たとえばこんな未来
躯が指令室で奇淋と話していると、ノックも無しに扉が開いて、振り返った彼女の胸の中に、黒い毛玉が勢いよく飛び込んできた。
「飛影、貴様!寝坊した上に躯様に何をする!」
奇淋が頭から蒸気を吹き出しつつ言った。
「いいとこに来たな。お前に話しておきたい事があったんだ。先日の統一会議で決まった魔界最深部調査隊の件だが、」
「行かん!」
「えっ」
「行かん行かん行かん行かん!」
「そ、そうなのか?いつも暇そうにしるから丁度いいかと思っ」
言いかけた躯の肩を飛影は両手で掴むと前後に強く揺さぶった。
「お前がああいうのを望んでいるとは、知らなかったんだ!ああいう風に腑抜けてもいい、別にいい、許してやる!だがな、相手は俺にしとけ!何処の馬の骨でもなく!」
「はぁ?何が言いたいのかさっぱりわからんが」
「要するにつまり」
「つまり?」
「俺と結婚しろ!」
と、確かに飛影がそう言ったのを奇淋は聞いた。しかし、気付いたら其処にはもう飛影はおらず、ただ天井に大穴の空いたその下で、上司がパンパンと手の汚れを叩いて落としている後ろ姿だけがあった。
「躯様、今のは……」
「さぁな。でもまぁ受けてやっても良いぜ、生きて還って来れたらな」
(おわり)
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