第三章 リボンの造花
ようやく目的の部屋の前へ辿り着いた頃には、緊張から来るものなのか、それとも恐怖なのか、手足が棒のように固まっていました。この扉を開いてしまったら、私は夜に出歩いていた悪い子になってしまう。泣き虫のマイアから新しい家族を奪うことになってしまう。……それでも。
深呼吸を一つして、重厚な作りをした取手に手をかけます。その瞬間、ぴりっとした感覚が身体中に伝わりました。きっと、今までにない経験をしているから神経が過敏になっているのでしょう。ここまで来たのに「引き返す」なんて選択肢はありません。私の隣で目を輝かせているヒースに頷いてみせ、がちゃり、とひと際大きな音を立てて扉を開けました。
「お父さん、お母さん? ごめんなさい、こんな夜更けに。どうしても大事なお話があって……あら?」
中へ呼びかけながら部屋の中へ足を踏み入れますが、返事がありません。「失礼します」と一声かけて、恐る恐る室内を進んでいきます。
お父さんがいつも作業している大きな書斎机の上では、ランプが明々と付いていて、ガラスのシェードが不思議な模様を壁に映し出しています。明かりを点けっぱなしで眠るような人ではありませんから、今の今までここで何かをしていたことは間違いないでしょう。しかし、どこにもいないのです。隣の小さな机には、お母さんが用意したであろうコーヒーがまだ湯気を立ち昇らせながら置いてありました。
これは異常です。お母さんも、使った食器をそのままにして休むなんてことをするような、がさつな人ではありません。不思議に思いながらもどんどん奥へと進み、机の傍へ近づきます―が。
「……あ、ら……?」
何気なく机に触れた指の先から、ぴりっとした痺れるような痛みが広がってきました。じりじり、じりじりと、指先から手のひら全体へ、上腕から前腕へ、胸を通って身体全体に、さらに下半身の方へ広がり、爪先まで。
このぴりぴりとした痛み自体は我慢できないものではありませんが、なぜか痛みが広がるのと同じ速度で、身体全体が重くなっていくのです。
「な、に……」
慌てて机に寄りかかろうとしますが、私の想う通りに動いてはくれません。縁に手をかけようとした私の腕はまるで鉛のように重く、少しも持ち上げることができません。バランスを崩し、受け身も取れずにごとり、と大きな音を立てて床へ倒れてしまいました。
今の音で誰か気付いてくれたでしょうか。それとも、誰もこの近くにいないのかしら。ともかく、助けを呼ばなくては。
身体は動かずとも、まだ頭の方にまで痛みは来ていません。なんとかして自由の利かない身体を動かし、この状況から抜け出そうと足掻きます。
「助けて!!」
……そう、大きな声で叫びました。いえ、叫んだつもりでした。
大声を出そうとした私の喉から出てきたのは、助けを求める叫び声なんかではなく、掠れたような呼吸音だけ。
なぜ、どうしてと思いながらも、もう一度助けを呼ぼうと―。
「――! あ―!?」
あつい。身体の内側から、焼けるような熱さが襲ってきました。
ごうごう、ごうごうと大きな音を立てながら、地獄の炎のような熱が身体中を駆け巡っていきます。
速く、速くこの場から離れなければいけない、速く助けを呼ばなくてはいけないのに。
もう目蓋すら、いえ、視線すら動かせません。周囲の状況を伺うことも、自分の置かれた状況を確認することもできないのです。
―嫌だ、怖い、助けて。誰か。あつい、あつい!! お父さんお母さん。みんな。誰か、誰か助けて。誰でもいいからたすけて。てんしさま、てんしさまおねがいします。ヒース。ヒースたすけて。どこにいるのヒース。わたし、わたしのからだ。
私の身体が、燃えている。
◇◇◇
「なんで――! ―やに――のか!?」
「―そんな――場合じゃ――!? ―早く――!! なんとか――!」
「もう――!! ―まで――、――!」
「――あ―、―だけ――!!」
「す―――い!!」
だれかが、どなっています。
なにを言っているのかわかりませんが、おこったような、おびえたような怒鳴りごえです。
ちからを振りしぼってまぶだを開けますが、目にうつるものすべてがぼやけた、あいまいな世界が飛びこんできました。
頭のうえの影が、わたしが目を開けたことに気付いて、あんしんしたような声をだします。
「よかった、気が付いたのね!?」
「―ああ、もう大丈夫だよ、大丈夫、お父さんとお母さんがいるからね。安心しなさい、大丈夫、絶対助けるとも」
「…………お……どぅ、ざ……」
「ああ、聞こえているよ。大丈夫、なにも心配いらない。少し眠っていなさい、大丈夫。大丈夫だよ」
「ご……なざ…………」
「謝るのは、治ってからだ。だから、今は眠って。大丈夫だよ、二人ともここにいる」
だいじょうぶ、だいじょうぶと何度もくりかえして、おとうさんが私のあたまを撫でてくれます。
だいじょうぶ。
もうあんしん。
おとうさんもおかあさんもいるからこわくない。
こわいことはなにもおきません。
ここはあんしんできるばしょだから。
◇◇◇
誰かが私の名前を呼んでいます。呼びかけるような、呼び戻そうとしているような調子の声です。その声に混じって、女の子のすすり泣くような、弱々しい声もかすかに聞こえてきます。ああ、起きなくちゃ。早く、目を覚まさなくちゃ……。
二、三度力を込めてゆっくりと目蓋を持ち上げたとき、全てが元に戻ったのだと実感しました。身体の中を暴れ回る熱は消え去り、手足の痺れや痛みもありません。視界もぼやけておらず、蔓や花の絡まる様子の描かれた壁がはっきりと見えました。
とてもすっきりとした、清々しい気分です。まるで、生まれ変わったみたい。そんな素敵な感覚を全身で受け止め、ふうっと一つ息を吐きだします。
お父さんとお母さんが助けてくれたんだ……そう思うと嬉しさで胸がいっぱいになります。
ああ、はやく二人に会いたい。会って、「ごめんなさい」と、「ありがとう」とたくさん言いたい。
膨らんてきた温かな気持ちに、思わず笑みがこぼれます。普段何気なく言う言葉も、あんなことを乗り越えた後では、とても重く、とても大事に感じられるのです。
第二の人生を歩み始めたような気持ちに胸をときめかせていると、タイミングよくお父さんが現れました。
「ああ、よかった、目が覚めたんだね? 気分はどうかな?」
ほっとした顔のお父さんを見て、私の頬も緩みます。
―大丈夫、なんともないわ……お父さん、昨日は勝手に部屋に入ってごめんなさい。それと、本当にありがとう。
かすかに聞こえてくる泣き声を背景に、私はお父さんに謝罪とお礼を言いました。
「何を言っているんだ、子どもを助けるのが親の務めさ。でも……本当に、無事でよかった……」
感極まったように、お父さんが泣きだします。
―お父さんたら、泣き虫なんだから。どうしてお父さんが泣くの?
「ああ、つい、ね。この歳になると、どうも涙もろくって……」
泣き笑いの表情を見せるお父さんに、思わず私も目が潤んできました。
―おかしいわ、泣き虫なのは私じゃなくて……あら? 誰だったかしら。
思い出せません。誰か、とても泣き虫な子がいたはずなのに……。
その子のことを思い出そうとすると、急に頭にもやがかかったような、あるいは風邪をひいたときのような、ぼんやりとした感覚に襲われます。それと同時に、弱く小さかったはずの泣き声が、少しずつ大きくなってきました。
どんな子だっけ、名前は、顔は……。「あと少しで手が届く」というところで、「ガシャン!」という何かが割れる音に思考を中断されます。とたんに聞こえなくなる誰かの泣いている声と、入れ替わるようにバタバタと誰かが駆け寄ってくる足音。
「よかった、目が覚めたのね…!」
足音の主はお母さんでした。お父さんと同じように目に涙をたくさん浮かべて、私の頭をいとおしむように優しく撫でてくれます。
そうっと、そうっと。硝子細工を扱うように、優しく、丁寧に。硝子と言えば、先ほどの割れた音はなにかしら?
「いいのよそんな事。あなたの無事のほうが大切だわ。食器はいくらでも交換できるけど、あなたはこの世にたった一人だけの存在なのよ?」
お母さんのその言葉に、堪えていた涙が溢れだしました。
―お父さん、お母さん、ごめんなさい。言いつけを破って、勝手に部屋に入ったりしてごめんなさい。助けてくれて、ありがとう。わがままで悪い子な私のことを、助けてくれて、本当にありがとう……。
「いや、謝るのは私たちのほうだよ。まさかあんなことになるとは考えていなかった……そのせいで、君を危険な目に遭わせてしまった。本当にすまなかったね」
辛く、苦しそうな表情でお父さんがそう言います。
―違う、違うのお父さん。どうしてお父さんが謝るの? 悪いことをしたのは私のほうなのに。私、私が……。
「……さあ、もうお互い謝るのはやめましょうか。謝ってばかりじゃあ、何も伝わりませんよ」
見かねたようにお母さんが仲裁に入り、「さ、謝る以外のことを話してくださいな」とお父さんに促します。お父さんはまだなにか言いたそうな顔をしていましたが、お母さんの視線に耐えきれず、ふっと息を吐き出し、観念したとでも言うように肩の力を抜きました。
「……今回のことは、そもそも私のせいで引き起こされたことだから、こんなことを言う資格がないことはわかっているんだが……まだ、君の家族でいさせてくれるかい?」
―お父さんの言いつけを破ったのは私だから、このことが自業自得なのはわかっているんだけれど……まだ、お父さんたちの家族でいてもいい?
思わず顔を見つめあい、おなじタイミングでぷっ、と吹き出してしまいました。なーんだ、同じことを灯っていたんだ、私だけじゃなかったんだ、私、まだ家族でいてもいいんだ……。
安心感と幸福感で満たされた、心地のよい時間でした。
私はここにいてもいいんだと、お父さんが認めてくれた。お母さんが歓迎してくれた。
これ以上幸せなことがあるでしょうか? 私は世界一の幸せ者です。優しい両親に囲まれて、たっぷりの愛情を注がれて、とても大切に思われている。私は、幸せ者です。
―お父さん、お母さん、本当に、あ―。
深呼吸を一つして、重厚な作りをした取手に手をかけます。その瞬間、ぴりっとした感覚が身体中に伝わりました。きっと、今までにない経験をしているから神経が過敏になっているのでしょう。ここまで来たのに「引き返す」なんて選択肢はありません。私の隣で目を輝かせているヒースに頷いてみせ、がちゃり、とひと際大きな音を立てて扉を開けました。
「お父さん、お母さん? ごめんなさい、こんな夜更けに。どうしても大事なお話があって……あら?」
中へ呼びかけながら部屋の中へ足を踏み入れますが、返事がありません。「失礼します」と一声かけて、恐る恐る室内を進んでいきます。
お父さんがいつも作業している大きな書斎机の上では、ランプが明々と付いていて、ガラスのシェードが不思議な模様を壁に映し出しています。明かりを点けっぱなしで眠るような人ではありませんから、今の今までここで何かをしていたことは間違いないでしょう。しかし、どこにもいないのです。隣の小さな机には、お母さんが用意したであろうコーヒーがまだ湯気を立ち昇らせながら置いてありました。
これは異常です。お母さんも、使った食器をそのままにして休むなんてことをするような、がさつな人ではありません。不思議に思いながらもどんどん奥へと進み、机の傍へ近づきます―が。
「……あ、ら……?」
何気なく机に触れた指の先から、ぴりっとした痺れるような痛みが広がってきました。じりじり、じりじりと、指先から手のひら全体へ、上腕から前腕へ、胸を通って身体全体に、さらに下半身の方へ広がり、爪先まで。
このぴりぴりとした痛み自体は我慢できないものではありませんが、なぜか痛みが広がるのと同じ速度で、身体全体が重くなっていくのです。
「な、に……」
慌てて机に寄りかかろうとしますが、私の想う通りに動いてはくれません。縁に手をかけようとした私の腕はまるで鉛のように重く、少しも持ち上げることができません。バランスを崩し、受け身も取れずにごとり、と大きな音を立てて床へ倒れてしまいました。
今の音で誰か気付いてくれたでしょうか。それとも、誰もこの近くにいないのかしら。ともかく、助けを呼ばなくては。
身体は動かずとも、まだ頭の方にまで痛みは来ていません。なんとかして自由の利かない身体を動かし、この状況から抜け出そうと足掻きます。
「助けて!!」
……そう、大きな声で叫びました。いえ、叫んだつもりでした。
大声を出そうとした私の喉から出てきたのは、助けを求める叫び声なんかではなく、掠れたような呼吸音だけ。
なぜ、どうしてと思いながらも、もう一度助けを呼ぼうと―。
「――! あ―!?」
あつい。身体の内側から、焼けるような熱さが襲ってきました。
ごうごう、ごうごうと大きな音を立てながら、地獄の炎のような熱が身体中を駆け巡っていきます。
速く、速くこの場から離れなければいけない、速く助けを呼ばなくてはいけないのに。
もう目蓋すら、いえ、視線すら動かせません。周囲の状況を伺うことも、自分の置かれた状況を確認することもできないのです。
―嫌だ、怖い、助けて。誰か。あつい、あつい!! お父さんお母さん。みんな。誰か、誰か助けて。誰でもいいからたすけて。てんしさま、てんしさまおねがいします。ヒース。ヒースたすけて。どこにいるのヒース。わたし、わたしのからだ。
私の身体が、燃えている。
◇◇◇
「なんで――! ―やに――のか!?」
「―そんな――場合じゃ――!? ―早く――!! なんとか――!」
「もう――!! ―まで――、――!」
「――あ―、―だけ――!!」
「す―――い!!」
だれかが、どなっています。
なにを言っているのかわかりませんが、おこったような、おびえたような怒鳴りごえです。
ちからを振りしぼってまぶだを開けますが、目にうつるものすべてがぼやけた、あいまいな世界が飛びこんできました。
頭のうえの影が、わたしが目を開けたことに気付いて、あんしんしたような声をだします。
「よかった、気が付いたのね!?」
「―ああ、もう大丈夫だよ、大丈夫、お父さんとお母さんがいるからね。安心しなさい、大丈夫、絶対助けるとも」
「…………お……どぅ、ざ……」
「ああ、聞こえているよ。大丈夫、なにも心配いらない。少し眠っていなさい、大丈夫。大丈夫だよ」
「ご……なざ…………」
「謝るのは、治ってからだ。だから、今は眠って。大丈夫だよ、二人ともここにいる」
だいじょうぶ、だいじょうぶと何度もくりかえして、おとうさんが私のあたまを撫でてくれます。
だいじょうぶ。
もうあんしん。
おとうさんもおかあさんもいるからこわくない。
こわいことはなにもおきません。
ここはあんしんできるばしょだから。
◇◇◇
誰かが私の名前を呼んでいます。呼びかけるような、呼び戻そうとしているような調子の声です。その声に混じって、女の子のすすり泣くような、弱々しい声もかすかに聞こえてきます。ああ、起きなくちゃ。早く、目を覚まさなくちゃ……。
二、三度力を込めてゆっくりと目蓋を持ち上げたとき、全てが元に戻ったのだと実感しました。身体の中を暴れ回る熱は消え去り、手足の痺れや痛みもありません。視界もぼやけておらず、蔓や花の絡まる様子の描かれた壁がはっきりと見えました。
とてもすっきりとした、清々しい気分です。まるで、生まれ変わったみたい。そんな素敵な感覚を全身で受け止め、ふうっと一つ息を吐きだします。
お父さんとお母さんが助けてくれたんだ……そう思うと嬉しさで胸がいっぱいになります。
ああ、はやく二人に会いたい。会って、「ごめんなさい」と、「ありがとう」とたくさん言いたい。
膨らんてきた温かな気持ちに、思わず笑みがこぼれます。普段何気なく言う言葉も、あんなことを乗り越えた後では、とても重く、とても大事に感じられるのです。
第二の人生を歩み始めたような気持ちに胸をときめかせていると、タイミングよくお父さんが現れました。
「ああ、よかった、目が覚めたんだね? 気分はどうかな?」
ほっとした顔のお父さんを見て、私の頬も緩みます。
―大丈夫、なんともないわ……お父さん、昨日は勝手に部屋に入ってごめんなさい。それと、本当にありがとう。
かすかに聞こえてくる泣き声を背景に、私はお父さんに謝罪とお礼を言いました。
「何を言っているんだ、子どもを助けるのが親の務めさ。でも……本当に、無事でよかった……」
感極まったように、お父さんが泣きだします。
―お父さんたら、泣き虫なんだから。どうしてお父さんが泣くの?
「ああ、つい、ね。この歳になると、どうも涙もろくって……」
泣き笑いの表情を見せるお父さんに、思わず私も目が潤んできました。
―おかしいわ、泣き虫なのは私じゃなくて……あら? 誰だったかしら。
思い出せません。誰か、とても泣き虫な子がいたはずなのに……。
その子のことを思い出そうとすると、急に頭にもやがかかったような、あるいは風邪をひいたときのような、ぼんやりとした感覚に襲われます。それと同時に、弱く小さかったはずの泣き声が、少しずつ大きくなってきました。
どんな子だっけ、名前は、顔は……。「あと少しで手が届く」というところで、「ガシャン!」という何かが割れる音に思考を中断されます。とたんに聞こえなくなる誰かの泣いている声と、入れ替わるようにバタバタと誰かが駆け寄ってくる足音。
「よかった、目が覚めたのね…!」
足音の主はお母さんでした。お父さんと同じように目に涙をたくさん浮かべて、私の頭をいとおしむように優しく撫でてくれます。
そうっと、そうっと。硝子細工を扱うように、優しく、丁寧に。硝子と言えば、先ほどの割れた音はなにかしら?
「いいのよそんな事。あなたの無事のほうが大切だわ。食器はいくらでも交換できるけど、あなたはこの世にたった一人だけの存在なのよ?」
お母さんのその言葉に、堪えていた涙が溢れだしました。
―お父さん、お母さん、ごめんなさい。言いつけを破って、勝手に部屋に入ったりしてごめんなさい。助けてくれて、ありがとう。わがままで悪い子な私のことを、助けてくれて、本当にありがとう……。
「いや、謝るのは私たちのほうだよ。まさかあんなことになるとは考えていなかった……そのせいで、君を危険な目に遭わせてしまった。本当にすまなかったね」
辛く、苦しそうな表情でお父さんがそう言います。
―違う、違うのお父さん。どうしてお父さんが謝るの? 悪いことをしたのは私のほうなのに。私、私が……。
「……さあ、もうお互い謝るのはやめましょうか。謝ってばかりじゃあ、何も伝わりませんよ」
見かねたようにお母さんが仲裁に入り、「さ、謝る以外のことを話してくださいな」とお父さんに促します。お父さんはまだなにか言いたそうな顔をしていましたが、お母さんの視線に耐えきれず、ふっと息を吐き出し、観念したとでも言うように肩の力を抜きました。
「……今回のことは、そもそも私のせいで引き起こされたことだから、こんなことを言う資格がないことはわかっているんだが……まだ、君の家族でいさせてくれるかい?」
―お父さんの言いつけを破ったのは私だから、このことが自業自得なのはわかっているんだけれど……まだ、お父さんたちの家族でいてもいい?
思わず顔を見つめあい、おなじタイミングでぷっ、と吹き出してしまいました。なーんだ、同じことを灯っていたんだ、私だけじゃなかったんだ、私、まだ家族でいてもいいんだ……。
安心感と幸福感で満たされた、心地のよい時間でした。
私はここにいてもいいんだと、お父さんが認めてくれた。お母さんが歓迎してくれた。
これ以上幸せなことがあるでしょうか? 私は世界一の幸せ者です。優しい両親に囲まれて、たっぷりの愛情を注がれて、とても大切に思われている。私は、幸せ者です。
―お父さん、お母さん、本当に、あ―。