本編
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▽局長の披露宴
屯所内に、今、2つの騒ぎが起こっている。
1つは、副長がミイラ男になり、沖田隊長が右脚を骨折し、松葉杖になっている事。
2人曰く、喧嘩した結果のミイラ男と松葉杖という事らしい。
喧嘩相手も喧嘩の内容も知らないけれど、真選組の中でも剣の腕は天才と謳われている2人が、ここまで負傷を負ったのだから、相手も相当強かった事が窺える。
「やったー!沖田怪我してるから嫌がらせ減いたい!」
松葉杖で器用に脛を攻撃され、思いのほか痛みが強い。脛を抑えて蹲る。
「弁慶さんがァァァ!」
「残念だったなァ。松葉杖という相棒を手に入れた俺に隙はない。つーか、隊長を付けろっつってんだろ!おめェいつからそんな偉くなったんでィ!」
オラオラ、と負傷している弁慶の泣き所を、松葉杖で攻撃してくる。
「やめろォ!私は根に持ってるんだからな!沖田が私のアイス食べなきゃ刺される事はなかったんだ!謝れ!」
「はァ!?お前逆恨みもいい加減にしろィ。お前前世はヘビか?ヘビだろ、ヘビって言え」
「そんなの知らないよ!痛いから松葉杖やめろ!」
ひょこひょこと動く割に、松葉杖での攻撃が止むことはない。
松葉杖の攻撃が当たる前に、後ろに飛び退いてファイティングポーズをとる。
「やんのか?左脚も折ってやろうか?粉々にしてやろうか?」
「お前のへなちょこ攻撃なんか効くかよ」
体勢を低くしてスッとその足元に入ると、警戒したのか後退った――のは、いいのだが、それに松葉杖が適応出来なかったらしく、頭から床に倒れたのだ。
ギャンッという悲鳴と同時に、床を頭にぶつけたであろう鈍い音が響いた。
「だァァァ!テメー!クソが!調子乗りやがって!」
「いや、私なんもしてないんだけど……」
ぶつけた頭が痛いのか、後頭部を抑えて私に文句を吐いてくる。
これは勝手に自滅した沖田が悪い。
痛がる沖田をバックに写真を撮る事にした。こんな光景滅多にない。
「ちょい、沖田動くな。ぶれる」
腹の上に片足を乗せて、勝ったように見えるアングルで、携帯に写真を収めていく。
「バカ女治ったら覚えてろよ!ギャンギャンに泣かせてやっからな!」
「なんで!?勝手に転んだのそっちじゃん!私無罪です!」
自滅したというのに逆恨みをされてしまい、一生治らなきゃいいのにと思わず願ってしまった。
治ったら何をされるか分かったものではない。
そしてもう1つは――
「あああ!やっぱりこうなるのかァァァ!」
「あのゴリラが姐さん……」
「お前ら、ゴリラの星に局長が連れてかれたら真選組はどうなると思う?」
「局長帰ってこねーの!?嘘だろォ!?」
「真選組は終わりだァァァ!」
屯所に響き渡る阿鼻叫喚。
そう、もう1つは、局長とバブルス王女の披露宴が執り行われる事が決まったのだ。
「お前ら……俺は、先に逝く……」
自分の披露宴なのに、影を背負って車に乗る局長は見るに耐えなかった。
今夜行われる披露宴は、所謂顔見せみたいなもので、その後に行われる、王女の星での正式な婚礼が無事に済めば、晴れて局長もゴリラの仲間入りで、もう帰ってこないのだと説明された。
頼みの綱であるはずのお妙ちゃんも、披露宴を壊すのに手を貸してはもらえないだろう。
むしろお妙ちゃん的には、願ったり叶ったりの状況だろうから。
それに、これは上が絡んでいる披露宴の為、私達真選組が式を壊す事は出来ないようだ。
「こうなったら、私が局長の元カノを装って、披露宴の途中に局長をかっ攫うしかないと思う。どう?」
「何言ってんの?演技だとしても、そんな役やらせるわけないだろ」
「でも、あんな局長見てられないよ……それに、姐さんがゴリラ……」
「…………」
2人して、何もいい案が思い浮かばずため息をつく。
披露宴という事で、振袖に袖を通す。
人生で初めて呼ばれた披露宴が、こんなにも気の重たくなる日になろうとは誰が予想出来ただろう。
「あー……行きたくない……」
「美緒ちゃん準備出来た?行くよー」
帯締めを締めたところで、袴を着た退が襖を開けて声をかけてきた。バッグを持って退の所に向かう。
「お待たせ」
「何その顔。凄い暗いよ」
「暗くもなるよ。初めて行く披露宴がゴリラだよ。ある意味忘れられないよ」
「言っててもしょうがないよ」
手を引かれて屯所を後にした。
車で着いた式場は、思ったよりも広くて豪華な建物。
受付を済ませて、いくつも置いてある円卓から、真選組の席を見付けた。
テーブルには既にバナナが用意されていて、反応に困る。
他にも後から別の料理は出てくるのだろうか。それとも、バナナオンリーなのだろうか。
案の定、式場に入ってくるのは、ゴリラばかり。
その中に見付けた、万事屋さんの姿。
隣に座っている退に、ちょっと行ってくると声をかけてから、神楽ちゃんのもとに向かった。
「神楽ちゃん達も呼ばれてたんだね」
「ご馳走食べれる言うから来てやったアルヨ。でもバナナしかないヨ。どういう事アルか」
「私に聞かれても分からない……分かりたくない……」
「バナナだけとは、私もナメられたものアル」
そう怒りを露にしながら、バナナを両手に持って食べている。その姿に苦笑し、席に戻る事を伝えて神楽ちゃんと手を振って別れた。
バナナを食べていると会場が暗くなり、パッと出入口の扉がライトアップされた。
《新郎新婦入場です!》
司会の合図と共に、その扉へと顔を向けて驚いた。
局長と一緒に入ってきた王女の大きさが、私の想像する3倍は大きいのだ。こんなにも局長が小さく見えたのは初めてだ。
拍手も忘れて、王女から目が離せない。
「美緒ちゃん、口開いてる」
退の指摘に慌てて口を閉じた。無意識に口が開いていたらしい。
「ゴリラってあんな大きかったっけ?」
「俺もビックリした。まさかあんな大きいとはね……」
新郎新婦用の席に並んで座っても、大きさは一目瞭然。局長の顔が引きつっているのが見て取れる。
こんなにも、めでたいと心から祝福出来ない披露宴も、なかなかないのではないだろうか。
あんなの相手にどう式を壊せばいいのか分からない。真正面からぶつかっても、踏み潰されて終わるに違いない。
考えるのは後にして、バナナに手を伸ばした。
《それでは、新郎新婦。どうぞ前へ》
黙々とバナナを食べていたら、そうアナウンスされてそちらに意識を向ける。
《夫婦初めての共同作業に移らせて貰います》
スタッフ2人がかりで運ばれてきたのは、大きなベッド。
夫婦初めての共同作業といえば、ケーキ入刀だと思っていたのだが、出てきたのはケーキではなくベッド。
ベッドを2人で切り刻むのかと予想していたその時、王女がそのベッドに寝たのだ。まるで、局長を迎え入れるかのように。
「……退、これ、どういう事?」
「俺だって何見せられてんのか分かんねーよ」
相手はゴリラだ。退にも分かるわけがなかった。
辺りを見回せば、ゴリラ達は若干前のめりで、新郎新婦をじっと見ている。
「うわああああ!」
局長の悲鳴に驚き、前を見れば局長が王女に襟首を掴まれて、上に投げられていた。それを受け止めようと両手を広げている王女。
その時、何かが視界の端を横切り、局長を壁に突き刺した。羽織に上手く突き刺さったそれに、吊り下げられている局長。
振り返ればそこには――
「お妙さァァァん!」
「姉上ェェェ!」
「アネゴォォォ!」
「お妙ちゃん!」
局長を始めとする、新ちゃんと隊士達の声が重なる。諦めていたお妙ちゃんの登場に、涙が出そうになった。
私以外の隊士達は既に感涙している。
「ついに……ついに局長と夫婦になる決意を!」
涙を流しながら、嬉しそうに言う退を見て頬が緩む。
しかし、それは平和に事が進むわけもなく、ゴリラ達は怒り心頭の如く向かってくる。
「もう構うもんか!」
「行くぞォテメーら!真選組がゴリラ如きにヘラヘラしてられっかァ!」
「俺達の局長の嫁は俺達が決める!護れェェ!局長と姐さんの愛の道ををを!」
私もその士気に応えるべく、邪魔をしようとするゴリラに立ち向かう。
局長とお妙ちゃんを繋ぐ道は、何者にも邪魔はさせない。
ゴリラの暴走を止めるのも初めてだ。
ゴリラに全体重をかけてタックルし、お妙ちゃんが通れる道を作る。
「近藤ォォ!てめっホレた女がいるなら何故言わねェ!年寄りが余計な事しちまったぜ……幸せになりな!」
ゴリラにタックルしながら、そう局長に祝いの言葉をかける松平のおじ様。
ゴリラが私の頭を掴もうとしているのを見て、咄嗟にそれを避ける。その周りをグルグルと回ったり、右から左からと姿を現し、必死に捕まえようとするゴリラをからかう。
「うおおおお!」
お妙ちゃんが凄い形相で、新婦のゴリラに向かって走り出した。
「てんめェェェ!何してくれてんだァァァ!私のおっ……弟に、何とんでもねーもん見せてくれとるんじゃァァ!」
飛び蹴りすると、局長もろとも王女が吹っ飛んでいった。凄まじい衝撃音と共に、王女が倒れる。
それを見たゴリラ達が怒るのも当然で。
「逃げるよ」
急に手を引かれて、たたらを踏んだが、体を進行方向に向けて走り出す。王女の復活も早く、王女も負けず劣らず凄い形相で追いかけてくる。
前には、笑顔で逃げるお妙ちゃんや神楽ちゃん、必死に逃げる新ちゃん。局長を担いでいる副長。銀ちゃんにしがみつこうとして、邪険に扱われている沖田の姿。そして、私の手を引いて逃げる退。
「退、披露宴って楽しいね!」
「んな事言ってる場合かァァァ!」
どうにか、王女とゴリラの集団を撒く事と、局長の奪還も成功した。
あれだけ派手に式を壊されれば、王女から破談を言い渡されるのは当然の事だろう。
王女は局長に本気で惚れていたのか、何か意図があって局長との縁談を進めたのか分からないけれど、王女にもまた別の幸せがあらん事を密かに願ったのだった。
屯所内に、今、2つの騒ぎが起こっている。
1つは、副長がミイラ男になり、沖田隊長が右脚を骨折し、松葉杖になっている事。
2人曰く、喧嘩した結果のミイラ男と松葉杖という事らしい。
喧嘩相手も喧嘩の内容も知らないけれど、真選組の中でも剣の腕は天才と謳われている2人が、ここまで負傷を負ったのだから、相手も相当強かった事が窺える。
「やったー!沖田怪我してるから嫌がらせ減いたい!」
松葉杖で器用に脛を攻撃され、思いのほか痛みが強い。脛を抑えて蹲る。
「弁慶さんがァァァ!」
「残念だったなァ。松葉杖という相棒を手に入れた俺に隙はない。つーか、隊長を付けろっつってんだろ!おめェいつからそんな偉くなったんでィ!」
オラオラ、と負傷している弁慶の泣き所を、松葉杖で攻撃してくる。
「やめろォ!私は根に持ってるんだからな!沖田が私のアイス食べなきゃ刺される事はなかったんだ!謝れ!」
「はァ!?お前逆恨みもいい加減にしろィ。お前前世はヘビか?ヘビだろ、ヘビって言え」
「そんなの知らないよ!痛いから松葉杖やめろ!」
ひょこひょこと動く割に、松葉杖での攻撃が止むことはない。
松葉杖の攻撃が当たる前に、後ろに飛び退いてファイティングポーズをとる。
「やんのか?左脚も折ってやろうか?粉々にしてやろうか?」
「お前のへなちょこ攻撃なんか効くかよ」
体勢を低くしてスッとその足元に入ると、警戒したのか後退った――のは、いいのだが、それに松葉杖が適応出来なかったらしく、頭から床に倒れたのだ。
ギャンッという悲鳴と同時に、床を頭にぶつけたであろう鈍い音が響いた。
「だァァァ!テメー!クソが!調子乗りやがって!」
「いや、私なんもしてないんだけど……」
ぶつけた頭が痛いのか、後頭部を抑えて私に文句を吐いてくる。
これは勝手に自滅した沖田が悪い。
痛がる沖田をバックに写真を撮る事にした。こんな光景滅多にない。
「ちょい、沖田動くな。ぶれる」
腹の上に片足を乗せて、勝ったように見えるアングルで、携帯に写真を収めていく。
「バカ女治ったら覚えてろよ!ギャンギャンに泣かせてやっからな!」
「なんで!?勝手に転んだのそっちじゃん!私無罪です!」
自滅したというのに逆恨みをされてしまい、一生治らなきゃいいのにと思わず願ってしまった。
治ったら何をされるか分かったものではない。
そしてもう1つは――
「あああ!やっぱりこうなるのかァァァ!」
「あのゴリラが姐さん……」
「お前ら、ゴリラの星に局長が連れてかれたら真選組はどうなると思う?」
「局長帰ってこねーの!?嘘だろォ!?」
「真選組は終わりだァァァ!」
屯所に響き渡る阿鼻叫喚。
そう、もう1つは、局長とバブルス王女の披露宴が執り行われる事が決まったのだ。
「お前ら……俺は、先に逝く……」
自分の披露宴なのに、影を背負って車に乗る局長は見るに耐えなかった。
今夜行われる披露宴は、所謂顔見せみたいなもので、その後に行われる、王女の星での正式な婚礼が無事に済めば、晴れて局長もゴリラの仲間入りで、もう帰ってこないのだと説明された。
頼みの綱であるはずのお妙ちゃんも、披露宴を壊すのに手を貸してはもらえないだろう。
むしろお妙ちゃん的には、願ったり叶ったりの状況だろうから。
それに、これは上が絡んでいる披露宴の為、私達真選組が式を壊す事は出来ないようだ。
「こうなったら、私が局長の元カノを装って、披露宴の途中に局長をかっ攫うしかないと思う。どう?」
「何言ってんの?演技だとしても、そんな役やらせるわけないだろ」
「でも、あんな局長見てられないよ……それに、姐さんがゴリラ……」
「…………」
2人して、何もいい案が思い浮かばずため息をつく。
披露宴という事で、振袖に袖を通す。
人生で初めて呼ばれた披露宴が、こんなにも気の重たくなる日になろうとは誰が予想出来ただろう。
「あー……行きたくない……」
「美緒ちゃん準備出来た?行くよー」
帯締めを締めたところで、袴を着た退が襖を開けて声をかけてきた。バッグを持って退の所に向かう。
「お待たせ」
「何その顔。凄い暗いよ」
「暗くもなるよ。初めて行く披露宴がゴリラだよ。ある意味忘れられないよ」
「言っててもしょうがないよ」
手を引かれて屯所を後にした。
車で着いた式場は、思ったよりも広くて豪華な建物。
受付を済ませて、いくつも置いてある円卓から、真選組の席を見付けた。
テーブルには既にバナナが用意されていて、反応に困る。
他にも後から別の料理は出てくるのだろうか。それとも、バナナオンリーなのだろうか。
案の定、式場に入ってくるのは、ゴリラばかり。
その中に見付けた、万事屋さんの姿。
隣に座っている退に、ちょっと行ってくると声をかけてから、神楽ちゃんのもとに向かった。
「神楽ちゃん達も呼ばれてたんだね」
「ご馳走食べれる言うから来てやったアルヨ。でもバナナしかないヨ。どういう事アルか」
「私に聞かれても分からない……分かりたくない……」
「バナナだけとは、私もナメられたものアル」
そう怒りを露にしながら、バナナを両手に持って食べている。その姿に苦笑し、席に戻る事を伝えて神楽ちゃんと手を振って別れた。
バナナを食べていると会場が暗くなり、パッと出入口の扉がライトアップされた。
《新郎新婦入場です!》
司会の合図と共に、その扉へと顔を向けて驚いた。
局長と一緒に入ってきた王女の大きさが、私の想像する3倍は大きいのだ。こんなにも局長が小さく見えたのは初めてだ。
拍手も忘れて、王女から目が離せない。
「美緒ちゃん、口開いてる」
退の指摘に慌てて口を閉じた。無意識に口が開いていたらしい。
「ゴリラってあんな大きかったっけ?」
「俺もビックリした。まさかあんな大きいとはね……」
新郎新婦用の席に並んで座っても、大きさは一目瞭然。局長の顔が引きつっているのが見て取れる。
こんなにも、めでたいと心から祝福出来ない披露宴も、なかなかないのではないだろうか。
あんなの相手にどう式を壊せばいいのか分からない。真正面からぶつかっても、踏み潰されて終わるに違いない。
考えるのは後にして、バナナに手を伸ばした。
《それでは、新郎新婦。どうぞ前へ》
黙々とバナナを食べていたら、そうアナウンスされてそちらに意識を向ける。
《夫婦初めての共同作業に移らせて貰います》
スタッフ2人がかりで運ばれてきたのは、大きなベッド。
夫婦初めての共同作業といえば、ケーキ入刀だと思っていたのだが、出てきたのはケーキではなくベッド。
ベッドを2人で切り刻むのかと予想していたその時、王女がそのベッドに寝たのだ。まるで、局長を迎え入れるかのように。
「……退、これ、どういう事?」
「俺だって何見せられてんのか分かんねーよ」
相手はゴリラだ。退にも分かるわけがなかった。
辺りを見回せば、ゴリラ達は若干前のめりで、新郎新婦をじっと見ている。
「うわああああ!」
局長の悲鳴に驚き、前を見れば局長が王女に襟首を掴まれて、上に投げられていた。それを受け止めようと両手を広げている王女。
その時、何かが視界の端を横切り、局長を壁に突き刺した。羽織に上手く突き刺さったそれに、吊り下げられている局長。
振り返ればそこには――
「お妙さァァァん!」
「姉上ェェェ!」
「アネゴォォォ!」
「お妙ちゃん!」
局長を始めとする、新ちゃんと隊士達の声が重なる。諦めていたお妙ちゃんの登場に、涙が出そうになった。
私以外の隊士達は既に感涙している。
「ついに……ついに局長と夫婦になる決意を!」
涙を流しながら、嬉しそうに言う退を見て頬が緩む。
しかし、それは平和に事が進むわけもなく、ゴリラ達は怒り心頭の如く向かってくる。
「もう構うもんか!」
「行くぞォテメーら!真選組がゴリラ如きにヘラヘラしてられっかァ!」
「俺達の局長の嫁は俺達が決める!護れェェ!局長と姐さんの愛の道ををを!」
私もその士気に応えるべく、邪魔をしようとするゴリラに立ち向かう。
局長とお妙ちゃんを繋ぐ道は、何者にも邪魔はさせない。
ゴリラの暴走を止めるのも初めてだ。
ゴリラに全体重をかけてタックルし、お妙ちゃんが通れる道を作る。
「近藤ォォ!てめっホレた女がいるなら何故言わねェ!年寄りが余計な事しちまったぜ……幸せになりな!」
ゴリラにタックルしながら、そう局長に祝いの言葉をかける松平のおじ様。
ゴリラが私の頭を掴もうとしているのを見て、咄嗟にそれを避ける。その周りをグルグルと回ったり、右から左からと姿を現し、必死に捕まえようとするゴリラをからかう。
「うおおおお!」
お妙ちゃんが凄い形相で、新婦のゴリラに向かって走り出した。
「てんめェェェ!何してくれてんだァァァ!私のおっ……弟に、何とんでもねーもん見せてくれとるんじゃァァ!」
飛び蹴りすると、局長もろとも王女が吹っ飛んでいった。凄まじい衝撃音と共に、王女が倒れる。
それを見たゴリラ達が怒るのも当然で。
「逃げるよ」
急に手を引かれて、たたらを踏んだが、体を進行方向に向けて走り出す。王女の復活も早く、王女も負けず劣らず凄い形相で追いかけてくる。
前には、笑顔で逃げるお妙ちゃんや神楽ちゃん、必死に逃げる新ちゃん。局長を担いでいる副長。銀ちゃんにしがみつこうとして、邪険に扱われている沖田の姿。そして、私の手を引いて逃げる退。
「退、披露宴って楽しいね!」
「んな事言ってる場合かァァァ!」
どうにか、王女とゴリラの集団を撒く事と、局長の奪還も成功した。
あれだけ派手に式を壊されれば、王女から破談を言い渡されるのは当然の事だろう。
王女は局長に本気で惚れていたのか、何か意図があって局長との縁談を進めたのか分からないけれど、王女にもまた別の幸せがあらん事を密かに願ったのだった。