何度話しても
昼食後、ちょうど廊下で奇淋と立ち話をしているときに、飛影はひょっこり帰ってきた。
「お帰り、ご苦労だったな」
声をかける俺に一瞥くれただけで俺達の横を通り過ぎようとしたところ、奇淋がノーモーションの状態から足払いをかけた。飛影はくるりとかわして何事もなかったかのように立ち去ろうとしたが、すんでの所でマフラーを掴み取られて、不機嫌そうに足を止めた。
「……返せ」
奇淋が飛影のマフラーを渡して寄越したので、俺はそれを自分の首に巻きつけると、飛影は眉間と鼻に皺をよせて、あからさまに不愉快を表現していた。
「飛影、貴様……、躯様に何か申し上げる事はないのか!?」
熱くなっている奇淋を、今度は無表情で見あげ、俺の方に視線を戻して飛影は言った。
「どうせテレビで見てたんだろう?」
「ああ、見たよ。お前は映ってなかったけどな」
「ならば報告はいいだろう?」
「いいよ別に。今回の仕事はパトロールとは関係な……」
「躯様!!」
「別にいいじゃないか、硬いこと言うなよ」
「よくありません!こういう事はちゃんとけじめを付けませんと。他の部下への影響をお考えください!大体最近躯様は飛影に甘すぎますぞ」
と、くどい説教の矛先がなぜか俺に向いた隙に、飛影はマフラーを取り戻すのをあっさり諦めて逃げ出していた。
一日の業務が終わって自室に戻ると、ずうずうしくも俺の寝台のど真ん中を大の字になって占領した飛影が、小さい寝息を立てていた。
ナイトテーブルには報告書が載っている。きっとマフラーと交換するために、わざわざ書いてきたのだろう。
飛影に毛布をかけてやって、報告書にざっと目を通してから入浴を済ませ、寝間着を着て飛影の傍らに潜り込んだ。
年相応のあどけない寝顔を間近で眺めるうちに、溜まっていた言いたいことはすべて何処かへ行ってしまった。
まぁ、良いじゃないか。ちゃんと帰って来たのだし。飛影が目を覚ましたら、また幽助の話を話させよう。今度の事件でも、さぞや面白いことをしでかしたんだろうな、あいつは。