何度話しても
しんと鎮まりかえったホールの中、微かに聞こえているのは、秒針が時を刻む音だけだった。俺の足元ではコエンマが胡坐をかいて、懐中時計を握り締めている。
残り、あと数分で、俺達の運命が決まる。
もしかしたら死ぬことになるかもしれない。
しかも、この霊体の状態での死はすなわち、転生することすら叶わぬ魂の消滅をも意味する。今更どうあがいても無駄だった。
死ぬ時は一瞬。
恐らくその瞬間は、痛みどころか自分が死んだということさえも、自覚することはないだろう。自分の全てが焼き尽くされ無に還る。
恐怖を感じないのはきっと、それだけが理由でもないんだろうな、と思う。
幽助ならば大丈夫だ。
知らず知らずのうちに、一種の希望のようなものを、あいつに見出している。
幽助が門の中に残って最後の決断をする。他の者は皿屋敷市に戻り、知り合いを出来る限り避難させる。
そう決まった時、件の土地に妹以外に特別知り合いの居ない俺がとるべき行動としては、そのまま魔界に帰るか、それともこの場に残るかの、二つに一つだった。
ほんの僅かの間だが、珍しく俺は迷った。
「生きろ飛影、お前はまだ死に方を求めるほど強くない」
いつかの躯の言葉がふと、心を過ったからだ。
幽助の所についていれば、三分の一の確率で俺は死ぬ。
そうしたら躯は悲しむだろうか?
しかし、俺が居なくなったくらいでどうにかなってしまうほど、きっとアイツは弱くない。
一方で、俺は魔界に大人しく戻って、幽助がこのまま死んでしまったら、後悔してもしきれないような気もする。幽助の傍にいたところで、俺に出来ることなど何もないのではあるが。
俺の思考を不意に断ち切ったのは、すでに安全な場所に避難させられたはずのコエンマからの念信だった。
「飛影、悪いが護衛の目をかいくぐってワシを連れ出し、幽助の元へ連れて行ってはくれないか?」
「それは別に構わんが、貴様がアイツの所へ行ったとしても、危険にさらされるだけで何がどう変わるという訳でもないんだぞ」
俺は至極真っ当な返答をコエンマに送った。
「それでもよい……全てはワシの責任だからな。幽助を霊界探偵に任命したのが、そもそも全ての始まりなのだ……」
「フン、律儀な野郎だ。今更そんなことを言っても仕方がないだろうが」
平和ボケした霊界のSP連中を煙に巻いて、コエンマの脱走を手助けすることは、正聖神党の奴らを壊滅させることよりも更に造作ないことだった。幽助に気付かれないよう、ホールの柱の陰にコエンマを下ろしたところで、急に腹が決まった。俺も此処に残ると。