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赤い色、赤い花

赤という色をはじめて知ったとき、おれはひどくおどろいた。あの色が赤なのかと。

傷口から溢れ出る血の色、もの悲しく不吉な夕焼けの色、そして鬼神の魂の色。

おれはもっと、赤というのは優しい色だと思っていた。優しくて暖かい、そして強い色。鬼神の強さとは違う強さ。甘えたくなる強さ。だってみおがよくうたっていた歌の、花の色じゃないか。


あるとき、おれはふと、みおのうたっていた赤い花とはどの花のことなのだろう、と思った。

まわりを見わたしてみるが、あんがい赤い花は見つからないものだ。どろろは、赤いのというと、秋の曼殊沙華、そして冬の山茶花、椿を思い出すと言うが、どれもいま時期に見られるものではないらしい。



ところが、おれはぐうぜんにもいま、赤い花を目のまえにしている。その花は、青々とした田んぼのあぜに、まっすぐ天をさしてつっ立っていた。


「この花はなんていうんだい」

おれは近くにいた村人にきいた。

「立葵だ。良い薬になるよ」

そうなのか。

すこし顔を上げて、まぶしい陽の光を浴びて立つこの大きな花たち。わきたつ血のように赤い。なのに不吉なかんじのない、強い色。


「赤い花摘んで、あの人にあげよ」

そうみおはうたっていた。

でもおれはこの花をつんでみおの髪にさしたいとはおもわなかった。

おれにはなぜか、この花がみおの生まれかわったすがたにみえたから。

おれのみたことのないみおは、きっとこの立葵のようにきれいなひとだったにちがいない。



(おわり)
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