たとえばこんな未来
百足は、飛影とそのパトロール隊見習いの少年を、とある森の入り口で下ろして去っていった。
針葉樹の多く繁った森の道を歩きながら、飛影は少年から、彼の不在だった十数年のあらましを聞かされた。
飛影が旅立ってから最初の魔界トーナメント申込みの為に、少年の父親が初めて田舎から癌陀羅に出てきて道に迷った。そこへ偶々通りかかった躯が助け、それが縁で程なく二人が結ばれたこと。その時のトーナメントを最後に躯は戦士を引退し、以来この森の奥で、家族と共に静に暮らしているという事だった。
「貴方の事は、母からよく話に聞いていました。とても強い人だと。母は貴方を恩人だと言いました。僕ら兄弟は皆、貴方に憧れて育ったのです」
森が開けて明るい場所に出た。
広々とした空間の真ん中に大きな広葉樹が一本立っていて、その枝にぶら下がったブランコで、小さな子供たちが歓声を上げながら遊んでいる。右手の奥には住居とおぼしき木造の小屋があった。
「あ、兄ちゃんだ!おーい!」
「ただいま~!ねぇ、僕の隣にいるこの人、誰だと思う?飛影だよ!調査隊が終わって、帰って来たんだって!」
「ほんとう!?」
「すごい!」
「飛影だって!」
子供たちがわらわらと駆け寄って来た。一番小さいのが覚束無い足取りで後から一生懸命に着いてきたが、躓いて転び、わっと大声で泣き出した。
すると小屋の扉が開き、大きな腹をした女が姿を現した。
「こらこら、ダメじゃないの、チビちゃんを泣かしちゃ!」
「ぼくじゃないよ!」
「あたしじゃないよ!」
彼女は口々に弁解する子供達の間を通りすぎ、転んだまま這いつくばって泣き叫ぶ幼子を起こしたところで飛影に気付き、目を丸くした。