1章
夢小説設定
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「おはようございます」
いつもの、2人だけの集合場所に行くと、一ノ瀬くんはすでにストレッチを始めていた。おはよ、と返し彼の隣に並び、私も真似てストレッチをする。
いつもは他愛のない話をするが、私も、一ノ瀬くんも昨日の授業のことを思い出していた。でも、もし彼が嫌な思いをしてしまったら。今日は暑くなりそうだね、と無難な話題を出したが、それに彼からのレスはなかった。
「...昨日の貴方のパフォーマンス、かなり好評でしたよ。よかったですね。」
少しそっけなく言った彼は、いつもより心なしか走るペースが速いことに気づいていないようだった。
「...ほんと、ありがとう。一ノ瀬くんも歌凄い上手だったね。びっくりしちゃった!」わざとおどけて言ってみたが、彼の表情は変わらない。
「...いいんですよ、気を遣わなくても。私の歌には心が無いんですから。貴方や、音也みたいな人がアイドルに向いているのでしょうね。」
目を合わせずに続ける。
「どんなに上手くても、楽譜通りに歌えても。心が動かせないのであれば仕方がないでしょう。」
段々減速し、足は止まった。いつもより速いペースだったため息を整えていた私は、いや、整っていなくてもなんて返せばいいのかわからず、彼の表情を伺う事しかできない。
「...私はまだ歌のこと、それほど詳しく無いし、昨日も荒削りだって言われたし、よくわからないんだけどね。一ノ瀬くんの歌声は好きだなって思ったよ。」息を整えながら精一杯考えた言葉が彼に刺さったのかはわからないが、俯いていた彼が顔を上げた。
「だからまだそんなに気に病むことないんじゃ無いかな?私は技術が全然追いついてないって言われたし、もっと頑張らないとなー!...一緒にがんばろうね。」じっ、と一ノ瀬くんの目を見つめると、ぱっと逸されてしまった。そんなに昨日の評価が嫌だったのだろうか。
「一ノ瀬くん、もし一ノ瀬くんのスキルで、完璧で、先生からの評価もめちゃくちゃ良かったら、この学校で勉強する意味なく無い?もう早くデビューしちゃいなよって話じゃん。でも、経緯はわからないけどこの学校に入ったんだから、これからじっくり勉強して、卒業オーディションで完璧に仕上げればいいんだよ!だからっ...!」
私を遮って一ノ瀬くんに強く腕を引かれた。咄嗟のことだったのでバランスを崩してよろけ、一ノ瀬くんの腕の中にすっぽりとおさまってしまった。
「....すみません、突然。少しだけこうさせてください。」
本校は恋愛絶対禁止。思い返すと人に見られるとかなりまずい状況だったが、幸い朝で人気もないので、しばらく彼の背中を優しく撫でた。
「....すみません、もう大丈夫です。ありがとうございます、少し元気が出ました。」
すっと離れた一ノ瀬くんは、いつものキリッとした表情ではなく、少し眉毛が下がって泣きそうな顔をしていた。
「...大丈夫?もし、辛いこととかあったら、私じゃ頼りないかもだけど、なんでも言ってね。話聞くくらいなら出来るから。」
「ありがとうございます。...お互い、頑張りましょう。」
では、そろそろ再開しましょうと走り出した彼のペースは、いつものように私用のゆっくりしたペースに戻っていた。
心が無い。昨日の私のパフォーマンスへの講評は、その一言だった。誰よりも努力し、歌うことに全力をかけたこの私への講評が。
AクラスとSクラスの合同授業は多いようで少ない。今日ははじめての合同授業だった。アイドルコースの生徒のみ音楽室に集められる。
がやがやとやってきたAクラスの中で、自然と探してしまうのは、やはり彼女だ。
どんな因縁なのかはわからないが、彼女は音也と仲が良いようで、トキヤーと呼ぶ声の方に目を向ければ自然と彼女を見つけられる。
一際小さく、とはいえ存在感は周りと遜色が無い彼女には、なぜか惹きつけられる。私は、あまり周りと関わり合いを持とうとしないが、朝たまたまランニングをしている彼女を見かけ、自然と声をかけてしまっていた。
彼女は音也に近いタイプなのか、友人に恵まれ、明るく、そして真っ直ぐな女性だと思った。ダイエットをしていると思わず言ってしまうところや、お腹を盛大に鳴らしてしまって恥じらっていたところにさえ、好感が持てた。秘密とは程のいいもので、心のどこかで友達の友達といった関係性を終わらせたかったのか、毎日ランニングをするまでの仲になった。ランニング中も苦しいだろうが、何かと話題を振ってきたり、盛り上げようとしていていじらしいと感じた。
彼女のパフォーマンスで、私は心を撃ち抜かれてしまったのかもしれない。いや、本当はずっと気づかないフリをしていたのかもしれないが、私の方に向けられた銃口は、確実に私の感情を変えるものだった。歌は未完成だが、周りを楽しませようとしてにこにこと歌って踊っている彼女は、スポットライトではない、音楽室の蛍光灯の下でも輝いていた。
それに比べて私は。歌に心がない。感情がない。完璧に歌っているはずなのにどうして。私には歌しかないのに。歌いたいから、やりたくない仕事を引き受けて、努力をしているのにどうして。
彼女は、興味がないのか、それか興味がないフリをしているのかはわからないが、私にHAYATOの件を一切聞いてこない。他の人からは嫌と言うほど聞かれるのに。私は、HAYATOの私が嫌いだ。仕事も上手くいかず、学校の成績も悪く、少し疲れてしまった。
苛立ちを彼女にぶつけようとした自分が情けなく、それなのに優しくなだめてくれる彼女。私が思わず抱きしめてしまった時も、背中を優しく撫でてくれていた。恋愛は絶対禁止というルールがある中で、本当に私らしくないと思うが、私は彼女のことが好きになってしまったのだ。
いつもの、2人だけの集合場所に行くと、一ノ瀬くんはすでにストレッチを始めていた。おはよ、と返し彼の隣に並び、私も真似てストレッチをする。
いつもは他愛のない話をするが、私も、一ノ瀬くんも昨日の授業のことを思い出していた。でも、もし彼が嫌な思いをしてしまったら。今日は暑くなりそうだね、と無難な話題を出したが、それに彼からのレスはなかった。
「...昨日の貴方のパフォーマンス、かなり好評でしたよ。よかったですね。」
少しそっけなく言った彼は、いつもより心なしか走るペースが速いことに気づいていないようだった。
「...ほんと、ありがとう。一ノ瀬くんも歌凄い上手だったね。びっくりしちゃった!」わざとおどけて言ってみたが、彼の表情は変わらない。
「...いいんですよ、気を遣わなくても。私の歌には心が無いんですから。貴方や、音也みたいな人がアイドルに向いているのでしょうね。」
目を合わせずに続ける。
「どんなに上手くても、楽譜通りに歌えても。心が動かせないのであれば仕方がないでしょう。」
段々減速し、足は止まった。いつもより速いペースだったため息を整えていた私は、いや、整っていなくてもなんて返せばいいのかわからず、彼の表情を伺う事しかできない。
「...私はまだ歌のこと、それほど詳しく無いし、昨日も荒削りだって言われたし、よくわからないんだけどね。一ノ瀬くんの歌声は好きだなって思ったよ。」息を整えながら精一杯考えた言葉が彼に刺さったのかはわからないが、俯いていた彼が顔を上げた。
「だからまだそんなに気に病むことないんじゃ無いかな?私は技術が全然追いついてないって言われたし、もっと頑張らないとなー!...一緒にがんばろうね。」じっ、と一ノ瀬くんの目を見つめると、ぱっと逸されてしまった。そんなに昨日の評価が嫌だったのだろうか。
「一ノ瀬くん、もし一ノ瀬くんのスキルで、完璧で、先生からの評価もめちゃくちゃ良かったら、この学校で勉強する意味なく無い?もう早くデビューしちゃいなよって話じゃん。でも、経緯はわからないけどこの学校に入ったんだから、これからじっくり勉強して、卒業オーディションで完璧に仕上げればいいんだよ!だからっ...!」
私を遮って一ノ瀬くんに強く腕を引かれた。咄嗟のことだったのでバランスを崩してよろけ、一ノ瀬くんの腕の中にすっぽりとおさまってしまった。
「....すみません、突然。少しだけこうさせてください。」
本校は恋愛絶対禁止。思い返すと人に見られるとかなりまずい状況だったが、幸い朝で人気もないので、しばらく彼の背中を優しく撫でた。
「....すみません、もう大丈夫です。ありがとうございます、少し元気が出ました。」
すっと離れた一ノ瀬くんは、いつものキリッとした表情ではなく、少し眉毛が下がって泣きそうな顔をしていた。
「...大丈夫?もし、辛いこととかあったら、私じゃ頼りないかもだけど、なんでも言ってね。話聞くくらいなら出来るから。」
「ありがとうございます。...お互い、頑張りましょう。」
では、そろそろ再開しましょうと走り出した彼のペースは、いつものように私用のゆっくりしたペースに戻っていた。
心が無い。昨日の私のパフォーマンスへの講評は、その一言だった。誰よりも努力し、歌うことに全力をかけたこの私への講評が。
AクラスとSクラスの合同授業は多いようで少ない。今日ははじめての合同授業だった。アイドルコースの生徒のみ音楽室に集められる。
がやがやとやってきたAクラスの中で、自然と探してしまうのは、やはり彼女だ。
どんな因縁なのかはわからないが、彼女は音也と仲が良いようで、トキヤーと呼ぶ声の方に目を向ければ自然と彼女を見つけられる。
一際小さく、とはいえ存在感は周りと遜色が無い彼女には、なぜか惹きつけられる。私は、あまり周りと関わり合いを持とうとしないが、朝たまたまランニングをしている彼女を見かけ、自然と声をかけてしまっていた。
彼女は音也に近いタイプなのか、友人に恵まれ、明るく、そして真っ直ぐな女性だと思った。ダイエットをしていると思わず言ってしまうところや、お腹を盛大に鳴らしてしまって恥じらっていたところにさえ、好感が持てた。秘密とは程のいいもので、心のどこかで友達の友達といった関係性を終わらせたかったのか、毎日ランニングをするまでの仲になった。ランニング中も苦しいだろうが、何かと話題を振ってきたり、盛り上げようとしていていじらしいと感じた。
彼女のパフォーマンスで、私は心を撃ち抜かれてしまったのかもしれない。いや、本当はずっと気づかないフリをしていたのかもしれないが、私の方に向けられた銃口は、確実に私の感情を変えるものだった。歌は未完成だが、周りを楽しませようとしてにこにこと歌って踊っている彼女は、スポットライトではない、音楽室の蛍光灯の下でも輝いていた。
それに比べて私は。歌に心がない。感情がない。完璧に歌っているはずなのにどうして。私には歌しかないのに。歌いたいから、やりたくない仕事を引き受けて、努力をしているのにどうして。
彼女は、興味がないのか、それか興味がないフリをしているのかはわからないが、私にHAYATOの件を一切聞いてこない。他の人からは嫌と言うほど聞かれるのに。私は、HAYATOの私が嫌いだ。仕事も上手くいかず、学校の成績も悪く、少し疲れてしまった。
苛立ちを彼女にぶつけようとした自分が情けなく、それなのに優しくなだめてくれる彼女。私が思わず抱きしめてしまった時も、背中を優しく撫でてくれていた。恋愛は絶対禁止というルールがある中で、本当に私らしくないと思うが、私は彼女のことが好きになってしまったのだ。