を見開いた後、自然と笑みが漏れた。隣にいる猿飛さんと目が合い、小さく微笑みあう。
「さァさっさと出て行きな。アンタらに教えられる事は私には何もないよ。料理は愛情。この言葉を忘れるんじゃないよ」
「はい!」
元気よく返事をして、どこかスッキリした気持ちで料理教室を後にした。
「あの先生、私達に教える事ないって言ってたね。それって凄いことだよね?」
道を歩きながら、私はみんなに尋ねた。
「そうよ!凄いことよ!」
笑顔でそう返してくれた猿飛さん。
「免許皆伝みたいなものだろう」
「免許皆伝アルか!これで銀ちゃんも納得するネ」
「え、銀ちゃん、神楽ちゃんの作るご飯に文句つけてたの?酷くない?」
「そうヨ!酷いでしょ?でも大丈夫アルヨ。あの言葉があるから」
「じゃあ、みんなでやっとく?」
お妙ちゃんの掛け声で、私達は、顔を見合わせて頷いた。
せーの、とみんなで呼吸を合わせて――
「料理は愛情ォォ!」
拳をあげて高く飛び跳ねた。
と、お妙ちゃんに電話で呼び出された場所は、北大路料理教室。
レパートリーが増えるいい機会なので、二つ返事で了承した。料理教室の出入口付近まで来たところで、向かいから歩いてくる九ちゃん。
「あ、九ちゃん久しぶり」
「美緒ちゃん久しぶり。こんなところで会うなんて奇遇だな。あ、仕事中か。すまない、ひきとめてしまったか」
お妙ちゃんを優先して、仕事を抜けて来ているので制服だ。なので、そう言われても仕方がない。
「大丈夫だよ。今休憩中みたいなもんだし。私は、お妙ちゃんに呼ばれて来たんだけど、九ちゃんは?」
「ホントか。実は僕も、お妙ちゃんに呼ばれて来たんだが……僕達を呼んで、妙ちゃんは何をするつもりなんだ?」
「え?料理じゃないの?ここ、料理教室だし」
出入口の上にある看板を指さして言えば、九ちゃんは複雑そうに顔を歪めた。
「……料理?美緒ちゃんなら分かるが、僕が料理だと?」
「いいんじゃない?今、性別関係なく料理出来た方がいいって言うし」
「しかし……男子厨房に入らず……」
「とりあえず、お妙ちゃん待たせてるから行こっか」
「そうだな」
九ちゃんと一緒に、料理教室へと足を踏み入れた。
「お妙ちゃん」
「お妙ちゃんお待たせ。何?みんな集まってんじゃん」
「あっ、九兵衛さんと美緒ちゃん」
「美緒ー!待ってたアルヨー!」
お妙ちゃんだけだと思っていたそこには、神楽ちゃんと新ちゃんもいて、3人とも三角巾とエプロンをつけている。
神楽ちゃんが突進してきたので、足を踏ん張ってその体をどうにか受け止めた。
教室内を見回せば、教室は繁盛しているのか、生徒が多い。みんな一様に、三角巾とエプロンをつけている。
「神楽ちゃん、私エプロンと三角巾忘れたんだけど、借りれたりしないかな?」
「それなら私達もここで借りたネ。持ってきてあげるヨ」
そう言って、足早に取りに行く神楽ちゃん。
そのそばでは、新ちゃんが「オメーら結局油とれればなんでもいいんだろ!油なめてろよ!」と、ツッコミを入れている。
油をなめる?なんの話だ?
気になって、お妙ちゃん達の方に顔を向ける。
「ドナルドの嫁になるにしても、嫁にとるにしても料理くらい出来なきゃ。あの人ほっといたら、なんでもパンにはさんで解決しようとするわよ」
ドナルドを嫁とは、お妙ちゃんも大きく出たものだ。
お妙ちゃんなら、その腕っ節で嫁にもらえそうな気がする。いや、あの口ぶりからして、九ちゃんがドナルドの嫁になりたいのか?
「美緒、借りてきたアル」
「あ、ありがとう」
神楽ちゃんから、三角巾とエプロンを受け取って身に付ける。
「美緒、一緒に料理覚えて、カーネルの嫁になるアルヨ。そしたら、卵もフライドチキンの肉も食べ放題ネ」
「神楽ちゃんはカーネルの嫁か。じゃあ私は誰の嫁になろうかな」
「お妙さん、あなた手料理を覚えて銀さんをおとそうってハラ?」
ジャンクフードのマスコット的なもので、他に何がいたかなと考えていると、どこかで聞き覚えのある声が降ってきた。
どこからだと見回すまでもなく、目立っている人。
「抜けがけはさせないわよ!銀さんの納豆を練るのはこの私の役目よ!」
「さっちゃんさん!」
土足で調理台に立って、納豆を練っている猿飛さんがいた。
「あなた、まだ銀さん狙ってたんですか。いい加減目ェ覚ましたら?あんなグータラと一緒になっても幸せにはなれないわよ」
猿飛さんは、お妙ちゃんをライバルと思っているのか、つっかかっているのに対し、お妙ちゃんは平然としたものだ。見る限り三角関係とかではないらしい。
「猿飛さんって銀ちゃんの事好きなんだね」
「知らなかったアルか?アレは変態ネ。関わらない方がいいヨロシ」
「そうなんだ」
「ハイハイ静かに!」
大きな声が、教室内に響いた。
前には、先生と思しきコック帽を被ったふくよかな女性が、立てた人差し指を挙げて立っている。
「みなさんはおしゃべりに来たんですかァ!それとも料理を習いにきたんですかァ!いやさどちらも違う!愛情表現を学ぶために来たんです!」
料理というものは、ただの日常雑務ではないと熱弁する先生の顔は、どこかで見覚えがある気がする。それがどこで見たのか思い出せない。
手配書の中にあった顔だったか、それともまた別のところで見た顔だったか。
「料理研究家の北大路魯山子先生よ。腕は確かだけど、とっても厳しくて有名なの」
「そういやテレビで見たことあるアル」
「ああ、『料理の侍』とか確か出てたよね」
神楽ちゃん達が話しているのを聞いて、漸くどこで見たのかを思い出せた。
教室内は、先生を始め生徒達が「料理は愛情ォ!」と腕を突き上げて、そんな言葉を響かせている。
「いや違うアル。離婚会見してたアル。旦那が10年間不倫してて、ドロ沼の熟年離婚だったって!」
その声も、神楽ちゃんの爆弾発言により、ピタリと止んだ。
「えー。じゃあ愛情もクソも、愛する人がいないんじゃないの。逃げられてんじゃないの」
「ねー。さっき料理は愛情って言ってたのに、その旦那に愛情伝わらなかったら意味ないよね。説得力もないよ。あ、元旦那か」
「さっちゃんさん、美緒ちゃん聞こえます!」
「言い過ぎだぞ。ないとは言いきれん。もしかしたらそんな男でも、まだ引きずっているのかもしれない。これから愛を伝えるのかもしれん」
「フォローになってないですよ九兵衛さん!」
先生は、冷静を努めているふうに見せてはいるものの、その顔は青筋を浮かべている。そして、こちらに歩み寄ってきながら、テストをすると言い出した。
「今から好きに料理を作ってもらって、1番酷かった班!こっから即刻出ていってもらいます!」
そう断言する先生は、私達が囲む調理台のシンクの縁に片腕をつき、私達から目を離さない。完全に目をつけられてしまった。
「それでは始め!」
と、大鐘が叩かれた。
先生は、相変わらず私達を見たまま、他を見ようとしない。
「やれやれ、料理を習いに来たというのに、よもや習う前にこんな事になるとは」
「仕方ないわ。ここは皆で協力するしかないわね」
「技術面では不安があるけど、愛情なら私達だって負けてないハズよ。みんなで1つ所に愛情を向けて、なんとか乗り越えましょう」
お妙ちゃんの意見に、誰に愛情を向けるかをそれぞれ告げるが、みんなバラバラで、限りなくどうでもいいものに向かっている。
「仕方ない。ここはみんなの意見をまとめて、折衷案で〇’zの稲葉さんにしましょう」
「なんでだァァァ!なんで黄門の肛門から稲葉さんが出てくるんですか!アンタの好みでしょ!その一昔前のOL臭いチョイス!」
「ふざけんじゃないわよ!黄門の肛門って言ってるでしょ!」
「分かった。僕はお妙ちゃんと一緒でいい。稲葉さんのケツの穴にしよう」
「なんでケツの穴だ!微妙に肛門と混ざってんでしょ!」
「オイ!カーネルはどこ行ったアルか!稲葉とカーネルとドッキングさせろヨ!」
「じゃあ、稲葉とカーネルのケツの穴にすれば解決じゃん」
「オイぃぃぃぃ!もうそこどーでもいいだろに!早く料理作りましょ!」
「どうでもよくなんかないわよ。料理は愛情」
新ちゃんがまとめようとしていた所に、先生が口を挟んできた。
「何を作るかじゃない。誰のために作るか。それが重要って言ったでしょ」
それを皮切りに、再び誰に愛情を向けるかの論争が始まった。
話し合いを重ねた結果、漸くドリフターZのKENに収まりがついたが、私達がグタグタと話し合いをしている間も、他の人達は既に料理を作り始めている。
「早く料理作ろうよ。何作る?何作りたい?」
「このスイカに塩ふればいいんじゃないアルか。よく早食いしてたし」
野菜の山からスイカを持ち上げた神楽ちゃんの提案は、料理じゃないと新ちゃんに却下された。
次に、何を作るかについて話し合おうとなっていた時、九ちゃんがこんな事を言ってきた。
「すまないみんな。今更悪いんだがやっぱり……KENはやめてCHAの方にしないか!」
「お前はまだその話引きずってんのかァァ!もういいっつってんだろそのくだらねー話は!」
「KENは酒好きで知られるが、イマイチなんの料理が好きかは認知されていない。だが、CHAの方は簡単だ」
九ちゃんはCHAの好物を把握しているのかと、少しの期待を持って聞いていたのだが――
「CHA飯……つまりチャーハンだ」
「ただのダジャレじゃねーかァァァ!」
「成程。CHA飯……まさにCHAのためのご飯……さすがは九ちゃんだわ」
「いや、うまい事言ってるだけだよね!なんにもCHAのための料理ではないよね!」
「九ちゃんのおかげで、誰に何作るかが一気に決まったし、これでいこう」
「でも今更KENを外すのはかわいそうアル」
神楽ちゃんの発言で、KATOちゃんKENちゃん2人まとめようという話に落ち着いた。
ようやく、話が1歩前に進んだ。
具材は、ネギ、チャーシュー、卵。
ここからどうアレンジを加えるかが問題となってくる。
海老、ホタテなどを加えると海鮮チャーハン、キムチ系のモノを入れるとキムチチャーハンになる。
「どうする」
「KATOちゃんKENちゃんって……一体何が好きなんだ」
「しらね」
九ちゃんの問いかけに、新ちゃん以外の声が重なった。
「しらねーじゃねーだろ!お前らが勝手にチャーハン好きにしたてたんだろ!結局前に1歩も進んでねーじゃん!」
海鮮風でいこうと、神楽ちゃんがフラインパンにコンブやワカメを大量に入れていく。
見たこともない程に、黒々としたチャーハンへ変貌を遂げた。
KENの薄毛に効くからと、ノリやリー〇21系もそこに加えられていく。
「さっきから聞いてればなんなのKENKENって!言っとくけどね、このチャーハンはKATOちゃんKENチャーハンなのよ!KATOちゃんだって息づいてるの!」
猿飛さんのCHAに対する熱。
それをゴングとし、お妙ちゃんと猿飛さんのKATOちゃんとKENちゃんへの愛ともとれる、熱い話し合いが交わされていく。
互いの口から話される、KATOちゃんとKENちゃんの知られざる意外な一面を聞き、何故か暗い表情を浮かべるお妙ちゃんと猿飛さん。
「私達じゃやっぱり無理だったのよ。包丁もロクに握ったことのない小娘が、人を元気づけられる愛情のこもった料理を作るなんて。ハナっからできっこなかったのよ」
「何この暗いムード……なんで全裸でウンコするKATOちゃんの話から、こんなムードになれるの……」
「お妙ちゃんも猿飛さんも落ち込まないで。ここまでやったんだから1回最後までやってみよ。ここにいる6人だったら出来るよ」
猿飛さんは、私を一瞥すると、また視線を外してため息をついた。
「あなたはお気楽そうでいいわね……」
そう言われて、眉を下げる。
人を励ますのはとても難しい。
野菜の山を漁っている神楽ちゃんへと歩み寄る。
「神楽ちゃん、何探してるの?手伝おうか?」
「あったアル。美緒、これ使ってやってやるネ」
神楽ちゃんが持っているのは、明太子。
「無理なんかじゃないアル」
神楽ちゃんが見付けた明太子を使って、私達はチャーハンを完成させた。
明太子を唇に見立てて、ドリフターZのリーダー雷CHOさんの顔。仕上げに、ケチャップで『KATO SHIMURA 次いってみよう!』と書いた。
思った以上にいい出来栄え。
「先生、出来ました。お願いします」
神楽ちゃんが代表して渡したそれを見ると、先生はスプーンで掬って口へと運んだ。
判定が出るのを、先生を見ながら固唾を呑んで待つ。この時間がとても長いように思えた。
「……マズイ」
先生から放たれたその判定に、肩を落とす。
先生は、けど、と静かに続けた。
「私がKATOちゃんKENちゃんだったら、こりゃ食えない」
思わぬ評価に目を見開いた後、自然と笑みが漏れた。隣にいる猿飛さんと目が合い、小さく微笑みあう。
「さァさっさと出て行きな。アンタらに教えられる事は私には何もないよ。料理は愛情。この言葉を忘れるんじゃないよ」
「はい!」
元気よく返事をして、どこかスッキリした気持ちで料理教室を後にした。
「あの先生、私達に教える事ないって言ってたね。それって凄いことだよね?」
道を歩きながら、私はみんなに尋ねた。
「そうよ!凄いことよ!」
笑顔でそう返してくれた猿飛さん。
「免許皆伝みたいなものだろう」
「免許皆伝アルか!これで銀ちゃんも納得するネ」
「え、銀ちゃん、神楽ちゃんの作るご飯に文句つけてたの?酷くない?」
「そうヨ!酷いでしょ?でも大丈夫アルヨ。あの言葉があるから」
「じゃあ、みんなでやっとく?」
お妙ちゃんの掛け声で、私達は、顔を見合わせて頷いた。
せーの、とみんなで呼吸を合わせて――
「料理は愛情ォォ!」
拳をあげて高く飛び跳ねた。