何度話しても
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数日ぶりの再会は、あやうく永遠の別れとなるかどうかの崖っぷちを挟んだ割に、案外あっさりとしたものだった。
「お帰り、ご苦労だったな」
躯はしれっとした表情で、まるで近所の店に遣いにやったガキが帰ってきたかのように、俺に声をかけた。もしもごちゃごちゃと口煩く捲し立てられたら何と言い返そうかと、帰りの道中はそんなことばかり思案していたのだが、それは綺麗に無駄になったというわけだ。
しかし、代わりに奇淋の奴が不意打ちで攻撃を仕掛けてきてマフラーを奪われたのは、予想外の出来事だった。奇淋が手渡したマフラーを無造作に首に巻いた躯は、怒ってはいないようだが、そのたたずまいには一分の隙も見当たらない。どうやら俺のマフラーを返してくれるつもりはないらしい。
一旦自分の部屋に戻り、今回の事件の簡単な報告書を書いて、それと物々交換でマフラーを返してもらうことにした。
書き上がった報告書を持って躯の私室に入った時、躯が戻ってくるまでまだ少し時間があるようだった。何だか妙に疲れたので、躯の寝台の上に寝転がった。
しばらくはそのままの体勢で考え事をしていたが、いつの間にか眠ってしまったらしい。気が付いたら俺の身体には毛布が掛けられていて、隣には躯が横になっていた。
「起きたか」
「…今何時頃だ?」
「まだ夜の8時。久しぶりの仲間たちとの再会はどうだった?少しは楽しめたか?」
「まあな」
どんな事があったのか、話して聞かせろ、という躯のいつもの問いに答えて、俺はぽつぽつと話し始めた。
今回は、とっておきの面白い話がある。だがその話をするべきかどうか、俺はまだ迷っていた。
もしかすると何もかも終わっちまうかもしれないってときに、アイツときたら一体何と叫んだと思う?
「こっちが神なら、あっちは女神だ」とさ。
だがこの話をすると、幽助がそう叫んだ時、思わず俺の脳裏には躯の顔が思い浮かんで、僅かながらにも、此処で死んだら嫌だなと思ってしまったことも、話さなければならなくなりそうで、それは恰好が悪いからどうしようかと。
躯の聞き上手ぶりといったら尋常ではない。いつも、俺はこいつに求められるがままに話して聞かせ、うっかり話し過ぎて後悔していることに、こいつは果たして気づいているのだろうか?
(おわり)
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