このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

たとえばこんな未来

「パトロールはつまらんか?」

「うんざりだ」

今まで、このやりとりを何度繰り返した事だろう。

いつもならば彼の答えに苦笑で返す彼女だったが、その時だけは深い溜め息を吐くと、寝椅子に背中を預けて目を瞑った。しばらく何か考えているようだったが、おもむろに口を開いた。

「そうだよな……。お前はまだ若い」

今までのセオリーと異なる展開になって来た為に、飛影は驚いて目を見開き、彼女の次の言葉を待つ。

「若者には冒険が必要だ。こんな蟲の腹ん中でうだうだしているよりはな。……よし。お前、魔界最深部調査隊に入る気はないか?」

魔界最深部。

煙鬼の田舎よりも更に下層の最果ての地。そこは草一本生えない荒野が広がっている。古代人が建てたと云われる古びた防壁跡があり、辺りには濃密な瘴気の霧が立ち込めている。

古の伝説によれば、その向こうにはもう一つの世界があるという。

あの壁を越えて向こう側の世界に行くことは、長らくタブーとされて来たが、最近、人々のあちらの世界に対する興味が高まってきている。

そして遂に、大統領府は調査隊を組織し、向こう側の世界に送り込む事を決定した。

そこで躯の所にも、志願者の募集が来たという訳だ。

「どうやら、雷禅の息子や黄泉んとこの銀狐も参加するようだぜ。それぞれ別の分隊になるだろうが。競争させてより沢山の成果を出させようって訳だ。どうだ、面白そうだろう?」

「お前は参加するのか?」

「否、俺はいいよ。今の仕事が性に合っている。それにもう、何か目新しい、面白い事をしようって歳でもないんだ。若い奴らだって、五月蝿い年寄が居ない方が気楽で良いだろう?」                    

躯にはもう随分長いこと、手合わせの相手をして貰っていない飛影だった。彼女がトーナメント以外で真面目に闘っているところを、ここのところ見たことが無い。戦闘への意欲を、彼女はとっくに喪っている様だった。今では、パトロール隊の運営や、巡回してまわる土地の地理についての記録を残す事に興味を移してしまっている。    

いつの間にか、すっかり退屈な奴になっていた。


「……わかった」

飛影がそう答えた時、躯はもう何年も前に彼から誕生日プレゼントを貰った時の様に微笑んだ。


1/7ページ
スキ