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Talent of Love.


***

「千載一遇のチャンスったってなぁ」

おいらは鏡の前でひとりごちた。

なんたってこの約十六年間、それこそ新生児の頃からの腐れ縁として喧嘩しいしいずっと側に居続けていたのに、いきなし数百年来の想い人が百鬼丸の野郎だっていわれたって、どうしたらいいのか解りゃしねえよ。

「……似合わねぇ、気がする」

上のTシャツ下のスカートの色が、どうもちぐはぐな感じだ。それに制服以外のスカートなんか履くの、たぶん3歳以来だと思うぜ。脚がスースーしてなんとも落ち着かない。制服の時には脛毛ほったらかしの脚がいくら見えようが気にもしねえのにな。

丁度ぴったりのサイズを買ったはずなのに、キマんねぇなぁ。一つ大きいサイズを買っちまったみてえに肩がずり落ちるし、スカートは雑誌みてえにフワッとしなかった。というのも、おいらの体がいつまでたっても鉛筆みたいな幼児体型なのが悪い。"女"になったのは人並み以上に早かったのに、一体どうしてこうなった。

しょうがねぇ。いつもの服に着替えるか。小学生の頃からのお気に入りのTシャツに、自分で膝丈にカットしたジーンズ。それに黒いパーカーを羽織って階下したに降りた。

「あら?どろろちゃん、それじゃいつもの格好じゃないの」

おっかちゃんは台所から出て来ておいらを見るなり、残念そうに言った。

「うっせ!おいらがなに着ようが勝手だろ」

「えー、昨日買いに行った時はノリノリだったのに」

その日おいらは初めておっかちゃんの行きたがっていたショップに行った。おっかちゃんは隙あらばおいらに女の子らしい格好をさせたがるんだ。おいらはずっと拒否っていたんだけど、その時はたまの親孝行と思っておっかちゃんに合わせたんだ。けど。

「気が変わったのっ!もぉほっといてくれよ」

「ま!どろろちゃんったらひどーい。ねえねえお父さん、ちょっと聞いてー」

父ちゃんに愚痴るおっかちゃんの声を背に、おいらはとっととスニーカーを履いて外に出た。どうせ、あにきといつものゲーセンに行くだけなんだ。いつもの格好でいいんだよ。

いいのかなぁ。



***

そんなこんなで普通に遊び呆けていたらあっという間に春休みは終わったし、入学式も済んで桜も散って、おいらとあにきの毎年恒例合同お誕生日会もやった。

おいらは入学早々、駅の駐輪場に停めたチャリに鍵をかけ忘れてまんまとパクられてしまった。だから家から駅までの道程を、あにきのチャリに便乗させて貰うことになった。

「全く、世話のやけるヤツ」

あにきはチャリをこぎながら言った。

「へっ、そんなんあにきに言われたくねーわ」

あにきはチラッとこっちを向いて、顔をしかめた。

「なんなんだよ最近、その……ってぇのは」

「あ?聴こえねぇ!」

「だ・か・ら!何でおれが"兄貴"なんだっつってんの。大体、上か下かって言ったら、お前の生まれた日の方が、一日早いだろ」

「んうっ」

「ま、見た目の話なら、おれの方が四つか五つは上だけどな」

「誰が小学生じゃ!!」

「あははお前じゃ!おいどろろ。暴れないで掴まってろよ、飛ばすから」

「へいへい、わーったよ」

おいらはあにきの腰に腕をきつくまわした。細っこく見えるのに案外ウエストはしっかりしているし、肩幅なんかいつの間にかこんなに広い。幼稚園の頃は、おいらの方が大きかったし喧嘩も強かったのになぁ。

あの頃はしょっちゅう、あにきをいじめっ子から助けてあげてたっけな。ぼこぼこにされて目に涙が滲んでも、絶対に降参しなかったチビの百鬼丸。ま、黙っててもおいらが助けに来るの分かってたからそうしてたんだろうけどな。今じゃこんなにでっかくなって、ゲーセンでチンピラに絡まれても、一人で全員ボコすくらいには腕っぷしが強い。
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