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ねむれない

早朝の、まだ日の出たばかりの頃。百鬼丸は庭や畑の見守りがてら、息子の紅丸を連れてぶらぶら歩いていた。


「あかねの雲がまぶたに映えるぅ~。おれも~生きたい~人並みにぃ~」


そこへ、皆よりも早くに起きたどろろが追いついてきた。


「朝っぱらから辛気くせぇ歌うたってらぁ。なっ、紅丸」


どろろは背伸びして、百鬼丸の腕の中に話しかけた。父親の懐にすっぽり仕舞い込まれている紅丸は、父親そっくりのパッチリと大きくてつり上がった目を、しぱしぱと瞬かせた。


ーーほげほげたらたらほげたらポン!
ーーほげほげたらたらほげたらピン!
ーーポケポケざむらいヘーラヘラ
ーートロトロざむらいヘーラヘラ


「どろろ、お前の歌こそなんなんだ」


百鬼丸は呆れ顔で鼻を鳴らした。


「お前のおっとちゃん、おっかちゃんにメロメロヘーラヘラッ!」


「うるさい」


紅丸はそんなやり取りを聴いているのかいないのか、早くも据わりかけた首でもって頭を真っ直ぐもたげ、どこか遠くを見ているような顔をしていた。そんな表情が、出会ったばかりの頃のあにきにそっくりだな、とどろろは思う。


「ゆうべも紅坊は全然寝なかったのかい?」


「すこしは寝た」


そう言いながらも百鬼丸は大あくびだ。どうやらまた一晩中、紅丸の夜泣きに付き合っていたらしい。


「ふーん。おっとちゃんが久しぶり帰ってきたから、うれしいのかな」


「うれしそうには見えない」


「そうか?」


「泣きながらそり返って蹴ってきたぞ。あばらを折られるかと思った」


「へぇ」


数日前、どろろと百鬼丸はちょっと長めの旅から帰還した。まだ子供が産まれたばかりなのに長く家を空けてしまった罪滅ぼしに、百鬼丸は一晩中子守りをして、みおにたっぷりと睡眠を取らせた。が、その夜から紅丸は、眠らなくなってしまったのだ。

「寝ないのも心配、だが乳を飲まないのは、もっと心配だ」

「あぁ……」

手もつけられないほどむずかっている時の紅丸を宥めるのに、おっかちゃんのおっぱいの右に出るものはない……なかったはずだ。

ところが紅丸は、みおの胸に抱かれて乳首を口に含まされても、ぎゃんぎゃん泣きわめくだけでちっとも乳を飲もうとしないのだった。

「なんか、きもちほっぺたがシュッとしてきたよな」

どろろはつま先立ちのまま、手を腰の後ろで組んで言った。

「うん。それに魂の炎も少し、弱くなっている」

「やべぇなそりゃあ……」

すると、あばら家の戸が勢いよく開けられて、タケ坊が飛び出してきた。

「大変だーっ!あにき、どろろっ、みお姉がっ!!」
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