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みおにお土産

「丁度だね、まいどあり。それにしても大荷物だ。兄さん、商いでもするつもりかね」

店主は銭を数えると百鬼丸に言った。

「いや」

百鬼丸が小さく首を振ると、

「ウチは大所帯なもんでね」

と、どろろが補足したのだった。

百鬼丸は縄で括った荷物を背中に一つ背負い、更に両手にも一つずつ持った。どろろも両手で一つ抱えた。それらは全て古着である。冬に備えて一家全員ぶんの着物を買い込んだのだ。

二人はとある金持ちの用心棒を十日ほどして、結構いい額の賃金を手に入れたのだが、今日のたった一日でほとんど使い尽くしてしまった。どろろは、こんなに財布が重いなんて生まれて初めてであったので、もっと長く銭の重みとチャラチャラと愉快に擦れ合う音を楽しんでいたかったのだが、百鬼丸がどうしても許さなかったのである。雇い主の館から山へ帰る道中で一番栄えている街へ寄ると、百鬼丸はさっさと古着屋に直行したのだった。

「こんな一度に買うこたぁねえだろ?銭はおいら達がしっかり持ってる限りは逃げねえし、古着屋だって無くなりゃあしねえよ」

どろろは不平を言うが、

「もうだいぶ寒い。それに、みんなおんなじにしないと、可哀相だ」

百鬼丸はきっぱりと言い切った。

「へいへい、優しいなぁ、あにきは」

どろろは百鬼丸を見上げた。先程買った自分用の着物を早速いつもの一帳羅に重ねて着ているが、それでも鼻の頭を赤くしている。実際、ここ数日で急速に冷え込んで来ているのだ。空は今にも雪を降らせそうな分厚い雲に覆われている。どろろは百鬼丸が貸してくれた外套を着込んだ背を丸め、やはり借り物の襟巻きに首を埋めた。

「でもさぁ、こんな大荷物でしかも着ぶくれてて、野盗にでも襲われたらどうすんだよ」

つと、百鬼丸が足を止めた。

「どうしたんだよ急に」

百鬼丸の視線の先を目で追うと、そこは薬屋だった。

「どろろ、ちょっと遣いを頼む。荷物はおれが見ているから」

「えーっ!?」

遣いっぱしりが嫌というよりは、残り少なの銭をいよいよ遣い果たす気でいる百鬼丸への、抗議なのであった。


二人の縄張りである山奥の坂道を登る頃には、流石の百鬼丸も手が疲れたとみえて、しばしば立ち止まっては荷物を地面に下ろし、縄の跡がついた両手を振ったり、赤紫に変色した指先に息を吐きかけたりした。

「生身の身体を手に入れるってぇのも、なかなかいいことばかりじゃねえんだな」

「そうだな。冬はこんなに手足が痛いなんて、知らなかった」

百鬼丸がしみじみと言うので、どろろはくつくつと笑った。

「そういやあさ、あにきは前の冬はどうやって越したんだい?その頃は一人で旅してたんだろう」

百鬼丸は少し唸り、答えた。

「冬の前は、食べられるものがたくさんあるだろう?でも、冬はない」

「うん」

「冬は、何もいない」

「そりゃな」

「だから、冬の前に沢山食べて、それから穴を掘って、入って、寝た。起きたらまた、沢山生きものがいた」

「おいおい、それって冬じゅう寝てたってことかよ。まるでヤマネだな」

どろろが呆れ顔をしているのをよそに、百鬼丸は自分の手指をしげしげと見つめていた。

「今はもう、寒いからそんなに寝られないだろうな。こんな手じゃ、穴も掘れない」

「でも今はおいら達がいるから、冬でもつまんなくなくていいだろ」

そう言ってどろろがニシシと笑うと、

「そうだな」

と、微笑み返す百鬼丸だった。
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