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ありし日の父母

タケ坊はかくれんぼの上手さに定評がある。どろろは境内をくまなく探したはずだったが、とうとうタケを最後まで見つけることが出来なかった。

だが、あきらめて本堂の裏手から正面に回ろうとした時、ピンと直感が働いたのだった。

「タケ坊みーっけ!」

「見つかっちゃった」

のそのそと縁の下から這い出て来たタケは、ちっとも悔しそうではないのだった。

「お前、手加減しただろう」

どろろがそう言って鼻に皺を寄せても、タケは

「してないよ」

と澄まし顔で言うのだった。きっと、長引いて小さな子達が飽きてしまわないように、わざと出てきたのだ。タケはこの寺の子供達の中で最も賢くて、最も気が利くのである。

どろろとタケは並んで本堂の前に出ようとした。すると、突然タケが足を止めた。タケの視線の先を追うと、向拝の下の階段に、百鬼丸とみおが寄り添って腰掛けていた。

「おうおう、まぁたイチャついてらぁ」

どろろは呆れて鼻を鳴らした。

「でもおれ、みお姉とあにきがああやって一緒にいるとこ見るの、結構好きだぜ」

どろろが思わずえぇっ!っと声を上げそうになると、タケはどろろの口を手で塞ぎ、人差し指を立てた。

「静かにっ。気付かれちゃうだろ」

二人はしばらく息を殺していたが、どうやら百鬼丸もみおもどろろとタケの存在には全然気付いていないようだった。

どろろとタケから見て、みおが奥で百鬼丸が手前。百鬼丸は上体を捻ってみおの方を向いているので、どんな表情をしているのかは分からなかった。みおは足の爪先を立てて膝を抱え、少し前屈みで百鬼丸を見上げている。

百鬼丸はおもむろに両手でみおの顔を挟み込むと、顔を近付けた。

おぉーっ!

と声に出して叫びたいところだが、そこは我慢で自分で自分の口を手で塞ぐ、どろろであった。

ゆっくりとみおを放し、百鬼丸は小首をかしげた。その向こうで、みおが顔を真っ赤にそめている。その口元はふにゃりと弛んでいた。

「へへぇ、意外にやるなぁあにき。なっ」

どろろはタケを肘でツンツンと小突いた。同意を得られるかと思いきや、タケがまじまじと階段上の二人を見る目付きに、悪戯心は感じられないのであった。

「なぁ、どろろ。みお姉とあにきがああやって一緒にいるとこ見ると、母ちゃんと父ちゃんを思い出さねえ?」

「は?うーん、別に……いや、うーん……」

どろろは腕を組んだ。

そう言われてみれば昔、おっとちゃんが遠征から帰って来ると……、

「お自夜、どろろ、今帰ったぞ!」

そう言って手を振り駆けてくるおっとちゃんを、おっかちゃんはまだ小さかったどろろを抱き抱えたまま、小走りで迎えたものだった。

おっとちゃんはどろろごとおっかちゃんを抱き締めると、おっかちゃんの頬に唇を押し付けた。その時のおっかちゃんは、今のみお姉のようにくすぐったそうな顔をしていた、と思う……。

「うーん」

どろろは低く唸った。

「な?」

「うーん。タケのおっとちゃんとおっかちゃんは、あんな風にすごく仲良かったのか?」

「うん。でも父ちゃんは戦に行っちゃったけどな。母ちゃんは父ちゃんの帰りをずっと待ってた」

「そうか」

どうやら嫌な事を思い出させてしまったようだ。だが、どろろが話題を変えるよりも早く、タケは明るい表情で訊いたのだった。

「そうだ、お前達いつまでここにいられるんだ?」

「あにきの怪我がなんとかなるまでかな、とりあえずは」

どろろは腕を組んだまま答えた。

しかし、あにきをみお姉から引き剥がすのは大変そうだなぁ、と、どろろは思った。

「出来ればずっと、ここにいてくれたらいいんだけどなぁ。そしたら父ちゃんができたみたいでみんな喜ぶと思うし。それにみお姉は独りだと危なっかしいから、あにきがついていてくれると、丁度いいんだ」

そう言ったタケの向こうで、百鬼丸がまたみおに歌を強請っているのが見えた。

あんな頼りないあにきが?

「どろろはそう思わないか?」

どろろは返答に窮したのだった。

(おわり)

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