「お前の側にいたい」
ガラにもないことを思ってしまった。
飛影は大きなため息を吐いた。非常事態に際しておかしな風にテンションが上がってしまった……そうとしか思えない飛影なのだった。
ともかく、さっさとおさらばしなければ。
抜け道を通り、審判の門の裏手へ。充分辺りを窺って、顔を出す。と、
「でーん!」
背中を思い切り突き飛ばされた。それですっ転ぶ飛影ではないが、乱暴で馴れ馴れしい仕打ちにムッとする。
「幽助……!」
「なんだよぅ、飛影。水臭ぇじゃねえかオメー」
幽助は飛影の肩に腕を回した。まるで酔っ払いのような仕草だが、飛影の首は完全にロックされている。振りほどこうにも振りほどけないのだった。
「ずっと一緒にいてくれたんだからさぁ、帰りも一緒に帰ろうよぉー、ねぇ、飛影ちゃぁーん」
「気色悪い、離せっ!俺は真っ直ぐ魔界に帰る」
「つってもオメーの身体も人間界に置きっぱなしだろ」
そうだった。それをすっかり忘れていた飛影だった。でもだからといって、わざわざ人間界まで肩を並べて歩く事はないのである。飛影はなんとか幽助の腕を振りほどいて、歩き出した。幽助は飛影から少し離れて着いてくる。
近寄るな。
というオーラを全力で出したら、本当に近寄って来なかった。
話しかけるな。
という威圧は容易くも受け入れられた。
腹の底がなんだかむず痒い。そんな気がした。
眼前の濃霧を抜ければいよいよ人間界である。霧を抜けた瞬間、霊体は元の容れ物にきちんと収まり、間もなく目が覚めるだろう。その時、誰がどう迎えてくれるのかを思うと、気が重いのだった。どうせおちょくられるに決まっている。こんな事は、あのとき……幽助の側に残ると勝手に決めた時には、思いもよらなかったのだ。
当然だ。自分も幽助も、そこで終わるのだと思っていたのだから。
「あのさぁ」
霧の中に飛び込もうと構えた時、幽助が言った。
「サンキュ、な」
飛影は答えなかった。
「たまには
「ふん」
ーー気が向いたらなーー
と、声に出して言ったかどうか。
飛影は蛍光灯の眩しさに顔をしかめた。周囲は何やら、楽しげなさんざめきに溢れている。
(おわり)
【お題】
私は1favされたら、幽飛の「お前の側にいたい」で始まる小説を書きます(o・ω・o)
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