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みおにお土産

「たっだいまー!」

「お帰り」

どろろと百鬼丸があばら家に帰り着くと、子供達はいつものように元気に飛び出して来て二人にまとわりついてはこなかった。皆して、囲炉裏の前に団子状に固まっているのだった。あばら家はすきま風が入り放題で、寒いのだ。

「お帰りなさい!寒かったでしょう」

みおが二人を出迎えてくれた。

「あーあー、百鬼丸ったら、鼻が真っ赤。こんなに冷えて」

みおの手が百鬼丸の頬を包む。彼を労るみおの手だって、しもやけで真っ赤に腫れているし、節々には無数のあかぎれが切れて、痛々しい様子である。夏の頃の、少女らしいたおやかな指先は、今となっては見る影もない。



「へへっ、今日は皆にいいもん買ってきてやったぞ」

どろろが言うと、子供達はようやく土間に集まってきた。どろろは子供達を見回し、充分すぎるほど勿体つけてから、荷物をほどいた。

「じゃーん!」

「うわぁ、着物だぁ!」

「いっぱいある!」

「こらこら急くなよ、ちゃんと全員ぶんあるんだから」

我先に飛び付こうとする子供達を制し、並ばせ、どろろは着物を次々取り上げては各人にあてがっていった。

子供達全員に行き渡ると、あとに残ったのはみおのぶんである。

「みお姉、これ、みお姉のぶん」

振り返れば、みおは炉端で百鬼丸と向かい合って座っていた。二人の膝と膝の間には、蛤の貝殻がころりと転がっていた。昼間、街でどろろが遣いにやられて買ってきたものが、これである。

百鬼丸は、どろろが薬屋から聞いて来たやり方を忠実に実践していたのだった。すなわち、貝殻の中に固まっている膏薬を、熱した火箸の先で掬い取り、溶かす。冷めきらないうちに、みおの手に柔らかくなった膏薬をぽとりと落とす。そして百鬼丸はそれを入念にあかぎれに刷り込んでいくのだった。「しみないか?」などと訊きながら。

「うへぇ、優しいなぁ、あにきは」

どろろはオエーッとげろを吐く真似をしながら言った。
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