このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

レモンは唐揚げに

テーブルの上で、百鬼丸のデジタルオーディオプレーヤーが音楽を奏でている。

未央はあまり自分では音楽を聴かない。しかし百鬼丸は若者らしく、それなりに音楽を聴くのである。

現在はプレーヤーは信じられないほどにコンパクトなサイズで、しかも音もいい。未央は奏でられるメロディーよりもそっちの方に感心するのだった。

今はこんな歌が早っているのね。

歌詞はなんだかよく聞き取れないが、どうやら恋の歌であるようだ。

20代ですら七割の人が付き合っている相手はいないといわれる昨今でも、歌の主題は相変わらず恋に関するものが多いのだった。

未央が目を閉じて聞き入っていると、突然、百鬼丸が「くっ……」と呻いた。そして立ち上り、目頭を抑え肩を震わせながら、よろよろと玄関へと歩いて行った。

「行ってらっしゃい」

と、未央が平然とした声をかけたのは、これが初めての事ではないからである。百鬼丸はああ見えて感激屋なのであった。音楽がハートに刺さると、すぐ目に涙が滲む。

「っ……、レモンは唐揚げにかけるべきだ。感傷にではなく」

バタン、とドアが閉まった。

そんなにしんどいなら聴かなければいいのに、百鬼丸はこの曲を何度も聴くのである。

未央はふふっと笑った。そしてまた目を閉じて、音楽に耳を傾ける。







1/2ページ
スキ