たとえばこんな未来
眼下に見える森の中を、移動要塞百足がノロノロと進んでいる。相変わらずのパトロール暮らしの様であった。
飛影は要塞の進路に先回りすべく、踵を返して歩き始めた。
十数年ぶりの要塞の様子は、出てきた時とちっとも代わり映えがしなかった。廊下で時雨とすれ違う。相変わらずの無精髭面で、
「何だ御主、帰っていたのか」
と、まるで近所に使いに出ていた小僧を呼び止めるみたいに言う。
「さっきな」
短く応え、飛影は指令室を目指す。
ノックをせずにドアを開けると、いつもの様に奇淋と躯が話し込んでいる。奇淋はドアの方を向いていた為に、すぐに飛影に気付いた。
「なんだ、今帰って来たのか!」
時雨と大差ないリアクションをした奇淋だったが、飛影は、彼が躯を押し退ける様にして此方に歩み寄って来たことに違和感を覚えた。
「出ていったっきり連絡ひとつ寄越さないもんだから」
「くたばったかと思ったか?」
「お前に限ってはそんな事にはならんだろうと思っていたさ、飛影よ」
「飛影だって!?」
奇淋の背後から少し上擦った声がしたかと思うと、今度は奇淋が脇へ押しやられ、小柄な身体が此方に突進してきた。
面喰らう飛影の鼻と、その鼻がふれ合いそうな程に急接近し、彼の両手を掴んでぶんぶんと振る
「むく……!」
「貴方があの邪眼師飛影……!くぅぅ~~!会いたかった、会いたかった!貴方に、子供の頃からずっと!」
躯、だと思っていたその人物は、つるりと美しい左右対称の顔をした少年で、躯によく似た赤毛と青い目を持っていた。
「丁度僕、今日は午前上がりなんだ。良かったら僕の家にどうぞ、きっと母も喜ぶと思う」