1章
夢小説設定
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「随分良くなってきたんじゃないですか?」
そう伝えると彼女はぱあっと表情を明るくし、キラキラした目で私を見てくる。
「ほんと?やったー!一ノ瀬くんの指導が上手だからだよ!」
にこにこしてそう言う彼女は、本当に嬉しそうだ。しかし、何かが足りない気がする。それが何かはわからないが、恐らく、心や感情といったあやふやなものなのだろう。私の苦手としている部分だ。
彼女は非常に飲み込みが速く、私が指摘したところは2.3回歌えば直せている。もともと歌うことが好きと言っていたので練習自体は苦痛では無い様子で、細かい私の指摘も文句を言う事なく素直に聞き入れている。が、私が以前彼女の歌に感じた魅力が薄れてしまっている気もする。
「よー、やってるか?一ノ瀬、櫻葉。」
あ、龍也先生ー!と彼女が日向さんに手を振った。
「いま聴いて回ってるんだよ。お前らも歌ってみろ。」ほら、と急かされ櫻葉さんと目を合わせ、合図を出して歌い始める。
彼女は一生懸命、私の指摘した所を直して、技術的には進歩した。初めての時は音程を外していたが、今では私達の声は立派なハーモニーとなっているはず。だが...
「うーん、ありがとな。...ちと厳しいかもしれんが、何かが足りねぇな。櫻葉は歌の技術的には成長してるが、俺は前の方がいいと思ったな。一ノ瀬はまだ感情が無いな。それと歌ってる時は歌に集中しろ。以上だ。」引き続き頑張れよ、と去っていく日向さんの背中を2人で見送った。
前の方が良かったなんて。そんなことあるわけなくない?折角一ノ瀬くんが色々教えてくれて、いっぱい練習したのに。もやもやとそんな事を考えて彼の方を見ると、彼もまた悲しそうな顔をしていた。
「...結構厳しかったね。何が足りないんだろうねー!」自分がへこんでいることを悟られたく無いのに必死でそう言った。一ノ瀬くんは、何を思ってるのだろうか。
「...すみません、私の力不足でもあります。でも、私も同じ事を思ってしまっていました。」彼からの一言は意外な言葉だった。
「...伝えてなかったかも知れませんが、私は貴方のあの日のパフォーマンスにとても心を打たれました。確かに、歌の技術は今の方が上ですが、あの日の歌の方が私は好きだなと思ってしまってました。...変に技術を気にさせてしまった私の責任でもありますね、すみません。私への指摘も尤もです。2人とも、1番大切な所を疎かにして練習してきてしまいましたね。」眉を下げながら私の方を見る。私なんて、龍也先生の一言に、変な反発心を抱いてたのに、冷静に分析する彼を目の当たりにして、そんな感情も消え失せてしまった。
「また一から見直してみましょう。私たちに何が足りないのか。初心に返って歌詞の解釈の擦り合わせからやってみませんか?」
そう言って腰掛ける彼を見てると、情けなくて、自分がすごく子供に感じて、でも悔しさもあって少し泣きそうになってしまった。それに彼も気づいてしまったのか、「技術は進歩してるっておっしゃってましたね。貴方は頑張ってますよ。...足りない何かを2人で見つけて、日向さんを驚かせてやりましょう。」そう言って私の頭をそっと、優しく撫でてくれた。
足りない何か。私がこの学園生活で必ず見つけなければならないもの。日向さんの指摘は尤もだったので、以前のような感情にはならず、素直に聞き入れることができた。...一方で彼女はとても気にしているようだったが。私は、何としてでもこの課題をクリアしなければならない。そして、出来るとすれば彼女とだけだ。卒業オーディションは作曲家コースの生徒とペアになるので、彼女と一緒にこうした事をする機会は今回しかない。だからこそ、この課題でクリアしなければならないのだ。
彼女は泣きそうな顔をしていた。無理もない。彼女はバレてないだろうと思っているだろうが、同室の友人に練習を見てもらっていることや、喉を使い過ぎて痛いのか常にのど飴を持ち歩いて舐めていることを私は知っている。彼女の努力を無駄にさせないためにも、悲しい顔をさせないためにも、2人で乗り越えてみせる。そう強く誓い、彼女の頭をそっと撫でた。
そう伝えると彼女はぱあっと表情を明るくし、キラキラした目で私を見てくる。
「ほんと?やったー!一ノ瀬くんの指導が上手だからだよ!」
にこにこしてそう言う彼女は、本当に嬉しそうだ。しかし、何かが足りない気がする。それが何かはわからないが、恐らく、心や感情といったあやふやなものなのだろう。私の苦手としている部分だ。
彼女は非常に飲み込みが速く、私が指摘したところは2.3回歌えば直せている。もともと歌うことが好きと言っていたので練習自体は苦痛では無い様子で、細かい私の指摘も文句を言う事なく素直に聞き入れている。が、私が以前彼女の歌に感じた魅力が薄れてしまっている気もする。
「よー、やってるか?一ノ瀬、櫻葉。」
あ、龍也先生ー!と彼女が日向さんに手を振った。
「いま聴いて回ってるんだよ。お前らも歌ってみろ。」ほら、と急かされ櫻葉さんと目を合わせ、合図を出して歌い始める。
彼女は一生懸命、私の指摘した所を直して、技術的には進歩した。初めての時は音程を外していたが、今では私達の声は立派なハーモニーとなっているはず。だが...
「うーん、ありがとな。...ちと厳しいかもしれんが、何かが足りねぇな。櫻葉は歌の技術的には成長してるが、俺は前の方がいいと思ったな。一ノ瀬はまだ感情が無いな。それと歌ってる時は歌に集中しろ。以上だ。」引き続き頑張れよ、と去っていく日向さんの背中を2人で見送った。
前の方が良かったなんて。そんなことあるわけなくない?折角一ノ瀬くんが色々教えてくれて、いっぱい練習したのに。もやもやとそんな事を考えて彼の方を見ると、彼もまた悲しそうな顔をしていた。
「...結構厳しかったね。何が足りないんだろうねー!」自分がへこんでいることを悟られたく無いのに必死でそう言った。一ノ瀬くんは、何を思ってるのだろうか。
「...すみません、私の力不足でもあります。でも、私も同じ事を思ってしまっていました。」彼からの一言は意外な言葉だった。
「...伝えてなかったかも知れませんが、私は貴方のあの日のパフォーマンスにとても心を打たれました。確かに、歌の技術は今の方が上ですが、あの日の歌の方が私は好きだなと思ってしまってました。...変に技術を気にさせてしまった私の責任でもありますね、すみません。私への指摘も尤もです。2人とも、1番大切な所を疎かにして練習してきてしまいましたね。」眉を下げながら私の方を見る。私なんて、龍也先生の一言に、変な反発心を抱いてたのに、冷静に分析する彼を目の当たりにして、そんな感情も消え失せてしまった。
「また一から見直してみましょう。私たちに何が足りないのか。初心に返って歌詞の解釈の擦り合わせからやってみませんか?」
そう言って腰掛ける彼を見てると、情けなくて、自分がすごく子供に感じて、でも悔しさもあって少し泣きそうになってしまった。それに彼も気づいてしまったのか、「技術は進歩してるっておっしゃってましたね。貴方は頑張ってますよ。...足りない何かを2人で見つけて、日向さんを驚かせてやりましょう。」そう言って私の頭をそっと、優しく撫でてくれた。
足りない何か。私がこの学園生活で必ず見つけなければならないもの。日向さんの指摘は尤もだったので、以前のような感情にはならず、素直に聞き入れることができた。...一方で彼女はとても気にしているようだったが。私は、何としてでもこの課題をクリアしなければならない。そして、出来るとすれば彼女とだけだ。卒業オーディションは作曲家コースの生徒とペアになるので、彼女と一緒にこうした事をする機会は今回しかない。だからこそ、この課題でクリアしなければならないのだ。
彼女は泣きそうな顔をしていた。無理もない。彼女はバレてないだろうと思っているだろうが、同室の友人に練習を見てもらっていることや、喉を使い過ぎて痛いのか常にのど飴を持ち歩いて舐めていることを私は知っている。彼女の努力を無駄にさせないためにも、悲しい顔をさせないためにも、2人で乗り越えてみせる。そう強く誓い、彼女の頭をそっと撫でた。