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明くる朝

「ゆうべは何してたの?」

藪から棒にタケが問うので、百鬼丸はびくりと飛び上がった。清々しい朝。外の水場で顔を洗い、歯を磨いて、口をすすいでいた時のこと。

百鬼丸は吐き出そうとしていた水を、思わずゴクリと全部飲んでしまった。答えられずにいると、

「ま、いいけどさ」

タケは去って行った。どうやら端から応えなど期待していなかったようだ。タケの鼻歌が遠ざかっていく。入れ違いにみおがやって来た。両手に桶を提げている。水を汲みに来たのだ。

「おはよう、百鬼丸」

「おはよう、みお」

ちらっと周囲に二人以外に誰もいないのを確認してから、百鬼丸はみおを抱き寄せ口づけた。みおがつま先立ちをしてくれたので、百鬼丸は片手を彼女の後頭部に添えて、もう片方の腕はみおの細い腰に回した。何度か軽く弾むような口づけを交わしたあと、彼は舌で彼女の唇を割る。彼女はくっとくぐもった声を上げ、いやいやをするように首を振ったが、彼は離さず、呼吸をするのも忘れて彼女の口腔を貪った。

桶が地面に落ち、音を立てた。みおは両手で百鬼丸の胸を押し、身体を離した。

「やだもう。こんな朝から!」

抗議の声を上げたそばから、彼女は百鬼丸の肩に頭を預けてくすくすと笑う。彼は彼女を抱く腕に一層力を込めた。彼女の柔らかくて弾力のある身体がぴったりと自分の身体にくっつく感触を、彼は楽しむ。昨夜のあの行為により、自分と彼女の距離がより一層近付いたことを彼は確信した。

水桶を一つずつ運びながら、家の戸口まで歩く、ほんの短い距離。子供たちに見られないように、そっと手を離す。でもきっと心は近い。それは二人だけの秘密。タケに何か勘づかれたとしてもだ。

「朝ごはんの支度をしなくっちゃ」

「おれは魚捕ってくる」

「お願いね」

百鬼丸は頷いた。外へ出ると、二人の会話を聞きつけたどろろが飛び出してきた。

「まってー!おいらも行くっ」

さっさと歩いていく百鬼丸に、どろろはやっと追い付いた。

「あにき、何かいいことでもあったのかい?」

「別に何も」

「あーその顔、ぜってぇ何かあっただろ。すっげー気になるんだけど」

「何もない」

「うそ!ぜってー何かあるって」

「何もない」

「ケチ!教えろよー」

追い縋るどろろを撒くように、百鬼丸は足取り軽く駆けていった。



(おわり)

***


お題箱に匿名様よりいただいたお題で書きました(*´・ω・`)b

「百みおで、初めて結ばれた夜の次の日」

でした。

お題ありがとうございました!
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