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3月21日

話は一ヶ月と一週間前、バレンタインデーに遡る。

軀は直属達に義理チョコをやるついでに、黄泉にもチョコを用意した。直属達にやるのよりはちょっと良いやつを。通販のカタログでなんかよさげなのを見付けたので、ついでだ本当についで、と。

バレンタインデーも都合の良い事に、癌陀羅で会議の日だった。毎回、会議室に向かう時に黄泉と鉢合わせる。その時に気軽に「ほらよ」と渡せばいいのだと彼女は思った。いつも黄泉がすれ違い様に「やあ元気?」と彼女の頭をひと撫でしていく様にさりげなく。

そうだ、さりげなくさりげなくさりげなくさりげなくさりげなくさりげなくさりげなくさりげなくさりげなくさりげなくさりげなくさりげなく…。

軀はそう呪文を唱える様にぶつくさいいながら歩いていた。右手には可愛らしいチョコの包みを持って。そして廊下の角を左に折れたところで、数メール先に黄泉を見つけた。

すれ違い様にさりげなく…という予定だったのに、黄泉がぴたりと足を止めたので、彼女もつられて足を止めてしまった。

「やあ。何か用か?」

訊かれた途端に心臓がドキィィンと跳ねた。口から跳び出るんじゃないかと思う程にバクバク脈打つ心臓。黄泉にまで聴こえるのではないかというくらいに。というか、地獄耳の黄泉にはバッチリ聴こえていた。

「どうかしたか?心拍数が上がっているぞ」

「うっ……」

次の瞬間、軀の頭の中で何かがスパークし、目の前が真っ白になった。

「うぉおおぁぁああ、黄泉ぃぃぃぃぃぃいいい!!!!!」

「え?あ……ギャン!」

軀のプレゼントを持ったままの右拳がうなりを上げ、黄泉の左頬にクリーンヒットした。黄泉は受身も取れず仰向けに地面にめり込む。


そして軀は、土煙のもうもうと上がる瓦礫に背を向けると、やっとの事で絞り出す様に言った。

「受け取れ、俺の気持ちだ……」

黄泉が何か言う前に軀は駆け出した。後に、廊下を破壊し城内で揉め事を起こした事で、煙鬼に叱られ始末書を書かされた軀だった。黄泉のその後は聞いていない。



軀がそんなバレンタインの顛末を思い出して鬱々していたところ、けたたましい緊急警報が百足内に鳴り響いた。直ぐ様アンニュイな乙女の顔からパトロール隊長の顔に戻った軀は通信機を取った。

「俺だ、何があった!?」

「敵襲です!パターン青!黄泉です」

「黄泉だと!」
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