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3月21日

三竦時代の名残というか、国家解散後も警報の設定をいじっていなかった為に、黄泉の接近も敵襲の様に報じられてしまった。暇をもて余していた隊員達はなんだかわからないが久々の出番に浮き足立ち、命令も無いのに出撃した。


一方、そんな事は露知らず、百足を追跡している黄泉の足取りは呑気にふわふわしていた。小脇には菓子折を包んだ風呂敷を抱えている。すっかり遅くなってしまったが、バレンタインの御返しを軀に届けに来たのだ。今日百足が癌陀羅付近を運航すると知って駆けて来た。


バレンタインの時に顔面で受け取ったチョコは、ハート形が真っ二つに割れていたが、格別に美味しかった。何しろ千年近い半生で初めて貰った本命チョコである。本命と、軀本人が言った訳でも書いた訳でもないが間違いなく本命だという手応えを、黄泉は勝手に感じていた。出会い頭に訳もわからずぶっ飛ばされたのは、彼女なりの照れ隠しなのだろうと、ポジティブに受け取っていたのだった。

だからお礼はホワイトデー当日に渡したかったが、年度末の忙しい時期と被ってしまい、せっかくいつもの様に偶然を装って廊下ですれ違える様謀りはしたが、直前電話に邪魔されてしまったのだ。却って彼女の気を悪くする事になってしまったのが、ずっと気がかりだった。

木々が薙ぎ倒されて出来た即席の道を辿り進み、ついに百足に辿り着いた。百足は今は森の中に、巨大なダンゴムシの様な体をうずくまらせている。軀が此方に気付いて停まってくれたのかもしれない。
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