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私のものになって

私のものになって
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春のある日、飛影は蔵馬の部屋にいつもの様に土足で乗り込んで来た。

「この花はなんだ」

と蔵馬に訊くはずが言うより先に

「クローバーだな」

「クローバーだよな」

「クローバーですね」

で、それが?と言わんばかりの顔で飛影を見上げる幽助と桑原と蔵馬だったので、飛影はちょっとイラッっとした。

「フン、よく見ろ。唯のシロツメクサじゃないんだ」

「へー」

「オメー、シロツメクサなんて名前よく知ってたなー」

と感心する桑原に、

「なつかしいわー。俺ガキの頃それよく螢子と作ったわ」

飛影の持ってきた萎れた花冠を指して言う幽助だった。

「ちょっと見せて。……あ、葉の数が」

「一、二、三……すっげ!七つ葉なんて初めて見た」

「おぉ~、縁起良さそうだなぁ」

「此方の世界のシロツメクサにも、時々七つ葉のものがあるんですが。」

「まじか」

「これは七つ葉が通常。シロツメクサと良く似ていますが、別種の植物『魔車軸草』です。ずいぶん昔に絶滅した筈だけど、飛影、どこで見つけた?」

「さぁな。時雨の奴がパトロール中に森の中に生えてるのを見つけて取ってきたらしい」

「おっさん……これ編んだのか。」

「その時雨って奴ぁどうにも花冠を作りそうにないタイプなのか?」

「侍だしな」

「へぇ」

「見かけによらないですよねぇ。そうか、時雨かぁ。これは彼が躯にあげたものなんでしょ?」

「この花をこうしてわっかに編む事には何か深い意味でもあるのか?」

「人間界ではね、これに似たシロツメクサの花言葉は『私のものになって』って言うので。それで花冠にして好きな人に被せたら、まぁその様な意味なのかもしれないですけど」

「おぃ、浦飯ィ」

「ばっ、俺そんな深く考えて花冠作ったことねーよ」

「でも魔界に花言葉はありませんし。時雨は医者だから、この花の薬効を知っていて躯にプレゼントしたんじゃないですか?この芳香には鎮静作用・リラックス効果がありますので」

「そうか」

「もう帰るのか?」

「変な物でなければいいんだ」

飛影はそういうと、さっさと窓の外へ消えてしまった。
実を言うと、魔車軸草の芳香にはリラックス作用の他に女性に対してはごく微量だが催淫作用がある。せいぜい花をくれた人がちょっとイケメンに見える位のものだろう。言うと飛影がカンカンに怒りそうなので敢えて言わなかった蔵馬である。


魔車軸草。

躯がこの花冠を時雨から貰って暫く、彼女は机に置かれたそれをぼーっと眺めながら無為に過ごしていた。その様子があまりにも異様だったので、何か変な効力を持った花なのかと心配になり蔵馬のもとを訪れた飛影だった。

だが単なる鎮静作用か。

躯が好きな数字の七と同じだけの葉を持つ花。しかも痴皇が彼女に施した偽りの記憶に出てくる花によく似ている。それゆえ過去のトラウマを刺激するのか。彼女がいやにぼんやりしていた理由は薬効の他にそういう事でもあるのだろう。

ところで、飛影がこの花を気にかけていた理由はもう一つあった。というのも、邪眼で見たところ、移動要塞百足のこれからの進路に近い場所に、ちょうど魔車軸草の群生地がある様なのだ。そこは以前通った時には砂漠であったが、気候変動によって集中豪雨があり、たったワンシーズンで見渡す限りの花畑になったのである。変な作用がないのであれば、なんのかんの言い訳を付けて百足を寄り道させ、あのすばらしい花畑を躯に見せてやりたいと思った飛影であった。

そこでそうした。

今、花畑の縁に百足は静かに停泊中である。気乗りしなさげの躯を飛影は何とか誘い出し、彼女の手を引いて花畑へと足を踏み入れていた。その頃百足指令室では、奇淋がまったりと茶を飲みながら新聞を読んでいた。他数名の部下達も無駄話に興じている。

普段は勇猛で屈強かつ魔界最強兵団の面々も、今日は何だか皆やる気が出ない。

『春だからなぁ……』

奇淋はそう思って新聞を捲った。これが付近に咲き乱れる花の効力とも知らずに。

「奇淋様!大変です!」

外部モニターを監視していた部下に呼ばれ、モニターを覗き込んだ瞬間、飲もうとしていた茶を盛大に噴き出した。


「む、躯様!!!!!なんという事を!!!!!大変だ、助けないと!アッー」

咄嗟に両手で目をふさいだのと走り出そうとしたのが同時だった為にどんがらがっしゃんと派手な音を立てて奇淋は転倒した。

モニターの中では全裸になった躯が飛影を裸に剥こうと襲い掛かっていた。

漸く立ち上がった奇淋はモニターに口笛を吹いた部下を殴り倒し、飛影救出の為外へと急いだ。

(おわり)

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