とある耳が聞こえない女の子が米花町で過ごすお話
デルフィニウムが微笑んだら
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カランカラン___
「いらっしゃいませ…おや」
ベルの音に顔を上げた。視線の先にはおどおどとした様子の一人の女性。
「また来てくださって嬉しいです、野中さん」
目が合えばピクリと肩を揺らし、慌てて頭を下げる。そんなかすみを見て微笑んだ安室は彼女を席へと案内した。
「ちょっと安室さん安室さん!!」
「あっ、もう園子ったら…」
かすみのオーダーを取り終えカウンターへ戻ろうとしたところ、甲高い声に呼び止められ振り返る。
訝しげな顔で手招く園子に苦笑を浮かべつつ近寄り「なんでしょう?」と問いかけた。
「今のなんですか!“また来てくれて嬉しい”って!もしかしてぇ…もしかする感じのアレですか〜?」
「園子興奮しすぎよ!ごめんなさい、安室さん」
「ハハ、気にしないでください。彼女はコナンくんの知り合いで、ボクも最近知り合ったばかりなんです。」
「それってもしかして…「ねえねえお姉様〜!」ちょ、園子!」
園子は本を読んでいるかすみの目の前に座りニコニコと笑いかけた。しかし、園子の呼びかけに気づかないかすみはぺらりとページを捲る。
「あの〜…」
ぺらり
「お姉様〜?おーい?」
ぺらり
「んもー!なんなのよぉ!!」
「園子失礼よ!すみません、私の友達が邪魔して…」
蘭が慌てて駆け寄り謝罪するも彼女は次のページを捲った。首を傾げる二人に「園子さん、蘭さん」と声を掛ける。
「園子さん、怒らないであげてください。野中さんは耳が聞こえないんですよ。」
「耳が?それってコナンくんが言ってたような…」
本を読むかすみの肩を叩いて二人の存在を知らせると、彼女は驚いてピシッと固まった。
『す、すみません、全く気が付かなくて…。えっと、』
「二人はコナンくんの友達で、毛利蘭さんと、鈴木園子さんです。」
『コナンくんの…』
あわわ…と口元を抑えるかすみ。
やっぱり感情が表に出やすい人だな、と思わず笑みが溢れる。もうしばらく彼女を観察していたかったが、興味深げにソワソワする蘭と園子にその場を譲りカウンターへ戻った。
コーヒーを淹れながらもなんとなしにかすみを目で追う。カウンターからは彼女の背中しか見えないが、向かいの女子高生たちがニコニコ笑いながら楽しげに話しているところから察するに問題なく会話できてるのだろう。
ガトーショコラを切り分けて皿に移し、温めておいたカップにコーヒーを注ぐ。それらをトレーに乗せたらかすみの元へと向かった。
「お待たせしました。」
コトリとテーブルに置けば、かすみは丁寧にお辞儀をする。テーブルに広げられたノートやスケッチブックに目を落とすと、それらにはたくさんの文字が羅列していた。
“お花が好きです”
たまたま目に留まったその言葉に彼女らしいなと頬が緩む。
「そういえば野中さん、蘭さんたちとは筆談なんですね。」
「安室さんねぇ、私たちは安室さんみたいに手話はできないもの。だからこうやってノートに書いてるの!」
かすみに話しかけたつもりがバシバシとノートを叩いて噛み付いてきた園子に「あはは…すみません」と謝る。
「この間はコナンくんとスマホでやりとりしていたので、少し気になったんです。」
「そっか、スマホの方が書くより楽ですもんね。私ったらなにも考えずに…」
蘭が『ごめんなさい、筆談ってやっぱり大変ですよね?』と伝えたらかすみはブンブンと頭を横に振って急いで文字を書く。
『全然そんなことないです!!』
ズイッとスケッチブックを突き出してきたかすみに蘭と園子はよかった、と顔を綻ばせた。
それからかすみはふぅ、と息をついて文字を書き連ねてゆく。
『特別な理由がある訳じゃなくて、ただ…私は普通の会話ができないから、せめて同じ手段でお話ししたいなって。こんなにも面倒臭い会話に付き合ってくれる人がいるなんて、感謝しかありません。だから、大変なんて思うこと、絶対にないです。』
「面倒なんてこれっぽっちも思いませんよ。私、こうやってかすみさんと話すのすっごく楽しいですもん!」
じっと蘭の口元を見ていたかすみは俯いた。小さく震える彼女に心配そうに思わず手を伸ばしたが、ゆっくり動き出したためピタリと手を止める。
ほっそりとした彼女の指はまだ、震えていた。
「…野中さんも、楽しいんですね。」
かすみの手話を読み取りポツリと呟く。紅潮した顔が髪の隙間から見え隠れする。微笑ましく思っていると、園子が彼女に飛びつく。「もうかすみさんってばホンット可愛いんだからぁ〜!!!」なんて叫びながらギュウギュウと抱きしめた。
「園子!かすみさん困ってるじゃない!」
呆れ顔で止めに入る蘭がかすみを手繰り寄せるもしぶとく抱き着く園子。二人に挟まれてもみくちゃにされる彼女は少し困ったような、でもとても嬉しそうな顔で口元を緩ませていた。
「野中さん」
蘭と園子がポアロを出てしばらくした後、かすみも席を立った。会計を済ませて外へ出たところを呼び止める。
「困ったことがあれば、なんでも言ってください。力になりますので。」
そう言って連絡先を書き記したメモを手渡せば目をまんまると見開いた。あわあわしながら頭を下げるかすみはメモを大事そうに胸に押し当てる。
「野中さんのこと、僕にももっと教えてくださいね。」
『つ、つまらないと、思うんですけど…』
「おや、つれませんね…
コナンくんや蘭さんたちとはあんなに楽しそうに話していたのに。」
残念だ…と大袈裟に肩を落として見せると彼女はあたふたと手を振る。
「僕が話し相手では、お気に召しませんか?」
最後の一押し。
彼女の顔を覗き込みながら聞けば、滅相もない…!とでも言うようにぶんぶん頭を横に振った。
「それじゃあまた、お会いできるのを楽しみにしていますね。」
ふふっと笑いながらかすみを見送り、人混みに紛れて見えなくなったところでポアロの中へと戻った。客がいなくなった店内は物静かで、時折カウンターの奥から食器の触れ合う音が微かに聞こえる。テーブルに残された食器をまとめてシンクへ持っていくと、奥で片付けをしていた梓がにやにやと見つめてきた。
「安室さん、かすみさんが気になるんですか?」
「え?」
「だってだって!この間も今日も、目で追ってるの私わかっちゃいましたよ〜!」
キャー!と声をあげて興奮する梓に苦笑する。
連絡先を教えた本心は純粋に彼女の助けになれたら良いと思ったから。下心はない。
自分がポーカーフェイスに慣れてしまったからだろうか、コロコロと変わる表情に無性に惹かれるのだ。
「僕、気になったことはとことん知り尽くしたくなる質なんですよ。」
「ふふっ、さすが探偵さん。」
次はいつ会えるだろうか。
そんなことを考えながらゆっくりと目を瞑った。
窓の外はとっぷりと日が暮れ、町の明かりが至る所で灯っている頃__
「あっ、そうそうコナンくん、私今日ポアロでかすみさんに会ったの!」
「かすみお姉さんが来てたの?」
蘭は上機嫌に今日の出来事を話しはじめた。
「すごく可愛らしい人よねぇ。もう園子が気に入っちゃって暴走するから抑えるの本当大変だったのよ。」
真っ赤な顔になってアワアワするかすみが容易に想像できる。アハハ…と呆れ混じりに笑いながら蘭の話に耳を傾けた。
九州から引っ越してきた。
今はおばあちゃんと二人暮らしをしている。
仕事場は近所の花屋で、少しずつ仕事を覚えていっている。
随分と色んな話をしたらしい。つーか俺よりかすみさんのこと知ってるじゃないか。…いや、いつもアイツらばっかり話してっから当然か。
「蘭ねーちゃんとかすみお姉さんが仲良くなれて良かったよ。かすみお姉さん、きっとまだここでの暮らしに慣れてないと思うからさ、もし困っているところを見かけたら助けてあげて欲しいんだ。」
「勿論よ。それに私も園子も、かすみさんともっと仲良くなりたいしね!」
今度世良さんも紹介してあげようかしら!とはしゃいでいると、晩酌を楽しんでいた小五郎が呂律の回らない口調で「お前らァ!」と声をあげる。
「ガキはさっさと寝やがれ!」
「ちょっとお父さん…飲み過ぎよ!それにこんなに散らかして…」
酔っ払った彼を叱りつけた蘭はため息をついてソファから立ち上がった。
「コナンくん、私たちはそろそろ寝ようか。」
「えっ、う、うん。でもおじさんは…」
「良いのよ。あんなのはもうほっときましょ」
「コナンくん、おやすみなさい」とスタスタと自分の寝室に向かう蘭に「おやすみなさい」と返す。目を細めて振り返ればビールの空き缶やつまみが散乱した机に突っ伏していびきを立てるオヤジが一人。まぁいっか、と肩をすくめてさっさと退散したのだった。
「いらっしゃいませ…おや」
ベルの音に顔を上げた。視線の先にはおどおどとした様子の一人の女性。
「また来てくださって嬉しいです、野中さん」
目が合えばピクリと肩を揺らし、慌てて頭を下げる。そんなかすみを見て微笑んだ安室は彼女を席へと案内した。
「ちょっと安室さん安室さん!!」
「あっ、もう園子ったら…」
かすみのオーダーを取り終えカウンターへ戻ろうとしたところ、甲高い声に呼び止められ振り返る。
訝しげな顔で手招く園子に苦笑を浮かべつつ近寄り「なんでしょう?」と問いかけた。
「今のなんですか!“また来てくれて嬉しい”って!もしかしてぇ…もしかする感じのアレですか〜?」
「園子興奮しすぎよ!ごめんなさい、安室さん」
「ハハ、気にしないでください。彼女はコナンくんの知り合いで、ボクも最近知り合ったばかりなんです。」
「それってもしかして…「ねえねえお姉様〜!」ちょ、園子!」
園子は本を読んでいるかすみの目の前に座りニコニコと笑いかけた。しかし、園子の呼びかけに気づかないかすみはぺらりとページを捲る。
「あの〜…」
ぺらり
「お姉様〜?おーい?」
ぺらり
「んもー!なんなのよぉ!!」
「園子失礼よ!すみません、私の友達が邪魔して…」
蘭が慌てて駆け寄り謝罪するも彼女は次のページを捲った。首を傾げる二人に「園子さん、蘭さん」と声を掛ける。
「園子さん、怒らないであげてください。野中さんは耳が聞こえないんですよ。」
「耳が?それってコナンくんが言ってたような…」
本を読むかすみの肩を叩いて二人の存在を知らせると、彼女は驚いてピシッと固まった。
『す、すみません、全く気が付かなくて…。えっと、』
「二人はコナンくんの友達で、毛利蘭さんと、鈴木園子さんです。」
『コナンくんの…』
あわわ…と口元を抑えるかすみ。
やっぱり感情が表に出やすい人だな、と思わず笑みが溢れる。もうしばらく彼女を観察していたかったが、興味深げにソワソワする蘭と園子にその場を譲りカウンターへ戻った。
コーヒーを淹れながらもなんとなしにかすみを目で追う。カウンターからは彼女の背中しか見えないが、向かいの女子高生たちがニコニコ笑いながら楽しげに話しているところから察するに問題なく会話できてるのだろう。
ガトーショコラを切り分けて皿に移し、温めておいたカップにコーヒーを注ぐ。それらをトレーに乗せたらかすみの元へと向かった。
「お待たせしました。」
コトリとテーブルに置けば、かすみは丁寧にお辞儀をする。テーブルに広げられたノートやスケッチブックに目を落とすと、それらにはたくさんの文字が羅列していた。
“お花が好きです”
たまたま目に留まったその言葉に彼女らしいなと頬が緩む。
「そういえば野中さん、蘭さんたちとは筆談なんですね。」
「安室さんねぇ、私たちは安室さんみたいに手話はできないもの。だからこうやってノートに書いてるの!」
かすみに話しかけたつもりがバシバシとノートを叩いて噛み付いてきた園子に「あはは…すみません」と謝る。
「この間はコナンくんとスマホでやりとりしていたので、少し気になったんです。」
「そっか、スマホの方が書くより楽ですもんね。私ったらなにも考えずに…」
蘭が『ごめんなさい、筆談ってやっぱり大変ですよね?』と伝えたらかすみはブンブンと頭を横に振って急いで文字を書く。
『全然そんなことないです!!』
ズイッとスケッチブックを突き出してきたかすみに蘭と園子はよかった、と顔を綻ばせた。
それからかすみはふぅ、と息をついて文字を書き連ねてゆく。
『特別な理由がある訳じゃなくて、ただ…私は普通の会話ができないから、せめて同じ手段でお話ししたいなって。こんなにも面倒臭い会話に付き合ってくれる人がいるなんて、感謝しかありません。だから、大変なんて思うこと、絶対にないです。』
「面倒なんてこれっぽっちも思いませんよ。私、こうやってかすみさんと話すのすっごく楽しいですもん!」
じっと蘭の口元を見ていたかすみは俯いた。小さく震える彼女に心配そうに思わず手を伸ばしたが、ゆっくり動き出したためピタリと手を止める。
ほっそりとした彼女の指はまだ、震えていた。
「…野中さんも、楽しいんですね。」
かすみの手話を読み取りポツリと呟く。紅潮した顔が髪の隙間から見え隠れする。微笑ましく思っていると、園子が彼女に飛びつく。「もうかすみさんってばホンット可愛いんだからぁ〜!!!」なんて叫びながらギュウギュウと抱きしめた。
「園子!かすみさん困ってるじゃない!」
呆れ顔で止めに入る蘭がかすみを手繰り寄せるもしぶとく抱き着く園子。二人に挟まれてもみくちゃにされる彼女は少し困ったような、でもとても嬉しそうな顔で口元を緩ませていた。
「野中さん」
蘭と園子がポアロを出てしばらくした後、かすみも席を立った。会計を済ませて外へ出たところを呼び止める。
「困ったことがあれば、なんでも言ってください。力になりますので。」
そう言って連絡先を書き記したメモを手渡せば目をまんまると見開いた。あわあわしながら頭を下げるかすみはメモを大事そうに胸に押し当てる。
「野中さんのこと、僕にももっと教えてくださいね。」
『つ、つまらないと、思うんですけど…』
「おや、つれませんね…
コナンくんや蘭さんたちとはあんなに楽しそうに話していたのに。」
残念だ…と大袈裟に肩を落として見せると彼女はあたふたと手を振る。
「僕が話し相手では、お気に召しませんか?」
最後の一押し。
彼女の顔を覗き込みながら聞けば、滅相もない…!とでも言うようにぶんぶん頭を横に振った。
「それじゃあまた、お会いできるのを楽しみにしていますね。」
ふふっと笑いながらかすみを見送り、人混みに紛れて見えなくなったところでポアロの中へと戻った。客がいなくなった店内は物静かで、時折カウンターの奥から食器の触れ合う音が微かに聞こえる。テーブルに残された食器をまとめてシンクへ持っていくと、奥で片付けをしていた梓がにやにやと見つめてきた。
「安室さん、かすみさんが気になるんですか?」
「え?」
「だってだって!この間も今日も、目で追ってるの私わかっちゃいましたよ〜!」
キャー!と声をあげて興奮する梓に苦笑する。
連絡先を教えた本心は純粋に彼女の助けになれたら良いと思ったから。下心はない。
自分がポーカーフェイスに慣れてしまったからだろうか、コロコロと変わる表情に無性に惹かれるのだ。
「僕、気になったことはとことん知り尽くしたくなる質なんですよ。」
「ふふっ、さすが探偵さん。」
次はいつ会えるだろうか。
そんなことを考えながらゆっくりと目を瞑った。
窓の外はとっぷりと日が暮れ、町の明かりが至る所で灯っている頃__
「あっ、そうそうコナンくん、私今日ポアロでかすみさんに会ったの!」
「かすみお姉さんが来てたの?」
蘭は上機嫌に今日の出来事を話しはじめた。
「すごく可愛らしい人よねぇ。もう園子が気に入っちゃって暴走するから抑えるの本当大変だったのよ。」
真っ赤な顔になってアワアワするかすみが容易に想像できる。アハハ…と呆れ混じりに笑いながら蘭の話に耳を傾けた。
九州から引っ越してきた。
今はおばあちゃんと二人暮らしをしている。
仕事場は近所の花屋で、少しずつ仕事を覚えていっている。
随分と色んな話をしたらしい。つーか俺よりかすみさんのこと知ってるじゃないか。…いや、いつもアイツらばっかり話してっから当然か。
「蘭ねーちゃんとかすみお姉さんが仲良くなれて良かったよ。かすみお姉さん、きっとまだここでの暮らしに慣れてないと思うからさ、もし困っているところを見かけたら助けてあげて欲しいんだ。」
「勿論よ。それに私も園子も、かすみさんともっと仲良くなりたいしね!」
今度世良さんも紹介してあげようかしら!とはしゃいでいると、晩酌を楽しんでいた小五郎が呂律の回らない口調で「お前らァ!」と声をあげる。
「ガキはさっさと寝やがれ!」
「ちょっとお父さん…飲み過ぎよ!それにこんなに散らかして…」
酔っ払った彼を叱りつけた蘭はため息をついてソファから立ち上がった。
「コナンくん、私たちはそろそろ寝ようか。」
「えっ、う、うん。でもおじさんは…」
「良いのよ。あんなのはもうほっときましょ」
「コナンくん、おやすみなさい」とスタスタと自分の寝室に向かう蘭に「おやすみなさい」と返す。目を細めて振り返ればビールの空き缶やつまみが散乱した机に突っ伏していびきを立てるオヤジが一人。まぁいっか、と肩をすくめてさっさと退散したのだった。