◯◯しないと出られない部屋
気が付くと、みおと百鬼丸は真っ白い空間に二人、ぽつんと立っていた。床も天井も四方を囲む壁も、どんな材質で出来ているのかわからない。出入口のようなものはなかった。みおは壁に触れてみた。ひんやりとしていて堅かった。
みおはこの部屋に閉じ込められる直前の事を思い出した。昼下がり、百鬼丸と二人で本堂の中にいたら、突然巨大なナマズのようなあやかしが現れて、二人をペロリと呑み込んでしまったのである。
「皆は無事かしら」
彼女の呟きに反応して、百鬼丸は両手の刀を抜き、壁に猛然と斬りかかった。ところが壁は刀を弾き返し、傷一つつかないのだった。百鬼丸は呆然とし、刀を納めた。そしてみおを悲しそうな顔で見詰めたのだった。すると、
『無駄ですよ』
どこからともなく人の声が聞こえてきた。
『この部屋では暴力行為は全て無効となります』
人の声は、耳からだけでなく、皮膚の表面からも足の裏からも伝わって来る。まるで部屋自体が喋っているかのようだ。
『この部屋は、キスをしないと出られない部屋です』
「ふ、う?」
百鬼丸は首を傾げた。みおと同じ疑問を持ったのだろう。
「あの、キスって何ですか」
みおはおずおずと聞いた。
『それはですね』
部屋が言うと、みおの頭にビリビリと衝撃が走り、脳裏にキスの概念が映像で送り込まれたのだった。
「へっ!?」
思わず変な声が出た。頬が耳がカッと熱くなった。ふと横を見ると、百鬼丸は目を丸くしてみおを見ていた。どうやら百鬼丸の頭の中にもみおが見せられたのと同じ映像が送り込まれたようだ。
『180分以内に実行してください。さもなければ永久に、ここから出られなくなります。それでは』
「待ってください、皆は無事ですか!?」
『それは存じ上げません。それでは今から180分です』
壁はまた無言になった。
ひゃくはちじゅっぷん。何の事かわからないが、とにかく早くここから出ないと、子供達の身に何かあったら大変だ。
「百鬼丸……」
みおは百鬼丸と向かい合った。彼は今はいつものお面みたいな無表情だった。これから何を行わなければならないのか彼も知っている筈である。だがその行為の意味を、彼は知っているだろうか?
彼の造りものの両手を取り、みおは俯いた。
あたしみたいな穢れた女の子とあんな事するなんて、嫌だよね……。
みおは悲しく思った。しかし、子供達の為に、腹を括らなければならない。が、その為に彼を汚していいものだろうか。でも……。
「ごめんなさいっ!でも、責任はあたしが取るっ」
責任を取るってどうやって、などと考えている場合ではない。とにかく早くここからでなければならないのだ。みおは背伸びをして百鬼丸の顔を両手でガッツリ挟み込んだ。ところが、
ギリギリギリ……
物凄い力で百鬼丸は抵抗するのだった。みおが無理やり顔を近づけると、彼はヒョイッとかわし、反対側から攻めれば、またヒョイっとかわした。
「ちょっと!」
ヒョイッ。
「ちょっと!!」
ヒョイヒョイッ。
「ちょっとーーー!!!」
ヒョイヒョイヒョイッ。
激しい攻防戦に、ついにみおは疲れて彼から離れ、肩でぜいぜいと息をした。
「百鬼丸、そんなにあたしとキスするのが嫌?」
嫌がられる覚悟はしていたつもりだったのに、実際に拒否されてみると自然と涙がこみ上げるのだった。
百鬼丸は申し訳なさそうに首を振ると、彼女の方に両手を伸ばし、そしてぎゅうっと抱き締めた。
「み、お」
彼は彼女の耳に囁いた。
「い、しょ」
「えっ……」
「ちょ、と、だけ」
みおはこの部屋に閉じ込められる直前の事を思い出した。昼下がり、百鬼丸と二人で本堂の中にいたら、突然巨大なナマズのようなあやかしが現れて、二人をペロリと呑み込んでしまったのである。
「皆は無事かしら」
彼女の呟きに反応して、百鬼丸は両手の刀を抜き、壁に猛然と斬りかかった。ところが壁は刀を弾き返し、傷一つつかないのだった。百鬼丸は呆然とし、刀を納めた。そしてみおを悲しそうな顔で見詰めたのだった。すると、
『無駄ですよ』
どこからともなく人の声が聞こえてきた。
『この部屋では暴力行為は全て無効となります』
人の声は、耳からだけでなく、皮膚の表面からも足の裏からも伝わって来る。まるで部屋自体が喋っているかのようだ。
『この部屋は、キスをしないと出られない部屋です』
「ふ、う?」
百鬼丸は首を傾げた。みおと同じ疑問を持ったのだろう。
「あの、キスって何ですか」
みおはおずおずと聞いた。
『それはですね』
部屋が言うと、みおの頭にビリビリと衝撃が走り、脳裏にキスの概念が映像で送り込まれたのだった。
「へっ!?」
思わず変な声が出た。頬が耳がカッと熱くなった。ふと横を見ると、百鬼丸は目を丸くしてみおを見ていた。どうやら百鬼丸の頭の中にもみおが見せられたのと同じ映像が送り込まれたようだ。
『180分以内に実行してください。さもなければ永久に、ここから出られなくなります。それでは』
「待ってください、皆は無事ですか!?」
『それは存じ上げません。それでは今から180分です』
壁はまた無言になった。
ひゃくはちじゅっぷん。何の事かわからないが、とにかく早くここから出ないと、子供達の身に何かあったら大変だ。
「百鬼丸……」
みおは百鬼丸と向かい合った。彼は今はいつものお面みたいな無表情だった。これから何を行わなければならないのか彼も知っている筈である。だがその行為の意味を、彼は知っているだろうか?
彼の造りものの両手を取り、みおは俯いた。
あたしみたいな穢れた女の子とあんな事するなんて、嫌だよね……。
みおは悲しく思った。しかし、子供達の為に、腹を括らなければならない。が、その為に彼を汚していいものだろうか。でも……。
「ごめんなさいっ!でも、責任はあたしが取るっ」
責任を取るってどうやって、などと考えている場合ではない。とにかく早くここからでなければならないのだ。みおは背伸びをして百鬼丸の顔を両手でガッツリ挟み込んだ。ところが、
ギリギリギリ……
物凄い力で百鬼丸は抵抗するのだった。みおが無理やり顔を近づけると、彼はヒョイッとかわし、反対側から攻めれば、またヒョイっとかわした。
「ちょっと!」
ヒョイッ。
「ちょっと!!」
ヒョイヒョイッ。
「ちょっとーーー!!!」
ヒョイヒョイヒョイッ。
激しい攻防戦に、ついにみおは疲れて彼から離れ、肩でぜいぜいと息をした。
「百鬼丸、そんなにあたしとキスするのが嫌?」
嫌がられる覚悟はしていたつもりだったのに、実際に拒否されてみると自然と涙がこみ上げるのだった。
百鬼丸は申し訳なさそうに首を振ると、彼女の方に両手を伸ばし、そしてぎゅうっと抱き締めた。
「み、お」
彼は彼女の耳に囁いた。
「い、しょ」
「えっ……」
「ちょ、と、だけ」
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