アイナナ短編
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『障害物競走に出る生徒は集まってください』
周辺の建物に反響するアナウンスは、生徒のざわめきに掻き消される事なく私の耳に届く。
体育祭と言いつつも、わいわい楽しめる学校行事なので、運動がそれほど得意ではない私にとっても嫌な行事ではなかった。
「そういえば一年の彼氏くん、障害物競走に出るんでしょ?」前行って応援しなよ、と仲のいい友達に腕を引かれる。私と彼女は自分の競技が終わっていたので、話に花を咲かせていた。
「ていうかまさか愛梨が後輩と付き合うとはね〜!しかも2個下!!結構モテるんでしょ、一織くん。」他の女に取られるぞ、意地悪そうな顔でこちらを見る。
「あんまりそういう話本人としないからわかんないけど、噂ではモテるらしいよ。私も一織の事好きって言ってる子何人か知ってるし、告白現場も見た事あるしね。」
うっそ!!と彼女は大声を上げたが、周りの歓声のせいかあまり目立たない。
「だとしたらかなり余裕ですねぇ。正妻の余裕ってやつですか?ほら、そろそろ番なんだからちゃんと応援して、格の差見せつけてやんなよ。」彼女が一瞥した方を見やると、一織と書かれたうちわを持った女子生徒が目に入った。鉢巻の色的に、一織と同じクラスの子だろう。確かに顔も頭も運動神経もスタイルもいいし、かっこいいしかわいいし、最高な彼氏だと思う。モテるのも充分理解しているが、やはり他の女子がかっこいいとか好きとか言っているのを耳にするのは、あまり気持ちがいいとはいえない。
「あの子たちも、まさかみんなの憧れの一織くんが先輩と付き合ってるなんて思わないだろうね〜」
そう、彼は真面目な雰囲気だから恋バナとかもクラスでしないし、告白されても彼女がいるから、という断り方もしないから完全にフリーだと思われている。(そもそも女子と話す機会もないと言っていたが...)私が、この人彼氏です〜♡と紹介して回れば済む話だが、ヤバい奴だと思われそうだからそんなことはしない。とはいえ、やはり私が一織の彼女だと、あまり認識されていないので寂しい気がしてしまう。
「あっ、スタートするよ!」
彼女の指差した先を見ると、彼がスタートラインに並んでいる。やっぱりすごくカッコよくて1年女子の声援は一際大きくなり、胸がきゅっとなる。
パーン、と乾いた音と共に走り出す。短距離は四葉さんの方が速いんですよ、と言っていた割には彼もかなり足が速くて、おまけに器用なので、トラックに置いてある障害物を次々とクリアしていく。
この競技は花形でかなり盛り上がる競技なのだが、1番の見どころは最後の「借り物」だ。お題がランダムに書かれていて、それを素早く見つけなければならないので、最後は運が物を言う。
「一織くん速いじゃん!お題なんだろうね?好きな人とかだったら笑っちゃうよね。」
彼女の声を聞きながら、目線はずっと彼に集中していた。せっかくここまで1番だったのだから、なるべく簡単なお題引いてそのままゴールしてほしいな〜と思っていたら、紙を開いた彼の目が大きく見開かれた。そのあと恥ずかしそうな、ばつの悪そうな顔をしたと思ったら周りをきょろきょろと見渡している。私と目が合うとはっとして、こちらに向かって走ってきた。
さっき聞き流していた彼女の発言を急に思い出して、鼓動が速くなる。まさか、本当に?
「...愛梨さん、ちょっと一緒に来てもらえますか。」どくん、と心臓が跳ねた。嬉しいような、恥ずかしいような、形容し難い感情が一気に湧き上がる。
「早く行きな!!」彼女に背中をグッと押され、前によろけた。突然のことだったのでバランスを崩しそうになったが、一織がちゃんと支えてくれた。
「早く行きますよ。一位、狙ってるんです。」
なので、と差し出された手をぎゅっと握ると、彼が一気に加速した。足がもつれそうになるが、こけるわけにはいかないと思って必死に走る。
「愛梨さん!もうちょっといけますか!?」
「むりーー速いよ!!すでに!!」
他の選手を見ると女子の手を引いてる人はいなく、変な物を持ってたり、男性教師と手を繋いで走っていたりする。相当なハンデだ。
「...っ!仕方がないですね!!」
次の瞬間私の身体がふわっと浮き、彼の横顔が全面にうつる。割れるような歓声に包まれて、やっと状況が理解できた。
「ちゃんと掴まってください!落ちますよ!」暑さのせいなのか照れているのかわからないが、少し赤い顔をした彼にキッと睨まれる。それがすごく愛おしくて、肩に手を回してぎゅっと力を入れた。
トラック半周はあっという間に終わり、私が横顔をじっと見てる間に彼は一位でゴールした。環くんがいおりんかっけー!やべー!と大興奮してこちらに向かってくる。
息を切らした彼の顔を再度見上げると、ぱちっと目があった。あなたが遅いから、と悪態を吐きながら降ろされたが、今はそれすらも愛おしく思ってしまう。
「あの、お題見せてもらえますか?」係の生徒に聞かれると、またばつの悪そうな顔をしたが、こっそりと見せていた。「はい、OK。一位おめでとうございます!」
「なーなーいおりん、お題俺にも見せて。」
「私も知りたい!」
「OKもらったので見せる必要ないです。ていうかなんで四葉さんここ来てるんですか!?」
「いおりん話題そらすのよくねーぞ。....あーーーーー!!!!」
え、何!?と私も一織も環くんの指す方を見てしまったが、完全にはめられただけだった。
「...しゃ!!いおりんの紙ゲット!!」
ちょっと...!!と静止される前に環くんがその紙を開き、ほーん、とリアクションを取る。私も知りたい。
「四葉さん。悪ふざけはもうやめにしてもらえますか?」
「ごめんて。怒んなって。あっ!俺、つぎの競技出っからまたな!」
手を振りながら去っていく環くんを見ながら、私も聞いてみた。
「お題、見せてよ。お願い!」
「もう終わったことですし、よくないですか?...わかりましたよ。」
ほら、と手渡された小さな紙をドキドキしながら開くと、そこには
『かわいいもの』
と書いてあった。
「私物じゃなくない!!?」
「...別にいいでしょう!?ていうか、突っ込むところそこですか!?」
顔を赤くした彼がとても可愛くて、もうなんでもよくなってしまった。が、まだ許してあげない。
「だって物じゃないもん。私は一織のなに?」
じっと彼の目を見つめると、はあっとため息をついて私の耳に口を近付ける。
「...かわいい人、で彼女です。」
数日後
「あの、先輩。ちょっといいですか?」
呼び止められて振り返ると、見覚えがあるようなないような女子が3人いた。
「一織くんと付き合ってるって本当ですか?」
...あっ!体育祭のうちわの子か!
「そうだよ。一織に聞いたの?」
「そうなんですね。でも今年卒業したらどうするんですか?...私、一織くんのこと諦めてませんから。」
言うねー。さて、言い返してやろうかな、と思っていたら、後ろから聞きなれた声がした。
「私から告白したんです。私は、愛梨さんが卒業してもずっとお付き合いしたいと思ってます。なので、近くに愛梨さんが居なかったとしても、貴方のことは好きになりませんので。」
では、と言い私の手を強く引いてその場を離れる。彼の気持ちが聞けたのが嬉しくて、泣きそうになった。
「すみません。体育祭のせいですよね...っ!?え、なんで泣きそうなんですか?」
他に変なこと言われました?とおろおろしている彼が可愛くて、愛おしくて、ますます泣きそうになる。
「違うの。嬉しくて。私のこと、好き?」
「そんなの、言わなくてもわかるでしょう...。大好きですよ。」
「もう告白されたらはっきり彼女いるって断ってね!」
「わかってます。ていうか、体育祭の件があったので、もう公認らしいですよ。私たち。」
周辺の建物に反響するアナウンスは、生徒のざわめきに掻き消される事なく私の耳に届く。
体育祭と言いつつも、わいわい楽しめる学校行事なので、運動がそれほど得意ではない私にとっても嫌な行事ではなかった。
「そういえば一年の彼氏くん、障害物競走に出るんでしょ?」前行って応援しなよ、と仲のいい友達に腕を引かれる。私と彼女は自分の競技が終わっていたので、話に花を咲かせていた。
「ていうかまさか愛梨が後輩と付き合うとはね〜!しかも2個下!!結構モテるんでしょ、一織くん。」他の女に取られるぞ、意地悪そうな顔でこちらを見る。
「あんまりそういう話本人としないからわかんないけど、噂ではモテるらしいよ。私も一織の事好きって言ってる子何人か知ってるし、告白現場も見た事あるしね。」
うっそ!!と彼女は大声を上げたが、周りの歓声のせいかあまり目立たない。
「だとしたらかなり余裕ですねぇ。正妻の余裕ってやつですか?ほら、そろそろ番なんだからちゃんと応援して、格の差見せつけてやんなよ。」彼女が一瞥した方を見やると、一織と書かれたうちわを持った女子生徒が目に入った。鉢巻の色的に、一織と同じクラスの子だろう。確かに顔も頭も運動神経もスタイルもいいし、かっこいいしかわいいし、最高な彼氏だと思う。モテるのも充分理解しているが、やはり他の女子がかっこいいとか好きとか言っているのを耳にするのは、あまり気持ちがいいとはいえない。
「あの子たちも、まさかみんなの憧れの一織くんが先輩と付き合ってるなんて思わないだろうね〜」
そう、彼は真面目な雰囲気だから恋バナとかもクラスでしないし、告白されても彼女がいるから、という断り方もしないから完全にフリーだと思われている。(そもそも女子と話す機会もないと言っていたが...)私が、この人彼氏です〜♡と紹介して回れば済む話だが、ヤバい奴だと思われそうだからそんなことはしない。とはいえ、やはり私が一織の彼女だと、あまり認識されていないので寂しい気がしてしまう。
「あっ、スタートするよ!」
彼女の指差した先を見ると、彼がスタートラインに並んでいる。やっぱりすごくカッコよくて1年女子の声援は一際大きくなり、胸がきゅっとなる。
パーン、と乾いた音と共に走り出す。短距離は四葉さんの方が速いんですよ、と言っていた割には彼もかなり足が速くて、おまけに器用なので、トラックに置いてある障害物を次々とクリアしていく。
この競技は花形でかなり盛り上がる競技なのだが、1番の見どころは最後の「借り物」だ。お題がランダムに書かれていて、それを素早く見つけなければならないので、最後は運が物を言う。
「一織くん速いじゃん!お題なんだろうね?好きな人とかだったら笑っちゃうよね。」
彼女の声を聞きながら、目線はずっと彼に集中していた。せっかくここまで1番だったのだから、なるべく簡単なお題引いてそのままゴールしてほしいな〜と思っていたら、紙を開いた彼の目が大きく見開かれた。そのあと恥ずかしそうな、ばつの悪そうな顔をしたと思ったら周りをきょろきょろと見渡している。私と目が合うとはっとして、こちらに向かって走ってきた。
さっき聞き流していた彼女の発言を急に思い出して、鼓動が速くなる。まさか、本当に?
「...愛梨さん、ちょっと一緒に来てもらえますか。」どくん、と心臓が跳ねた。嬉しいような、恥ずかしいような、形容し難い感情が一気に湧き上がる。
「早く行きな!!」彼女に背中をグッと押され、前によろけた。突然のことだったのでバランスを崩しそうになったが、一織がちゃんと支えてくれた。
「早く行きますよ。一位、狙ってるんです。」
なので、と差し出された手をぎゅっと握ると、彼が一気に加速した。足がもつれそうになるが、こけるわけにはいかないと思って必死に走る。
「愛梨さん!もうちょっといけますか!?」
「むりーー速いよ!!すでに!!」
他の選手を見ると女子の手を引いてる人はいなく、変な物を持ってたり、男性教師と手を繋いで走っていたりする。相当なハンデだ。
「...っ!仕方がないですね!!」
次の瞬間私の身体がふわっと浮き、彼の横顔が全面にうつる。割れるような歓声に包まれて、やっと状況が理解できた。
「ちゃんと掴まってください!落ちますよ!」暑さのせいなのか照れているのかわからないが、少し赤い顔をした彼にキッと睨まれる。それがすごく愛おしくて、肩に手を回してぎゅっと力を入れた。
トラック半周はあっという間に終わり、私が横顔をじっと見てる間に彼は一位でゴールした。環くんがいおりんかっけー!やべー!と大興奮してこちらに向かってくる。
息を切らした彼の顔を再度見上げると、ぱちっと目があった。あなたが遅いから、と悪態を吐きながら降ろされたが、今はそれすらも愛おしく思ってしまう。
「あの、お題見せてもらえますか?」係の生徒に聞かれると、またばつの悪そうな顔をしたが、こっそりと見せていた。「はい、OK。一位おめでとうございます!」
「なーなーいおりん、お題俺にも見せて。」
「私も知りたい!」
「OKもらったので見せる必要ないです。ていうかなんで四葉さんここ来てるんですか!?」
「いおりん話題そらすのよくねーぞ。....あーーーーー!!!!」
え、何!?と私も一織も環くんの指す方を見てしまったが、完全にはめられただけだった。
「...しゃ!!いおりんの紙ゲット!!」
ちょっと...!!と静止される前に環くんがその紙を開き、ほーん、とリアクションを取る。私も知りたい。
「四葉さん。悪ふざけはもうやめにしてもらえますか?」
「ごめんて。怒んなって。あっ!俺、つぎの競技出っからまたな!」
手を振りながら去っていく環くんを見ながら、私も聞いてみた。
「お題、見せてよ。お願い!」
「もう終わったことですし、よくないですか?...わかりましたよ。」
ほら、と手渡された小さな紙をドキドキしながら開くと、そこには
『かわいいもの』
と書いてあった。
「私物じゃなくない!!?」
「...別にいいでしょう!?ていうか、突っ込むところそこですか!?」
顔を赤くした彼がとても可愛くて、もうなんでもよくなってしまった。が、まだ許してあげない。
「だって物じゃないもん。私は一織のなに?」
じっと彼の目を見つめると、はあっとため息をついて私の耳に口を近付ける。
「...かわいい人、で彼女です。」
数日後
「あの、先輩。ちょっといいですか?」
呼び止められて振り返ると、見覚えがあるようなないような女子が3人いた。
「一織くんと付き合ってるって本当ですか?」
...あっ!体育祭のうちわの子か!
「そうだよ。一織に聞いたの?」
「そうなんですね。でも今年卒業したらどうするんですか?...私、一織くんのこと諦めてませんから。」
言うねー。さて、言い返してやろうかな、と思っていたら、後ろから聞きなれた声がした。
「私から告白したんです。私は、愛梨さんが卒業してもずっとお付き合いしたいと思ってます。なので、近くに愛梨さんが居なかったとしても、貴方のことは好きになりませんので。」
では、と言い私の手を強く引いてその場を離れる。彼の気持ちが聞けたのが嬉しくて、泣きそうになった。
「すみません。体育祭のせいですよね...っ!?え、なんで泣きそうなんですか?」
他に変なこと言われました?とおろおろしている彼が可愛くて、愛おしくて、ますます泣きそうになる。
「違うの。嬉しくて。私のこと、好き?」
「そんなの、言わなくてもわかるでしょう...。大好きですよ。」
「もう告白されたらはっきり彼女いるって断ってね!」
「わかってます。ていうか、体育祭の件があったので、もう公認らしいですよ。私たち。」
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