第一章 不幸の種の芽吹かせ方
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「どうか、どうか、妹が見つかりますように」
人の手によって造られた花園の中央に、膝をつき祈りを捧げる男と、立ったまま祈りを受ける者がいた。
祈る男はこの水の都の一般市民だろう。
着ているシャツはしわが目立ち、汚れている。
流れるままに涙を垂らして、行方不明になった妹のことを、そうなるまでの経緯を目の前の人物に懺悔している。
祈りを捧げられたのは、見上げるほどに背が高く、しかし、全身を覆うローブの上からでも分かるほどの細身の人物。
腰よりも長い銀の和毛、その髪が取り巻く顔は男女の別もつかないほどに麗しく慈愛に満ちている。
花園を覆うドーム状のガラスから注ぐ陽光を一身に受けるそのヒトは、救いの女神か慈悲深い救世主か。
メシアはゆっくりと腰を落として男の顔と視線を合わせ、柔らかい微笑みとともに男の固く握り合わせた手を己の細く長い指先で覆った。
男がハッと顔を上げると、目前の宝石のような澄んだ赤い右目と、どこまでも深い黒の左目が優しく細められる。
己の罪が洗い流され、すぅっと吸い込まれるような錯覚。
屋内には、小川のように水がさらさらと流れる音と、男のか細いすすり泣きが聞こえるのみ――
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「……ふわぁ~あ」
と思ったら、隣で盛大なあくびが聞こえてくる。
「おい」
俺は隣の同僚を睨み付ける。
フレイムオレンジの頭髪を全て前方へ撫でつけたふざけた髪型の火蜥蜴もどきの男が、そばかすのように髪色と同じ鱗の散らばった顔を盛大に歪めて二発目のあくびをかまそうとしていた。
オレはその後頭部を思い切りはたいて黙らせる。
「ッぃって~。テメェなにしやがんだよ?」
瞳孔の鋭い黄色い瞳をさらに険悪に細めてガンを飛ばしてくる同僚、こと、名をイチオ。
コイツと俺はなんだかんだ腐れ縁で今もこうやって仕事を共にしている。
「声をひそめろ、仕事中だろ。しゃきっとしろよ」
「アァ? こんないてもいなくても良いような立会人 、真面目にやる意味あるかァ?」
などと不遜なことを言いながらも、声のボリュームは小さくしている。
不良蜥蜴でも、そういうところは良識があるんだな。
「それでも養ってもらってる義理くらいあるだろ」
「別にオレはあのヒトに義理は感じてねェよ」
チラリとメシアと懺悔をしに来た男の方を見やるが、向こうは向こうで離れた場所に立っている俺たちなんて眼中にも無いらしい。
イチオの不遜な会話も気にされていないようだ――メシア様に関しては、あえて聞こえないふりをしてくれているのだろうが……。
「だってよォ、泣いて詫びて、祈ったところでなんとかなるってのかァ? 妹の安否を気にするなら、そんなことしてる暇ァねェだろうがよ」
そう吐き捨てるように言って、イチオは鋭い爪でボリボリと頬を掻く。
……それに関しては、俺も同意見だ。
だが、祈る男の気持ちも分からなくはない。
男はここに至るまで、街の憲兵に捜索を頼み、仕事も疎かになるほど己の足でも方々を探し回り、私財をなげうってまで人捜しの依頼をし、張り紙も作り、道行く人々に尋ね周り……もう打つ手なしになり、メシアを頼りに来たのだと。
己がどんなに行動しても、手の届かないことはある。
しかもそれが常識的な手段のうちであれば、なおさらだ。
「それによぉ、俺たちのメシアサマは祈りを聞いちゃくれるが、それを叶えてくれたトコを見たことねぇからなァ?」
養って貰っている相手に散々な言い分を述べるイチオ。
オマエのそのよく回る割れ舌か、さっきから後ろでブンブンと邪魔なシッポのどっちかを切り落としたらもう少しは静かになるのだろうか。
「アハハ! 好いこと言うねぇ!」
突然の背後からの笑い声に、ビクリと身体が震える。
気付かないうちにすぐそばまで一人の少年が近づいていた。
肩口まで伸びた柔らかな銀髪に、特徴的な猫の耳。
布面積よりも装飾品の方が多い、己の肉体に対する絶対の自信がうかがえる衣装。
あらゆるパーツが人形のように完璧に美しく配置されている中に、生々しい悪意を込めた笑い顔。
だが、なによりも目を引くのは、左右それぞれで黒と赤に分かれた大きな瞳だろう。
その瞳で見つめられると、どこまでも自分の奥底が見透かされるような気がして、クラクラと目眩が起きそうになる。
この少年こそが、俺たちの本当の主。
メシアの兄弟、胎樹の御子――シュール。
「おぉ、シュールサマじゃん」
それなのだが、蜥蜴野郎は物怖じするどころか、気安く挨拶なんてし始める。
「お、おまえ……!」
対する俺は、急速にのどが渇いて上手く声がでない。
「ビノア、構わないよ。イチオはいつものことだし、ねぇ?」
くるりとこちらに振り向いた面差しは、まだあどけない見た目ながらも蠱惑的な美貌をたたえている。特に意地悪そうに細められた目がより邪悪な猫っぽさを増幅させている。
このヒトに拾われてからもう三年も経つのに、未だに近くで顔を見ると、心臓を握りしめられているような息苦しさを感じる。
というか、三年も経っているのにこのヒトの姿は全然変わらないな……。右目がいつの間にか赤い瞳に変わってたのには驚いたけど。
「あ、いや、そんなことよりもどうされたのですか? シュール様がこんなところにいらっしゃるなんて」
「あぁ、それはただの気まぐれ」
あっけらかんとそう言い放つ。隣りの適当サラマンダー男はなぜかそんなシュール様を見て満足そうにヘラついている。
それにしても、とシュール様は口にしながら、向こうでメシア様に泣きついている男の方に目をやる。
「妹が行方不明、ねぇ。あんな木偶の坊に祈るなんて、まさに藁にも縋る思い、ってことかい? ……あぁ、そうだ。それだったら、ボクが見つけてきてあげようか! ちょうど面白いことがないか探してたところだし。よし! じゃあキミたち、ボクはちょっと出かけてくるよ♪」
ふと考えたと思えば急に上機嫌になってひらりと引き留める間もなくシュール様は庭園をあとにしてしまった。入ってきた時と同じく出て行くのも唐突すぎる。
……というか、俺たちは懺悔している男の事情を説明しなかったはずなのに、なんでシュール様は全部知ってらっしゃるんだろう。
巷の怪談話より、ずっと恐ろしい事実だった。
「いってらっしゃーい」
ぞわぞわの止まらない俺の横で、爬虫類と言うよりは鱗の生えた大型犬のような態度でイチオはシュール様を見送っている。
「キミたち、お疲れ様」
なんだかんだ告解の時間が終わって、メシア様が俺たちに労いの言葉をかけてきた。
「いえ、アキラ様こそ、お疲れ様です」
「ウッス」
あからさまに態度の悪いイチオのことも全く意に介さず、俺たちのメシア様は微笑みを向けてくる。
アキラ様は誰に対してもいつもこんな感じだ。
シュール様から散々怒濤の罵倒の嵐を浴びているときも、全くノーダメージといった風で全てを受け止めている。
俺はこのヒトはこのヒトで、なにを考えているか分からないところが恐かった。
アキラ様は一度ぐるりと周りを見回してからもう一度俺の方に向き直る。
「さっき、あの子が帰ってきていたようだけど、また、どこかへ行ってしまったのかな」
「あぁ、はい。先ほどのいらっしゃった方の妹さんを探しに行くと……」
「そう……」
口元に片手を当て、少し考えるように目を伏せる。
長いまつげで瞳が陰って、どこか物憂げな表情にも見える。
やや傾きかけてきた太陽の光が銀の糸のような髪の毛にキラキラと光っていて、芸術にはあまり詳しくないが『思案するヒト』のようなタイトルがついた絵画にも見えてくる。
考え事が終わったのか、小鳥の羽ばたきのような瞬きの後、シュール様とおそろいの赤黒の瞳が俺を捉えた。
「ごめんよ、キミ……あの子のことを見ていてくれないかな?」
「…………へ?」
最初何のことか分からずアホっぽい声を上げてしまった俺だったが、すぐさま己の事態を把握した。
目だけで周囲を確認するが、ついさっきまでそこに居たイチオの姿が見当たらない……!
アイツ、トカゲらしく音もなく消え失せやがった……!
いや、それよりも少し待ってほしい。
そもそも「あの子」を見ていて欲しいというのは、シュール様の動向を見守れという事か?
あの神出鬼没で、怒らせたり不機嫌になったりしたら、まさに機嫌を損ねた猫のごとく鋭い爪でひっかいてきそうな、あの御子様を……?
心の中で冷や汗をかきながら目の前のメシア様に視線を戻すが、相変わらず口元のみに微笑みを浮かべた「穏やか」以外のイメージしか伝わってこない表情をして、静かに俺の返事を待っている。
このヒトは俺の焦りも全部お見通しなうえで、あえて承諾の返事を待っているような、そんな気もする。
強制されてるわけじゃないのに、平均的な身長の俺よりもはるかに頭上からのぞき込まれると、そのつもりはないのだろうが、すごく圧を感じて断りづらい。
「…………わ、かりました」
結局、俺は見えないプレッシャーに負けた。
悔しいがきっとどこかでこの事を嗅ぎつけるであろうクソトカゲに、しばらくは散々馬鹿にされる未来も確定した。
アキラ様は、目元も含めた柔らかい微笑みを浮かべながら、ありがとう、とお礼を言ってふわりと花のような残り香を残して去っていく。
————無理難題を押し付けられたはずなのに、光背が見えるかのようなあの佇まいを見たら、まあいいかな、などと思えてしまいそうになる自分に、何とも言えない気分になるのだった。
「どうか、どうか、妹が見つかりますように」
人の手によって造られた花園の中央に、膝をつき祈りを捧げる男と、立ったまま祈りを受ける者がいた。
祈る男はこの水の都の一般市民だろう。
着ているシャツはしわが目立ち、汚れている。
流れるままに涙を垂らして、行方不明になった妹のことを、そうなるまでの経緯を目の前の人物に懺悔している。
祈りを捧げられたのは、見上げるほどに背が高く、しかし、全身を覆うローブの上からでも分かるほどの細身の人物。
腰よりも長い銀の和毛、その髪が取り巻く顔は男女の別もつかないほどに麗しく慈愛に満ちている。
花園を覆うドーム状のガラスから注ぐ陽光を一身に受けるそのヒトは、救いの女神か慈悲深い救世主か。
メシアはゆっくりと腰を落として男の顔と視線を合わせ、柔らかい微笑みとともに男の固く握り合わせた手を己の細く長い指先で覆った。
男がハッと顔を上げると、目前の宝石のような澄んだ赤い右目と、どこまでも深い黒の左目が優しく細められる。
己の罪が洗い流され、すぅっと吸い込まれるような錯覚。
屋内には、小川のように水がさらさらと流れる音と、男のか細いすすり泣きが聞こえるのみ――
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「……ふわぁ~あ」
と思ったら、隣で盛大なあくびが聞こえてくる。
「おい」
俺は隣の同僚を睨み付ける。
フレイムオレンジの頭髪を全て前方へ撫でつけたふざけた髪型の火蜥蜴もどきの男が、そばかすのように髪色と同じ鱗の散らばった顔を盛大に歪めて二発目のあくびをかまそうとしていた。
オレはその後頭部を思い切りはたいて黙らせる。
「ッぃって~。テメェなにしやがんだよ?」
瞳孔の鋭い黄色い瞳をさらに険悪に細めてガンを飛ばしてくる同僚、こと、名をイチオ。
コイツと俺はなんだかんだ腐れ縁で今もこうやって仕事を共にしている。
「声をひそめろ、仕事中だろ。しゃきっとしろよ」
「アァ? こんないてもいなくても良いような
などと不遜なことを言いながらも、声のボリュームは小さくしている。
不良蜥蜴でも、そういうところは良識があるんだな。
「それでも養ってもらってる義理くらいあるだろ」
「別にオレはあのヒトに義理は感じてねェよ」
チラリとメシアと懺悔をしに来た男の方を見やるが、向こうは向こうで離れた場所に立っている俺たちなんて眼中にも無いらしい。
イチオの不遜な会話も気にされていないようだ――メシア様に関しては、あえて聞こえないふりをしてくれているのだろうが……。
「だってよォ、泣いて詫びて、祈ったところでなんとかなるってのかァ? 妹の安否を気にするなら、そんなことしてる暇ァねェだろうがよ」
そう吐き捨てるように言って、イチオは鋭い爪でボリボリと頬を掻く。
……それに関しては、俺も同意見だ。
だが、祈る男の気持ちも分からなくはない。
男はここに至るまで、街の憲兵に捜索を頼み、仕事も疎かになるほど己の足でも方々を探し回り、私財をなげうってまで人捜しの依頼をし、張り紙も作り、道行く人々に尋ね周り……もう打つ手なしになり、メシアを頼りに来たのだと。
己がどんなに行動しても、手の届かないことはある。
しかもそれが常識的な手段のうちであれば、なおさらだ。
「それによぉ、俺たちのメシアサマは祈りを聞いちゃくれるが、それを叶えてくれたトコを見たことねぇからなァ?」
養って貰っている相手に散々な言い分を述べるイチオ。
オマエのそのよく回る割れ舌か、さっきから後ろでブンブンと邪魔なシッポのどっちかを切り落としたらもう少しは静かになるのだろうか。
「アハハ! 好いこと言うねぇ!」
突然の背後からの笑い声に、ビクリと身体が震える。
気付かないうちにすぐそばまで一人の少年が近づいていた。
肩口まで伸びた柔らかな銀髪に、特徴的な猫の耳。
布面積よりも装飾品の方が多い、己の肉体に対する絶対の自信がうかがえる衣装。
あらゆるパーツが人形のように完璧に美しく配置されている中に、生々しい悪意を込めた笑い顔。
だが、なによりも目を引くのは、左右それぞれで黒と赤に分かれた大きな瞳だろう。
その瞳で見つめられると、どこまでも自分の奥底が見透かされるような気がして、クラクラと目眩が起きそうになる。
この少年こそが、俺たちの本当の主。
メシアの兄弟、胎樹の御子――シュール。
「おぉ、シュールサマじゃん」
それなのだが、蜥蜴野郎は物怖じするどころか、気安く挨拶なんてし始める。
「お、おまえ……!」
対する俺は、急速にのどが渇いて上手く声がでない。
「ビノア、構わないよ。イチオはいつものことだし、ねぇ?」
くるりとこちらに振り向いた面差しは、まだあどけない見た目ながらも蠱惑的な美貌をたたえている。特に意地悪そうに細められた目がより邪悪な猫っぽさを増幅させている。
このヒトに拾われてからもう三年も経つのに、未だに近くで顔を見ると、心臓を握りしめられているような息苦しさを感じる。
というか、三年も経っているのにこのヒトの姿は全然変わらないな……。右目がいつの間にか赤い瞳に変わってたのには驚いたけど。
「あ、いや、そんなことよりもどうされたのですか? シュール様がこんなところにいらっしゃるなんて」
「あぁ、それはただの気まぐれ」
あっけらかんとそう言い放つ。隣りの適当サラマンダー男はなぜかそんなシュール様を見て満足そうにヘラついている。
それにしても、とシュール様は口にしながら、向こうでメシア様に泣きついている男の方に目をやる。
「妹が行方不明、ねぇ。あんな木偶の坊に祈るなんて、まさに藁にも縋る思い、ってことかい? ……あぁ、そうだ。それだったら、ボクが見つけてきてあげようか! ちょうど面白いことがないか探してたところだし。よし! じゃあキミたち、ボクはちょっと出かけてくるよ♪」
ふと考えたと思えば急に上機嫌になってひらりと引き留める間もなくシュール様は庭園をあとにしてしまった。入ってきた時と同じく出て行くのも唐突すぎる。
……というか、俺たちは懺悔している男の事情を説明しなかったはずなのに、なんでシュール様は全部知ってらっしゃるんだろう。
巷の怪談話より、ずっと恐ろしい事実だった。
「いってらっしゃーい」
ぞわぞわの止まらない俺の横で、爬虫類と言うよりは鱗の生えた大型犬のような態度でイチオはシュール様を見送っている。
「キミたち、お疲れ様」
なんだかんだ告解の時間が終わって、メシア様が俺たちに労いの言葉をかけてきた。
「いえ、アキラ様こそ、お疲れ様です」
「ウッス」
あからさまに態度の悪いイチオのことも全く意に介さず、俺たちのメシア様は微笑みを向けてくる。
アキラ様は誰に対してもいつもこんな感じだ。
シュール様から散々怒濤の罵倒の嵐を浴びているときも、全くノーダメージといった風で全てを受け止めている。
俺はこのヒトはこのヒトで、なにを考えているか分からないところが恐かった。
アキラ様は一度ぐるりと周りを見回してからもう一度俺の方に向き直る。
「さっき、あの子が帰ってきていたようだけど、また、どこかへ行ってしまったのかな」
「あぁ、はい。先ほどのいらっしゃった方の妹さんを探しに行くと……」
「そう……」
口元に片手を当て、少し考えるように目を伏せる。
長いまつげで瞳が陰って、どこか物憂げな表情にも見える。
やや傾きかけてきた太陽の光が銀の糸のような髪の毛にキラキラと光っていて、芸術にはあまり詳しくないが『思案するヒト』のようなタイトルがついた絵画にも見えてくる。
考え事が終わったのか、小鳥の羽ばたきのような瞬きの後、シュール様とおそろいの赤黒の瞳が俺を捉えた。
「ごめんよ、キミ……あの子のことを見ていてくれないかな?」
「…………へ?」
最初何のことか分からずアホっぽい声を上げてしまった俺だったが、すぐさま己の事態を把握した。
目だけで周囲を確認するが、ついさっきまでそこに居たイチオの姿が見当たらない……!
アイツ、トカゲらしく音もなく消え失せやがった……!
いや、それよりも少し待ってほしい。
そもそも「あの子」を見ていて欲しいというのは、シュール様の動向を見守れという事か?
あの神出鬼没で、怒らせたり不機嫌になったりしたら、まさに機嫌を損ねた猫のごとく鋭い爪でひっかいてきそうな、あの御子様を……?
心の中で冷や汗をかきながら目の前のメシア様に視線を戻すが、相変わらず口元のみに微笑みを浮かべた「穏やか」以外のイメージしか伝わってこない表情をして、静かに俺の返事を待っている。
このヒトは俺の焦りも全部お見通しなうえで、あえて承諾の返事を待っているような、そんな気もする。
強制されてるわけじゃないのに、平均的な身長の俺よりもはるかに頭上からのぞき込まれると、そのつもりはないのだろうが、すごく圧を感じて断りづらい。
「…………わ、かりました」
結局、俺は見えないプレッシャーに負けた。
悔しいがきっとどこかでこの事を嗅ぎつけるであろうクソトカゲに、しばらくは散々馬鹿にされる未来も確定した。
アキラ様は、目元も含めた柔らかい微笑みを浮かべながら、ありがとう、とお礼を言ってふわりと花のような残り香を残して去っていく。
————無理難題を押し付けられたはずなのに、光背が見えるかのようなあの佇まいを見たら、まあいいかな、などと思えてしまいそうになる自分に、何とも言えない気分になるのだった。
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