1章
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1限、2限の授業はあっという間に終わり、次の合同授業のため一ノ瀬くんと合流しいつもの場所に向かう。気温は高く、もう入学して約3ヶ月も経っているのかと驚いた。
「さて、ではお互いに意見出しをしましょうか。どちらから先に話します?」ノートを広げシャープペンをノックしながら彼が聞いてきた。自分の恋愛観を語るなんてすごく恥ずかしいけど一ノ瀬くんは余裕みたいだ。
「んー、じゃあ一ノ瀬くんの意見から聞きたい...かも。」一瞬彼がこちらを一瞥する。3秒遅れで、彼が視線を寄越した訳に気付いた。「あっ、トキヤくん!...からお願いします。」「はい。」よく出来ました、と言わんばかりに満足そうな顔をした。
「では私から。...まず先に言い訳をすると、恋愛を経験した事がないのであくまで想像ではありますが。私は、好きな相手には、自分の全てを受け止めて欲しいと思ってしまいます。本当の自分というと月並みな表現にはなりますが、自分の中の嫌なところも相手が理解してくれて受け止めてくれる事こそが愛なのではないかと思いますね。...つまり、私の良いところも悪いところも全部好きになって欲しいです。」トキヤくんって結構情熱的なんだなと思いながらうんうん、と相槌を打ってみせた。
「この曲の歌詞ですが、直接的な表現があまりなく悩んだのですが、最終的にはハッピーエンドな気がします。2人がお互いに理解を深めて、同じ方向に向かっている。改めてそんなイメージが湧きました。」
あなたはどうですか?と自分の意見をまとめる手を止め聞いてきた。
「私も恋愛ってなんだろうって改めて考えてみたんだけど、大体いちの...トキヤくんと同じ意見かな。あまり他の人には見られたくないところも受け入れてくれたら嬉しいし、お互い恥ずかしいところとか嫌な部分とかも見せ合って分かり合えたらいいなと思う。あと他の人には見せてない弱みとか見せられると、ちょっと優越感感じて嬉しくなっちゃうかな〜」恥ずかしくなってきて少しおどける。「そういう自分の気持ちも込みで改めて歌詞を見たら、私もハッピーエンドなんじゃないかなって思った。一番ラブラブな時期は去ってるけど、なんとなくお互い慣れてきて、2人でいても居心地が良くなってきた時期くらいのイメージを持ったかな。すれ違ってるみたいな描写もあるけど、内心はちゃんと相手のことわかってそうだなと思ったよ。なのでトキヤくんと大体同意見です。」彼はうんうん、と頷きながらメモを走らせている。スラスラと走るペン先を目で追って、止まったので彼を見上げた。
「方針が決まりましたね。この曲は幸せそうに歌うべきです。...意見が同じで本当に良かった。」
トキヤくんがふっと笑うのでつられて笑ってしまった。「ところで余談ですが、あなたの恥ずかしいところとか嫌なところってどんな所なんです?」「え、それ聞く!?...前言ったけど、昔太ってたし、可愛くなかったし、今もたまにだらしなかったりするし...あと嫉妬深いかも。そういうところかな...トキヤくんのも言わないとずるいよ!」「私も同じですよ。昔太ってましたし、歌も音痴でした。そして私も大概嫉妬深い人間ですよ。」お揃いですね、と彼が微笑む。「...え、音痴だったのは流石に嘘だよね?」「いえ、本当なんです。」眉を下げながら笑う。それがすごく可愛くてどきどきした。「今は随分マシになりましたけどね。...驚きました?」
学園でも屈指の歌唱力を持った彼が、才能ではなく努力でそのレベルまで到達したことに感服した。笑いながらそのことが話せるようになったなんて、どんなに血の滲むような努力をしたのだろうか。「私、トキヤくんのこと本当にすごいと思う。きっと、今までいろんなことを犠牲にして、想像出来ないくらいの努力をして来てるのに、それを全く表に出さないし。絶対元が良いからとか生まれ持った才能だとかで僻んでくる人もいたと思うけど。...こんな私がいう言葉じゃないと思うけど、本当に頑張ったんだね。」私も彼とここまで関わらなければ、一ノ瀬トキヤは才能に恵まれた人間だと勘違いしていたに違いない。年齢はあまり変わらないのに、素直に凄い人だと尊敬した。
「...頑張ったねなんて言われるの、もしかしたら初めてかも知れません。私は誰よりも自分に厳しく、常に上を目指していますし、今後もそれは変わりません。だけど、今日愛梨にそう言われて、もしかしたら今までの努力はこの時のためにして来たのではないかと思ってしまいました。...もちろんそうではないことは分かっていますけど。でも、ありがとう。これからもずっと頑張れる気がします。」私の言葉でそう思ってくれるのが嬉しくて少し泣きそうになったけど、なんとか耐えた。トキヤくんは相変わらず眉毛を下げて微笑んでいて、なんとしても2人で良い結果を残して夢へ近づかなければと強く誓った。
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