送り狼は喋らない①
駅に着くと、数人の男子達が待合所にたむろしていた。
「あれっ醍醐じゃん、何やってんのこんな時間に」
百鬼丸は腕を組み、ふん、と鼻を鳴らした。だがその集団と仲が悪いという訳でもないらしい。
「しかもまさかの女連れかよー。っておい、田中さんじゃん。いいなテメェ。田中さーん、こんにちはー!」
声をかけて来たのは同じクラスの男子だったが、名札が無いので名前がわからない。中学では胸ポケットにプラスチック製の名札を着ける決まりだったが、高校には何故か名札が無いのである。
「どうも……」
「丁度いいから俺らと一緒に帰らない?」
未央は男子が苦手だ。数人でつるんでいるのは特に。百鬼丸は困った顔で未央を見つめた。
「ごめん、私はいいや、邪魔しちゃ悪いし……」
駅の構内に電車が入って来た。
「そっかー、残念。じゃあまた来週ね」
「うん、またね」
未央は百鬼丸から鞄を受け取った。
「ありがと、醍醐君」
すると百鬼丸は去り際に、自身を指差して口をぱくぱくとさせた。
『ひゃっきまるって呼んで』
そう言っているようだ、と未央が把握した時、百鬼丸は友人に腕で首をロックされ、引き摺られるように連れて行かれた。
「田中さーん、送り狼は俺らで捕獲しときましたから、どうぞご安心をー!」
二両編成の電車の一両目に男子達が乗り込んだので、未央は二両目に乗った。十分ほど経って、電車がゆっくりと動き出した。未央はいつもなら本を読み耽るところがだが、今日は自分の駅に着くまでずっと、車窓の景色を眺めていた。
***
週明け、衣替えの日なので、未央は真新しいブラウスに袖を通し、水色のチェックのプリーツスカートを履いた。鏡の前で、濃紺のリボンを襟に留め、スカートの長さを確認する。校則通りに丁度膝丈だが、なんだか短いような気がした。テレビで見る都会の女子高生なら、もっと短いスカートを履いているけれど。
せめても、と思いながら、白いハイソックスを引っ張りあげてソックタッチで脚に貼り付けた。そして、これまた新品のスクールバッグを肩にかけてみて、鏡をじっとみた。
「やっぱりセーラー服の方が好きだな……」
一階に降りて行くと、茶の間では弟のタケが朝食を食べていた。
「おはよう」
「おはよう、未央姉。なんか、ザ・女子高生!って感じだな」
「そんなことないよぉ」
「それ昨日母ちゃんにねだって買ってもらったやつ?」
タケは未央のバッグを指差して言った。
「うん。どうかな?」
「いんじゃね?前のやつだとなんだかスケバンみたいだったしさ」
「スケバンって……」
茶の間に、母親がお盆を持って入って来た。
「未央が物をねだるなんて珍しいから買ってあげたけど、一体どういう心境の変化かしらね」
母親とタケは目配せし合い、うししと笑った。
「男でも出来たか?」
「そんなんじゃないってば!」
未央は憤慨しながら食卓に着くと、牛乳を一息に飲んだ。
(つづく)
「あれっ醍醐じゃん、何やってんのこんな時間に」
百鬼丸は腕を組み、ふん、と鼻を鳴らした。だがその集団と仲が悪いという訳でもないらしい。
「しかもまさかの女連れかよー。っておい、田中さんじゃん。いいなテメェ。田中さーん、こんにちはー!」
声をかけて来たのは同じクラスの男子だったが、名札が無いので名前がわからない。中学では胸ポケットにプラスチック製の名札を着ける決まりだったが、高校には何故か名札が無いのである。
「どうも……」
「丁度いいから俺らと一緒に帰らない?」
未央は男子が苦手だ。数人でつるんでいるのは特に。百鬼丸は困った顔で未央を見つめた。
「ごめん、私はいいや、邪魔しちゃ悪いし……」
駅の構内に電車が入って来た。
「そっかー、残念。じゃあまた来週ね」
「うん、またね」
未央は百鬼丸から鞄を受け取った。
「ありがと、醍醐君」
すると百鬼丸は去り際に、自身を指差して口をぱくぱくとさせた。
『ひゃっきまるって呼んで』
そう言っているようだ、と未央が把握した時、百鬼丸は友人に腕で首をロックされ、引き摺られるように連れて行かれた。
「田中さーん、送り狼は俺らで捕獲しときましたから、どうぞご安心をー!」
二両編成の電車の一両目に男子達が乗り込んだので、未央は二両目に乗った。十分ほど経って、電車がゆっくりと動き出した。未央はいつもなら本を読み耽るところがだが、今日は自分の駅に着くまでずっと、車窓の景色を眺めていた。
***
週明け、衣替えの日なので、未央は真新しいブラウスに袖を通し、水色のチェックのプリーツスカートを履いた。鏡の前で、濃紺のリボンを襟に留め、スカートの長さを確認する。校則通りに丁度膝丈だが、なんだか短いような気がした。テレビで見る都会の女子高生なら、もっと短いスカートを履いているけれど。
せめても、と思いながら、白いハイソックスを引っ張りあげてソックタッチで脚に貼り付けた。そして、これまた新品のスクールバッグを肩にかけてみて、鏡をじっとみた。
「やっぱりセーラー服の方が好きだな……」
一階に降りて行くと、茶の間では弟のタケが朝食を食べていた。
「おはよう」
「おはよう、未央姉。なんか、ザ・女子高生!って感じだな」
「そんなことないよぉ」
「それ昨日母ちゃんにねだって買ってもらったやつ?」
タケは未央のバッグを指差して言った。
「うん。どうかな?」
「いんじゃね?前のやつだとなんだかスケバンみたいだったしさ」
「スケバンって……」
茶の間に、母親がお盆を持って入って来た。
「未央が物をねだるなんて珍しいから買ってあげたけど、一体どういう心境の変化かしらね」
母親とタケは目配せし合い、うししと笑った。
「男でも出来たか?」
「そんなんじゃないってば!」
未央は憤慨しながら食卓に着くと、牛乳を一息に飲んだ。
(つづく)