ふすま帳
細かい多百
2019/06/24 20:15どろろ妄言の類い
Twitterで書いた細かい多百現パロ妄想を短編化しました。呟きで終わらすと徐々に小説を書く手が鈍る気がするんですよねー(*´・ω・`)b
***
『たほにお土産』
弟が一時期、アイドルに狂っていた。それ以前からなんとかというグループの進藤なんとかという子が好きだというような話は聞いていた。が、ある朝、かなり常軌を逸した場面をおれは目撃してしまった。
その朝、起きて部屋を出たら、向かいの弟の部屋のドアが全開だった。弟はおれが通りすぎようとしている事に全然気づいていなかった。弟は一人でぶつぶつ何か言っていた。寝惚けているのだろうか?と、ちょっと覗いてみた。すると弟はちゃんと起きていて、机の前に立ち、こんなことを言った。
「おはようございまーす、デュフフー♪」
そして、弟は持っていたブロマイドらしきものにチュッと口づけた。
「キッモ。」
ついおれは声に出して言ってしまった。弟は近所一帯に響き渡りそうな大声で叫んだ。
「おい、たほ。日曜の朝から騒ぐのは止せ。また近所迷惑だってクレームが来るだろ」
と、おれは注意した。
「違う!ちがうちがうちがうちがう!!違いますっ!!!これはその……っ」
弟の狼狽ぶりは大層なものだった。だからおれは思った。あぁ、これはきっとあれだ。母さんに見られでもしたら大変なやつだ、と。
「進藤なんとか、というやつだろう。大丈夫だ、母さんには黙っておく」
おれが一度約束したことは絶対だ。弟は真底ホッとした表情でおれに礼を述べた。なに、それほどのことでもない。おれにだってその程度のモラルはあるさ。
当時、例のなんとかというアイドルグループは大変な人気で、行く先々の有線で歌が流れたり、ポップやポスターが貼られていた。おれはそんなものに興味はなかったが、弟があれほどのめり込んでいるとなると、何となく目が行ってしまう。
三郎太先輩と飲みに行った帰りに、先輩と二人でコンビニに入った。するとちょうどかのグループのフェアだかなんだがが催されていた。対象商品を指定数買うと、景品が貰えるらしい。
少し酔っていたせいか、おれは露骨にそのフェアだかの広告を見詰めていたらしい。三郎太先輩はそれに気付いて言った。
「おっ、百、オメーこういうのが好きなんか?」
おれは自分の手元をふと見た。全然意識していなかったが、買おうとして手に持っていたガムがフェアの対象商品だった。
「そんじゃあ俺はこれだ」
先輩は味違いのガムを取り、そして「どれがいい?」とクリアファイルを指差すので、おれは「進藤」と答えた。
先輩は進藤なんとかのクリアファイルを取り、そしておれが持ってたガムと先輩のを合わせて精算をしてくれた。
「ほれ、欲しがってたやつ」
「あざっす」
三郎太先輩は酔っぱらうと時々、やけに気前がよくなるのだ。
それからしばらく、おれはコンビニに寄る度に景品を貰うために買い物をしていた。するとここは田舎なので、気付かないうちに知人にその姿を目撃され、おれが「アイドルの進藤にハマっている」という噂がたちまち広がってしまった。
誤解だが、別におれは気にしなかった。何故かというと、おれの元に自然と進藤のグッズが集まって来るからだ。会う人会う人、おれに「好きでしょ?」と恵んでくれる。おれはそれを弟にまわす。
そうすると、弟は嬉しそうだ。弟が嬉しそうだと、おれも嬉しい。
ところが。
しばらく経ったころ、お自夜さんの店に飲みに行くと、バイト嬢のおこわが、
「はい、百さま」
と、おれに進藤の缶バッジをくれて、言った。
「兄弟してあのグループが好きなんやね」
よくある誤解なので今更訂正する必要性を感じなかった。だが、おこわは続けて言った。
「そうなんやぁ。たほちゃんは石巻リカちゃんが好きで、百さまは進藤マキちゃんがおきになんやね。なんか、意外やわぁ」
「は?」
おれはその時、初めて知った。おれは弟の"推し"を別の子と取り違えて覚えていたことに。
つまり、それまでおれが与えてきた土産に弟が喜んでいるように見えたのは、おれに気を遣っていただけなのだ、と。なんだか、かえって悪い事をしてしまった。しかも、あのグループのフェアはもう終わってしまっていたので、弟の好きな石巻というののグッズを手に入れるのは、もう無理だった。
帰宅しておれが弟に謝ると、弟はおれを許してくれた。そして石巻とやらの雑誌の切り抜きをおれに見せてくれた。なるほど、おれは合点が言った。石巻リカはどことなく母さんに雰囲気が似ていた。進藤とかいう元ヤン臭い女よりはこっちの方が、断然弟らしい。弟はかなりのマザコンだからな。
だが、しばらくして、そもそもの発端となったあの写真が、石巻の写真ではないことが発覚した。何故かというと、弟が机の上に出しっぱなしにして忘れていたそれを、母さんが見つけてわざわざおれに見せてきたからだ。それはおれの高校時代の写真だった。
おれはその時、我が弟ながら、多宝丸を本気でぶっ飛ばそうかと思った(しなかったけど)。
(おわり)
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『たほにお土産』
弟が一時期、アイドルに狂っていた。それ以前からなんとかというグループの進藤なんとかという子が好きだというような話は聞いていた。が、ある朝、かなり常軌を逸した場面をおれは目撃してしまった。
その朝、起きて部屋を出たら、向かいの弟の部屋のドアが全開だった。弟はおれが通りすぎようとしている事に全然気づいていなかった。弟は一人でぶつぶつ何か言っていた。寝惚けているのだろうか?と、ちょっと覗いてみた。すると弟はちゃんと起きていて、机の前に立ち、こんなことを言った。
「おはようございまーす、デュフフー♪」
そして、弟は持っていたブロマイドらしきものにチュッと口づけた。
「キッモ。」
ついおれは声に出して言ってしまった。弟は近所一帯に響き渡りそうな大声で叫んだ。
「おい、たほ。日曜の朝から騒ぐのは止せ。また近所迷惑だってクレームが来るだろ」
と、おれは注意した。
「違う!ちがうちがうちがうちがう!!違いますっ!!!これはその……っ」
弟の狼狽ぶりは大層なものだった。だからおれは思った。あぁ、これはきっとあれだ。母さんに見られでもしたら大変なやつだ、と。
「進藤なんとか、というやつだろう。大丈夫だ、母さんには黙っておく」
おれが一度約束したことは絶対だ。弟は真底ホッとした表情でおれに礼を述べた。なに、それほどのことでもない。おれにだってその程度のモラルはあるさ。
当時、例のなんとかというアイドルグループは大変な人気で、行く先々の有線で歌が流れたり、ポップやポスターが貼られていた。おれはそんなものに興味はなかったが、弟があれほどのめり込んでいるとなると、何となく目が行ってしまう。
三郎太先輩と飲みに行った帰りに、先輩と二人でコンビニに入った。するとちょうどかのグループのフェアだかなんだがが催されていた。対象商品を指定数買うと、景品が貰えるらしい。
少し酔っていたせいか、おれは露骨にそのフェアだかの広告を見詰めていたらしい。三郎太先輩はそれに気付いて言った。
「おっ、百、オメーこういうのが好きなんか?」
おれは自分の手元をふと見た。全然意識していなかったが、買おうとして手に持っていたガムがフェアの対象商品だった。
「そんじゃあ俺はこれだ」
先輩は味違いのガムを取り、そして「どれがいい?」とクリアファイルを指差すので、おれは「進藤」と答えた。
先輩は進藤なんとかのクリアファイルを取り、そしておれが持ってたガムと先輩のを合わせて精算をしてくれた。
「ほれ、欲しがってたやつ」
「あざっす」
三郎太先輩は酔っぱらうと時々、やけに気前がよくなるのだ。
それからしばらく、おれはコンビニに寄る度に景品を貰うために買い物をしていた。するとここは田舎なので、気付かないうちに知人にその姿を目撃され、おれが「アイドルの進藤にハマっている」という噂がたちまち広がってしまった。
誤解だが、別におれは気にしなかった。何故かというと、おれの元に自然と進藤のグッズが集まって来るからだ。会う人会う人、おれに「好きでしょ?」と恵んでくれる。おれはそれを弟にまわす。
そうすると、弟は嬉しそうだ。弟が嬉しそうだと、おれも嬉しい。
ところが。
しばらく経ったころ、お自夜さんの店に飲みに行くと、バイト嬢のおこわが、
「はい、百さま」
と、おれに進藤の缶バッジをくれて、言った。
「兄弟してあのグループが好きなんやね」
よくある誤解なので今更訂正する必要性を感じなかった。だが、おこわは続けて言った。
「そうなんやぁ。たほちゃんは石巻リカちゃんが好きで、百さまは進藤マキちゃんがおきになんやね。なんか、意外やわぁ」
「は?」
おれはその時、初めて知った。おれは弟の"推し"を別の子と取り違えて覚えていたことに。
つまり、それまでおれが与えてきた土産に弟が喜んでいるように見えたのは、おれに気を遣っていただけなのだ、と。なんだか、かえって悪い事をしてしまった。しかも、あのグループのフェアはもう終わってしまっていたので、弟の好きな石巻というののグッズを手に入れるのは、もう無理だった。
帰宅しておれが弟に謝ると、弟はおれを許してくれた。そして石巻とやらの雑誌の切り抜きをおれに見せてくれた。なるほど、おれは合点が言った。石巻リカはどことなく母さんに雰囲気が似ていた。進藤とかいう元ヤン臭い女よりはこっちの方が、断然弟らしい。弟はかなりのマザコンだからな。
だが、しばらくして、そもそもの発端となったあの写真が、石巻の写真ではないことが発覚した。何故かというと、弟が机の上に出しっぱなしにして忘れていたそれを、母さんが見つけてわざわざおれに見せてきたからだ。それはおれの高校時代の写真だった。
おれはその時、我が弟ながら、多宝丸を本気でぶっ飛ばそうかと思った(しなかったけど)。
(おわり)