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送り狼は喋らない①

思いきって保健室を訪れてみて良かった。

未央はベッドの中で安堵した。シーツからは清潔な匂いがした。小中学校の保健室のベッドと同じで、高校ここのベッドもマットレスは重みのありそうなずっしりとした固さだった。

小学生の頃、保健室でベッドのマットレスが破れているのを見つけた事があった。裂け目からはみ出ていたのはスポンジではなくて束ねられた藁だった。

未央は頭の下からそっと枕を抜き取った。頭を低くした方が気分がましになるのである。シーツに鼻を寄せて匂いを嗅いでみた。マットレスの下から藁の匂いがしないかと思ったのだ。

そんな事をしている間にも、間仕切りの外は人が忙しなく行き来している。中学の保健室よりもずっと人の出入りが多いし、未央のように生理痛で休みに来る女子が何人もいた。


中学校では生理痛での保健室の利用が禁じられていた。てっきり高校でもそうなのかと未央は思い込んでいたが、ほうほうの体で訪れた未央を、養護教諭は「遠慮しないで辛い時はすぐに来な!」と後ろ叱咤したのだった。しかも痛み止めとお湯で薄めたポカリまで出してくれた。いつも生徒を大きな声で怒鳴り散らして怖そうな人だと思っていたが、言葉はキツくても心根は優しい人のようだ。




***

いつの間にか未央はすっかり眠り込んでしまっていた。間仕切りの向こうから差す日光が少し黄色がかっている。室内にはもうあまり人がいないようだ。

不意に、養護教諭がカーテンの隙間から顔を出した。

「おい田中、親御さんは迎えに来れないのか?」

未央は頷いた。

「二人とも、仕事なので……」

「そっか。それはしゃーないな。アタシが送ってやりたいとこだけど、今から会議なんだよねー。田中って徒歩通?自転車?電車?」

「電車です」

「そうか。立って歩けそう?」

未央はゆっくりと身体を起こしてみた。鎮痛剤が効いている。頭はふらつくしまだ軽い吐き気もあるが、歩けなくは無さそうだ。

「なんとか」

養護教諭は少し思案していたが、つとカーテンの向こうに声をかけた。

「ダイゴ、あんたも電車通でしょ。田中を送ってって」
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