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秘密のゲーム



布が滑り落ち、まるみを帯びた肌が露になる。

常夜灯の光で仄かなオレンジに染まる躯の腹部は、まるでもうすぐ満ちる月の様だった。

彼女が身籠って以来、飛影はすっかり夜の求めを絶っていたが、時々こうして彼女の裸体を見る事を望んだ。

性的なものを感じる事は無かった。むしろ、神々しさに畏れを感じる程であった。

躯は、腹の右半分を手でそっと撫で、小さく溜め息を吐いた。古傷がひきつれてしんどいらしい。

「あともう少しの辛抱」

呟きに呼応する様に、胎児がもこもこと蠢く。

「お前も早く出たいって?」

躯はくすりと笑って、指でぎゅうっと腹を押した。すると、押した部分が内側から押し返される。

「次はこっち」

別の部分を押すと、また胎児は押し返す。

躯は声を上げ、子供の様に笑った。

「今の見たか、飛影」

飛影は頬杖をついて寝そべったまま、ゆっくりと頷く。


彼は自分が胎児だった頃を思い出す。

自分も、同じ遊びを母とした事があった。

同じ胎の中に妹も居たはずだが、思い出の中では、自分はいつも、母と二人きりである。

柔らかな壁を通して伝わる、氷女の母の手の冷たさ。

押し付けられた肉を力を込めて押し返すと、さざ波の様な痙攣が今度は伝わって来る。それは母が笑っていたのだと、飛影は今になって気付く。

母も今の躯の様な顔をしていたのだろうかと。

「お前もやってみるかい?」

そう言って、躯は飛影の空いている手を取り、もぞもぞ動き続けている腹に添わせた。

胎児はぴたりと動くのを止めた。  

「俺は嫌われているのか?」

触る度に動かなくなるのである。

そんな事はないと言って、躯は笑った。今頃胎児は、あの心地よい振動を感じている筈だ。

「だといいが」

飛影は彼女ににじり寄って、大きな腹に頬を着けた。

「こうも毎回拒絶されると、さすがに自信を無くす」

と言った飛影の頬に、小さな足が肉の壁越しに蹴りを入れた。


(おわり)
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