とある耳が聞こえない女の子が米花町で過ごすお話
デルフィニウムが微笑んだら
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サイレンの音をこんなにも間近で聴いたのは初めてだ。目を開けていられないくらいの不快感に襲われておもわず耳を塞ぐ。
どれくらいしてからだろうか。いくらか耳鳴りも収まり、喉の奥でつっかえていた空気を吐き出した。
ぼんやり霞む意識のなかで温かい何かに包まれていることに気づいた。
そういえば、肩を掴まれる前に誰かがこっちに向かってきていたような…
重い頭を擡げて眉間に皺を寄せる。だんだんピントが合ってクリアになっていく視界には昴さんと哀ちゃんの顔が映った。
哀ちゃんは『大丈夫?このメッセージがわかったら何か反応して』と記したスマホを掲げている。
どうにか口角を引き上げてぎこちなくも笑みを作り、小さく頭を振った。
「哀ちゃん、救急箱もってきたよ!これでかすみお姉さんの手当てできる?」
「えぇ、大丈夫よ。手首あたりを切られていて出血は多いけど、傷はそこまで深くないわ。軽症で本当に良かった…」
高木刑事とコナンと一緒に戻ってきた歩美は不安げな表情で哀に救急箱を差し出す。かすみの傍に座り込んで泣くのを堪えながら彼女のカーディガンを握りしめた。
「かすみお姉さん、すぐに哀ちゃんが、手当てしてくれるからね…」
顔を覗き込んでゆっくりとそう伝えると、かすみは目をシパシパ瞬かせて違和感のある右手に視線を移した。
「っ…!!?」
あっ、だめだ。これみちゃだめだ。
たらりと血が流れ出すところを見た瞬間、一気に血の気が引いて意識がぐらつく。思い切り顔を背けて左手で口元を覆った。ブワッと汗が吹き出して痙攣かと思うくらい体が震える。
「___?__っ____!」
誰かが何か呼びかけてる。
あぁ、だいじょうぶです。たいしたことはないんです。けど。
ごめんなさい、わたしちがにがてで、みると、ほんと、だめなんです…
心の中でそう呟くも彼らに届くはずがなく…
突然顔色が真っ白になったかすみにその場にいた皆がギョッとした。
「おそらく血液迷走神経反射よ。あなたはそのまま彼女の顔を覆ってて。」
「えぇ。手早くお願いしますね。」
「わかってるわよ!」
動揺する周りを落ち着かせた哀は手際よく消毒、止血をして包帯を巻いていく。沖矢は血が見えないようかすみの顔を手で覆い隠す。力が抜けてくたりと寄りかかってくる彼女をしっかり抱きとめた。
「…かすみさん、もう大丈夫よ。よく頑張ったわね。」
処置を無事終えた哀が軽く肩を叩けば沖矢の腕のなかでかすみがわずかに身じろぐ。
「処置も終わったことですし、とにかく場所を移しましょう。」
「あっ、ええと、それじゃあ彼女をパトカーに…!」
「かすみさん、失礼します。」と声をかけて彼女を抱き上げた。
なんて華奢な身体だろうか。少しでも力を込めたらいとも簡単に壊れてしまいそうで、彼女を支える手つきが思わず慎重になる。
確実に男を拘束するため敢えて一振り目を見逃した。あの間合いならせいぜい掠るくらいだろうと軽く考えていた過去の自分を殴ってやりたい。合理性を優先した結果がこの様だ。
「高木刑事、事情聴取は後日でもいいよね?できればかすみさんを家まで送り届けて欲しいんだ。」
「あぁ、大丈夫だよ。佐藤さんに確認をとってくるから君たちは先に乗っていてくれ!」
高木は現場対応に追われる佐藤のもとへ駆けていく。
「歩美も一緒に行かせて!」
「歩美ちゃん、全員は乗り切れない。ボクと昴さんがかすみお姉さんを送り届けるよ。」
「でも…歩美のせいで…」
「吉田さん、ここは江戸川くんに任せましょう。かすみさんは大丈夫だから。」
歩美はとうとう堰き止めていた涙を堪えきれず声を上げて泣き出した。哀が慰めつつコナン達に早く行くよう目配せをする。
パトカーに乗り込んだ彼らは高木が来るのを待つ間、静かに彼女の様子を見守っていた。
「すまないボウヤ。こうなってしまったのは私の判断ミスだ。」
「謝らないでよ、誰も悪くないんだ。ボクが昴さんの立場だったとして、同じようにしたと思う。」
ぎりりと唇を噛み締めたコナンは助手席のシートに深くもたれかかって俯いた。
ピンポーン
「すみませーん」
「はいはい、待ってくださいねぇ。」
かすみの家に辿り着いた一行は奥から聞こえてくる老婦の声に少し身を固くした。カラリと音を立てて戸が開く。
男に抱えられたかすみを目にした千代は口元を隠して「かすみちゃん…!」と動揺した声を上げた。
「これは一体…」
「おばあちゃん、詳しく説明するからまずはかすみお姉さんを運んでもいい?」
「え、えぇ。こちらです。さ、はやく…」
かすみの部屋へと彼らを案内した千代は高木から話を聞き、ベッドへ寝かされた彼女の頭を優しく撫でた。
「申し訳ございません。我々警察がもっと早くに駆けつけていればお孫さんは…」
「おばあちゃん、高木刑事を責めないであげて。ボクが友達に犯人のことを教えちゃったんだ。それでお姉さんを巻き込んでしまって」
「私も力至らず、結果彼女を傷つけてしまいました。」
「そんな、皆さんお顔をあげてちょうだい。責めたりなんかしませんよ。」
各々が深く頭を下げて謝罪するのを困ったように止めた。
申し訳なさげな表情の彼らに、かすみがここまで具合が悪くなってしまったのはあなた達のせいではないのよと柔らかい口調で諭す。
「この子は皆さんも知っての通り耳が不自由でねえ。ほとんど聴こえる音はないんだけれど、不快に感じる音が一定数あるんですよ。救急車やパトカーのサイレンは近くで聞くとどうも苦手らしくて…。」
「それに怪我をしてしまって血を見たんでしょう?」
「はい、大事には至りませんが右手のひらから手首にかけて10センチほどの切り傷が。」
「ごめんなさいねえ。かすみちゃんは血がどうも昔から苦手なのよ。よくクラクラしちゃうものだから大変だったって私も聞かされていたんです。…あらかすみちゃん、なあに?」
不意に服の裾を掴まれる感覚を覚えて振り返ると、かすみが手話で何かを伝えようとしていた。
「えぇ、…えぇ。分かったわ。」
静かな会話がしばらく続き、千代はコナン達と再び向き合う。
「迷惑をかけてしまって申し訳ない、と。あゆみちゃんは大丈夫ですか?ですって。その子のことをすごく気にかけているようねえ。」
「歩美ちゃんは無事だよ。かすみお姉さんが守ってくれたおかげで、どこも怪我していない。」
「そうなのねえ。良かった良かった…かすみちゃんが守ったんだって。よう頑張ったねえ。」
「…それでは私たちはそろそろ。」
「あぁ、ごめんなさいね。長く引き止めてしまって…」
「いえ、とんでもございません。野中さんの容態が回復次第事情聴取を行いたいので、できれば署に来てもらいたいのですがよろしいでしょうか?」
「ええ。本人に伝えておきます。」
挨拶を済ませた彼らは家の外に出ると、事件の処理のため高木のみがパトカーに乗り込み先に去った。コナンと沖矢ももう一度謝罪の言葉を繰り返すと背を向けて歩き出した。
「あなた達、」
千代は二人を呼び止める。
「あの子の、お友達になってくれてありがとう。かすみちゃん、ここに引っ越してきてあなた達と知り合ってからよく笑うようになったのよ。毎日すごく楽しそうでねえ。あなた達の名前を書いたスケッチブック、何度も何度も私に見せてくるの。」
本当によく笑うようになった。
ぎこちなさはあるけれど、とても嬉しそうに楽しそうに笑うのよ。
涙が滲んで微かに視界がぼやける。
「押し付けがましいかもしれないけど、どうか、どうか…これからもかすみちゃんと仲良くしてあげてください。」
深々と頭を下げる千代の肩に沖矢は手をかけた。
「かすみさんはとても素敵な女性ですよ。私はぜひ、これからも彼女と関わり続けたいと思っています。」
「ボクも!かすみお姉さんともっと仲良くなりたいんだ。それにボク達だけじゃないよ、他にも色んな人がお姉さんのことを気に入っているんだよ!」
なんて、優しくて素敵な友達に恵まれたんだろう。
これは神様からのプレゼントなのかもしれんよかすみちゃん。あなたが今まで頑張ってきたから…
目尻に溜まった涙を拭って「ありがとう」と微笑んだ。
夕日で伸びる影を眺めるコナンは隣を歩く沖矢を横目で見た。
「なんだいボウヤ」
「えっ、いや…」
ヤベ、さっきから見てるのバレてたか…と焦ってゴニョゴニョと言葉を濁す。
「昴さんってさ、かすみさんのこと…なんていうか、好きなの?」
沖矢のかすみに対する態度を思い出しながら思い切って疑問を投げかけた。
初対面から攻めの姿勢を見せるし、今日だって。それにさっき言ったあの言葉__
「好きか嫌いかと問われているのならば、好きだと答えるが。」
「まあ、ボウヤが聞きたいのはそういうことではないんだろう?」と笑いながら両手をポケットに突っ込む。
「彼女は私が関わってきたことのないタイプでね。存外気に入っているらしい。」
「らしいって…」
自分のことだろうが…とコナンは目を細めた。
じゃあやっぱりおばあちゃんに言ったあの言葉は本心なのか?と喉元まででかかったがグッと飲み込む。
沖矢昴として彼女を気に入っているのか、それとも赤井秀一として?本心っつったって沖矢昴を演じている赤井さんの本心は本物なのか?
だんだん深みにはまっていく思考から抜け出して一息つく。
「別にとやかく言うつもりはないけど、かすみさんを悲しませるようなことはしないでよね。」
「ハハッ肝に銘じておくとしよう。」
色々と厄介な人物を敵に回すことになるから、と心の中で呟いたのが通じたのだろうか。沖矢は笑いながら頷いた。
本当に分かってんのかよ…と呆れるコナンはふとスマホのバイブに気づき、ポケットから取り出した。履歴を確認すると灰原から数回電話がかかってきていたようだ。
「ボクは灰原にかすみさんのこと伝えてくるから。
それじゃあまたね、昴さん」
コナンはスマホをしまうとさっさと駆け出して行くのだった。
どれくらいしてからだろうか。いくらか耳鳴りも収まり、喉の奥でつっかえていた空気を吐き出した。
ぼんやり霞む意識のなかで温かい何かに包まれていることに気づいた。
そういえば、肩を掴まれる前に誰かがこっちに向かってきていたような…
重い頭を擡げて眉間に皺を寄せる。だんだんピントが合ってクリアになっていく視界には昴さんと哀ちゃんの顔が映った。
哀ちゃんは『大丈夫?このメッセージがわかったら何か反応して』と記したスマホを掲げている。
どうにか口角を引き上げてぎこちなくも笑みを作り、小さく頭を振った。
「哀ちゃん、救急箱もってきたよ!これでかすみお姉さんの手当てできる?」
「えぇ、大丈夫よ。手首あたりを切られていて出血は多いけど、傷はそこまで深くないわ。軽症で本当に良かった…」
高木刑事とコナンと一緒に戻ってきた歩美は不安げな表情で哀に救急箱を差し出す。かすみの傍に座り込んで泣くのを堪えながら彼女のカーディガンを握りしめた。
「かすみお姉さん、すぐに哀ちゃんが、手当てしてくれるからね…」
顔を覗き込んでゆっくりとそう伝えると、かすみは目をシパシパ瞬かせて違和感のある右手に視線を移した。
「っ…!!?」
あっ、だめだ。これみちゃだめだ。
たらりと血が流れ出すところを見た瞬間、一気に血の気が引いて意識がぐらつく。思い切り顔を背けて左手で口元を覆った。ブワッと汗が吹き出して痙攣かと思うくらい体が震える。
「___?__っ____!」
誰かが何か呼びかけてる。
あぁ、だいじょうぶです。たいしたことはないんです。けど。
ごめんなさい、わたしちがにがてで、みると、ほんと、だめなんです…
心の中でそう呟くも彼らに届くはずがなく…
突然顔色が真っ白になったかすみにその場にいた皆がギョッとした。
「おそらく血液迷走神経反射よ。あなたはそのまま彼女の顔を覆ってて。」
「えぇ。手早くお願いしますね。」
「わかってるわよ!」
動揺する周りを落ち着かせた哀は手際よく消毒、止血をして包帯を巻いていく。沖矢は血が見えないようかすみの顔を手で覆い隠す。力が抜けてくたりと寄りかかってくる彼女をしっかり抱きとめた。
「…かすみさん、もう大丈夫よ。よく頑張ったわね。」
処置を無事終えた哀が軽く肩を叩けば沖矢の腕のなかでかすみがわずかに身じろぐ。
「処置も終わったことですし、とにかく場所を移しましょう。」
「あっ、ええと、それじゃあ彼女をパトカーに…!」
「かすみさん、失礼します。」と声をかけて彼女を抱き上げた。
なんて華奢な身体だろうか。少しでも力を込めたらいとも簡単に壊れてしまいそうで、彼女を支える手つきが思わず慎重になる。
確実に男を拘束するため敢えて一振り目を見逃した。あの間合いならせいぜい掠るくらいだろうと軽く考えていた過去の自分を殴ってやりたい。合理性を優先した結果がこの様だ。
「高木刑事、事情聴取は後日でもいいよね?できればかすみさんを家まで送り届けて欲しいんだ。」
「あぁ、大丈夫だよ。佐藤さんに確認をとってくるから君たちは先に乗っていてくれ!」
高木は現場対応に追われる佐藤のもとへ駆けていく。
「歩美も一緒に行かせて!」
「歩美ちゃん、全員は乗り切れない。ボクと昴さんがかすみお姉さんを送り届けるよ。」
「でも…歩美のせいで…」
「吉田さん、ここは江戸川くんに任せましょう。かすみさんは大丈夫だから。」
歩美はとうとう堰き止めていた涙を堪えきれず声を上げて泣き出した。哀が慰めつつコナン達に早く行くよう目配せをする。
パトカーに乗り込んだ彼らは高木が来るのを待つ間、静かに彼女の様子を見守っていた。
「すまないボウヤ。こうなってしまったのは私の判断ミスだ。」
「謝らないでよ、誰も悪くないんだ。ボクが昴さんの立場だったとして、同じようにしたと思う。」
ぎりりと唇を噛み締めたコナンは助手席のシートに深くもたれかかって俯いた。
ピンポーン
「すみませーん」
「はいはい、待ってくださいねぇ。」
かすみの家に辿り着いた一行は奥から聞こえてくる老婦の声に少し身を固くした。カラリと音を立てて戸が開く。
男に抱えられたかすみを目にした千代は口元を隠して「かすみちゃん…!」と動揺した声を上げた。
「これは一体…」
「おばあちゃん、詳しく説明するからまずはかすみお姉さんを運んでもいい?」
「え、えぇ。こちらです。さ、はやく…」
かすみの部屋へと彼らを案内した千代は高木から話を聞き、ベッドへ寝かされた彼女の頭を優しく撫でた。
「申し訳ございません。我々警察がもっと早くに駆けつけていればお孫さんは…」
「おばあちゃん、高木刑事を責めないであげて。ボクが友達に犯人のことを教えちゃったんだ。それでお姉さんを巻き込んでしまって」
「私も力至らず、結果彼女を傷つけてしまいました。」
「そんな、皆さんお顔をあげてちょうだい。責めたりなんかしませんよ。」
各々が深く頭を下げて謝罪するのを困ったように止めた。
申し訳なさげな表情の彼らに、かすみがここまで具合が悪くなってしまったのはあなた達のせいではないのよと柔らかい口調で諭す。
「この子は皆さんも知っての通り耳が不自由でねえ。ほとんど聴こえる音はないんだけれど、不快に感じる音が一定数あるんですよ。救急車やパトカーのサイレンは近くで聞くとどうも苦手らしくて…。」
「それに怪我をしてしまって血を見たんでしょう?」
「はい、大事には至りませんが右手のひらから手首にかけて10センチほどの切り傷が。」
「ごめんなさいねえ。かすみちゃんは血がどうも昔から苦手なのよ。よくクラクラしちゃうものだから大変だったって私も聞かされていたんです。…あらかすみちゃん、なあに?」
不意に服の裾を掴まれる感覚を覚えて振り返ると、かすみが手話で何かを伝えようとしていた。
「えぇ、…えぇ。分かったわ。」
静かな会話がしばらく続き、千代はコナン達と再び向き合う。
「迷惑をかけてしまって申し訳ない、と。あゆみちゃんは大丈夫ですか?ですって。その子のことをすごく気にかけているようねえ。」
「歩美ちゃんは無事だよ。かすみお姉さんが守ってくれたおかげで、どこも怪我していない。」
「そうなのねえ。良かった良かった…かすみちゃんが守ったんだって。よう頑張ったねえ。」
「…それでは私たちはそろそろ。」
「あぁ、ごめんなさいね。長く引き止めてしまって…」
「いえ、とんでもございません。野中さんの容態が回復次第事情聴取を行いたいので、できれば署に来てもらいたいのですがよろしいでしょうか?」
「ええ。本人に伝えておきます。」
挨拶を済ませた彼らは家の外に出ると、事件の処理のため高木のみがパトカーに乗り込み先に去った。コナンと沖矢ももう一度謝罪の言葉を繰り返すと背を向けて歩き出した。
「あなた達、」
千代は二人を呼び止める。
「あの子の、お友達になってくれてありがとう。かすみちゃん、ここに引っ越してきてあなた達と知り合ってからよく笑うようになったのよ。毎日すごく楽しそうでねえ。あなた達の名前を書いたスケッチブック、何度も何度も私に見せてくるの。」
本当によく笑うようになった。
ぎこちなさはあるけれど、とても嬉しそうに楽しそうに笑うのよ。
涙が滲んで微かに視界がぼやける。
「押し付けがましいかもしれないけど、どうか、どうか…これからもかすみちゃんと仲良くしてあげてください。」
深々と頭を下げる千代の肩に沖矢は手をかけた。
「かすみさんはとても素敵な女性ですよ。私はぜひ、これからも彼女と関わり続けたいと思っています。」
「ボクも!かすみお姉さんともっと仲良くなりたいんだ。それにボク達だけじゃないよ、他にも色んな人がお姉さんのことを気に入っているんだよ!」
なんて、優しくて素敵な友達に恵まれたんだろう。
これは神様からのプレゼントなのかもしれんよかすみちゃん。あなたが今まで頑張ってきたから…
目尻に溜まった涙を拭って「ありがとう」と微笑んだ。
夕日で伸びる影を眺めるコナンは隣を歩く沖矢を横目で見た。
「なんだいボウヤ」
「えっ、いや…」
ヤベ、さっきから見てるのバレてたか…と焦ってゴニョゴニョと言葉を濁す。
「昴さんってさ、かすみさんのこと…なんていうか、好きなの?」
沖矢のかすみに対する態度を思い出しながら思い切って疑問を投げかけた。
初対面から攻めの姿勢を見せるし、今日だって。それにさっき言ったあの言葉__
「好きか嫌いかと問われているのならば、好きだと答えるが。」
「まあ、ボウヤが聞きたいのはそういうことではないんだろう?」と笑いながら両手をポケットに突っ込む。
「彼女は私が関わってきたことのないタイプでね。存外気に入っているらしい。」
「らしいって…」
自分のことだろうが…とコナンは目を細めた。
じゃあやっぱりおばあちゃんに言ったあの言葉は本心なのか?と喉元まででかかったがグッと飲み込む。
沖矢昴として彼女を気に入っているのか、それとも赤井秀一として?本心っつったって沖矢昴を演じている赤井さんの本心は本物なのか?
だんだん深みにはまっていく思考から抜け出して一息つく。
「別にとやかく言うつもりはないけど、かすみさんを悲しませるようなことはしないでよね。」
「ハハッ肝に銘じておくとしよう。」
色々と厄介な人物を敵に回すことになるから、と心の中で呟いたのが通じたのだろうか。沖矢は笑いながら頷いた。
本当に分かってんのかよ…と呆れるコナンはふとスマホのバイブに気づき、ポケットから取り出した。履歴を確認すると灰原から数回電話がかかってきていたようだ。
「ボクは灰原にかすみさんのこと伝えてくるから。
それじゃあまたね、昴さん」
コナンはスマホをしまうとさっさと駆け出して行くのだった。