紅葉つ木の葉の愛を知る
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ヨコハマでの生活はもう1ヶ月ほどが過ぎた。段々と板についてきた今の暮らしは穏やかなものだった。
探偵社との関係は一段落着いたところだが、彼らとの交流は未だ続いている。数少ない知人かつ理解者である彼らと一緒にいられることは願ってもいないことだが少しの申し訳なさが心の隅に残っていたりする。
「もらってばかりなんです。何か返せないかなって、いつも考えているんですけど…」
洗濯物を畳み終えた伊織はタオルを撫でながら困ったように笑った。
彼女の話を聞いているのはここ診療所の主人である先生だ。珈琲の注がれたカップを置いて「そうねぇ」と頬に手を当てる。
「伊織さん、こちらにいらしたときに比べて随分空気が柔らかくなったと思うのよ。」
「あ、だ、だらけ過ぎていますか?」
「いいえ、そうじゃないわ。すごく貴女らしくて良いことよ。誰にでも何にでも物腰が柔らかで陽だまりみたいな温かさがあって、そんな貴女が私も好きだしきっと探偵社の皆様もそう思っているわ。」
「そんなことは、」と照れくさそうに頬を染める彼女を見て先生は目を細めて微笑んだ。
探偵社員の人々が伊織を迎えにきたり、そして送り届けにくる様子を幾度も目にした先生は彼らの表情を知っている。彼女は迷惑になっていないかなんていつも不安そうに呟くけれど、とんでもない。彼らは彼らの意思でやって来ているのだ。
「皆、貴女が幸せに笑っている顔が見たいのよ。」
先生は伊織に近寄ってそっと肩に手を置く。
「伊織さんは探偵社の皆様がお好きでしょう?」
「はい、とても…とっても好きです。
楽しくて、優しくて、ずっと聞いていたくなるような声が好きです。柔らかくてちょっと硬くて、でもすごく温かい手が好きです。
もし目が見えて、皆さんのお顔を見ることができたら…きっと幸せすぎて溶けちゃうくらい。」
赤らんだ頬が綻び、花のような笑みを浮かべる。
こんなにも幸せそうな表情をあの方々に見せてあげられないのが少し残念だが、心の底からの本音が聞けて安堵した。
「伊織さん、それよ。」と口にすると、伊織はどう言うことかと小首を傾げる。
「そうやってね、貴女が思っていることを包み隠さず伝えることができたならきっと彼らは喜ぶわ。」
「伊織さんは自分の気持ちを蔑ろにしやすい人だわ。相手の気持ちを汲み取るのがお上手なのは悪いことじゃないけれど、でも貴女が控えめになる必要はどこにもないのよ。
恥ずかしがらず、遠慮せずに自分の正直な気持ちを話してごらんなさい。」
「…そうしたら、私は皆さんに恩返しができるんでしょうか」
「ええ、とても嬉しいはずよ。」
伊織は少し考え込み、両手を握りしめて「よし」と呟いた。
「私、変われるように頑張ります…!」
「うふふ、少しずつでいいのよ。ゆっくり、貴女のペースでね」
初秋の爽やかな風が吹く暮れ方、小さな家の居間には二人の女性の密やかな笑い声が響いていた。
***
シミュレーションは完璧。
携帯よし、電車の切符よし、忘れ物は…なし!
両手を握りしめて意気込む伊織がいるのは駅構内。これから電車で大移動し、父親の知り合いに会いに行く算段である。ありがたいことに探偵社がある程度父の生前の情報を提供してくれ、友人であろう人物に連絡をとってくれたのだ。まさか何十年も前にいなくなってしまった友人の娘がいるなんてと驚いていたらしいが、是非とも会って話がしたいと約束を取り付けてくれた。
緊張するわ…
深呼吸を二回して息を整える。駅のホームへ向かおうと一歩足を踏み出したところで「やあ神崎さん」と声を掛けられ、驚いて辺りを見渡した。
「ここに、目の前にいるよ。神崎さん」
「だ、太宰さん?どうしてここに…あ、お仕事ですか?」
「いいや、貴女に会いに来たんだ。これから会いに行くんだろう」
「一人では心細いかと思ってね」といつものように伊織の左手を掬い上げる。
「そんな、太宰さんのお時間をとってしまうのは流石に申し訳ないですし、それに…あの日、私太宰さんからゆ、勇気、分けていただいたので、…
一人で、が、頑張れると思います…!」
ふんすと唇を噛み締める彼女。しかしここで引き下がる太宰ではない。
「…神崎さん、私は一つ気づいたのだよ。
貴女は無理をしている時、つま先をすり合わせる癖があることにね」
「えっ、そう、なんですか」
「ほら、今もね」
#dn=1#]は目をまんまるく見開いて動きを止める。
無意識の癖を指摘されてドクドクと鼓動が早くなる。
「む、無理しているなんてこと、ないですけど…」
「もし、神崎さんが本当に私がついてくることが嫌ならば無理にとは言わないよ」
駅特有の喧騒がどこか遠く、太宰の声がすとんと耳に入ってくる。つい先日先生に言われた言葉を思い出し、小さく口を開いた。
「あ……
っ嫌じゃ、ないです…!
…太宰さんと、一緒なら。私きっと、頑張れる」
彼女が絞り出した言葉に太宰は微笑みしっかりと握りしめたその手を引いた。
「では行こうか、神崎さん」
*
カタンコトンと規則的な列車の揺れに身を任せる。過ぎ去ってゆく景色は秋らしい色をしていて彼女に伝えたら喜ぶだろうかと視線を隣に移した。伏目がちな彼女は両手の指をゆるゆると摩り続けている。緊張の滲み出る雰囲気と、足元を見やればやはりつま先をモゾモゾと突き合わせていて。
本当に無意識のうちに出てしまう癖なんだとほんの少し苦笑した。
今は、このままがいいか。
息をついて再び外の景色に視線を移す。
ゆったりと流れる時間、窓から差し込む陽の光、心地よい暖かさにしばらく目を閉じていたが「太宰さん」と彼女が小さく発した言葉で一瞬にして意識が戻る。
彼女に名を呼ばれるのが好きだ。まるで透き通った水のようで、自分に対する好意が垣間見える気がするのだ。彼女はいつも私のことを“優しい”と言う。声と、触った感触で描かれた彼女の中の私はさぞ善人に見えるのだろう。そのままずっと、勘違いをしていてくれと願わずにはいられない自分はやはり優しい人間ではないと痛切に感じるのだった。
「私、太宰さんが好きです。」
太宰は目を見開いて「え」と言葉を漏らした。聞き間違いかと数度瞬きを繰り返す。
彼女を見れば、柔らかな笑みを携えほんのりと赤い頬に光がさしていた。多分聞き間違いではないのだろう。いやしかし、奥ゆかしい彼女がこんなにも大胆なことを言ってのけるなんてどういう心境の変化が…
「声も手も、全部全部、優しい太宰さんが好きです。」
「神崎さん、…もしかして私を口説いてる?」
「くどっ!?え、あ、いいいえ!あ、あの決して邪な意味ではなくてっ!」
あまりにもそういう意味の好意を全否定され思わず顔を覆った。
いや、決して期待していたわけではない。うん、断じて。
見えていないと分かっていながらも彼女から顔を逸らす。
「君が大胆な告白をするものだから私もつい吃驚してしまったよ」と戯けた声音で口にしたら案の定彼女は顔を真っ赤にしてあわあわとする。
「あ、う…その、この間、ちょっと先生とお話しをしたんです。
私が太宰さんや探偵社の皆さんに幸せな、嬉しい気持ちにしてもらったように、私もそうできたらなぁって。
…幸せの恩返しというか、なんというか。」
「そ、それで、まずは、私が思っていることを、ちゃんと言葉にして、つつ、伝えたいなって、思ったんですけど………」
「不快にさせてしまったのなら、すみません」と蚊の鳴くような声で謝った伊織は口を閉ざし俯いてしまった。
そんな彼女の右手を手繰り寄せ自分の頬へと押し当てる。驚いたのか小さなその手が一瞬ピクリと震えた。
「私は今どんな顔をしていると思う?」
「…笑って、いる?」
「正解」
「不快だなんてとんでもない。前にも言っただろう?私は君の言葉に胸が高鳴ると。今もこうして君の言葉に一喜一憂しているのだよ。」
私としては特別な感情を抱いてくれて大いに構わないのだが…と心の中で呟き柔らかく温かなそれに擦り寄った。覆った手を離せば彼女もそっとその手を離す。
「太宰さんも、本当にどきどきするんですか?」
「勿論だとも。」
「私の言葉でどきどきしました?」
「ああ、それはそれはもう」
くふくふと口元を抑えて静かに笑う伊織はどこか嬉しそうな表情をしている。
「大人な太宰さんをどきどきさせられたなら、私もちょっぴり大人に近づけたのかも」
スー…と長い長い息を吐いて太宰は天井を仰いだ。
貴女という人は…
全て純度100%の好意によるものだとは理解していてもあまりにそういう駆け引きなのではないかと側から聞いていたら疑ってしまうレベルな気がする。
幸せ返しをしたいと言っていた彼女はこれから探偵社の者に同じように好意を伝えて回るのだろうか。国木田くんなんて絶対に動揺するじゃないか。実に見ものだが…
なんだかあまり気分が良くない。
ああそうだ。私は彼女の好意を独り占めしたいんだ。それを他の連中に向けないでくれ、と言ったらきっと彼女は悲しむのだろう。
「参ったね、これは重症だ」
伊織には聞こえないくらい小さく独りごちた太宰は困ったように笑いながら瞳を閉じた。
______
思う気持ち
探偵社との関係は一段落着いたところだが、彼らとの交流は未だ続いている。数少ない知人かつ理解者である彼らと一緒にいられることは願ってもいないことだが少しの申し訳なさが心の隅に残っていたりする。
「もらってばかりなんです。何か返せないかなって、いつも考えているんですけど…」
洗濯物を畳み終えた伊織はタオルを撫でながら困ったように笑った。
彼女の話を聞いているのはここ診療所の主人である先生だ。珈琲の注がれたカップを置いて「そうねぇ」と頬に手を当てる。
「伊織さん、こちらにいらしたときに比べて随分空気が柔らかくなったと思うのよ。」
「あ、だ、だらけ過ぎていますか?」
「いいえ、そうじゃないわ。すごく貴女らしくて良いことよ。誰にでも何にでも物腰が柔らかで陽だまりみたいな温かさがあって、そんな貴女が私も好きだしきっと探偵社の皆様もそう思っているわ。」
「そんなことは、」と照れくさそうに頬を染める彼女を見て先生は目を細めて微笑んだ。
探偵社員の人々が伊織を迎えにきたり、そして送り届けにくる様子を幾度も目にした先生は彼らの表情を知っている。彼女は迷惑になっていないかなんていつも不安そうに呟くけれど、とんでもない。彼らは彼らの意思でやって来ているのだ。
「皆、貴女が幸せに笑っている顔が見たいのよ。」
先生は伊織に近寄ってそっと肩に手を置く。
「伊織さんは探偵社の皆様がお好きでしょう?」
「はい、とても…とっても好きです。
楽しくて、優しくて、ずっと聞いていたくなるような声が好きです。柔らかくてちょっと硬くて、でもすごく温かい手が好きです。
もし目が見えて、皆さんのお顔を見ることができたら…きっと幸せすぎて溶けちゃうくらい。」
赤らんだ頬が綻び、花のような笑みを浮かべる。
こんなにも幸せそうな表情をあの方々に見せてあげられないのが少し残念だが、心の底からの本音が聞けて安堵した。
「伊織さん、それよ。」と口にすると、伊織はどう言うことかと小首を傾げる。
「そうやってね、貴女が思っていることを包み隠さず伝えることができたならきっと彼らは喜ぶわ。」
「伊織さんは自分の気持ちを蔑ろにしやすい人だわ。相手の気持ちを汲み取るのがお上手なのは悪いことじゃないけれど、でも貴女が控えめになる必要はどこにもないのよ。
恥ずかしがらず、遠慮せずに自分の正直な気持ちを話してごらんなさい。」
「…そうしたら、私は皆さんに恩返しができるんでしょうか」
「ええ、とても嬉しいはずよ。」
伊織は少し考え込み、両手を握りしめて「よし」と呟いた。
「私、変われるように頑張ります…!」
「うふふ、少しずつでいいのよ。ゆっくり、貴女のペースでね」
初秋の爽やかな風が吹く暮れ方、小さな家の居間には二人の女性の密やかな笑い声が響いていた。
***
シミュレーションは完璧。
携帯よし、電車の切符よし、忘れ物は…なし!
両手を握りしめて意気込む伊織がいるのは駅構内。これから電車で大移動し、父親の知り合いに会いに行く算段である。ありがたいことに探偵社がある程度父の生前の情報を提供してくれ、友人であろう人物に連絡をとってくれたのだ。まさか何十年も前にいなくなってしまった友人の娘がいるなんてと驚いていたらしいが、是非とも会って話がしたいと約束を取り付けてくれた。
緊張するわ…
深呼吸を二回して息を整える。駅のホームへ向かおうと一歩足を踏み出したところで「やあ神崎さん」と声を掛けられ、驚いて辺りを見渡した。
「ここに、目の前にいるよ。神崎さん」
「だ、太宰さん?どうしてここに…あ、お仕事ですか?」
「いいや、貴女に会いに来たんだ。これから会いに行くんだろう」
「一人では心細いかと思ってね」といつものように伊織の左手を掬い上げる。
「そんな、太宰さんのお時間をとってしまうのは流石に申し訳ないですし、それに…あの日、私太宰さんからゆ、勇気、分けていただいたので、…
一人で、が、頑張れると思います…!」
ふんすと唇を噛み締める彼女。しかしここで引き下がる太宰ではない。
「…神崎さん、私は一つ気づいたのだよ。
貴女は無理をしている時、つま先をすり合わせる癖があることにね」
「えっ、そう、なんですか」
「ほら、今もね」
#dn=1#]は目をまんまるく見開いて動きを止める。
無意識の癖を指摘されてドクドクと鼓動が早くなる。
「む、無理しているなんてこと、ないですけど…」
「もし、神崎さんが本当に私がついてくることが嫌ならば無理にとは言わないよ」
駅特有の喧騒がどこか遠く、太宰の声がすとんと耳に入ってくる。つい先日先生に言われた言葉を思い出し、小さく口を開いた。
「あ……
っ嫌じゃ、ないです…!
…太宰さんと、一緒なら。私きっと、頑張れる」
彼女が絞り出した言葉に太宰は微笑みしっかりと握りしめたその手を引いた。
「では行こうか、神崎さん」
*
カタンコトンと規則的な列車の揺れに身を任せる。過ぎ去ってゆく景色は秋らしい色をしていて彼女に伝えたら喜ぶだろうかと視線を隣に移した。伏目がちな彼女は両手の指をゆるゆると摩り続けている。緊張の滲み出る雰囲気と、足元を見やればやはりつま先をモゾモゾと突き合わせていて。
本当に無意識のうちに出てしまう癖なんだとほんの少し苦笑した。
今は、このままがいいか。
息をついて再び外の景色に視線を移す。
ゆったりと流れる時間、窓から差し込む陽の光、心地よい暖かさにしばらく目を閉じていたが「太宰さん」と彼女が小さく発した言葉で一瞬にして意識が戻る。
彼女に名を呼ばれるのが好きだ。まるで透き通った水のようで、自分に対する好意が垣間見える気がするのだ。彼女はいつも私のことを“優しい”と言う。声と、触った感触で描かれた彼女の中の私はさぞ善人に見えるのだろう。そのままずっと、勘違いをしていてくれと願わずにはいられない自分はやはり優しい人間ではないと痛切に感じるのだった。
「私、太宰さんが好きです。」
太宰は目を見開いて「え」と言葉を漏らした。聞き間違いかと数度瞬きを繰り返す。
彼女を見れば、柔らかな笑みを携えほんのりと赤い頬に光がさしていた。多分聞き間違いではないのだろう。いやしかし、奥ゆかしい彼女がこんなにも大胆なことを言ってのけるなんてどういう心境の変化が…
「声も手も、全部全部、優しい太宰さんが好きです。」
「神崎さん、…もしかして私を口説いてる?」
「くどっ!?え、あ、いいいえ!あ、あの決して邪な意味ではなくてっ!」
あまりにもそういう意味の好意を全否定され思わず顔を覆った。
いや、決して期待していたわけではない。うん、断じて。
見えていないと分かっていながらも彼女から顔を逸らす。
「君が大胆な告白をするものだから私もつい吃驚してしまったよ」と戯けた声音で口にしたら案の定彼女は顔を真っ赤にしてあわあわとする。
「あ、う…その、この間、ちょっと先生とお話しをしたんです。
私が太宰さんや探偵社の皆さんに幸せな、嬉しい気持ちにしてもらったように、私もそうできたらなぁって。
…幸せの恩返しというか、なんというか。」
「そ、それで、まずは、私が思っていることを、ちゃんと言葉にして、つつ、伝えたいなって、思ったんですけど………」
「不快にさせてしまったのなら、すみません」と蚊の鳴くような声で謝った伊織は口を閉ざし俯いてしまった。
そんな彼女の右手を手繰り寄せ自分の頬へと押し当てる。驚いたのか小さなその手が一瞬ピクリと震えた。
「私は今どんな顔をしていると思う?」
「…笑って、いる?」
「正解」
「不快だなんてとんでもない。前にも言っただろう?私は君の言葉に胸が高鳴ると。今もこうして君の言葉に一喜一憂しているのだよ。」
私としては特別な感情を抱いてくれて大いに構わないのだが…と心の中で呟き柔らかく温かなそれに擦り寄った。覆った手を離せば彼女もそっとその手を離す。
「太宰さんも、本当にどきどきするんですか?」
「勿論だとも。」
「私の言葉でどきどきしました?」
「ああ、それはそれはもう」
くふくふと口元を抑えて静かに笑う伊織はどこか嬉しそうな表情をしている。
「大人な太宰さんをどきどきさせられたなら、私もちょっぴり大人に近づけたのかも」
スー…と長い長い息を吐いて太宰は天井を仰いだ。
貴女という人は…
全て純度100%の好意によるものだとは理解していてもあまりにそういう駆け引きなのではないかと側から聞いていたら疑ってしまうレベルな気がする。
幸せ返しをしたいと言っていた彼女はこれから探偵社の者に同じように好意を伝えて回るのだろうか。国木田くんなんて絶対に動揺するじゃないか。実に見ものだが…
なんだかあまり気分が良くない。
ああそうだ。私は彼女の好意を独り占めしたいんだ。それを他の連中に向けないでくれ、と言ったらきっと彼女は悲しむのだろう。
「参ったね、これは重症だ」
伊織には聞こえないくらい小さく独りごちた太宰は困ったように笑いながら瞳を閉じた。
______
思う気持ち