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川原はたのしい

どろろをどこかに遊びに連れていくという約束は、どろろの夏休みが終わる寸前になんとか果たせることになった。

約束当初は海へでも行こうと考えていたが、とっくに海水浴のシーズンは終わってしまっていたし、彼もまだ無理が出来ない身体なので、電車で山の方までちょっと遠出して、美味しいと評判のかき氷を食べに行く、という日帰り旅行になった。


***

どろろは目当てのかき氷以外にも鮎の塩焼きとキュウリの漬物をそれぞれ三串もぺろりと食べてしまった。三人は食事処を出ると、近くの川原に降りていった。




「まさかこれが新婚旅行も兼ねるとか言うんじゃねえよなぁ、あにき?」

「……。」

それが、兼ねているのだった。

どろろは「水切り」をするのに適した石を探しながら、百鬼丸にダメ出しをし始めた。未央は彼らから少し離れた斜面に腰を下ろし、景色を眺めている。

「まったく、指環もねえ結婚式も披露宴もしねえ、甲斐性なしなあにきらしいけど、それじゃ未央姉が可哀想だろ」

百鬼丸は項垂れた。しかし、それは全て未央の希望なのであった。そんなことに一々お金と時間をかけるのは勿体無いと、未央は言うのである。

「再来月にこの間の公演のギャラが入るから、そしたら写真だけは撮ろうって、言ってある」

彼が不貞腐れて言うと、どろろは「へぇ」と目を輝かせた。

「おいら見に行ってもいい?おいらも未央姉の花嫁姿、生で見たい!」

「へいへい、来ればいいさ」

どうせ断っても無理矢理ついて来ようとするのである。

未央は記念写真すら別にいらないと言ったのだが、それだけはどうしてもと、百鬼丸が未央を拝み倒したのだった。彼自身が未央の花嫁姿を見たいというのもあるし、実家の父親に晴れ姿を見せたいとも思ったからだ。きっと、未央の義弟のタケだって見たいと思っているはずだ。


「えいやっ!」

どろろが投げた石は川面を一度だけ跳ねて沈んだ。

「あーあ、うまくいかねぇなあ」

どろろは水切りが成功しないのは石の形状のせいだけだと思っているらしく、また石探しを始めた。

百鬼丸は適当な石を拾うと、片膝をつき左手に石を持って構え、水平に投げた。石は三回ほど水面を打って跳んだ。利き腕ではないので、思うように石に回転がかからなかった。だがどろろを悔しがらせるのには充分だった。

「くっそぉぉぉ、見てろよあにき!」

鼻息荒く石探しをするどろろに、百鬼丸は「ほらよ」と石を投げ寄越した。どろろの掌にすっぽり収まる程の大きさの、平たい円盤状の石である。

「初心者向け」

そう言ってニヤリと笑ってやると、どろろは鼻息荒く石を投げた。初心者用の石はぼちゃんと川底に沈んだ。

小猿の様に叫んでいるどろろをよそに、百鬼丸はしゃがみこんで小石を拾っては眺めていた。川原で石拾いなど小学生以来だが、案外楽しいもんだなと彼は思った。

ふと、ある石が目についた。それは流線型が三分の一ほど欠けて無くなったような形だった。表面の赤みを帯びた色合いが、他の灰色の石たちの中で際立っていたのだ。

手に取って見てみると、断面には美しい輝きを放つ真っ赤な粒がびっしりと詰まっていた。日の光にかざして眺めていると、どろろと未央が側にやって来た。

「それなあに?」

「さぁ」

百鬼丸は未央に両手を差し出させると、石を彼女の掌に置いた。

「あげる」

「ありがとう。すごい、綺麗……」

「おいらにも見せて!……うわぁ、なにこれすっげえ、宝石かなぁ」

「さぁ」

「あにき、これどこにあったの?」

「この辺」

どろろは百鬼丸と未央の足元にしゃがみ込むと、手当たり次第に石を拾い始めた。

「もっとでっかいの見つけてさぁ、宝石屋に持ってったら加工して貰えるかなぁ。結婚指環にいいんじゃないの、どうよ?二人とも」


どろろがそんなことを言うので、百鬼丸と未央は顔を見合せて苦笑したのだった。



(おわり)

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