何度聞いても
ギュッと目を閉じて、飛影の姿を、気配を、声を、なるべく鮮明に思い浮かべる。
俺の想像の中で、飛影は珍しくわずかに微笑みを浮かべて何かを語っていた。チビのわりには低音の、あのクセのある声は、心なしかいつもより少しはずんでいるように聞こえた。
嗚呼、これは、初めてヤツが自分から俺に本心を語った時の思い出だ。
それは三竦時代の終わる直前の事、何時ものように領地を移動要塞で巡回していた際、癌陀羅へと赴こうとしている幽助の姿を飛影が見つけた。
俺は、幽助ってやつは何を企んでいるんだと思う、と訊いた。
勿論俺は、それ以前に飛影の意識を覗き見て、幽助がヤツにとってどんなに重要な影響を与えた人物であるかという事は知っていた。けれども、強制ではなくて、飛影が自分の口から自分の意思で、幽助について語るのを、俺は望んだのだ。
あの嘘吐き飛影が本当の事を語るとは期待してはいなかったが、予想に反して、かなり率直に、幽助の話を聞かせてくれた。
「奴もオレもまだ伸びるぜ。オレと幽助を殺すなら今のうちだ。考えておくんだな」
そう自信たっぷりに語るヤツの顔ときたら!それまで見せたどんな表情よりも生き生きとしていて、とても好ましく思えた。
以来俺は、時々飛影に、幽助の話を語って聞かせろと命令したものだ。どんなくだらないことでもいいし、何度同じ話をしてもいいからとにかく、幽助について話せ。安心しろ、ただの個人的な興味であって、他意はない、と。
飛影の口から幽助の事が語られている間は、とても幸せな一時であると同時に、悲しい事実を再確認する一時でもあった。
飛影と幽助の間には、どんな者でも割って入ることの出来ない強い絆があること。
そして、おそらく俺は、飛影とそのように強い絆で結ばれることは永遠にないのだろうな、ということ。
これらを思い知らされて、胸をギュッと締め付けられるような、切ない気持になる。
しかしそれでも、俺は何度でも、何時までも、飛影の話に耳を傾けていたいと、強く願うのだった。
飛影をこの腕の中に抱いて、奴の語る物語を聞きながら眠りに落ちたかった。
眠れぬ夜は永遠かと思うほどに長かったがそれでも明けて、うっすらと窓の外が白み始めるころ、いつの間にか俺は眠ってしまったようだった。