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ジューンブライド

イケメンは何をしていてもさまになってしまう。


百鬼丸が畳に寝転び片肘をついて雑誌を読んでいる。その姿勢は完全に休日のお父さんスタイルであるのに、一種の神々しささえ感じてしまった未央だった。

なんか、お釈迦様の涅槃みたいな。とすれば、それは神々しさと言うより、仏仏しさ?何それ聞いたことがない。

自分の妙な思い付きに、未央はぷっとふき出した。肩を震わせて笑いを堪えていると、百鬼丸が顔を上げ、不思議そうな顔で小首を傾げた。

「どうかした?」

「ううん、何でもないの。ただの思い出し笑い」

「ふぅん」

百鬼丸は再び雑誌に視線を落とした。


外は雨。梅雨入りしてまだ間もないが、未央の部屋は例年にはない快適さが保たれていた。室内にはエアコンと扇風機の稼働音が静かに流れている。

自分一人で住んでいるのであれば、このくらいの湿気などやせ我慢で乗り切ってしまう未央だったが、今年は押入に収納されている百鬼丸の衣服や蔵書をカビから守る為に、早めの空調設備のお出ましとなったのだ。

テーブルの上で、未央の携帯がぶんぶんと鳴る。取り上げて見れば、弟からのメッセージが届いていた。

「ねぇ百鬼丸」

百鬼丸は視線で何?と応えた。

「来週、私の弟がうちへ遊びに来るって」

百鬼丸の目がまん丸になる。彼は雑誌を閉じて身体を起こし、胡座を組んだ。

「みお弟がいたんだ」

「うん」

彼は持ち前の深遠な眼差しで、未央をじっと見た。相手の事は何でもお見通しだが、自身の事は何も語らない、そんな感じのする目だ。未央はちょっと居心地の悪さを感じ、上半身を少し後ろへ引いた。

「みおって、何人きょうだい?」

意外にも、百鬼丸が未央の家庭環境について訊ねてきたのはこれが初めてだ。ストーカーからの押し入りからの居候な彼だったが、未央の過去に対して興味を示した事は、これまで一切なかったのである。だから未央は、彼は未央個人に用があるというよりは、快適な住み処を無償提供してくれるチョロい女に用があるだけの男だと、思っていたのだった。

初めて自分への興味を示されて、未央はちょっと嬉しくなり、頬を赤らめた。

「六人きょうだいだよ」

「多いな。何番目?」

「私が一番上」

「そんな気がした。みおは面倒見が良いもんな」

褒められたようだ。未央はへへっと笑った。

「実はね、私のきょうだいは皆、血が繋がってないの」

こんな話、重くて嫌だろうか?未央がおずおずと百鬼丸を見ると、百鬼丸は目で話の続きを促した。

「うちの親ね、変わってて、ボランティア精神旺盛というか。でね、親のいない子供達を里子として引き取って育ててたんだ。しかも一度に六人も」

ふむ、と百鬼丸は唸った。

「ね、変でしょ?」

彼はまた、ふむ、と唸った。

軽いトーンで話したつもりだったが、やはり深刻に受け止められてしまったか。途端に湿度が上がった気がする。未央は両手を振って言った。

「でもでも、すごく幸せだったんだよ。お父さんもお母さんも私達のこと、とても可愛がってくれたし、習い事とか進学とか、好きにさせてくれたし。きょうだい仲も、たぶん普通のきょうだいよりも良いんじゃないかな。結束力強いっていうか」

「なるほど」

「それで、大人になっても連絡取り合って、たまにお互いの家を行来してるってわけ」

「それはいい」

百鬼丸は自分の携帯を取り出し、いじり始めた。話が重すぎて面倒くさくなってしまったかと未央が気を揉んでいると、百鬼丸は「おっ」と小さく声を上げた。

「そんな日に限ってオフだな、おれ」

どうやら来週の予定を確認していただけのようだ。

「おれ、出てようか?」

「えっ、いいよ居てくれて。別に、百鬼丸のことタケに隠す必要ないと思うし」

すると百鬼丸は、いつもは白い頬をほんのり赤く染め、下を向いた。

「いいよ、出てる。きょうだい水入らずを邪魔しちゃあ悪い」






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